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第36回 2021/10/22

習近平政権が語る「新型政党制度」の優位性

江藤 名保子(学習院大学法学部教授)

習近平政権期の「中国の特色」は何を意味するのか

 2018年3月、中国の憲法に「習近平の新時代の中国の特色ある社会主義思想」(以下、習近平思想)が明記された。2021年7月に全国の小学生から大学院生までの全ての課程で習近平思想を取り扱う指針が発表されたことからすれば[1]、これから習近平思想は中国社会の思想的ボトムラインとして共有されることになる。

 では実際のところ、「習近平の新時代の中国の特色」とは何を意味するのか。習近平政権がいつまで継続するのかは不明であるが、中国政治の文脈では「新時代」とは「習近平時代」を意味すると考えるのが一般的である。そうであるならば、習近平政権が成立してからの中国政治にはどのような「特色」が見出せるだろうか。

 このような観点から習近平政権の社会統治を見渡すとき、まず想起されるのは、共産党への更なる集権と科学技術による統治手法の変化だろう。「デジタル・レーニン主義」とも「幸福な監視国家」とも評される[2]、国家権力が幅広く個人データを管理する社会統治システムのことである。また社会全般への規制を考察した小嶋(2020)は、「習近平政権が推進する社会統治とは、高度に一致した思想と厳しい規律により統合された党が『核心』となって運営される」と指摘し、その狙いは「『西側』の価値観の流入に対する防御から、対抗規範としての『中国の特色ある統治モデル』の提示」へと転じつつあると分析する[3]。すなわち「中国の特色」の含意としては、中国型統治モデルのオリジナリティ(独自性)を強調する意図があると考えられる。だが習近平政権の主観に基づいた「中国の特色」の説明を以て、中国の統治システムにはその国情に根差した独自性があると評価することは妥当ではない。例えばコロナ・パンデミックに対する強権的な対応にも明らかなように、中国政府の社会統治には他国とは異なるメカニズムが包摂されている。しかし注意深く議論を整理すれば、そうしたシステムも権威主義国家の特徴として比較政治学の俎上に載せて理解できる部分が少なくないのである。

 これに関連して、本年5月末に開催された中共中央政治局第30回グループ学習において、習近平総書記は「中国の実践を中国の理論で説明し、中国の理論を中国の実践で昇華させ、中国と海外を統合する新しい概念、新しいカテゴリー、新しい表現を創造し、中国の物語とその背後にある思想と精神の力をより完全かつ明確に提示しなければならない」と述べ、中国の「総合国力と国際的立場に見合った国際的なディスコース・パワー(国際話語権)[4]」形成の必要性を論じていた[5]。繰り返し打ち出される「国際的なディスコース・パワー」を高めるための方策は、中国のナラティブ形成にどのような影響を与えてきたのか。もし習近平政権が意図的に「中国の独自性」を強調しているのならば、その目的を考察する必要がある[6]。

 本稿では習近平政権が打ち出した「新型政党制度」論の政治的インプリケーションを検討する。この議論は共産党に所属していない人材を共産党が活用するための統一戦線工作ともリンクし[7]、習政権が主張する「中国式の民主」を補完する制度論である[8]。そして対外的には、バイデン米大統領が主唱する「民主主義と専制との闘い」という対立構図へのアンチテーゼでもある。このような米国への対抗意識は、2021年3月に米アラスカ州で開催された米中外交トップ会談で、中国側の代表である楊潔篪中国共産党政治局委員が「米国が提唱する普遍的な価値観」や「米国式の民主」を否定して、「人類共通の価値観」や「中国式の民主」の有用性を強調したことにも顕著であった[9]。ではどのような理論武装が「新型政党制度」論を軸に進んでいるのか。

「新型政党制度」は何が新しいのか

 国務院新聞弁公室は2021年6月25日に「中国の新型政党制度」白書(以下、白書)を発表した。白書の前文で「新型政党制度」は次のように定義されている[10]。

中国共産党が領導する多党協力と政治協商制度は中国の基本的な政治制度である。この制度は中国の土壌に根差し、中国の知恵を発揮するだけでなく、人類の政治文明の優秀な成果を積極的に参考にして吸収しており、これが中国の新型政党制度である。

 ここで記された「多党協力と政治協商制度」とは、中国に8つある他の政党(民主党派)、政党に属さない人(無党派人士)が共産党と協力、合議(協商)して政治運営を行う制度を指す。ただしこの制度は、全く新しくはない。共産党は建国以前から各民主党派、人民団体らと政治協商会議を開催してきた。天安門事件後の1989年12月には「中共中央の中国共産党の領導する多党協力と政治協商制度を堅持し整備することに関する意見」により、党の指導を貫徹するための政治システムとして改めて規定した[11]。その後も「中国共産党の領導する多党協力と政治協商制度の建設をさらに強化することに関する中共中央の意見」(2005年)、「中国の政党制度」白書(2007年)などを発しており、政治制度として既に確立していたのである。

 では何をもって「新型」というのか。「新型政党制度」という表現は、管見の限りでは2018年頃から登場する。これに先立ち、2016年から17年にかけて各地の社会主義学院や統一戦線理論の研究機関を中心に「中国の政党制度に関する国際的なディスコース・パワーを高める」ことをテーマとする研究が多数発表され[12]、政治制度の理論構築が進んでいた。実は白書の発表からほどなく、「何が新しいのか」を説明する論考もまた複数発表されている[13]。そこで共通して示されたのが次のような見解である。まず西側諸国が採用する選挙に基づく代表民主主義の制度を「旧式政党制度」と位置づけ、これに対照して中国では共産党以外の政党も参政党であると位置付ける。その上で中国の政党制度では、中国共産党の領導の下で8つの民主党派や無党派人士が政治参加することで、①少人数や少数の利益集団のみ代表する、②議論しても決定せず実現もしない、という「旧式」にみられる2つの課題を回避した、と制度の優位性を主張する。同様に白書も、「中国の新型政党制度」は「人類の政治文明の新しいモデル」と高く評価している。

 こうした解説はあくまで中国共産党の主観に基づく自己評価である。実際には、共産党の突出した権力に対するチェックアンドバランスが機能しない、すなわち共産党と協議はできるが反対や異論を提起することができないシステムはいつか機能不全を起こすのではないかという疑念が、中国の政治制度には常に突き付けられている。また理論的にも「新型政党制度」は参加民主主義の類型と評価できるため、必ずしも中国独自の政治システムとして区分されない。さらに中国の主張する制度の優位性については、中長期的には民主主義国家の方が市民の生活環境を改善する可能性が高いことも指摘されている[14]。権威主義国家における迅速な政策決定や実施は、特に現状のコロナ・パンデミック対応において高く評価されているものの、その継続性については疑問が呈されているのである。

党外知識人への統一戦線工作の強化

 「新型政党制度」の規定する共産党以外の人々との合議制度は、中国において政治協商制度と呼ばれる。これを支える党外の人士や組織との関係構築を一貫して主管してきたのが共産党の統一戦線工作部である。習近平政権において党中央は、2015年5月に中央統一戦線工作会議を開催、「中国共産党統一戦線工作条例(試行)」(以下、旧条例)を通達して統一戦線活動の強化を図った[15]。この旧条例は昨年末に党中央によって「中国共産党統一戦線工作条例」(以下、新条例)に改訂されている。旧条例は10章46条構成であったが、新条例では、新しい社会階層人士の統一戦線工作(第8章)、海外統一戦線工作と僑務工作(第10章)、統一戦線部門自身の建設(第12章)、保障と監督(第13章)を加え、14章61条の構成に拡張した。このうち総則(第1章)と組織の領導と職責(第2章)に続き、第3章が「民主党派と無党派人事工作」を取り扱う。その冒頭には「中国共産党の領導する多党協力と政治協商制度が中国の特色ある社会主義の新型政党制度であり、我が国の基本的な政治制度である」と明記されている。

 新条例の発布に、共産党への権力集中を進め、習近平総書記の権威を高める狙いがあったのは間違いない。2021年1月5日に党中央が発出した通知によれば[16]、新条例は「習近平の新時代の中国の特色ある社会主義思想による指導」や「習近平総書記の統一戦線工作の強化と改善に関する重要思想の徹底した実行」などを重視しており、「各地区、各部門は『条例』執行における重要な状況や提案を、速やかに中共中央に報告しなければならない」との指針も示された。また通知発出の翌1月6日に『人民日報』は、「新時代の統一戦線工作の新局面を開こう」と題する評論記事を1面に掲載し、共産党の集中的かつ統一的領導や統一戦線組織の効率化を強調した[17]。同日、統一戦線工作部も新条例における新規定は「習近平総書記の統一戦線工作の強化と改善に関する重要思想」の重視であり、「中国共産党の領導が統一戦線の最も鮮明な特徴である」との解説を発表した[18]。

 党の領導強化が鮮明に打ち出されるなか、共産党に所属しない知識人(党外知識分子)を統一戦線活動のターゲットとする政治キャンペーンが打ち出されたことは意味深長である[19]。2021年7月29日、『人民日報』に「党外知識分子への統一戦線活動の新局面を開く」と題する論考が掲載された。総合面(12面)の掲載で目を引く扱いではなかったが、党中央統一戦線工作部が自ら発出した運営方針であり、各メディアや地方の統一戦線工作部のウェブサイトにすぐに転載された。

 この論考で統一戦線工作部は、中国における大卒レベル以上の学識者が2.18億人に達している現状を踏まえ、知識人とは「思想や文化の生産者かつ発信者であり、中国の改革、発展における重要な人材プールでありシンクタンクである」と期待を寄せる。だが「思想的には積極進歩が主流であり、一般的に愛国心を持ってはいるが、思想の多様性、選択性、相違性が比較的はっきりしている」という党外知識人の特性を踏まえ、思想的、政治的に教育したうえで政治協商制度に積極的に参加する機会を増やす、という方針を示した。また党外知識人が「社会的影響力を十分に発揮し、国内では問題を分析、解明して共通の認識を形成する活動に尽力し、対外的には中国の物語を語り、中国の声をよく伝え、党中央が共同奮闘の力を最大限に発揮できるように指導する」と、党外人士を活用する狙いを明示した。なお、「党外知識人を中心とした無党派人士は、中国共産党が領導する多党協力と政治協商制度の重要な構成要素であり、中国の特色ある社会主義の政治参加の力である」と記されたように、一連の取り込み策は「新型政党制度」実施の一環でもある[20]。

 以上に明らかなように、党外知識人を取り込む最大の目的は、国内外における共産党のディスコース・パワーを高めることにある。そのために大学、科学研究機関、国有企業や留学生、新社会階層(新メディアの従事者、民営企業や外資企業の管理職など)から人材を選出し、共産党を支持する国内外の世論形成に寄与させることを目指す。外部から見れば、党中央にとってマイナスとみなされる情報はますます覆い隠され、実態が分かりにくくなる可能性が高い[21]。

 かねてから中国のオピニオンリーダー達は共産党の意向を汲んで政策を説明し、民衆の誘導灯として重要な役割を担ってきた。2015年の中央統一戦線工作会議以来、党中央は「大統戦」(広範で強力な統一戦線の推進)を打ち出して様々なアクターに対する教育、取り込み、登用の強化を図ってきた[22]。だが著名な起業家や学者などが異論を提起することもまた、しばしばあった。「歴史の叙述とは為政者の政治的合法性を擁護するものである。学術研究は事実を求めるものだが、成果の発表においては国家利益を優先させよ」。たとえば今年6月には、歴史学者によるこのような議論がSNSを介して話題となった。「近代史は政治であり、歴史虚無主義への反対もまた政治である」との歴史家の主張には、共産党独裁下での学者、教育者にとっての現実が反映されると同時に、深い懊悩が滲んでいる。我々が中国発の言論や報道に見るのは、こうした構造から生み出される「コントロールされた情報」であると知っておくことが、残念ながら益々重要になっている。

(脱稿日2021年8月31日)

1 「国家教材委員会関于印発《習近平新時代中国特色社会主義思想進課程教材指南》的通知」中華人民共和国中央人民政府、2021年7月21日掲載。[http://www.gov.cn/zhengce/zhengceku/2021-08/25/content_5633152.htm]

2 梶谷懐、高口康太『幸福な監視国家・中国』NHK出版、2019年。

3 小嶋華津子「6 章 習近平政権の目指す社会統治と世界秩序」日本国際問題研究所『令和元年度外務省外交・安全保障調査研究事業 中国の対外政策と諸外国の対中政策』2020年3月。[https://www2.jiia.or.jp/pdf/research/R01_China/06-kojima.pdf]

4 国際的なディスコース・パワーとは、国際世論をリードする影響力を意味する。この用語の詳細については江藤名保子「第4章 習近平政権の世論対策に内在するジレンマ」日本国際問題研究所『平成28年度外務省外交・安全保障調査研究事業国際秩序動揺期における米中の動勢と米中関係 中国の国内情勢と対外政策』2016年3月。[https://www2.jiia.or.jp/pdf/research/H28_China/04-eto.pdf]

5 この講話では「信頼され愛され尊敬される中国のイメージ作りに努めよう」と述べたことが注目を集めた。(「加強和改進国際伝播工作 展示真実立体全面的中国」人民網、2021年6月2日掲載。[http://politics.people.com.cn/n1/2021/0602/c1024-32119745.html])

6 例えば2017年5月に発表された「中国の特色ある哲学社会科学の構築を促進することに関する意見」は、筆者の観点からすれば、国内および国際社会に対して自らの政治的特殊性を正当化するための理論武装をし、ひいては国際世論において中国に有利な新しいディスコースを形成するための遠大な外交戦略の一環であった。(江藤名保子「【Views on China】習近平政権の「話語体系建設」が目指すもの――普遍的価値への挑戦となるか」東京財団政策研究所、2017年7月25日掲載。[https://www.tkfd.or.jp/research/detail.php?id=258])

7 統一戦線の基礎知識について、江藤名保子「【Views on China】習近平政権の世論誘導」東京財団政策研究所、2014年10月19日掲載。[https://www.tkfd.or.jp/research/detail.php?id=860]

8 党中央委員会の機関誌である『求是』によるオンライン解説は「中国共産党の領導下での多党協力と政治協商制度は、中国の基本的な政治制度であり、中国という土壌から生まれた新型の政党制度である」と説明する。(「“中国式民主在中国行得通、很管用” ——学习《論中国共産党歴史》(三十二)」求是網、2021年7月27日掲載。[http://www.qstheory.cn/zhuanqu/2021-07/27/c_1127701356.htm])

9 米中会談における中国の主張については江藤名保子「『人類共通の価値観』とは――洗練された戦略的ナラティブの模索」『東亜』2021年5月、52-53頁。

10 「中国新型政党制度」中華人民共和国人民政府、2021年6月25日掲載。[http://www.gov.cn/zhengce/2021-06/25/content_5620794.htm]

11 石井知章「天安門事件前後の政治過程と労働組合の役割」アジア政経学会『アジア研究』54(3)、2008年、13-15頁。

12 例えば郭道久「増強中国政党理論国際話語権研究」『統一戦線学研究』2018年第1期。郭道久は南開大学周恩来政府管理学院教授であり、天津市哲学社会科学規画重点項目プロジェクトの研究成果である。或いは「“和”以自信: 増強中国政党理論話語権研究 ——兼談馬克思主義与伝統文化結合視野下的 中国政党協商之道」大連市党委員会統一戦線工作部、2017年7月18日。[http://www.dltzb.gov.cn/v-1-4670.aspx]

13 公式見解に「中国新型政党制度何以為“新”」中国人民政治協商会議全国委員会、2021年8月11日。[http://www.cppcc.gov.cn/zxww/2021/08/11/ARTI1628646866510202.shtml] 「東西問 | 強舸:中国新型政党制度“新”在何处?」中国新聞網、2021年8月26日。[http://www.chinanews.com/gn/2021/08-26/9552242.shtml] 日本語では「【CRI時評】中国の新型政党制度のどこが新しいのか」中国国際放送局日本語版、2021年6月26日。[http://japanese.cri.cn/20210626/c6894774-48c0-eb32-c359-f9b954d861db.html]

14 東島雅昌「民主主義の未来(中) 「権威主義の優位」 前提疑え」『日本経済新聞』2021年8月19日。[https://www.nikkei.com/article/DGKKZO74877200Y1A810C2KE8000/]

15 江藤名保子「【Views on China】中国共産党の求心力――新しい統一戦線の目指すもの」2015年7月7日。[https://www.tkfd.or.jp/research/detail.php?id=874]

16 「中共中央印発《中国共産党統一戦線工作条例》」中華人民共和国中央人民政府、2021年1月5日。[http://www.gov.cn/zhengce/2021-01/05/content_5577289.htm]

17 人民日報評論員「開創新時代統一戦線工作新局面」『人民日報』2021年1月6日。[http://paper.people.com.cn/rmrb/html/2021-01/06/nw.D110000renmrb_20210106_5-01.htm]

18 「六問《中国共産党統一戦線工作条例》!」中共中央統一戦線工作部、2021年1月6日。[http://www.zytzb.gov.cn/tzyw/349756.jhtml]

19 2020年には、9月に通達された「新時代の民営経済統一戦線工作に関する意見」を契機に、民営企業に従事する人々を対象とする政治キャンペーンが推進された。

20 「開創党外知識分子統戦工作新局面」『人民日報』2021年7月29日。[http://paper.people.com.cn/rmrb/html/2021-07/29/nw.D110000renmrb_20210729_1-12.htm]

21 経済分野においては、従来から党外知識人が政策形成の参与していた。たとえば7月28日の習近平総書記も出席した党外人士座談会では、2021年下半期の経済に関する意見聴取が行われた。(「中共中央召開党外人士座談会 習近平主持并発表重要講話」新華網、2021年7月30日。[http://www.xinhuanet.com/politics/leaders/2021-07/30/c_1127714431.htm])

22 2019年の大統戦の政治キャンペーンについては拙稿を参照。江藤名保子「新型コロナウイルスをめぐる中国の対外宣伝――人類運命共同体を促進する統一戦線工作」SPF China Observer、2020年5月20日。[https://www.spf.org/spf-china-observer/document-detail031.html]

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