大矢 南
2014.12.07
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November 2014: Southern Philippines

1) イスラム銀行普及に向けタスクフォース設置

 中央銀行のテタンコ総裁はこのほど、バンサモロ自治政府が設立される地域を中心にしたイスラム銀行の普及に向け、世界銀行および国内で唯一のイスラム金融機関、フィリピン・アル・アマナー・イスラム投資銀行と共に、具体案を検討するタスクフォースを設置したと明らかにした。

 同総裁は、同銀行以外の金融機関が国内で営業する許可が必要であるため、立法措置が必要と指摘。現在のムスリム・ミンダナオ自治地域(ARMM)に換わる新自治政府「バンサモロ」の設立が2016年に迫る中、「できる限りの速さで準備を進めている」と話した。

 紛争地域の復興・開発には約1,100億ペソが必要とされる。イスラム金融機関の普及は、イスラム教徒人口の多い近隣諸国からの投資を呼び込み、経済成長を後押しすると期待されている。

2)「モロ」の歴史・文化教える科目設置義務化

 下院はこのほど、高等教育機関に対し、フィリピンのイスラム教徒「モロ」の歴史と文化、アイデンティティについて教える授業を選択科目として設置することを義務付ける法案を可決した。

 起草者はバリンドン下院副議長(南ラナオ州2区)。分離を求める武力闘争の背景や経緯、和平プロセスに加え、カトリックやイスラム教がフィリピン諸島に広がる前の先住民族、およびカトリック教徒、イスラム教徒、先住民族の建設的な共存の歴史にも触れ、学生に多様な文化と、対話の重要性を伝えるという。

3) BIFF、3グループに分裂

 モロイスラム解放戦線(MILF)のムラド議長は3日、反政府武装勢力バンサモロ・イスラム自由戦士(BIFF)が現在、三つのグループに分裂していると明らかにした。

 BIFFは、MILFとフィリピン政府が合意した和平プロセスに反発したMILF正規部隊のカト隊長(当時)が2010年に結成した組織。近年、ミンダナオ島で激しい抵抗を続けており、政府軍と交戦を繰り返している。MILFはBIFFに和平プロセスへの参加を呼び掛け、説得を続けている。

 同議長は「統一された指導部がないため、全体への説得は難しい。個別に説得を進めている。前向きに説得に応じるグループもいれば、交渉の機会を閉ざしているグループもいる」と述べた。

4) 紛争地域の復興・開発推進計画を公表

 武力紛争の続いてきたムスリム・ミンダナオ自治地域(ARMM)を中心とする地域の復興、開発を推進する「バンサモロ開発計画」(BDP)が6日、ミンダナオ地方ダバオ市で開かれたフィリピン開発フォーラムで公表された。

 比政府と反政府武装勢力モロイスラム解放戦線(MILF)の和平枠組合意、包括和平合意に基づき、MILFが主体になって策定。経済・生計、インフラ、社会サービス、環境・天然資源、文化・アイデンティティ、ガバナンス・公正さ、安全・正常化の7分野で事業を実施し、1年半後の新自治政府創設を機にした紛争地の復興・開発を進める。事業実施には約1,100億ペソの追加財源が必要とされ、紛争再発防止を図りながら、天然資源に恵まれた同地方への投資を促す。

 分野ごとに「旗艦事業」を定め、2016年の新自治政府創設までの第1期、次期政権下となる2016〜22年の第2期、22年以降の第3期に分けて実施される。

 これら事業の実施は当初、ARMM政府が担当。その後、15年半ばまでには、バンサモロ基本法発効に伴って新設される暫定統治機構「バンサモロ移行局(BTA)」、2016年半ばには新自治政府にそれぞれ引き継がれる。

 和平枠組合意の付属文書で「MILF側が主導する」と定められたBTAは、新自治政府の土台となる。このため、事業を適正に実施できるかどうかが、海外からの援助、投資の行方を左右する重要な鍵となる。

 事業の実施地は、同枠組合意で「新自治政府の中核領域」と規定された地域。

 ただし、新自治政府の管轄領域が確定するのは、バンサモロ基本法成立を待って実施される住民投票と同基本法の発効後。現時点では「14年内の基本法成立、15年上半期の住民投票実施」が有力視されており、事業実施が本格化するのは15年下半期になりそうだ。(7日付日刊マニラ新聞より)

5) サンボアンガ市で連続爆発

サンボアンガ市の雑居ビルで9日夜、爆発が相次ぎ、警官1人が負傷した。

 国軍の調べでは、最初の爆発は午後7時半ごろ、ビルの2階で発生。続いて約15分後に1階でも爆発があった。

6) 基本法案可決、来年2月に先送り

 2016年の新自治政府創設を柱とするバンサモロ基本法案の可決時期が、2015年2月下旬に先送りされる見通しとなった。同法案を審議する下院特別委員会のロドリゲス委員長が17日までに明らかにした。

 当初は14年内に可決し、2015年3月の住民投票で同法を発効させる予定だった。しかし、①特別委員会による32回の公聴会をすべて終了させる②2015年政府予算案や電力不足解消のための一時的な非常大権を大統領に付与する合同決議案の審議を優先させる、などの理由から、基本法案の可決時期を約2カ月遅らせ、2015年2月下旬に再設定した。

 今後は、残りの公聴会を1月中に終え、翌2月初旬の本会議上程、同月末までの可決を目指す。住民投票も、予定より2カ月遅れの5月になる見通し。

 特別委員会の審議に加わっているベリョ下院議員(政党リスト制)は「2カ月の遅れは、あらゆるステークホルダーの意見を聴くため。想定の範囲内で、大枠への影響はない」と説明した。

 公聴会では、新自治政府の管轄地域への編入をめぐり、主に「中核地域に隣接する地域」の自治体から、法案反対の声も上がっている。

7) 大量虐殺事件の重要証人2人、法廷証言前に銃撃される

 マギンダナオ州で2009年11月、自治体や報道関係者計58人を虐殺したとして、同州のアンダル・アンパトゥアン元知事らが殺人罪に問われた裁判で、検察側証人として近く出廷予定だった男性2人が18日、同州内で銃撃され、死傷した。

 同裁判をめぐっては、証人殺害が相次いでおり、バルテ大統領報道官補は19日の記者会見で、「検察側証人の安全を確保するため、司法省が必要な措置を講じる」と述べた。

 国家警察の調べでは、2人は18日朝、オートバイで同州シャリフアグアク町内を移動中、M16ライフルなどで武装した6人組に銃撃された。

 2人のうち、死亡した男性は、虐殺事件で殺人罪に問われている同州ダトゥウンサイ元町長の運転手だった人物。重傷を負ったのは、同元町長の父親、アンパトゥアン元知事の側近を務めた人物。ともに、検察側の重要証人として近く出廷の予定だった。

 事件は23日で発生から5年を迎えた。しかし、後半では検察、弁護側の証人約450人のうち約4割に当たる166人の尋問が終わっただけ。起訴された被告194人のうち、88人は現在も逃走中だ。アキノ政権は、大統領任期満了の2016年6月までの判決を目指しているが、実現は厳しいとみられている。

8) MILF、年明け1月に部隊解体開始へ

 MILF側和平交渉団メンバーのダトゥ・アントニオ・キノク氏は29日、最終和平実現に向けたMILF正規部隊の解体、武装解除を2015年1月に始めると言明した。

 同氏によると、武装解除開始の式典は1月中にマギンダナオ州スルタンクダラト町にあるMILF本部で行われ、MILFが保有する全武器類の1%に当たる75丁の銃火器を破棄する。

 バンサモロ基本法案が国会で可決され次第、2015年4月までにさらに30%を、2016年6月に予定されている新自治政府設立後にさらに30%を放棄する。残りの兵士の武装解除は、政府とMILFが包括和平合意書の内容が完全に履行されたことを確認する「出口合意(Exit Agreement)」に調印するまでに完了する。

註:モニター記事内容は主に以下の現地報道機関のウェブサイトの記事を参考に、筆者が編集した。 

日刊『まにら新聞』(http://www.manila-shimbun.com/
Minda News(http://www.mindanews.com/) 
Daily Inquirer(http://www.inquirer.net/
Philippine Star(http://www.philstar.com/
ABS-CBN News(http://www.abs-cbnnews.com/
GMA News Online(http://www.gmanetwork.com/news/
Manila Bulletin(http://www.mb.com.ph/

November 2014: Southern Philippines

MINAMI OHYA大矢南

フィリピン在住

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