大矢 南
2015.05.12
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April 2015: Southern Philippines

大規模交戦現場でインフラ事業実施へ

 計68人が死亡した国家警察特殊部隊と反政府武装勢力モロイスラム解放戦線(MILF)らの大規模交戦(1月25日発生)で、政府はこのほど、現場となったマギンダナオ州ママサパノ町で鉄橋や学校校舎、道路などのインフラ整備事業を実施すると明らかにした。交戦を機に一気に高まった政府と和平プロセスに対する批判を緩和する狙いがある。

3月末に行われた鉄橋の起工式には、アバド予算管理長官やカタパン国軍参謀総長、MILF幹部がそろって出席。同長官は、ママサパノ町が「テロリスト潜伏の地」と悪評されてきた経緯に触れ、「この事業で町のイメージを輝かしいものに変えたい」と述べた。

 交戦現場から約500メートル離れた建設地を流れる川には、現在木材を組み合わせた簡素な橋が架かっているだけで、物資を円滑に運ぶことができない。長さ120メートルの鉄橋(事業費1000万ペソ)を架け、地元の経済活動を活性化したい考え。その他、校舎や道路整備で総額4980万ペソの事業を行う。

BIFF指導者死亡、後継者に副代表

 MILFから分派した武装組織バンサモロ・イスラム自由戦士(BIFF)のママ報道担当は14日、創設指導者であるアメリル・オンブラ・カト(69)が同日未明、マギンダナオ州ギンドゥルガン町内で死亡したと明らかにした。後継者には、政治担当のイスマエル・アブバカル副代表、通称ブンゴス部隊長が指名された。

 国軍のカブノク報道官は「作戦司令官であると同時に精神的指導者でもあったカト指導者の死によって、BIFFは弱体化するだろう」との見方を示した。

 カト指導者は、「先祖伝来の領域に関する合意書(MOA-AD)」への署名が最高裁によって差し止められ、和平交渉が大きく後退したアロヨ政権下の2008年には、MILF第105部隊を率いてコタバト州周辺で襲撃を繰り返し、殺人罪などで起訴された。アキノ政権下の2010年に、政府との和平交渉に不満を抱き、一部構成員と共にMILFを離脱。BIFFを結成して国軍拠点などを襲撃し、交渉の不安要素となってきた。2011年以降は体調を崩し、度々死亡説が流れた。

手投げ弾爆発で兵士6人負傷、BIFFの犯行

 16日夜から17日早朝にかけ、BIFFとみられる武装集団がマギンダナオ州ダトゥサリボ町パガティン村とダトゥピアン町マガスロン村の国軍部隊駐屯地を襲撃し、手投げ弾や手製爆弾の爆発で国軍兵士6人が負傷した。

 国軍によると、ダトゥサリボ町では爆発の直前に駐屯地のみ停電が発生した。武装集団が襲撃前に送電線を破壊したとみられる。いずれの襲撃も、武装集団は爆発後に逃走した。

 BIFFのママ報道担当は「(カト指導者の死で)攻撃を仕掛ける能力を失ったとする国軍の主張に対する我々の回答だ」と述べ、襲撃を認めた。

MILF、構成員の引き渡しをあらためて拒否

 計68人が死亡した国家警察特殊部隊とMILFの大規模交戦(1月25日発生)で、MILFのジャファール副議長は17日、殺人罪で構成員が刑事訴追された場合、司法当局への身柄引き渡しを拒否する姿勢をあらためて示した。

 MILFは、交戦の発生原因を特殊部隊が事前通告なしに支配領域に侵入したためと一貫して主張しており、副議長は「自衛のために戦った構成員らを投降させることはできない」と強調した。

 司法省検察局は今後、MILFなどの構成員約90人を刑事訴追する方針で、起訴後に逮捕状が出る見通し。

 国軍・警察が逮捕状執行を強行しようとすれば、MILFとの関係悪化につながるのは必至で、バルテ大統領報道官補は18日、「起訴されても弁護機会は与えられる」と述べ、訴追を受け入れるようMILFに協力を求めた。

OIC事務局長が初のミンダナオ訪問、MILF、MNLF両者の歩み寄りを支援

 イスラム協力機構(OIC)のマダニ事務局長は18、19両日、ダバオ市を訪問し、MILFおよびモロ民族解放戦線(MNLF)の幹部らと別々に会談した。歴代OIC事務局長としては初のミンダナオ島訪問。フィリピン政府とそれぞれ異なる和平合意を締結したMILFとMNLFが歩み寄り、現政権との和平プロセスへの統合を図る「バンサモロ調整フォーラム(BCF)」にあらためて支援を表明した。

 同事務局長は両グループ幹部との会談後、19日に約4時間にわたりBCF会合に出席。MILFからはイクバル和平交渉団長ら12人、MNLFからはミスアリ初代議長派を代表するパルカシオ報道担当ら6人と、セマ議長を筆頭とするMNLFセマ議長派6人が参加した。

 会合では、コタバト市に常設のBCF事務局を開設することが決まった。OICが運営を技術・経済的に支援する。次回会合は、今月末にクウェートで開催予定。

OICは1996 年に和平合意に達した政府とMNLFの交渉を仲介。マダニ事務局長は「BCFがそれぞれの異なる視点の差を緩和できると楽観している。我々は(両グループの和平プロセスを)支援しているということを示すために来た」と強調した。

 同事務局長らはまた、20日にマラカニャン宮殿でアキノ大統領を表敬訪問。あらためて和平プロセスに支援を表明すると共に、バンサモロ基本法案の早期可決を促した。

下院特別委、基本法案の審議を終了。5月下旬に本会議上程へ

 バンサモロ基本法案を審議する下院特別委員会(ロドリゲス委員長)は27日、審議を終了した。5月11~13日のいずれかにも委員会採決を行い、同月末までに本会議に上程する見通し。

 ロドリゲス委員長は先に、大規模交戦でMILF側が構成員の身柄引き渡しを拒否していることに対し「委員会採決に影響を与える」と懸念を表明。また、共和国憲法が定める規定に違反する恐れのある少なくとも8項については削除して審議を進めたと話しており、法案内容の変更に強く反対するMILFの反発が予想される。上院地方自治委員会のマルコス委員長も同様に、憲法に抵触する恐れのある条項の削除を決めている。

日刊『まにら新聞』(http://www.manila-shimbun.com/
Minda News(http://www.mindanews.com/) 
Daily Inquirer(http://www.inquirer.net/
Philippine Star(http://www.philstar.com/
ABS-CBN News(http://www.abs-cbnnews.com/
GMA News Online(http://www.gmanetwork.com/news/
Manila Bulletin(http://www.mb.com.ph/

Mindanao, April 2015

MINAMI OHYA大矢 南

フィリピン在住

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