中国の政治・経済・社会・外交・安全保障についての分析を発信

SPF China Observer

衛星画像分析 2022/11/28

中国のプルトニウム生産と核軍拡

小林 祐喜(笹川平和財団研究員)

 米国との戦力均衡を目指し、中国が核軍拡を本格化させている。米国防総省が毎年議会に提出している中国の軍事動向に関する報告書「MILITARY AND SECURITY DEVELOPMENTS INVOLVING THE PEOPLE’S REPUBLIC OF CHINA」2020年版は、「現在200発台前半と見込まれる中国の核弾頭数は2030年までに少なくとも二倍に増える」[1]と指摘した。2021年版では、この核弾頭数について、「2030年までに1000発に至る可能性」と予測が引き上げられた[2]。

 米国が予測を引き上げ、核軍拡への警戒をあらわにした背景として、中国が民生(発電)用のプルトニウムを増産し、秘密裏に軍事転用を図ろうとしていることが挙げられる。具体的には、原子力発電所の使用済み燃料からプルトニウムを分離する核燃料再処理施設を建設し、ウランと混ぜた混合酸化物燃料(MOX燃料)を製造して高速増殖炉で利用する中国の計画などである。高速増殖炉は燃料の再処理により、核兵器に転用できる超高純度のプルトニウム239を取り出すことが可能だからである。こうした事情もあってか、2022年8月にニューヨークの国連本部で開催された核兵器不拡散条約(NPT)再検討会議において、中国は現状以上の核軍拡を抑制する効果が期待される核分裂性物質の生産停止の提案に強硬に反対した。このような中国の動きについては拙稿「透明性なき中国の核軍拡に関する考察:NPT再検討会議を前に」で検証している。

 今回、笹川平和財団China Observerで入手した、核燃料再処理施設および高速増殖炉の建設が進む敷地の衛星画像を分析することにより、中国の核軍拡に向けた動きを裏付けることを試みる。

 中国は、2015年以降、甘粛省の砂漠地帯で、二つの再処理工場の建設を開始した。中国政府、および運営主体となる中国核工業集団公司(CNNC)は、これらの再処理工場について詳細を明らかにしていないが、第一工場が2025年ころ、第二工場が2030年ころに運転を開始するとみられる。

 下の衛星画像は2019年10月7日に撮影された、核燃料再処理工場の建設現場(衛星画像1)と2022年2月28日に撮影された同一の場所(衛星画像2)である。

衛星画像1

衛星画像1

衛星画像2

衛星画像2

 通常の原子炉で燃やされた使用済み燃料からプルトニウムを取り出す再処理施設を緑色で、取り出されたプルトニウムをウランと混ぜるMOX燃料工場を赤色で囲った。画像1はやや遠方からの撮影で見にくいが、画像2では、再処理施設の第一工場(下)、第二工場の区画も判別できる。

 二つを比較し、3年の間に工事が進捗していることは一目瞭然である。日本核物質管理学会の岩本友則・事務局長は、衛星画像2にある再処理施設の第一、第二工場にそれぞれ白い塔(スタック)が立っていることに着目する。青色で指示しているが、長い影が鮮明に映っており、かなり高い建造物であることがわかる。これらは使用済み燃料からプルトニウムを取り出す再処理の最初の工程で、使用済み燃料のせん断・溶解のための施設である。その過程で微量の放射性ガスが発生するため、スタックから排出する。岩本氏によると、使用済み燃料の再処理は以下の四つの工程を経る。
(1) せん断・溶解→使用済み燃料を細かく分断し、硝酸の中に浸す
(2) 分離→硝酸によって溶解したウラン、プルトニウム、その他の核分裂生成物を分離する
(3) 精製→ウラン、プルトニウムをそれぞれ精製する
(4) 製品化→ウラン、プルトニウムを粉末状にしてMOX燃料加工に適した形状にする

 日本の青森県六ケ所村にある核燃料再処理施設は、すでに上記工程のいずれも試験操業などでクリアしている。しかし、製品化後、再処理の過程で生じた高レベル放射性廃液を最終処分するため、ガラス原料と混ぜてガラス固化体にする工程に問題が生じ、解決に時間を要したこと、2011年の福島第一原発事故後、新たな安全対策工事が必要になったことなどで操業が遅れている。

 衛星画像2は、甘粛省の施設において、第一、第二工場の両方とも(1)の工程の施設が完成していること、第一工場についてはさらに、他の工程の基礎工事が終了し、機器搬入の段階に入っていることを示している。こうした事実から、岩本氏は「少なくとも第一工場は数年以内に稼働する可能性が高い」と指摘する。

 再処理工場で生成されたプルトニウムの活用を見込む高速増殖炉は、運転中の核燃料の反応によってプルトニウムが新たに「生産」され、挿入した燃料以上のプルトニウム回収が可能なことから「夢の原子炉」と呼ばれている[3]。日本は米国やフランスとともに、高速増殖炉の実用に向けた技術開発で先行し、「もんじゅ」とよばれる高速増殖炉を運転していた。しかし、原子炉を冷却するためのナトリウムの管理が難しく、現在は、ロシアと中国以外は高速増殖炉の開発を中止あるいは凍結している。中国では、CFR-600と呼ばれる大型の高速増殖炉2基が福建省の海辺近くに建設中で、2023年、2026年ごろにそれぞれ運転が開始される予定である。

 下の写真は高速増殖炉建設地の衛星写真である。衛星画像3は2020年1月30日に、画像4は2022年9月30日に撮影された。

衛星画像3

衛星画像3

衛星画像4

衛星画像4

 いずれの画像もややゆがみがあるが、建設進捗の状況をはっきり確認できる。画像3ではCFR600(2)は建設の土台もできていないが、画像4で基礎工事が進んでいることがわかる。CFR600(1)については、画像4で二つの大きな施設がほぼ完工状態となっていることが分かる。形状から、岩本氏は赤く示した建物が、高速増殖炉を収納した建屋、青で示した建造物が、炉の熱により発生させた蒸気でタービンを回し発電するタービン建屋と説明する。他の施設も含め、CFR600(1)は完工が近いことがうかがえ、岩本氏は「2023年度中の運転開始は可能」と分析する。

 高速増殖炉の開発に成功すれば、核軍拡に必要なプルトニウムの製造能力は飛躍的に向上する。各国の核開発の歴史を振り返れば、先進国では原子力利用の勃興期に、そして、技術力が劣る国では現在でも、兵器用プルトニウムの生産に黒鉛炉と呼ばれる原子炉が利用されている。黒鉛炉は天然ウランをそのまま燃料にできるため、燃料の製造に手間がかからず、再処理によりプルトニウムも容易に取り出せる。その反面、使用済み燃料1体当たりに含まれるプルトニウムは1グラム程度と微量であり、兵器用のプルトニウム製造のためには、何度も多くの燃料を入れ替えて燃やす必要がある。北朝鮮の核開発には黒鉛炉が使われている。

 一方、高速増殖炉では、プルトニウム燃料が半年から一年かけて燃焼し発電している間に、プルトニウムを覆うウラン燃料(ブランケット燃料)からプルトニウムが新たに生産される。純粋に発電目的で高速増殖炉を利用するのであれば、新たに生産されたプルトニウムも燃料として使用する。しかし、このブランケット燃料がプルトニウムに変化した段階で取り出し、再処理すれば、兵器への転用に適した純度の高いプルトニウム239を大量に獲得できる。

 今後、CFR-600(2基)が予定通り運転開始すれば、これだけで年間最大330キログラム超の兵器用プルトニウムを獲得できると見込まれ、2030年末時点の中国の兵器用プルトニウムの累積量は2.9トン±0.6になると推定される。この累積量は核弾頭830発±210に相当し、米国防総省の「2030年までに1000発の核弾頭保有の可能性」という分析が、今後の中国のプルトニウム増産見込みと合致していることがうかがえる。

 日本は核燃料サイクル施設によるプルトニウムの分離と高速増殖炉での再利用を認められた唯一の非核兵器保有国である。それは、日本が世界で唯一の戦争被爆国として、軍事転用可能な核物質を利用するにあたり、国際原子力機関(IAEA)に全面協力し、核不拡散と原子力民生利用の両立に尽力してきた結果である。日本は、隣国として、中国がそうした民生利用技術をIAEAに報告することなく、軍事転用しないよう訴える立場にある。今後も衛星画像技術を生かした分析を継続し、中国による再処理施設や高速増殖炉の利用について、検証していく必要がある。

(了)

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