アジア戦略イニシアチブ(ASI)

ポリシー・メモランダム #2

東シナ海の同盟戦略

共同執筆者:エリック・セイヤーズ/小谷哲男


アジア戦略イニシアチブ(ASI)について

日米同盟は、これまでも地域の安全保障と繁栄の礎となってきましたが、日米両国がより積極的な課題に取り組み、同盟関係の深化、拡大、維持を図ることが不可欠となっています。「アジア戦略イニシアチブ(ASI)」では、日米両国の第一線で活躍する安全保障、外交問題の専門家が結集し、日米同盟強化に向けた次なる取り組みの基盤となる具体的な政策提言を行います。新たな政策案を特定し、発展させ、さらに発信することで、日米同盟を今後どのように前進させるかについての両国政府における議論を喚起しようとすることを目指しています。以上の目的を踏まえ、両国の専門家が具体的かつ実行可能な提言を盛り込んだポリシー・メモランダムを合同で執筆し、公表します。ポリシー・メモランダムにおける所見や提言内容はASIグループのメンバー全員で議論されたものですが、個別の具体的な提言は共著者によるものとなっています。
ASIは笹川平和財団の日米交流事業の一環として2017年に立ち上げられたプロジェクトで、ワシントンと東京で定期的に会合を開いています。

状況認識

日中関係の改善:日中両国はここ数年、全般的な関係の改善と安定に努めてきた。2018年には、両国間で政府要人が往来し、1978年の日中平和友好条約締結40周年を祝う行事が続き、5月に李克強首相が中国の首相として8年ぶりに来日したほか、10月には安倍晋三首相が訪中した。さらに日中両政府は、2019年5月のG20と二国間首脳会議に合わせた習近平国家主席による訪日と、2020年初めの同主席日本公式訪問への道を開くとともに、第三国での投資プロジェクトを含む二国間の経済・貿易協力の拡大も模索している。そうした中、両政府は長く待ち望まれていた「日中海空連絡メカニズム」の実施に合意し、2018年6月から運用が開始された。同メカニズムは、東シナ海におけるリスクを軽減し、防衛当局間の信頼を醸成するほか、海上の捜索・救助作戦に関する合意として機能することが目指されている。

東シナ海における中国の行動に前向きな変化は見られず:日中二国間の関係改善に向けた努力にもかかわらず、東シナ海における中国の行動に変化は見られない。中国にとって、尖閣諸島の日本の施政権に対抗することは、関係改善の努力と矛盾する行動ではないため、東シナ海での現在のような行動は、今後も続くものと予想される。

 •中国海警局は海上保安庁を圧倒している。2016年9月以降、中国海警局(CCG)の船4隻(以前は3隻)が、天気がよければ毎日、尖閣諸島周辺の接続水域を航行するようになり、毎月平均3回の頻度で領海侵入を繰り返している。中国海警局は保有する巡視船を急増させており(2012年は1,000トン級以上が40隻、2017年は120隻、2019年中に135隻)、尖閣諸島周辺に1万トン級の船が現われるのも時間の問題とみられる。東シナ海における中国海警船舶の平均総トン数は現在3,000トン(海上保安庁は1,500トン)で、その一部は銃を装備した軍用フリゲート艦を転用したものである。2016年8月には、尖閣諸島周辺で20隻の中国海警局の船が数百隻の中国漁船に随伴し、中国はいつでも海上保安庁を数で圧倒できる能力を持つことを誇示した。2018年7月に中国海警局は、人民解放軍(PLA)とのオペレーション上の連携を強化させるべく、中央軍事委員会(CMC)傘下の準軍事組織である人民武装警察隊(PAP)の指揮下に置かれた。中国海警局はまた、2019年初めから尖閣諸島周辺でのプレゼンスを強化している。

 •南西諸島は、中国の「接近阻止・領域拒否(A2AD)」能力の増強により、脆弱性を増している。東シナ海およびその周辺海域における人民解放軍の海空軍活動は拡大しており、3つの新たなパターンが見られる。第一に、人民解放軍の艦船、特に情報収集艦と、航空機は、日中中間線を超えて尖閣諸島にさらに接近するようになっている。第二に、人民解放軍は、宮古島ないしバシー海峡から台湾の周囲を巡るオペレーション(航空母艦によるものを含む)および合同訓練と演習を活発化させている。第三に、人民解放軍は作戦領域を、爆撃機と潜水艦を運用するものを含め、東シナ海から本州、北海道、九州、四国へと広げている。これらの新たな動きは、日米同盟にさらなる挑戦をもたらしている。まず尖閣諸島近海での中国軍のプレゼンスはさらに緊張を高め、軍事衝突の可能性も高めている。また、台湾への中国の軍事的圧力は東シナ海の状況を複雑にしており、バシー海峡から東シナ海に至る人民解放軍の動きを探知するのはより難しくなっている。さらに、日本(本州)に向けた空中発射巡航ミサイルと潜水艦の脅威によって、本州から南西諸島への増援がより脆弱になる。

 •中国による無人機運用は緊張を高める。中国の無人航空機(UAV)は、尖閣諸島近海で3度にわたって探知されており、一度は12海里の領空内に入っている。ランド研究所の調査によると、中国は長射程目標捕捉および係争水域監視のための情報収集・警戒監視・偵察活動(常続監視)(ISR)に、無人潜水艇(UUV)を含む多様な無人機を活用する可能性がある。しかし、無人機の投入が対立の激化に及ぼす影響について、中国側がどのように考えているのかはまだ明らかではない。

 •中国が中間線近海で一方的に資源を開発。2008 年6月、日中両国は東シナ海の中間線付近の4カ所のガス・プラットフォームのうち、2カ所を共同開発することに合意した。しかし、2012年に、中国は共同開発の協議を拒否した上、中間線沿いに、さらに12の石油ガス・プラットフォーム(計16)をこれまで建設している。1982年の国連海洋法条約に基づけば、境界が画定するまで日中両政府はそれぞれ自制と協力の義務を負っているが、中国は明らかにこの義務に違反している。加えて、プラットフォームのうちの一つは、監視カメラとレーダーを備えており、これらのプラットフォームが、特に常続監視を含む軍事目的に使用されうることを示している。東シナ海の中心部で常続監視能力が増強されれば、沿岸レーダーシステムを補完するため、人民解放軍が中国の東シナ海防空識別圏(ADIZ)の実効性を高めることになり、日米のISR活動はより大きなリスクに晒される。

南西諸島の防御線構築はいまだ道半ば : 2013年に改定された「防衛計画の大綱(防衛大綱)」は、主に南西諸島防衛のための「統合機動防衛力」の必要性を謳いつつ、政府一体となったグレーゾーンの事態へ取り組み、とりわけ海上自衛隊と海上保安庁間の緊密な連携の実現を求めている。日本政府は2018年に再度防衛大綱を改定し、「多次元統合防衛力」の実施を進めているが、いくつか重要な課題が残っている。

 •海上保安庁は、東シナ海におけるグレーゾーンの事態に初動対応を取る立場にあるため、1,000トン級新型巡視船10隻、4,000トン級のヘリコプター搭載巡視船2隻から成る尖閣諸島巡視の専従部隊を創設し、さらに今後は大型巡視船も6,500トン級を1隻、6,000トン級を一隻、そして3,500トン級を2隻導入する予定である。また、海上保安庁は尖閣諸島の現状に対応すべく、監視・通信能力を増強した。海上保安庁と海上自衛隊は、相互の意思疎通と連携を深めるため、海上自衛隊の法執行により海上保安庁を支援する形で海上警備行動のための合同訓練・演習を随時行ってきた。しかし、グレーゾーン事態への対応については、海上自衛隊と海上保安庁の間に大きな認識の違いが存在する。海上保安庁はこれを法執行の問題と捉える一方、海上自衛隊は準軍事的な事態と見なしており、この考え方の違いがより効率的で効果的な対応を妨げている。

 •2013年の防衛大綱は、航空優勢・海上優勢の維持を目的としている。航空自衛隊はF-15戦闘機の数を増やし、航空自衛隊那覇基地に早期警戒管制機を配備した。那覇には早期警戒機E-2Dの配備も想定されている。2018年の新防衛大綱では、航空優勢と海上優勢の維持は困難と想定されている。このため、航空自衛隊がスタンドオフ・ミサイルとF-35Bステルス戦闘機を導入することになっている。海上自衛隊は、潜水艦を16隻から22隻に、イージス駆逐艦を6隻から8隻にそれぞれ増やしているほか、特に対機雷戦・対潜水艦戦用の新型多用途フリゲート艦を開発している。2018防衛大綱では、F-35B戦闘機を運用するための多用途軽空母の導入も謳っている。南西諸島におけるアセットは、巡航・弾道ミサイルを用いた中国の「狙いを研ぎ澄ませた短期決戦(short and sharp war)」に対して一層脆弱になっている。2018年防衛大綱では、自衛隊は、複合的な経空脅威に対応するための協同交戦能力(CEC)を導入し、総合的な防空・ミサイル防衛を整備する見込みであるが、さらなる取組が必要である。

 •「統合機動防衛力」の理念の下で陸上自衛隊は、南西諸島の防衛強化に向けて、「平素の部隊配置」「機動展開」および「奪回」から成る「即応機動する陸上防衛力」を構築してきた。陸上自衛隊は、与那国島に沿岸監視部隊を設置したほか、奄美大島と宮古島、続いて石垣島、沖縄本島にも地対空・地対艦誘導弾部隊の駐屯を計画している。また、島嶼部に機動展開する機動師団・旅団および水陸機動団を編成した。陸上自衛隊は新防衛大綱に基づき、国産の水陸両用強襲車による水陸即応機動連隊を沖縄本島に新設するものと思われる。この「即応機動部隊」は「日本版海兵隊」と称されているが、海上・空中輸送支援と近接航空支援、ならびに訓練地が決定的に不足している。

東シナ海における新たなプレーヤー: オーストラリアとカナダの偵察機が現在、国連軍地位協定に基づいて嘉手納空軍基地に駐屯し、東シナ海における北朝鮮の瀬取りによる制裁違反の有無を監視している。日本、米国、オーストラリア、カナダの部隊は現在、中国沿岸にさらに近い場所で常続監視活動を行っている。

中距離核戦力(INF)全廃条約の失効の影響: 米国が中距離核戦力全廃条約(INF)の破棄を決めたのは、少なくともアジアにおける通常戦力のバランスの変化に促された側面が少なからずある。米インド太平洋軍(INDOPACOM)司令官の証言によると、中国は現在、推定1,600発の中距離通常ミサイルを保有している。2019年8月2日に正式に条約から離脱した後、米国は通常弾頭を搭載した中距離(500~5,500km)の地上発射型ミサイルの発射実験に動いている。この対艦ヴァージョンは米インド太平洋軍に、第一列島線内における中国の威嚇行動に対応するための新たな柔軟抑止選択肢(flexible deterrent option)を提供することになる。この能力はグアムに配備し、危機発生時や陸上自衛隊との合同軍事演習の機会に、日本やそれ以外の場所に巡回配備することができる。

オプションと提言

オプション1 – 中国とより深い信頼関係を構築する。

 •提言 1 –ASEAN地域フォーラム(ARF)、東アジア首脳会議(EAS)、西太平洋海軍シンポジウム(WPNS)などの多国間会合の下で、危機管理について議論する日米中三カ国の枠組みを模索する。

 •提言 2 – 無人航空機(UAV)や無人潜水艦(UUV)が絡む危機を想定した危機管理策を、中国と二国間、三国間、あるいは多国間で策定する。

オプション2 – 南西諸島における日本の防衛態勢を強化する。

 •提言 3– 海上保安庁と海上自衛隊の海上警備行動の訓練・演習を定例化する。

 •提言 4 – 陸上自衛隊に第3の水陸機動連隊を創設し、アメリカ海兵隊(USMC)とともにキャンプ・シュワブに配備する。

 •提言 5 – 南西諸島に自衛隊の常設統合任務部隊を設置する。

オプション3 –日米で一層積極的な取り組みを進める。

 •提言 6 – 公然たる非難などを含む柔軟抑止選択肢(FDO)により、水平的エスカレーションのための領域を整備する。

 •提言 7 – 地上発射型対艦ミサイルの運用を含めた米軍と陸上自衛隊による合同訓練を増加する。また、米国の地上発射型の中距離ミサイルを、硫黄島など日本の離島に配備することを検討する。

 •提言 8 – 中国が日本の尖閣諸島の施政権を今後も損なおうとし続ける場合、尖閣諸島の領有権に関する米国の政策の見直しを検討する。

 •提言 9 – 日本の主権と管轄権に対する中国の違法・不法な活動への常続監視と対応のために米国のアセットを利用する。

 •提言 10 –米国を通じて台湾およびフィリピンとの情報共有を拡大し、東シナ海とその周辺海域の状況把握を高める。

 •提言 11 – 日本の民間施設を活用する。

(了)

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