大矢 南
2015.10.21
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September 2015: Southern Philippines

1) 世銀副総裁、MILF本拠地訪問し和平支援継続を約束

 世界銀行のトロッツェンバーグ副総裁は14日、マギンダナオ州スルタンクダラト町にある反政府武装組織モロイスラム解放戦線(MILF)の本拠地を訪問し、フィリピン政府との和平プロセスへの支援継続を約束した。

 副総裁はMILFのムラド議長と会談。「特に貧困と紛争がまん延する地域で平和を実現することは難しい。すべての関係者が誰一人欠けることなく和平実現まで完走することを望む。平和の代わりなど存在しない」と和平の意義を強調した。

 訪問は、紛争地域の住民の生活向上を支援するため、世銀が設立したミンダナオ信託基金(MTF)の10周年を記念するため。

2) 大規模交戦事件で大統領、MILF構成員ら90人の訴追指示

 国家警察特殊部隊の警官44人や、MILF構成員ら計68人が死亡したテロリスト追跡作戦(1月25日)の大規模交戦で、アキノ大統領は17日、MILF構成員ら90人を殺害容疑で訴追するよう司法省に指示した。

 デリマ司法長官によると、90人は、MILF構成員26人、MILFから分派したバンサモロ・イスラム自由戦士(BIFF)構成員12人、私兵団構成員52人。

 MILF構成員ら訴追の遅れは、バンサモロ基本法案の国会審議で再三取りあげられ、審議遅延の一要因となってきた。大統領は任期満了となる2016年6月までの最終和平達成を目指しており、構成員らの訴追手続きを進めることで、最終和平へ向けたプロセスを前進させたい考え。

3) イクバル団長、基本法案の代替案をあらためて拒否

 MILFのイクバル和平交渉団長は18日、首都圏パシッグ市で開かれた外国人特派員協会(FOCAP)のフォーラムに出席し、国会で審議されている基本法案の代替案について、あらためて受け入れない姿勢を強調した。

 イクバル団長は「上院案では原案の8割、77条項、下院案では2割、28条項が修正された。改悪された法案は到底受け入れられない」と念を押した。MILFは、政府との枠組合意、包括的合意に基づいて起草された原案を尊重するよう訴えている。

4) スル王国末裔、エスマイル・キラム2世が死去。76歳

 20世紀初頭まで現在のスル諸島周辺に存在したスル王国の末裔で、同王国のスルタン(君主)を名乗ったエスマイル・キラム2世が19日、腎不全のため、サンボアンガ市内の病院で死去した。76歳だった。

 遺体は20日午後、国軍機で故郷のスル州ホロ町に移され、埋葬された。後継者は、実弟のブグダル・キラム氏。

 2013年10月に死去した兄、ジャマルル・キラム3世は、同年2月、マレーシア・サバ州の領有権を訴え、親族ら武装集団約200人を同州に送り込みマレーシア当局と衝突、多数の死者が出た。遺族によると、エスマイル・キラム2世は、「フィリピン人のために、サバ州領有権を訴え続けよ」と言い残し、息を引き取ったという。

5) 武装集団、サマル島で外国人3人含む4人を拉致。日本人ら2人負傷

 21日午後11時40分ごろ、ダバオ市沖に位置する北ダバオ州の人気リゾート、サマル島のカムドムド村で、少なくとも11人の武装集団が宿泊施設を襲い、カナダ人男性2人、ノルウェー人男性1人とフィリピン人女性の計4人を拉致した。現場に居合わせた日本人女性と夫の米国人男性も連れ去られそうになったが、海に飛び込み、負傷したものの難を逃れた。

 10月1日現在、拉致された4人の行方は分かっていない。犯人グループは人質4人を連れ居場所を変えながらスル州に入ったとの情報があり、国軍・国家警察が確認を急いでいる。

 国家警察の調べでは、武装集団は私服姿で宿泊客を装って施設内に侵入したとみられる。ヨットを利用した部屋が並ぶ中、日本人女性と米国人男性が宿泊するヨットに向かい、2人を連れ去ろうとした。2人は抵抗し、海に飛び込んで逃げたが、別のヨットにいたカナダ人男性ら4人も襲われ、拉致された。武装集団はモーターボート2隻に分乗して、コンポステラバレー州バントゥカン町方面に走り去った。

 国家警察は、①アブサヤフがダバオ地域で外国人を狙った拉致事件を計画しているとの情報が事前にあった、②武装集団が乗り捨てたとみられるボートが25日にスル州パラン町の沿岸で見つかった、③スル州内で人質の目撃情報が複数ある、ことから、犯人グループを同州周辺で活動しているイスラム武装集団、アブサヤフとの見方を強めている。しかし、10月1日現在も犯人グループから身代金の要求はなく、犯行の手口にも不審な点があるため、犯人グループの断定には慎重な姿勢をとっている。

6) 外国人拉致事件受け、APECに向け警備強化

 北ダバオ州サマル島で起きた外国人拉致事件を受けて、外務省は22日、11月に首都圏パサイ市で開催されるアジア太平洋経済協力会議(APEC)に向け警備を強化するとの声明を発表した。

 同省は声明で「安全対策を実施し、すべての首脳陣、代表団の安全を保障する」と強調。事件については、国軍・国家警察が広域にわたって拉致被害者と犯人グループの追跡、捜査を実施していると説明した。

 サマル島はダバオ市から船で約10分の場所にあり、治安の良さに定評のある同市から近く、外国人にも人気のリゾートだった。すでにカナダをはじめ各国政府が渡航注意勧告を出しており、観光業への影響も懸念される。同島では、2001年5月、イスラム系武装集団がリゾート施設を襲撃し、施設の従業員ら5人が死傷、2人が拉致される事件が起きた。

7) 新自治政府の管轄地域めぐる住民投票、「統一選と同時実施可能」中央選管委員長

 中央選管のバウティスタ委員長は30日、バンサモロ新自治政府の管轄地域をめぐる住民投票を、2016年5月9日の次期統一選と同時実施することは可能との見方を示した。

 同委員長は、新自治政府創設を柱とするバンサモロ基本法案が国会で早急に可決されれば、統一選の読み取り式投票用紙に、管轄地域への参画に賛否を記入する住民投票用の回答欄を印刷することができると説明。住民投票の後、追って新自治政府の議会選挙を特別選挙として実施することになるだろうとの見通しを示した。大統領府は先に、立候補届出が始まる10月上旬までの法案可決、候補者による選挙運動が解禁になる2016年2月の住民投票実施を目指すとしていたが、バウティスタ委員長が準備期間の短さから、2月実施に事実上難色を示した形。

 また、現行のムスリム・ミンダナオ自治地域(ARMM)に替わり新自治政府が創設されることを明記した基本法案が成立しない限り、10月12〜16日の立候補者届け出期間中の、ARMM選挙への立候補届け出は受理すると述べた。

 バンサモロ枠組合意では、次期統一選と同時に新自治政府の議会選を実施すると定められており、議会選に先立ち、管轄地域決定の住民投票を行うことになっている。しかし、基本法案が可決されなければ住民投票は実施できず、また準備に約6カ月を要することから、統一選と議会選の同時実施は極めて困難な状況にある。

註:上記内容は主に以下の現地報道機関のウェブサイトの記事を参考に、筆者が編集した。

日刊まにら新聞(http://www.manila-shimbun.com/
MindaNews(http://www.mindanews.com/) 
Philippine Daily Inquirer(http://www.inquirer.net/
Philippine Star(http://www.philstar.com/
ABS-CBN News(http://www.abs-cbnnews.com/
GMA News Online(http://www.gmanetwork.com/news/
Manila Bulletin(http://www.mb.com.ph/
Rappler (http://www.rappler.com/)
The Manila Times (http://www.manilatimes.net/)
Business World (http://www.bworldonline.com/index.php)

Mindanao, September 2015

MINAMI OHYA大矢南

フィリピン在住

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