2017.08.11
  • フィリピン南部

新バンサモロ基本法案の策定

ガザリ・ジャアファ(Ghazali Jaafar)拡大バンサモロ移行委員会議長へのインタビュー
2017年2月22日マギンダナオ州スルタン・クダラト町にて

 2016年11月2日、ロドリゴ・ドゥテルテ大統領はバンサモロ移行委員会(Bangsamoro Transition Commission: BTC)を15人から21人に拡大して新たに発足させるべく、行政命令(Executive Order)第8号を発令した。委員を21人に増員することで、より多様な意見を取り入れた包括的なバンサモロ基本法案(Bangsamoro Basic Law: BBL)を策定することがねらいである。2017年2月24日、ダバオ市において、ドゥテルテ大統領が出席するなか、拡大BTCの発足式が行われた。

 APBIメンバーは新たにBTC議長に任命されたガザリ・ジャアファ氏にインタビューした。

ガザリ・ジャアファ氏にインタビューするAPBIメンバー

Q:あなたは、どのようにしてモロ闘争に関わるようになったのですか。

ガザリ・ジャアファ議長

 私がコタバト市の中等学校の3年生の時、学生運動が組織され、将来のMNLF(Moro National Liberation Front, モロ民族解放戦線)のリーダーとなる若者が参加しました。当時、政治的指導者や主教的指導者がアンサロール・イスラム(Ansarol Islam)のようなグループを組織しました。

 1972年年9月21日、戒厳令が布告されました。その3日後、私はMILF(Moro Islamic Liberation Front, モロイスラム解放戦線)の創設者で初代議長となるウスタジ・ハシム・サラマトと、先住民でアズハル大学を卒業してイスラムに改宗してウラマとなった人物、そして他の3人と共にジャングルに行きました。私たちは他に先んじてジャングルに入っていきました。その後、私はアフガニスタンのムジャヒデンとして訓練を受けました。

Q:今回、拡大されたバンサモロ移行委員会の議長に任命されましたが、その任務は新たにBBLを策定することですね。課題と見通しをどのように見ていらっしゃいますか?

ガザリ・ジャアファ議長

 そうですね。多くの課題があると思っています。

 BTCの任務は、BBLを新たに草稿することです。BBLは前政権では成立しませんでした。その理由の一つは、先住民、キリスト教徒、伝統的指導者(スルタンやダトゥ)、またムスリムの政治家(知事や市長)のあいだに懸念があったからです。彼らはBBLの審議過程において、議会で懸念を表明しました。

 私は、これらの懸念はまだ残っていると思います。ですので、我々は新BTCで、これらの人びと話をすることでその懸念を払拭すべく、取り組もうと決心しています。私のもとに彼らとの対話を始めるべく、タスクフォースを組織しました。タスクフォースの目的の一つは、彼らがこのプロセスのオーナーであると思ってもらうことです。いずれバンサモロ政府が設立されれば、それはMILFの政府でも、MNLFの政府でもなく、地域の人びとの政府であるべきなのです。私たちは彼らに協力してほしいと訴えるつもりです。我々の彼らへのメッセージは「BBL通過のために共に努力をしよう」というものです。

Q:MILF とMNLF、特にヌル・ミスアリ議長派のMNLFとを一つにまとめることの課題を、どのように見ていらっしゃいますか?

ガザリ・ジャアファ議長

 それはまた、もう一つの課題です。

 ヌル兄弟(Brother Nur)は、疑いなく、多くのリーダーの一人です。闘争が始まった時、私たちは共に戦いました。かつて私は一年間、海外でヌル兄弟、ムスリミン・セマ(Muslimin Sema)兄弟と一つの大きな部屋で共に時を過ごしたことがあります。当時、MNLFは一つの組織であり、彼は私たちのリーダーでした。しかしそれは何年も前のことであり、当時の若いリーダーたちは現在、一人前のリーダーに育っています。実際、現在の多くのリーダーは、当時私たちと闘争を共にした人たちなのです。彼らの意見に耳を傾け、彼らの考えを取り入れることが望まれています。しかしながら、ヌル兄弟は、2016年11月、拡大BTCに参加しない選択をしました。彼のグループは別々に扱われるべきだと主張し、和平プロセス担当大統領顧問室(OPAPP: Office of the Presidential Adviser on the Peace Process)と交渉するために、別に和平交渉団を組織しました。これが今の状況です。

 先週私は、この課題について(MNLFミスアリ派の)パルカシオ弁護士(Atty Parcasio)と話しをしました。彼もまたそのことを非常に心配しています。私たちはこの問題を解決する方法を見つけなければなりません。なぜならこれは私たちの内部問題だからです。

 私はまた、MNLFダバオ革命委員会の議長とも話をしました。彼もこの問題を憂慮していました。私たちは、共に問題を解決する努力する合意しました。さもなければバンサモロの課題のために協議された政治的解決の履行を遅らせかねません。

Q:BBLに関する懸念を払拭するために、何か月必要でしょうか?

ガザリ・ジャアファ議長

 私たちは、新たにBBLを草稿し、7月に議会が開会する時にあわせて提出しなければなりません。ロードマップによる見通しでは、BBLは成立したのち、2018年に住民投票にかけられて批准されます。その後、2019年までにはバンサモロ暫定局(Bangsamoro Transition Authority)が組織される予定です。2019 年には中間選挙があり、ムスリム・ミンダナオ自治地域(Autonomous Region in Muslim Mindanao: ARMM)の代表が選出されることになっています。これ以上複雑な状況になることを避けるため、またARMMに空白が生じないように、2019年より前にバンサモロ暫定局が設立されるように法律が制定されていなければなりません。

Q:BTCでは、議題ごとに話し合いをする予定でしょうか。

ガザリ・ジャアファ議長

 最初の議題は、委員会規定を承認することになるでしょう。新BTC委員が、前回策定したBBLを土台として再検討することに賛同してくれれば、策定の作業はずっと容易になるでしょうし、私たちはそれを望んでいます。

Q:前政権下で提出された上院と下院のBBLの代替法案、すなわち二つのBLBAR(Basic Law on the Bangsamoro Autonomous Region)も再検討するおつもりでしょうか。

ガザリ・ジャアファ議長

 委員たちが決めることです。しかし私はBBL原案を再検討することの方が理にかなっていると思います。

Q:一方で、BLBARは前政権の議会の立場を反映していたものではないでしょうか。BLBARを再検討し、BBL原案との差異を検討することも重要ではないですか。

ガザリ・ジャアファ議長

 それは、委員たちの意見によります。

Q:政府との交渉に携わるのは初めてでいらっしゃいますか?

ガザリ・ジャアファ議長

 私は、故ウスタジ・ハシム・サラマト初代議長のもとで組織された和平交渉団の議長でした。ですので、私が和平交渉を始めたわけで、今こうして再びそれに携わることになったというわけです。インシャ・アッラー、和平交渉に終わりがくることを願っています。

Q:ありがとうございました。

ガザリ・ジャアファ議長

 お越しくださり、ありがとうございました。

MASAKO ISHII石井正子(立教大学・教授)

執筆者プロフィールについてテキストが入ります。執筆者プロフィールについてテキストが入ります。執筆者プロフィールについてテキストが入ります。執筆者プロフィールについてテキストが入ります。執筆者プロフィールについてテキストが入ります。執筆者プロフィールについてテキストが入ります。執筆者プロフィールについてテキストが入ります。執筆者プロフィールについてテキストが入ります。

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