大矢 南
2016.01.02
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December 2015: Southern Philippines

1) 人権団体、現政権下で民兵組織に殺害された民間人94人に上ると発表

左派系人権団体カラパタンは1日、現アキノ政権下で政府系民兵組織に殺害された民間人が94人上ると明らかにした。

同団体によると、2010年7月のアキノ政権発足から2015年11月30日までに報告された政治的殺人、超法規的殺人の犠牲者は計304人。このうち94人が、民兵組織による犯行という。全国に散在するCAFGU(Citizen Armed Force Geographical Units、市民軍地域部隊)をはじめ、国内で24の政府系民兵組織が暗躍し、国軍から武器供与と指示を受け、政治家や企業の土地接収、鉱山開発などに反対する地域の活動家を殺害している。

特にフィリピン南部での報告が多く、2015年半ばからは南・北スリガオ州でルマドと総称される非ムスリム、キリスト教系先住民族のリーダー殺害や、学校への放火が相次いだため、住民の多数が避難所での生活を余儀なくされている。アジア太平洋経済協力会議(APEC)が開催された10月末から11月末の期間には、先住民ら約700人がマニラ首都圏に集まり、国軍や民兵組織による人権侵害、迫害の中止と地域からの撤退、正義を求めて連日抗議を続けた。

カラパタンのバラバイ事務局長によると、国軍は先住民の一部を懐柔し、武器を渡して民兵にした上で、コミュニティを分断させ、同じ先住民を襲わせるという手口を使うこともあるという。

2) 国家公安委、大量虐殺事件に関与した警官32人を行政処分

マギンダナオ州で2009年11月に発生した大量虐殺事件で、国家公安委員会は9日までに、事件に関与したとして警官21人を免職処分、11人を停職処分にした。

同委員会によると、21人は現場で証拠隠滅を図ったり、事件発生を知りながら適切に捜査を進めなかったなど、警察官としての職務を怠った。11人には59日間の停職が言い渡された。

決定は、事件から6年が経過した11月23日の翌日、同24日に出された。

3) 移行期正義和解委、政府とMILFに報告書提出

和平プロセスにおける第三者機関の一つ、移行期正義和解委員会(TJRC)は9日、バンサモロ地域のこれまでの紛争の歴史と正義の実現・和解に向けた報告書を政府とMILFに提出した。

TJRCは、包括的意の正常化に関する付属文書で設置が明記されている機関で、2014年10月に発足した。スイス連邦外務省の特使が代表を務め、政府、MILFが指名したメンバーを含む計5人で構成される。過去や現在の人権侵害や大規模な残虐行為に対する責任問題を調査し、和解に向けた 勧告を行うことで、円滑な政治的移行を促す役割がある。MILFのイクバル和平交渉団長は、2014年の発足時、「分断から一体化への道のりが始まった」と表現した。

TJRCは約1年間にわたり、紛争地域の少なくとも200のコミュニティでの聞き取り調査、フィリピン南部の紛争・和平プロセスに関する先行研究・勧告書の統合、政策関係者へのインタビューなどを実施。①バンサモロ住民の正当な不満、②歴史的不正義の是正、③人権侵害の解決、④土地追い立てによる周縁化の解決、の4点について、適切な方法を報告書で勧告した。

報告書内容の公開日は未定。

4) バシラン州で国軍とアブサヤフが大規模交戦。双方で18人死亡

バシラン州アルバルカ町で15日、国軍部隊とイスラム武装組織アブサヤフの部隊少なくとも200人が交戦になり、アブサヤフのメンバー15人、国軍兵士3人が死亡した。

国軍によると、掃討作戦の一環で、国軍部隊が同町のアブサヤフ拠点に接近したところ、銃撃戦となり、大規模な銃撃戦が16日夜まで続いた。

5) 基本法案、年内可決ならず 新自治政府創設は次期政権に持越しへ

 国会は19日、休会入りし、バンサモロ自治地域基本法案(BLBAR、バンサモロ基本法案の代替法案)の審議は年明け1月19日から再開する本会議に持ち越された。アキノ大統領は8日に議員らとの会合を開き、休会入りまでの年内可決を促していたが、実現しなかった。政府とMILFの枠組合意、包括的合意では、2016年5月の統一選で、現行のムスリム・ミンダナオ自治地域(ARMM)に代わる新自治政府バンサモロの議会選挙実施、アキノ大統領の任期終了と共に6月中に新自治政府創設の運びだったが、基本法案可決の遅れによりすでに時間が不足しており、新自治政府創設は次期政権に持越しとなった。

一方、政府とMILFは引き続き現政権下での基本法案可決を目指す。その背景には、過去の和平交渉で政権が変わるたびに合意内容を反故にされてきたMILFの政府に対する不信感がある。合意内容を法制化することにより、政権が変わっても合意内容の継続実施を確保するのがねらい。コロマ大統領府報道班長は16日に出した声明で「1月の本会議再開後も引き続き可決に向けて尽力すると国会議員らから聞いている」と述べ、現政権下での法案の可決、成立には希望を示した。

一方、上院のマルコス地方自治委員長は、1月に入れば国会議員の大半が次期統一選に向けた選挙活動を始めるため、本会議が定数不足になるのは明らかと指摘。「ミンダナオの暴力と戦闘を解決するため、次期政権は和平プロセスを継続しなければならない。止めてはならない」と述べた上で、現政権下での可決は時間不足で不可能であり、次期政権に任せるべきとの見解を示した。

6) 英紙、ISが比に拠点設置と報道。比政府は否定

英国のタブロイド紙、デイリーメールは21日、内戦の続くシリアやイラクで勢力を拡大している過激派組織「イスラム国」(IS)が、フィリピン国内でフィリピン人戦闘員を訓練している映像をインターネット上に公開したと報じた。

デイリーメール電子版は、ISが公開したとみられる映像を引用し、ISがフィリピンに訓練拠点を設置し、フィリピン人戦闘員の訓練を始めたと報道。これに対し、コロマ大統領府報道班長は22日、ガルシア大統領顧問(国家安全保障担当)の「国内にISの訓練用キャンプは存在しない」との見解を示し、報道内容を否定した。

ガルシア顧問は、ISに関与している活動家が国内に潜伏している可能性はあるとしながらも、「関係者の潜伏で、ISがフィリピンに存在すると決めるのは時期尚早」との見方を示した。

7) BIFFの襲撃相次ぐ、民間人含む11人死亡

24日、マギンダナオ、スルタンクダラト両州の境界に近い地域で、MILFの離脱者らで構成されるバンサモロ・イスラム自由戦士(BIFF)による襲撃が相次ぎ、民間人7人とBIFFの構成員4人の計11人が死亡した。

国軍の調べでは、まず同日未明、BIFFの武装集団がマギンダナオ州ダトゥアブドゥラサンキ町バナバ村の国軍拠点を襲撃。約3時間の交戦の末、BIFF構成員4人が死亡した。

午前5時ごろには、スルタンクダラト州エスペランサ町パイタン、サガサ、タカル各村、マギンダナオ州アンパトゥアン町カウラン村で、農作業をしていた民間人が武装集団に襲われ、7人が死亡した。

BIFFのスポークスマンは一連の犯行を認めた上で、殺害した7人は民間人ではなく、政府系民兵組織CAFGUのメンバーだったと主張した。

同地域では、BIFFと国軍の交戦が頻発しており、国軍は一帯での農作業を控えるよう住民に呼びかけている。すでに避難した住民も多数に上るという。

註:上記内容は主に以下の現地報道機関のウェブサイトの記事を参考に、筆者が編集した。

日刊まにら新聞(http://www.manila-shimbun.com/
MindaNews(http://www.mindanews.com/) 
Philippine Daily Inquirer(http://www.inquirer.net/
Philippine Star(http://www.philstar.com/
ABS-CBN News(http://www.abs-cbnnews.com/
GMA News Online(http://www.gmanetwork.com/news/
Manila Bulletin(http://www.mb.com.ph/
Rappler (http://www.rappler.com/)
The Manila Times (http://www.manilatimes.net/)
Business World (http://www.bworldonline.com/index.php)

December 2015

MINAMI OHYA大矢南

フィリピン在住

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