大矢南
2014.11.07
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October 2014: Southern Philippines

1) バジャオ(海サマ)人の移住先選定で調査呼び掛け

 サンボアンガ市街占拠事件(2013年9月)で避難民となったバジャオ人の移住先について、イラガン下院議員=政党リスト制=は7日までに提出した決議案で、移住先の選定理由、経緯に関する調査を求めた。

 「海の民」、「漂海民」とも呼ばれるバジャオ人は、スル海を船で往来しながら生活し、同市でも海辺に建てた水上家屋を拠点に、潜水漁やノリ採取などで生計を立ててきた。

 市当局は事件後、モロ民族解放戦線(MNLF)初代議長派が上陸し、戦闘で壊滅的な被害を受けた同市の海岸沿い地域を住宅建設禁止区域に指定。バジャオ人を中心に住民の多くが自宅を失ったほか、強制立ち退きの対象となり、生計の中心となる海から離れた同市トゥルガトン、マンパン地区に移住を余儀なくされた。

 イラガン議員らは少数民族の文化や生活習慣を考慮した移住先の再選定を求める考え。

2) キリスト教教会で手投げ弾爆発

 コタバト州ピキット町ポブラシオンで8日夜、プロテスタント系宗教団体の教会に手投げ弾が投げ込まれ、爆発で礼拝に集まっていた信者少なくとも3人が死亡、2人が負傷した。

 国軍の調べでは、手投げ弾は教会玄関から投げ込まれ、信者ら約30人が座っていたイス付近で爆発した。宗教団体関係者は脅迫などは受けていないと説明しており、国家警察ピキット署が犯人と動機の特定に向け捜査している。

3) 過激派3人拘束、「イスラム国」との関係調査へ

 国家警察と国軍の合同班は5日未明、首都圏ケソン市内で、爆弾テロを計画した疑いのあるフィリピン人男性3人を拘束した。カタパン国軍参謀総長は10日、3人の所属組織とされるイスラム過激派「ラジャスレイマン運動」(RSM)と、イラク、シリア領内のイスラム過激派「イスラム国」(IS)の関係を調べていると明らかにした。

 これに関連し、比米両軍は14日、ケソン市の国軍本部で会議を開き、IS構成員の出入国や監視・捜査協力の強化を話し合った。

 RSMはイスラム教への改宗者らで構成され、2005年2月に首都圏マカティ市エドサ通りで起きた路線バス爆破事件などに関与したとされる。

4) MILF、法王に和平への支援要請へ

 反政府武装勢力モロイスラム解放戦線(MILF)のイクバル和平交渉団長は13日までに、年明け1月に訪比が予定されているローマ・カトリック教会のフランシスコ法王に書簡を送り、訪比時に政府とMILFの和平プロセスへの支援に言及してもらうよう要請する方針を明らかにした。

 イクバル団長は、法王がスピーチなどで最終和平実現の必要性に触れれば、道徳的に和平実現に対する努力と機運を高める強い後押しになると期待を込めた。

 法王は1月17日、台風ヨランダの被災者慰問でレイテ州を訪れる。

5) 拉致のドイツ人2人、5カ月ぶりに解放

 スル州付近で4月、アブサヤフとみられる武装集団に拉致されたドイツ人男女2人が17日夜、同州パティクル町で5カ月ぶりに解放され、国軍が保護した。武装集団側は身代金2億5千万ペソを要求し、17日までに応じなければ殺害すると予告していた。

 武装集団はドイツ政府に対し、ISの拠点を攻撃する有志連合からの撤退と身代金を要求。フィリピン政府はこれまで、拉致事件での身代金支払いには応じない姿勢を一貫してきたが、交渉期限当夜になっての解放を受け、身代金の支払いがあったとの憶測が広まっている。アキノ大統領と国軍はこれを否定している。

 ドイツ人男女2人は4月25日、パラワン州からヨットでマレーシア・サバ州に向かう途中、武装集団に拉致された。

6) 先住民族の権利尊重を強調、基本法案の公聴会で下院委員長

 バンサモロ基本法案を審議する下院特別委員会のロドリゲス委員長=カガヤンデオロ市=は22日、マギンダナオ州ウピ町で開かれた同法案に関する公聴会で、先住民族権利法で保護されている権利は新自治政府下でさらに強化されると強調した。

 公聴会には住民ら約400人が参加。先住民族の代表者らも多数出席し、特にイスラム教徒でない先住民族の新自治政府への参画について質問を投げかけた。

 同委員長は、法案が、バンサモロ議会に非イスラム教徒民族の代表が参加する枠を設定していることを指摘した上で、政府とMILFの双方が、現ムスリム・ミンダナオ自治地域(ARMM)で実現されていない先住民族権利法の内容を推進していくことで合意済みだと述べた。

 同法は、先祖伝来の領域と土地に対する権利、自己統治とエンパワメントに対する権利、社会正義と人権、文化の統合性の保全などを定めている。

7) 元最高裁判事、基本法案の違憲性指摘

 バンサモロ基本法案を審議する下院特別委員会(ロドリゲス委員長)で28日、メンドサ元最高裁判事が参考人として出席し、同法案の違憲性を指摘した。

 同元判事は、①新自治政府管轄地域を法律用語で独立国の領土を意味する「テリトリー」という単語を使っている②新自治政府への権限移譲で、憲法が規定する中央政府や大統領の権限が侵される③一国二制度となる「議院内閣制」の採用で憲法規定の選挙権が侵される、などを指摘し、「違憲と認定される可能性がある」と述べた。

 政府とMILFが2008年に統治権や資源開発権の移譲を認めた「先祖伝来の領地に関する合意書(MOA-AD)」は、同年9月の最高裁判決で違憲認定された経緯がある。最高裁では現在、包括和平合意の違憲性を問う裁判が続いており、違憲判決が出た場合、最終和平の達成は大きく遅れることとなる。

註:モニター記事内容は主に以下の現地報道機関のウェブサイトの記事を参考に、筆者が編集した。 

日刊『まにら新聞』(http://www.manila-shimbun.com/
Minda News(http://www.mindanews.com/) 
Daily Inquirer(http://www.inquirer.net/
Philippine Star(http://www.philstar.com/
ABS-CBN News(http://www.abs-cbnnews.com/
GMA News Online(http://www.gmanetwork.com/news/
Manila Bulletin(http://www.mb.com.ph/

Mindanao, September 2014

OYA MINAMI大矢南
フィリピン在住

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