【コロナ禍の米国シンクタンクの発信】

【コロナ禍の米国シンクタンクの発信】③
環境問題をめぐる国際協調と米国内対立

2021年1月18日

佐野 裕太
笹川平和財団 日米グループ 研究員

 2050年温室効果ガス排出量ゼロの達成を目指すバイデン氏は、来る1月20日(米国時間)に大統領就任式に臨む。バイデン氏は環境規制緩和を進めるトランプ大統領をこれまで批判してきており、「パリ協定」にも復帰する方針である。今後、米国の環境政策は大きく変わっていくと見られており、気候変動への関心も世界的に高まっている一方、問題への対応の仕方をめぐっては米国内に大きな対立がある。

 そのような背景を踏まえて、「【米国シンクタンク発信】新型コロナウイルスが変える国際政治」3回目となる今回は、環境問題をテーマに、ウィルソンセンター、ヘリテージ研究所、アメリカ進歩センターのウェブサイトで公開された3つの記事を選び、現在の米国内の識者の見方を紹介する。それぞれ、環境問題をめぐる国際協力、環境規制緩和の立場から見た米国国内の環境政策、環境規制強化の立場、と異なる内容を論じている。

 1本目の「多国間主義、気候変動、パリ協定」は、これまでの気候変動問題をめぐる多国間主義を肯定的にとらえながらも、パリ協定の更なる進化のための課題に関して論じている。2本目の「議会と政権のための先見的な環境政策アジェンダ」は、環境規制緩和を支持する立場から今後のあるべき米国内の環境政策を提言する論考である。3本目の「州の気候変動問題のリーダーたちが2021年連邦議会にやってくる」は、更なる先進的な環境政策が必要であるとの立場から、2020年11月3日の選挙で選出された環境問題に熱心な連邦議員と、これらの議員を輩出した州の環境対策の事例を紹介している。

1 多国間主義、気候変動、パリ協定

“Multilateralism,” the Climate Challenge, and the (Greater Metropolitan) Paris Agreement
https://www.wilsoncenter.org/article/multilateralism-climate-challenge-and-greater-metropolitan-paris-agreement
著者:Susan Biniaz(国連財団シニアフェロー)
出典:ウィルソンセンターホームページ(2020年9月)

 2020年米国大統領選挙は、2050年温室効果ガス排出量ゼロの達成を目指すバイデン氏の勝利に終わった。バイデン氏は環境規制緩和を進めるトランプ大統領をこれまで批判してきており、「パリ協定」にも復帰する方針である。今後、米国の環境政策は大きく変わっていくと見られており、気候変動への関心も世界的に高まっている一方、問題への対応の仕方をめぐっては米国内に大きな対立がある。

 そのような背景を踏まえて、「【米国シンクタンク発信】新型コロナウイルスが変える国際政治」3回目となる今回は、環境問題をテーマに、ウィルソンセンター、ヘリテージ研究所、アメリカ進歩センターのウェブサイトで公開された3つの記事を選び、現在の米国内の識者の見方を紹介する。それぞれ、環境問題をめぐる国際協力、環境規制緩和の立場から見た米国国内の環境政策、環境規制強化の立場、と異なる内容を論じている。

 1本目の「多国間主義、気候変動、パリ協定」は、これまでの気候変動問題をめぐる多国間主義を肯定的にとらえながらも、パリ協定の更なる進化のための課題に関して論じている。2本目の「議会と政権のための先見的な環境政策アジェンダ」は、環境規制緩和を支持する立場から今後のあるべき米国内の環境政策を提言する論考である。3本目の「州の気候変動問題のリーダーたちが2021年連邦議会にやってくる」は、更なる先進的な環境政策が必要であるとの立場から、2020年11月3日の選挙で選出された環境問題に熱心な連邦議員と、これらの議員を輩出した州の環境対策の事例を紹介している。

 

はじめに

 「多国間主義」という言葉の意味は曖昧だ。3か国以上の関与、グローバル・レジーム、単独主義や民族主義の対義語、とその解釈は様々である。ある特定の国がはじめに単独で行動することなくして、その他の国々が多国間主義的アプローチに同意することは難しい。ある多国間合意がその合意の強制性について明記していない場合に、ある国が別の国に対して、その合意基準の順守を強要することもある。ある多国間合意がその合意の構成国以外との貿易を制限することもある。さらには、モントリオール議定書のように、一部の国々による意思決定が全ての国々を拘束することもある。これらは、多国間主義の一例と言うことができるのだろうか。

 多国間主義的アプローチはそれ自体が優れているとも断定できない。意思決定に時間を要し、合意形成を難しくし、問題解決に積極的でない参加者の立場を強め、結果として必要な行動をとることを妨げることさえある。単独主義、二国間主義、あるいは「ミニラテラル」といったアプローチの方が効果的な場合もある。

 

パリ協定

 では、気候変動問題について考える場合、多国間主義は機能しているのか。国連を基礎として地球規模の気候変動問題にアプローチするという、1990年の国際社会の選択が賢明であったのかは議論の余地があるだろう。気候変動は問題が複雑であり、国ごとに利害関係も異なり、更には南北問題も存在しており、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)はこれらすべての複合的な課題に直面せざるをえなかった。

 これまで、締約国は試行錯誤を繰り返してきてきた。一例を挙げれば、多国間主義の枠組みにおいては「法的拘束力」と「広範な国々の参加」との間でバランスをとる必要がある。京都議定書は、法的拘束力があったが開発途上国には適用されず、最終的に米国は参加しなかった。コペンハーゲン合意は、米国と中国の両方を含む多くの国々が参加したが、法的拘束力には欠けていた。そして、パリ協定は法的拘束力と広範な国々の参加の両方を担保した。

 パリ協定は、このような多国間主義アプローチや気候変動問題の抱える難しさを抱えつつも、その中でこの問題を前進させたと言えるだろう。地球の気温上昇の制限、気候変動問題へのレジリエンス強化といった明確な目標を掲げたことは重要な成果である。パリ協定は、長期的な観点から「各国が決定した貢献(NDCs)」に基づいて各国が独自に目標を設定するため、締約国同士が新しい合意・修正・目標について継続的に交渉する必要がなく、交渉ではなく実行にエネルギーを集中することができる。

 

パリ協定への批判

 パリ協定には批判もあるが、その中には誤解に基づくものもある。たとえば、「現在のNDCsでは世界の気温を3度以上上昇させることになるから、パリ協定は失敗である」というものだ。これは誤っている。そもそも、初期のNDCsがパリ協定の目標を完全に達成することは期待されていない。むしろ、初期の目標を達成した後に、より野心的なNDCsがそれに代わることが意図されている。パリ協定のタイムフレームには期限がなく、その過程で定期的なグローバル評価とNDCsの更新が行われるのだ。

 また、気候変動への取り組みが不十分であるという批判は、パリ協定そのものに対してよりも、実は各国の不十分な政治的意思に向けられている。特に米国のパリ協定離脱による政治的意思の欠如や2020年のパンデミックによる気候変動問題への関心の低下は、好ましくない影響を及ぼしているが、これはパリ協定自体に問題があるわけではない。

 

更なる取り組みが必要

 しかし、それでもなお、パリ協定には課題があり、更なる取り組みが必要であることも事実だ。国際社会の行動は気候変動に対処するのに不十分であり、気候変動の最悪の結果を回避するためには、化石エネルギーからクリーンエネルギーへの移行と大気中炭素の大規模な減少を実現する早急な行動が必要だ。

 

パリ協定の目標達成のための5つのステップ

 そのためには、次の5つの取り組みが必要である。

  • (1)NDCsの実行のために社会全体の力を集める
    前述したように、NDCs(各国が決めた貢献)とは排出削減量目標を各締約国が自ら設定するというもので、パリ協定の中核的な考え方である。締約国がNDCsの実施と強化の重要性を認識し続けるためには、国連事務総長、G7、G20といった高いレベルの政治的関心が寄せ続けられること、開発途上国に対する財政的・技術的支援を行うこと、市民社会がプレッシャーをかけること、各国の地方政府や非国家主体が積極的に行動を起こすこと、米国がパリ協定に復帰することなどが必要であり、社会全体の力を結集することが求められている。
  • (2)明確な目標と手段で「ネットゼロ(温室効果ガスの実質排出ゼロ)」を達成する
    パリ協定が採択された2015年以降の数年間で、世界は、以前よりも厳しい気温上昇幅(「2度以下」ではなく「1.5度」)と明確な目標達成時期(「今世紀後半」ではなく「2050年」)を設定するようになった。これらの厳しい目標を達成するためには、「どのような主体が(Who)」「どのような取り組みを(What)」「どのような枠組みの中で(Where)」「どのような合意形成方法によって(How)」実現するのかといった点に焦点を当てた、具体的な取り組みが必要である。
  • (3)締約国会議(COP)再編が必要である
    これまで締約国会議は政府間交渉を中心に行われてきたが、今後はこうした「交渉」や「合意」よりも「実際の履行」に重点を置く必要があるだろう。その中で、非政府主体の存在は今後益々重要になってくる。2019年のマドリードで開催された第25回締約国会議でも、(非政府主体が企画する)「サイド・イベント」が「メイン・イベント」のように見え、締約国が開催する公式行事が「サイド・イベント」のように見えることは頻繁に起きていた。
  • (4)他の枠組みと連携することが必要である
    パリ協定は、他の国際協定や国際機関との連携なしに目標を達成することはできない。高度な専門知識を要するものについては、他の枠組みにおいて交渉を行う方が適切な場合もある。例えば、パリ協定は、技術開発と移転に関する協力行動の強化を求めているが、環境に優しい商品の関税引き下げに関する交渉をパリ協定の範囲で行うことは誰も期待していない。運輸・輸送に伴う排出量削減の為には、国際民間航空機関(ICAO)と国際海事機関(IMO)との連携が必要だ。気候変動の影響は生物多様性、漁業、海洋環境の保護などにも重大な影響を与えることになり、気候変動以外の環境分野との協力も求められる。自由貿易体制と対立しないためには、化石燃料補助金の改革などについてWTOとの協力も重要である。
  • (5)気候問題は外交政策である
    これまで、気候変動は外交政策と並行して議論されることが多かったが、外交政策の一部として取り組まれることは少なく、この問題に積極的であったオバマ政権下でさえ国務省の中で気候問題が主流の扱いを受けることはなかった。「伝統的な」外交政策分野の世界に気候変動問題がしっかりと組み込まれるためには、各国の指導層が政策立案者に対して気候変動問題の重要性を明確に示し、貿易・航空・海運・農業などの各分野でとられる対策が気候変動問題に与える影響や、気候変動問題が移民、海洋法、食料安全保障、紛争といった分野に与える影響への認識が高まることが必要だ。その他にも、気候変動問題が外交官の研修内容に組み込まれること、専門家がこの問題について難解な言葉を使わずに専門家以外の人が理解できるように説明すること、気候変動問題に取り組むために外交当局の人事・組織構造を再編することも重要だろう。
 

結論

 パリ協定は気候変動問題に対応するための適切な基盤だが、これを機能させるためには前述したような様々な追加的な取り組みが必要である。国際社会が気候変動問題を解決できるか否かは分からないが、もしできないとすれば、それはパリ協定自体に問題があるのではなく、政治的意思の欠如に基づくものである。

 

2 議会と政権のための先見的な環境政策アジェンダ

A Proactive Environmental Policy Agenda for Congress and the Administration
https://www.heritage.org/environment/report/proactive-environmental-policy-agenda-congress-and-the-administration
著者:Daren Bakst(ヘリテージ財団シニアリサーチフェロー)、Katie Tubb(ヘリテージ財団シニアポリシーアナリスト)
出典:ヘリテージ研究所ホームページ(2020年11月)

 米国ではクリーンな環境が重要であるということには誰もが納得しているが、その課題への取り組み方については意見の相違が多く存在する。本稿では「大気質排出規制」「水質規制」「連邦所有地・野生動物保護」「健全な科学と透明性に基づいた規制」の4項目に関して、米国連邦議会の政策立案者に提言を行う。


(1)政策提言:大気質排出規制

 現在、米国の大気質は世界一である。米国の大気汚染はこの数十年間劇的に改善し続けており、主要な大気汚染物質の総排出量は1980年から2019年にかけて71%減少した。これは、米国の国内総生産(GDP)が182%増加し、自動車走行距離が114%増加し、人口が44%増加し、エネルギー消費量が28%増加する中で実現された。

 しかし、これらの達成にも関わらず、米国政府はゴール・ポストを動かし続けている。目標が達成できていないのは、大気汚染の悪化ではなく、連邦政府が課す基準が厳格化されているためだ。連邦議会の政策立案者は、環境問題をめぐる小さな成果が、大きなコストによって実現されるということを認識し、以下の3つを行うべきだ。

  • ① 国家環境大気質基準(NAAQS)は連邦議会が設定する
    大気浄化法(CAA)に基づいて、連邦議会が大気環境基準の設定を環境保護庁(EPA)に任せているのは間違っている。基準の厳格化は大きなコストを伴い、米国市民の健康と生計に広範な影響を与える。科学的観点のみに基づいて基準を設定する組織であるEPAではなく、米国憲法の下で選出された議員からなる立法府が国家環境大気質基準を決めるべきである。
  • ② 副次的利益を狙った環境規制はやめる
    「水銀・有害大気汚染物質基準(MATS)」は、環境改善のインセンティブ効果を第一義的な目的とせず、税収などの副次的利益を目的とした代表的な悪例である。環境保護庁(EPA)は、有害大気汚染物質に対処するためにこの基準を設定したにもかかわらず、非危険大気汚染物質を規制することによって副次的利益を得ることを正当化している。EPA自体も、副次的利益の乱用の問題を認めており、副次的利益に関する明確な要件を設ける必要がある。
  • ③ 大気浄化法(CAA)に基づく二酸化炭素の規制を禁止する
    米国の温室効果ガス排出は2005年時と比較して10%削減されており、既に大きな成果をあげている。また、エネルギーアクセスと経済成長の増加は、貧困減少に大きく貢献している。対照的に、パリ協定や米国の気候変動政策は今世紀末までに世界の気温上昇にごくわずかな影響しか及ぼさない。よって、CAAに基づく二酸化炭素の規制を禁止するべきである。
 

(2)政策提言:水質規制

 水質浄化法(CWA)は、各州が環境保護において主導的な役割を果たすことを期待しており、それは環境行政における望ましい姿だ。しかし、現実の水質規制では、環境保護庁と米陸軍が連邦政府に権力を集中しようとしてきた。これらの状況に対処するために、連邦政府の政策立案者は次の4つを行う必要がある。

  • ① 水質浄化法の「米国の水域(waters of the United States)」の範囲を明確にする
    水質浄化法(CWA)は、環境保護庁と米陸軍に対し、「米国の水域」における水質監督や水質汚染を防止するための許可権限を与えている。この「米国の水域」の言葉が意味するところは一般的に「航行可能な水域」であるとされているが、米国政府は長い間、「米国の水域」が含む範囲について様々な解釈を行ってきた。オバマ政権は、2015年に「水質浄化規則(CWR)」を発表し、考えられるほぼすべての水域が規制対象となった。この規則は曖昧かつ主観的であり、多くの問題をはらんでいた。その後、トランプ政権はオバマ政権の規則を廃止し、「米国の水域」の解釈を見直し、同法の対象を限定した。これはトランプ政権下の重要な改善の1つであるが、依然として問題を抱えており、規制範囲を明確にする必要がある。
  • ② 非特定汚染源(Nonpoint source)への連邦政府規制を禁止する
    非特定汚染源(排出を特定しにくい汚染発生源)への規制は州政府のみに認められており、連邦政府には認められていない。しかし、環境保護庁(EPA)が州政府の権限を侵害し、非特定汚染源への規制を行おうとする事例もあり、連邦議会およびEPAには権限がないことを改めて明確にするべきである。
  • ③ 水質浄化法401条改正を州政府が拒否することを禁止する
    「航行可能な水域」に対して連邦政府や州政府が「水質」以外に関しても幅広い環境汚染に規制をかけてきたが、トランプ政権下で水質浄化法401条が改正され、「水質」以外の理由による規制が禁止された。州政府はこれを遵守する必要がある。
  • ④ 水質浄化法(CWA)404条(c)に基づく先制拒否権・遡及拒否権を禁止する
    CWA 404条(c)は、環境保護庁(EPA)に水質浄化に懸念のある活動を禁止する権限を与えているが、この条項はEPAによる権力乱用を招いている。2018年、当時のスコット・プルイット環境保護庁長官は、先制拒否権・遡及拒否権の撤廃を提案した。これに基づき、連邦議会はCWAを修正する必要がある。
 

3 政策提言:連邦政府保有地・野生生物保護

 連邦政府は、米国の土地の約28%、約6億4000万エーカーを所有している。これはカリフォルニア州とメキシコを合わせた面積よりも広い面積だ。これらの土地の管理方法は、経済的機会を追求したい各州や個人に対し、教育や治安維持のための課税や経済活動へのアクセス等の観点から大きな影響を与える。また、絶滅危惧種の保護を目的として絶滅危惧種法(ESA)が1973年に制定されたが、2020年10月14日現在、これまでにリスト全体の3%にも満たない48種しか絶滅危惧リストから外されておらず、役割を果たしていない。これらを踏まえて、連邦議会の政策立案者は次の9つを行うべきだ。

  • ① 連邦政府の土地への州政府との共同管理を進める
    連邦政府が所有する土地に対する管理を、ワシントンDCから、その地域の事情を最も知り、その土地に対して明確な利害関係を持つ人々の手に移し、米国における土地管理を正しい方向へと進める必要がある。
  • ② 国立公園の過密状態を緩和するため、入場料等に市場原理を取り入れる
    米国内務省は400以上の国立公園を管理しており、現在も連邦議会が土地所有を増やし続けているため、メンテナンスの資金不足に直面している。行政機関は議会と協力し、市場原理を国立公園の管理に組み込む必要がある。米国に税金を支払っていない海外からの訪問者に高い入場料を請求するのも1つの方策だ。
  • ③ 連邦政府が所有する土地の譲渡計画を作成する
    一部の州では、連邦政府の土地所有の大きさは天文学的なものである。内務省と連邦議会は、この広大な連邦政府の土地所有権の問題に取り組み始めるべきだ。まずは、連邦政府が州全体の過半数の土地を保有している州から始めるとよいだろう。州政府が連邦政府よりも少ない土地しか所有できないために、州民が自らの州内で「訪問者」になってしまうことは避けなければならない。
  • ④ 連邦政府がこれ以上の土地取得をしない方針を確立する
    連邦政府は、既に多くの土地を所有しており、過去10年間で更に増やしている。土地が直接の利害関係を持つ人々の手中にあり管理されることが、環境や天然資源のために重要である。
  • ⑤ 環境諮問委員会(CEQ)による国家環境政策法(NEPA)の変更を成文化する
    1970年1月1日、リチャードニクソン大統領はNEPAに署名したが、この法律は一部の活動家が米国人の福祉のために必要な開発を阻止する手段になってきた。今年7月、環境諮問委員会がNEPAの新規則を最終決定し、環境アセスメント手続きを簡素化した。連邦議会によってNEPAが廃止されることが理想ではあるが、まずは今回の規則変更を成文化することが現状を改善するために必要である。
  • ⑥ 2019年絶滅危惧種法(ESA)規則緩和を成文化する
    2019年、米国魚類野生生物局(FWS)と米国海洋漁業局(NMFS)は絶滅危惧種の捕獲規制を緩和した。それまでFWSは、絶滅の恐れのある種(Threatened Species)と絶滅危惧種(Endangered Species)を同様に扱ってどちらにも保護規制を自動的に適用してきた。これらは土地所有者にとっては厳しい制限だったが、2019年の緩和によって状況は改善され、この二つを区別することは明確になった。この緩和を明文化する必要がある。
  • ⑦ 土地所有者に課せられるコストを社会全体で負う
    社会全体で「種の保護」が重要であるという選択をした以上、それによって発生するコストは社会全体で負担するべきだ。現在、規制により財産の使用が制限され財産の価値の大部分が失われたとしても、裁判所は財産所有者を十分に保護していない。規制による損失を相殺するために、連邦議会は環境保護庁に補償の仕組みを作り、彼らの財産権を保護する必要がある。
  • ⑧ 絶滅危惧種リスト作成にあたる行政機関に柔軟性を与える
    絶滅危惧種であるかを決定する際、魚類野生生物局と海洋漁業局は科学的証拠のみに焦点を当て、経済的影響を考慮しない。絶滅危惧種リストは、絶滅危惧種の捕獲禁止を硬直的に決めてしまう。これらの機関は、必要に応じてある種を他の種よりも優先的に保護するなど、絶滅を防ぐという目的を達成するための方法に柔軟性を持たせる必要がある。州政府ともっと協力し、州が「種の保護」を主導できるようにすることも必要だ。
  • ⑨ 森林と山火事の管理に関する規制障壁を取り除く
    山火事は自然の秩序の一部であり、森林を良い状態に保つうえで不可欠だ。過去数年間の米国西部での山火事に注目が集まったことで、多くの人が山火事と地球温暖化を関連付けるようになったが、地球温暖化が山火事にどのように影響するのかは、非常に複雑で説明することが難しい。また、これらの議論とは別に、土地管理者が山火事の可能性を減らすために今とることができる行動がある。収穫と野焼きによって管理された森林では山火事が壊滅的な規模にならないが、国家環境政策法は野焼きなどの規制当局の承認を得るのを困難にしており、連邦議会はこれらの規制障壁を除去するべきだ。
 

4 政策提言:健全な科学と透明性

 連邦議会は、連邦政府機関に重要な権限を委任し、国民から選ばれた存在ではない官僚に、米国人の生活に影響を与える重要な政策決定を行うことを認めている。そうであるならば、環境政策が正当性を持つためには、これらの政策決定が「健全な科学」に基づいていること、そして一般国民がどのような過程を経てこれらの決定が行われたのかを知り得ることが重要である。そのためには、連邦議会の政策立案者は次の5つのことを行う必要がある。

  • ① 根拠となる「科学」を公開する
    連邦政府機関が規制を行う場合、その規制決定の根拠となった、科学的なデータやモデルなどの必要な情報を一般に提供する必要がある。機密性を指摘する批評家もあるが、情報の透明性を促進しない理由にはならない。連邦議会は、環境政策に関与する機関を含む、政府全体の機関を対象とする科学的透明性に関する法律を可決する必要がある。
  • ② 直線閾値(しきいち)なし(LNT)モデルが正確であると考えるべきではない。
    連邦政府が使用しているLNTモデルは、「安全なレベルの化学物質はない」ことを前提としており、高レベルで有害な化学物質は、低レベルの場合でも有害と見なされる。しかし、実際には、健康リスクをもたらすレベルともたらさないレベルがある。過度な規制基準は、公衆衛生や安全に関する利益をほとんどもたらさず、生活のコストだけを増大させる。政府がリスクを誇張しているのであれば、それは国民を保護していることにはならず、人々の暮らしと環境との両方に有害な影響を与えている可能性がある。
  • ③ 行政機関が裁量権を放棄し、「訴訟と和解」を通じて手続き上の安全装置を取り除くことを禁止する。
    一般に「訴訟と和解(Sue and Settle)」とは、法律で義務付けられているとされる行動を政府にとらせるための、政府に対する集団訴訟(とその後の和解)を指す。連邦環境法の中には非常に多くの市民訴訟条項(市民が裁判に訴えられることを規定)が存在するため、「訴訟と和解」は特に環境政策で普及している。一見問題なくも見えるが、実際には外部のグループが政府機関の政策の優先順位や政策議題に影響を及ぼし、ある少数の特別な利益のみが実行され、結果的にルール形成過程への市民の参加価値を低める恐れがある。
  • ④ 情報品質法を強化する
    2000年に制定された情報品質法(IQA)は、行政管理予算局(OMB)に、連邦政府が提供する情報の正確性を向上させるための政府全体のガイドラインの作成を求める連邦法である。この法律は連邦政府が提供する情報の質を大幅に向上させる可能性があるが、行政機関に課せられた責務が不明確であり、法を執行するための手段も不十分なため、十分な役割を果たすことができておらず、改定する必要がある。
  • ⑤ 政策と科学の対立を止めるための措置を講じる
    「健全な科学」は環境政策に情報を提供するために不可欠だが、科学とは価値判断なしに客観的な見方を提供するものであり、価値判断と主観的な意思決定が必要な政策決定とは異なるものである。しかし、時に科学は政策や法律やイデオロギーと一体になってしまう。環境保護庁(EPA)の科学諮問委員会はその一例だ。EPA他の行政機関は、科学諮問委員会は科学のみに焦点を当てていることを明確にするべきだ。専門家の専門分野を見極め、経済学者が生物学の問いに答えようとするといったことも避けるべきだ。
 

結論

 米国の環境問題は、優先度の高い問題として取り扱われるべきであるが、同時に、経済的繁栄も環境問題の改善に役立つことを認識すべきである。環境保護について大きな成果をあげるためには、連邦政府が土地所有者や州政府を環境問題に取り組む際の障害と見なすのではなく、彼らを尊重して彼らと協働することが必要だ。

 米国は、経済成長・個人の自由・連邦主義とクリーンな環境を両立させることができる。政策立案者は、経済成長とクリーンな環境が相互に不可欠であると捉えるべきである。

 

3 州の気候変動問題のリーダーたちが2021年連邦議会にやってくる

State Climate Leadership Is Coming to the Nation’s Capital in 2021
https://www.americanprogress.org/issues/green/news/2020/11/09/492779/state-climate-leadership-coming-nations-capital-2021/
著者:Sally Hardin(アメリカ進歩センター暫定理事) Sam Ricketts(アメリカ進歩センターシニアフェロー) Aimee Barnes(カリフォルニア州立大学バークレー校シニアアドバイザー)
出典:アメリカ進歩センター ホームページ(2020年11月)

 2020年11月3日の米国選挙は、過去のどの選挙よりも気候変動が大きな争点となり、大胆なビジョンを掲げたジョー・バイデン氏とカマラ・ハリス氏が勝利した。FOX ニュースの出口調査においてさえ、72%もの有権者が気候変動について懸念を示しており、70%もの有権者がグリーン/再生可能エネルギー(Green and Renewable energy)への政府支出増加を支持しており、この問題への米国での関心の高まりを示している。

 今回の選挙で選出された上下両院の議員の中には、各州において気候変動対策に尽力していた人物も多く、今後、バイデン氏政権が環境政策を進めていく上での重要なパートナーになるだろう。トランプ政権下の過去4年間で米国の気候変動対策は大きく後退したが、その代わりに各州や地域コミュニティにおける様々な取り組みが、米国の環境対策を主導してきた。

 特に、米国全体の人口の55%、経済の60%を占める全米25の州は、パリ協定の気候変動対策目標を域内で遵守することを約束する「米国気候同盟」を結成した。また、13の州およびワシントンDC、プエルトリコが100%クリーンエネルギーを達成するための法律や州知事令を可決し、9つの州が炭素汚染物質削減目標を設定したことは特筆すべきことだろう。

 本稿では、今回の選挙で選出(再選も含む)された環境問題に熱心な連邦議員と、彼らを輩出した6つの州の環境対策の事例を紹介する。

  • ① アリゾナ州:マーク・ケリー次期上院議員
    アリゾナ州は、2020年10月下旬に米国内でも最も大胆な気候行動目標を採択し、2050年までに州全体で100%クリーン電力を目指すこと、暫定目標として2032年までに炭素排出量の50%削減、2040年までに75%削減することを定めた。同州選出で、元宇宙飛行士のマーク・ケリー次期上院議員(民主党)は、政治における科学・データ・ファクトの重要性を強調し、アリゾナ州の干ばつの問題にも言及してきた。環境問題に消極的であった現職のマーサ・マクサリー上院議員(共和党)とは対照的である。
  • ② コロラド州:ジョン・ヒッケンルーパー次期上院議員
    コロラド州は、2019年6月、2050年までに州全体の温室効果ガス90%削減(2005年比)を目指す一連の法律を制定した。また、2040年までに100%再生可能エネルギーでの電力供給を目指している。コロラド州では山火事が重大な問題となっており、環境問題への取り組みはとりわけ重要である。ジョン・ヒッケンルーパー次期上院議員(民主党)は、「100%再生可能エネルギーへの移行」を掲げて2020年の選挙に出馬した。彼はこれまでのキャリアの中で化石燃料業界から多くの支援を受けていたこともあったが、州知事時代には米国気候同盟への参加も決めるなど環境問題に積極的な姿勢を見せている。
  • ③ ミシガン州:ゲイリー・ピーターズ上院議員とアンディ・レビン下院議員
    グレッチェン・ホイットマー・ミシガン州知事(民主党)は、2018年に選出された直後、選挙公約であった米国気候同盟への参加を実行し、2020年9月には、ミシガン州全体における、2050年までのカーボン・ニュートラル実現に関する州知事令を出した。アンディ・レビン下院議員(民主党)は、ミシガン州における自動車製造業の雇用維持に尽力する一方で、輸送分野における環境対策に強い決意を示してきた。また、ゲイリー・ピーターズ上院議員(民主党)も、これまで上院において環境問題に積極的に取り組んできており、今回の選挙では環境規制に反対するジョン・ジェームズ候補(共和党)を破った。
  • ④ ミネソタ州:ティナ・スミス上院議員
    ミネソタ州は、気候変動対策における米国中西部のリーダーであり、米国気候同盟には2017年の結成時に参加した。ティナ・スミス上院議員(民主党)は、環境関連の立法を主導するなど、これまでに上院での気候変動政策に関する経験を積んでいる。スミス上院議員は、同州が、労働者と環境正義の双方の利益を両立させる形で気候変動対策を進める中で、労働者・環境グループ双方の指導者との関係をそれぞれ構築してきた。スミス議員は、これまでの経験や同州での取り組みを生かして、連邦政府の気候変動対策を前進してくれるだろう。
  • ⑤ ニューメキシコ州:ベン・レイ・ルーハン現下院議員・次期上院議員
    ミシェル・ルーハングリシャム・ニューメキシコ州知事(民主党)は、2018年、同州においてクリーンエネルギー開発を行うという公約を掲げ当選を果たした。米国気候同盟に参加することに加えて、2019年3月、2045年までに州の電力100%カーボンフリーを実現することを約束した。ベン・レイ・ルーハン下院議員(民主党)は、前述のミネソタ州選出のティナ・スミス上院議員と並んで、連邦議会におけるクリーン電力基準の立法に関する発起人の1人として、下院においてこれまで大胆な措置を講じてきた。
  • ⑥ バージニア州:マーク・ワーナー上院議員、エレイン・ルリア下院議員
    ラルフ・ノーサム・バージニア州知事(民主党)は、2020年、クリーン経済法案(Clean Economy Act)に署名し、2045年までに州の電力を100%カーボンフリーにすることを掲げた。同州はアメリカ南部の州としては初めて100%クリーンエネルギー法を可決した。マーク・ワーナー上院議員(民主党)とエレイン・ルリア下院議員(民主党)はどちらもすでに議会での経験は長く、下院ではルリア下院議員が環境アクションナウ法(Climate Action Now Act)に賛成票を投じている。ワーナー上院議員は、上院の国際気候責任法案(International Climate Accountability Act)の共同発起人となるなど、気候変動対策の支援に積極的に取り組んできた。

新たに選ばれた国のリーダーたちが、これまでに培った知識、そして各州における環境問題への追い風をワシントンDCに持ち込むことで、ワシントンDC、米国、そして世界をより良いものとするだろう。


終わりに

  パンデミックの中で在宅勤務を行いながら3本の記事を読む中で、2本目の「議会と政権のための先見的な環境政策アジェンダ」と、3本目の「州の気候変動問題のリーダーたちが2021年連邦議会にやってくる」との論調の違いに象徴される、環境問題における「経済活動」と「地球環境」の関係が、コロナ禍における「経済活動」と「感染防止」の関係に通ずるように思えた。地球規模課題への対応が益々重要になっていく中にあって、科学に基づいた政策決定を重視する人々と、科学「だけ」に基づいてなされる政策決定に抵抗する人々との溝がすぐに埋まることはないだろう。地球規模課題がもたらす災禍は健康被害だけではなく、考え方が異なる人々の間の分断も含まれるように思う。

 私たちは、経済的豊かさを求めつつ、地球環境悪化は防ぎたい。様々な利害関係者が存在する中で、専門家と政策決定者の連携や科学と政治の融合は容易ではない。国ごとに事情も異なる。その中で、今後、バイデン氏は米国内の対立を乗り越え、グローバルな取り組みをリードしていくことができるのか。その手腕が問われている。

 これまで「米国主導の秩序の危機?」「バイデン『大統領』の外交政策」「環境問題をめぐる国際協調と米国内対立」の3回に亘って、コロナ禍の米国シンクタンクの発信を紹介してきた。この間、米国は対外的には中国との対立がより先鋭化し、国内では分断が更に顕著となり、人々の不満や怒りが過激なデモや議会襲撃といった形で表出した。その最中にバイデン氏が選挙で当選し米国のリーダーは変わることとなったが、新大統領就任を以て米国社会や国際環境の在り方が急激に異なるものになるわけではない。日本としては、米国がどのような姿になろうとも彼らと良好な関係を維持し続けることが何よりも重要であり、米国や世界の動きを見極めながら適切な対応をしていく必要があるだろう。

(了)
 

【参考】これまでに発信した【コロナ禍の米国シンクタンクの発信】の論考

【コロナ禍の米国シンクタンクの発信】①-米国主導の秩序の危機? (Part 1)
【コロナ禍の米国シンクタンクの発信】①-米国主導の秩序の危機? (Part 2)
【コロナ禍の米国シンクタンクの発信】②-バイデン「大統領」の外交政策

メルマガ登録はこちら
関連ページ

笹川太平洋島嶼国基金

上記の笹川太平洋島嶼国基金のページでは、2017年度までの事業活動を紹介しています。

関連ページ

笹川汎アジア基金

上記の笹川汎アジア基金のページでは、2017年度までの事業活動を紹介しています。

関連ページ

笹川日中友好基金

上記の笹川日中友好基金のページでは、2017年度までの事業活動を紹介しています。

関連ページ

笹川中東イスラム基金

上記の笹川中東イスラム基金のページでは、2017年度までの事業活動を紹介しています。

  • Facebook
  • Twitter
  • LINE
  • はてな

アジア戦略イニシアチブ

ホームへ

ページトップ