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第23号( 2001.07.20 発行) 【特集】海の日
第23号(2001.07.20 発行)

海と森
森が育む豊かな海
~森、川、海をつなぐ漁民の森づくり運動~

(社)海と渚環境美化推進機構(マリンブルー21)専務理事◆河田和光

20世紀世界の海の漁場を求めた日本漁業は、21世紀再び日本周辺での漁業の再構築を求められ、国土の恩恵、森、川、海をつなぐ水の恵みに気がつき、漁業者先導による「魚を育てる森づくり」運動に取り組み始めた。「森は海の恋人」「魚つき林」「漁民の森づくり」の概要を紹介する。

1. 森は海の恋人

宮城県気仙沼市に住むカキ養殖業者の畠山重篤さんは「森は海の恋人」という表題の素晴らしい本を書いた。その一部は学校の教科書にも取り上げられた。彼は、美味しいカキの養殖を続けていくためには、気仙沼に注ぐ川、そして、その上流の森を大切にしなければならないことに気づき、1989年より漁民による森づくりを開始する。その後も毎年、上流域の子供たちを海に招き、環境学習を続けている。

一方、北海道にも、1988年にはじまった「お魚殖やす植樹運動」がある。「北海道漁婦連創立30周年記念大会」に1400人の浜の母さんたちが札幌に集まり、「100年かけて100年前の自然の浜」をキャッチフレーズに、皆で一斉に木を植える運動をはじめ、既に10年以上にわたり、40万本以上の植樹をした実績がある。北海道指導漁連の協力を得て、JA東京のご婦人たちが、北海道を訪れ、お魚殖やす植樹運動に参加している事例もある。

ご承知のとおり、サケは生まれた川を覚えていて、ほぼ4年間の成長の後、親となって産卵のために、生まれた川に帰ってくる。この営みは、人間の歴史より古く、まだその機構については、科学的な解明はできていないが、沖合いでは地磁気により、沿岸に帰ってからは、サケの臭覚が川を識別して遡上してくるとみられる。

川の水は、海の水に比べ軽く、貴重な栄養分が含まれ、また、簡単には海水と交じり合わないことから、太陽光線による恵みを受けつつ、海の表面を流れ、特に広葉樹林の山の腐葉土を通して頂いた森からの栄養豊富な水の恩恵は、広く、そして効率よく海洋に拡散し、海の生産力を支え、また、海の魚たちを母なる川に引き寄せているのである。

したがって、「森は海の恋人」であり、そして「川は森と海を結びつける仲人」とも言えるのであるが、「海の中には母がいる」という文字の発想を含めて、豊穣なる海とそれを支える豊かな川の水、そして、それを支える山の森との関連から、「海(生み)の親なる山の森」が重視され、漁業者が関心を持つようになってきているのである。

2. 魚つき林

日本沿岸には昔から、豊かな漁場を育むことから漁業者が大事に守ってきた「魚つき林」が知られている。漁業者の長い経験の積み重ねの中で、沿岸域での森林が魚介類を集め、また繁殖保護のための生育環境として大きな役割を果たしており、大切な存在であることが知られてきた。古くから、漁業者は、海辺の森林を守り、藩主はこれを保存してきたことから、明治30年の森林法制定時、「魚付保安林」としての指定がなされ、保存・管理が義務付けられ現在にいたっている状況にある。

魚つき林の効果としては、海面に影を落とし、直射日光を妨げ、風波を防ぐことなどから、水温をはじめ魚介類の生育環境を安定させる効果が指摘されるほか、水中の微生物の発生を促し、また、豊富な栄養塩を供給することなどから、魚介類の繁殖を助け、さらには回遊魚をも誘致し、滞留させる効果が指摘されている。

特に、こうした魚つき林がない状態と比較すると、水質の清浄や安定、海底での藻場干潟での生産力の維持、さらには降雨に伴う土砂の発生や一時的な流量の増大などによる、沿岸域における大きな環境変動が魚介類に及ぼす影響は計り知れない。十分な科学的根拠や実証的研究が不足している面があるものの、海浜・海岸に魚つき林が存在するということの効果には、今後さらに注目すべき考察も期待されるところがある。

「魚つき林の歴史と現状」については、水産経営研究所の「魚つき林研究会」の3カ年にわたる研究成果を、小沼勇さんがまとめられた著書「漁村に見る魚つき林と漁民の森」があり、同氏の現地写真と共に、ホタテ、アワビ、サザエなど採貝漁業と魚つき林、定置網漁業と魚つき林、養殖業と魚つき林、沿岸小漁業と魚つき林など全国各地での事例が紹介されており、大変参考になる。

森林のある山・ない山
森林のない山に雨が降ると、ほとんどが蒸発するか、魚介類の餌となる養分などを含まないまま河川に流れてしまい、下流の海は栄養のないやせた海になってしまうという。(出典:マリンブルー21)

3.漁民の森づくり

漁民植樹活動
「森と川と海はひとつ」をスローガンに、現在、28道県で漁民植樹が行われており、その活動はさらに全国に広がろうとしている(写真:三重県庁)

先の国会では、21世紀の幕開けを象徴する「水産基本法」が制定されたが、この審議の中で、水産動植物の生育環境の保全及び改善に関する条項に、これを図る措置として、新たに「森林の保全及び整備」が追加して盛り込まれ、その関心の深さに驚かされた。

また、水産庁では、平成13年度の新規事業として、「漁民の森づくり活動推進事業」を5カ年事業として取り組むこととしており、その内容は、漁連、漁協、市町村などが事業主体となる「漁民の森づくり活動推進事業」(森づくり協議会、環境調査、普及活動、苗木支給など植樹・育樹ボランティア活動の支援など)とマリンブルー21が事業主体となる「漁民の森づくり推進事業」(全国連絡協議会、広報活動、事例調査等の研究会活動など)となっている。

漁業者が山に木を植える活動は、北海道、宮城、岩手に始まって、現在全国各地に広がりつつあるが、いまだに点的な状況にあり、参加者の範囲も漁業者に限られ、地域間のつながりも乏しい状況にある。これらの運動を、幅広い市民の理解を得て、良好な漁場環境づくりのための国民的な運動にまで発展させることが重要である。漁民の植樹運動の原点を探り、北海道における「森と川と海」の歴史を細かく紹介した著書に、前北海道指導漁連の参事、柳沼武彦氏の書かれた「森はすべて魚つき林」がある。

また、マリンブルー21では、全国漁業協同組合連合会と共催で、1998年「全国漁民の森サミット」を、1999年には「全国漁民の森フォーラム」を開催し、先進的な活動をされている方々から、漁民の森づくりの事例をはじめ、森林総合研究所の鈴木和次郎主任研究官からは記念講演として「魚を育てる森づくり」などの発表を頂き、森、川、海をつなぐ水の循環の中で、環境問題を一緒に考えようとの立場から、全国発信に努めてきた。

以上のように、最近、急速に、漁民の森づくりが注目されるのは、日本を取り巻く自然環境が厳しい状況にあり、昔から日本人が慣れ親しんできた生物が極端に少なくなり、「生物と環境」「生命と水」の問題が、環境修復の立場から、重要課題となったことによろう。(了)

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