柴山 信二朗
2014.08.01
  • アーカイブ

July 2014: Southern Thailand

2014年07月(July 2014)

和平対話は継続

  5月22日のクーデターから1ヶ月以上が経過した7月2日、国内治安維持部隊(ISOC)第4管区のプラモート報道官は、国家平和秩序維持評議会(NCPO)は深南部武装勢力との和平対話を継続する方針である旨を報じた。同報道官によると、NCPO議長のプラユット陸軍司令官は、従来通りタイ国憲法に反せず、領域的および統治的分離は認めないとの原則のもと、深南部に平和を取り戻すために対話を継続させるように命じた、とのことである。但し、詳細は触れられなかったものの対話のプロセスは変更される方針とのことである。

  また9日にバンポットISOC報道官が報じたところによると、プラユット陸軍司令官は国家安全委員会(NSC)に深南部武装勢力と対話をするように命じたとのことである。NSCは平和のためのプロセス(和平プロセス)の主導役を担い、また、平和を取り戻すためのロードマップの作成にも取り組む。同報道官は、平和のためのプロセス(和平プロセス)は順を追っておこなわれ、先ずは相互信頼を構築し、その後、協定締結、ロードマップ策定へと続く、とした。深南部を管轄するISOC第4管区は最初のステップである相互信頼の構築を進めるよう命じられている。

深南部政策

  4日、NCPO議長であるプラユット陸軍司令官は、これまで深南部政策の中心を担ってきたNSCに替わり、今後はISOCが深南部政策の中心的役割を担う、と述べた。また、今後の深南部政策実施体制について、政策策定から実施までの3段階の内、2段階目となる政策を実施に移行する段階では、中央行政機関、深南部行政や治安に関わる機関の長など20人のメンバーからなる南部国境県問題解決委員会(コーポートー)の委員長にNCPO事務局長であるウドムデート陸軍副司令官が就任し、深南部政策を戦略・計画・プロジェクトに落とし込むことになる、とした。

  7日、コーポートー委員長でもあるウドムデート陸軍副司令官は、クーデター後初めて深南部を訪問した。なお、同陸軍副司令官にはNSC職員が同行した。一行はヤラー県を訪問し、兵士や宗教指導者と会談、新政策について話し合いをした。その後、中央に戻った同副司令官は、軍事政権についての地域住民の理解を深めるために、奉仕活動を継続的におこなうようにISOCに命じた。また、軍の治安計画に応じるための地方政府の活動計画見直しが軍の治安計画に沿って進展しているかを注視するようにも命じた。

  一方25日、多発する暴力事件の影響から生じる輸送手段の不足解消のため、NCPO議長であるプラユット陸軍司令官は、南部国境県行政・開発センター(SBPAC)に深南部の農家を支援し、同地域の収穫物を他県に販売するよう命じた。

女性や子供の犠牲者

  9日、NCPO事務局長であるウドムデート陸軍副司令官は、12日から始まる3か月間の仏教の出家期間、および、今月28日に終了するラマダンに向けて、暴力事件が増加するだろうとの懸念を示し、治安体制の強化を命じた。

  しかし、陸軍副司令加の治安体制強化命令にもかかわらず、同日にはヤラー県のヤハー郡病院向かいの市場で、同郡病院に研修に来ていたシリントン公衆衛生学校看護学校生2人が買い物中に撃たれ死亡するという事件が発生した。同事件を受けた翌日、同郡病院で研修中だった残り9名の看護学生は研修を中断して、同郡病院を後にした。また13日には、ナラティワート県タークバイ郡で、甥の得度式に参加し寺院からバイクで帰宅途中の62歳の女性が撃たれ死亡する事件が起きた。

  女性などのソフトターゲットが犠牲となる暴力事件が続く中、23日には、女性グループおよび平和活動家が深南部武装勢力に向けて、ソフトターゲットへの暴力事件を止めるように要求する声明を出した。深南部で紛争犠牲者支援活動などをおこなっているドゥアイ・ジャイ・グループやクロス・カルチャル・ファンデーションによると、2014年に入ってから7ヶ月かの間に紛争関連の暴力事件により30人の女性が殺害され、60人の女性が負傷した。また、2004年1月から2013年10月の間に、62人の子供が殺害され、374人の子供が負傷している。

註:上記内容は主に以下のWEBサイトの記事等を参考に、筆者が編集した。

Bangkok Post (http://www.bangkokpost.com/)
Deep South Watch (http://www.deepsouthwatch.org/)
Deep South Journalism School (http://www.deepsouthwatch.org/dsj)
Isra News Agency (http://www.isranews.org/)
Matichon Online (http://www.matichon.co.th/)
National News Bureau of Thailand (http://thainews.prd.go.th)
The Nation (http://www.nationmultimedia.com/)

SHINJIRO SHIBAYAMA柴山 信二朗

イ深南部(南部国境地域)での主な出来事(2014年7月)
帝京平成大学 講師

関連記事

  • November 2015: Myanmar

    2016.01.02

    山本 一恵 アーカイブ
    November 2015: Myanmar

    8日に総選挙が実施された。投票終了時刻の午後4時から開票作業が始まり、同日深夜までには大勢が判明し、国民民主連盟(NLD)の圧倒的勝利が確実となった。選挙管理委員会は翌日9日午後から、一日6回各地区の公式開票結果を順次発表し、最終的な公式開票結果は19日に発表された。


  • December 2015: Southern Philippines

    2016.01.02

    大矢 南 アーカイブ
    December 2015: Southern Philippines

    大矢 南 1) 人権団体、現政権下で民兵組織に殺害された民間人94人に上ると発表 2) 国家公安委、大量虐殺事件に関与した警官32人を行政処分 3) 移行期正義和解委、政府とMILFに報告書提出 4) バシ


  • November 2015: Southern Philippines

    2015.12.10

    大矢 南 アーカイブ
    November 2015: Southern Philippines

    フィリピン日本人商工会議所を含む財界13団体は3日、首都圏マカティ市内で記者会見を開き、アキノ現政権下での可決が危ぶまれているバンサモロ基本法案について、早期可決を促す共同声明を発表した。


  • October 2015: Myanmar

    2015.12.09

    藤村 瞳 アーカイブ
    October 2015: Myanmar

    民族宗教保護協会(通称マバタ)が10月2日から4日にかけて、民族宗教保護法の成立を祝う記念式典を開催した。式典には僧侶2500名が参加し、マバタを率いる高僧らも出席した。民族宗教保護法とは、仏教徒女性婚姻特別法や一夫一妻制度法などを含む4つの法案の総称であり、これらの法律成立のためにマバタは2012年から活動を行なってきた。これらの4法案は今年9月までに全て可決され法律として成立した。