大矢 南
2015.03.10
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January 2015: Southern Philippines

1) MNLFセマ議長「1996年最終和平合意踏まえた立法を」

 モロ民族解放戦線(MNLF)のセマ議長は20日、バンサモロ基本法案を集中審議する下院特別委員会(ロドリゲス委員長)の公聴会で、政府とMNLFの1996年最終和平協合意を踏まえた立法を求めた。

 MNLF関係者の間では、96年の最終和平合意が新法によって有名無実化する懸念が高まっている。セマ議長は「(1970年代の武力闘争開始から)40年の歳月をかけて獲得したものを手放すつもりはない。新法策定の一方で、和平協定の恩恵を維持することが重要だ」と訴えた。

 一方で、セマ議長派は、政府とMILFの和平合意に反対するミスアリ初代議長派とは異なり、「我々は非常に現実的だ。MILFと戦争状態に陥ったこともなく、ミンダナオに暮らすTri People/3つの人びと(モロキリスト教徒、ルマド/先住民族)全員に恩恵のある和平プロセスを共に望んでいる」とも述べ、柔軟な姿勢を示した。聴聞会には、MNLF創設者の1人、アロント元副議長も出席し、政府とMILFの和平合意とバンサモロ基本法案に支持を表明した。

 96年の最終和平合意当時、南部の最大反政府勢力だったMNLFは現在、ミスアリ初代議長派、セマ議長派など複数のグループに分派している。公聴会にはミスアリ初代議長も呼ばれたが、2013年9月のサンボアンガ市街地占拠事件で逮捕状が出ており、姿を現さなかった。

2) サンボアンガ市路上で爆発、2人死亡54人負傷

 23日午後3時すぎ、サンボアンガ市ギワンの路上で大きな爆発があり、通行人2人が死亡、少なくとも53人が重軽傷を負った。

 国家警察サンボアンガ署の調べでは、バスターミナル近くに駐車中の車が爆発し、通行人やバスの乗客らが巻き込まれた。迫撃砲弾を使った手製爆発物が車内に仕掛けられていたとみられる。

 同署はイスラム系テロ組織、アブサヤフによる犯行とみて捜査。23日中に実行犯とみられる容疑者男性3人を同市サンロケの民家で拘束し、26日に殺人、銃器不法所持容疑などで送検した。民家からはM4ライフルやM16ライフルの弾丸などが押収された。3人とは別に、犯行を計画した者がいるとみて捜査を続けている。

 アキノ大統領は25日、ロハス内務自治長官、ソリマン社会福祉開発長官らと共に事件現場を視察し、自治体関係者に被害者支援を指示した。 

3) 警官隊とMILFが交戦、62人死亡、26人負傷

 25日午前5時ごろ、マギンダナオ州ママサパノ町で国家警察特殊部隊(SAF)とMILF部隊が交戦した。銃撃戦が約12時間続き、警官44人、MILF構成員18人の計62人が死亡、警官12人、MILF構成員14人の計26人が負傷した。事件発生6日後の31日には、フェレール政府側交渉団長が「住民多数が交戦に巻き込まれ死亡した」と発言しており、調査が進むにつれ、死傷者数もさらに増える可能性がある。

 政府とMILFが2012年10月に枠組合意に合意して以降、軍警察と大規模な交戦状態に陥るのは今回が初めて。国会は20日に再開したばかりで、バンサモロ基本法案の審議を始め、包括和平実現に向けた取り組みへの影響が懸念される。

 国家警察によると、SAF392人は交戦発生前、マギンダナオ州内に潜伏していた東南アジアのイスラム系テロ組織、ジェマ・イスラミヤ(JI)のメンバーを含む2人を捜索していた。作戦が終了し、SAFが戦闘地域から撤退していた際、MILFから分離した武装組織、バンサモロ・イスラム自由戦士(BIFF)とみられる武装集団に襲われ、銃撃戦に発展。BIFFと撃ち合いをしている最中に、SAFがMILF部隊の拠点地域に事前通告無しに進入してしまったため、銃撃戦となったという。MILF側は「SAF側が先に発砲したため、応戦した」とし、待ち伏せ攻撃を否定している。

 2月1日現在、銃撃戦に参加したBIFFとMILF側の人数は明らかになっていない。マギンダナオ州災害対策本部によると、交戦により、周辺住民約560世帯が避難を強いられた。

4) 基本法案の審議・公聴会一部中断、国会議員から懸念の声相次ぐ

 マギンダナオ州ママサパノ町でのSAFとMILFの交戦を受け、ミンダナオ和平プロセスへの影響を懸念する声が国会議員から相次いでいる。上院の一部委員会ではバンサモロ基本法案の審議が停止、公聴会も中断となり、野党議員からは法案そのものや、MILF、アキノ政権批判の声が高まっている。

 上院地方自治委員会のマルコス委員長が「彼らが銃を下ろすことができないなら、我々は平和について話し合うことなどできない」と交戦に対する不満を表明。ビアゾン下院議員も下院での審議中断を求める決議案を提出したほか、法案共同起草者のカエタノ上院議員は「MILFへの信用を失った」として、起草者から外れると宣言した。また、ロムアルデス下院野党院内総務は、「政府は警官を殺害した犯人や、接収した武器の引き渡しをMILFに要求すべき」との見解を示した。

 政府とは別に、上院でも調査委員会を立ち上げ、交戦の詳細を調査する方針。

5) SAF隊長解任

 62人が死亡したマギンダナオ州ママサパノ町でのSAFとMILFの交戦で、ロハス内務自治長官は27日、実行部隊の最高責任者であるSAFのナペニャス隊長を解任した。また、国家警察のエスピナ長官代理は同日、SAFが実行した「テロリスト追跡作戦」について「本部に連絡はなかった」と述べ、最高幹部らが作戦を事前に把握していなかったことを明らかにした。

 ロハス長官によると、SAFが追跡していた2人は、JIの構成員とされるマレーシア人1人とフィリピン人1人。マレーシア人はインドネシア・バリ島で約200人が死亡した爆弾テロの首謀者とされる。国家警察は2014年5月ごろ、2人の隠れ家に関する情報を得て、プリシマ長官=停職処分中=を中心に捜査を進めていた。マレーシア人は今回の作戦で死亡し、フィリピン人は逃走したとみられている

6) 和平実現への協力呼び掛け、大統領がテレビ演説

 マギンダナオ州ママサパノ町でのSAFとMILFの交戦を受け、和平交渉中断を求める声も上がる中、アキノ大統領は28日夜、マラカニアン宮殿からテレビ演説を行い、「和平交渉を今中断すればテロリスト勢力を手助けすることなる。和平実現は国民全体の積年の願い」と述べ、和平プロセスへの協力を呼び掛けた。

 SAFの追跡作戦について、自身は実行指示を出していないと前置きした上で、追跡対象の2人がテロ行為で逮捕状が出ている凶悪犯だと指摘、作戦の正当性を強調した。一方で、多数の死傷者を出したことに対し、SAFと現地に駐屯する国軍との連携が十分に取れていなかったと認めた。

 フェレール政府側交渉団長は先に、「交戦は和平実現に向け直面する課題を明確に示している。バンサモロ基本法案を成立させる決意はさらに強まった」と強調。MILF側交渉団のイクバル団長は「まずは調査結果を待つべきだ。事前の取り決め(進入時の事前通告)に基づく連携・調整不足による偶発的な事件。特殊な事例だ」と述べ、慎重な姿勢を示すと共に、SAFが事前通告なしにMILF拠点地域に進入したことに対しては「政府が我々を信頼していないことを示している」と不快感を表明した。

7) MILFが独自に調査委立ち上げ

 マギンダナオ州で発生したSAFとMILFの交戦を受け、MILFは30日、政府が管轄する調査委員会とは異なる独自の調査委員会を立ち上げたと発表した。

 調査委は7人で構成され、交戦の経緯と状況の詳細を調査する。

 また、MILFのイクバル和平交渉団長は31日、SAFが追跡していたテロ組織構成員ら2人をMILFがかくまっていたとの疑惑を強く否定した。

8) 武装解除プロセスの合意書に署名

 政府とMILFは30日、仲介国マレーシアの首都クアラルンプールで会合を開き、MILF正規部隊の武装解除に向けたプロセスを記した合意書に署名した。

 MILFが保有する銃火器・弾薬の目録を作り、国際監視団の仲介で4段階に分けて武器の回収を進める。同時並行でMILF構成員の生活支援を本格的に開始する。

 合意書には武装解除完了までの明確な期間・期限は明記されなかった。

註:モニター記事内容は主に以下の現地報道機関のウェブサイトの記事を参考に、筆者が編集した。 

日刊『まにら新聞』(http://www.manila-shimbun.com/
Minda News(http://www.mindanews.com/) 
Daily Inquirer(http://www.inquirer.net/
Philippine Star(http://www.philstar.com/
ABS-CBN News(http://www.abs-cbnnews.com/
GMA News Online(http://www.gmanetwork.com/news/
Manila Bulletin(http://www.mb.com.ph/

Mindanao, January 2015

MINAMI OHYA大矢 南

フィリピン在住

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