事業紹介

2008年
事業

275 日中交流三十年の総括─中日交流三十年(1978~2008)

事業内容
本事業の目的は、中国改革開放政策と日中平和友好条約締結後30年間の日中交流の実績を、中国人の視点から総括・評価し、両国で広く紹介することにより、相互の国民の認識のギャップを埋め、新しい課題である日中共通の利益を追求する「戦略的互恵関係」の構築に貢献することです。
中国社会科学院社会科学文献出版社へ助成した「中日交流三十年(1978~2008)」事業では、事業初年度に、助成先を中心として中国社会科学院近代史研究所、日本研究所、北京大学、人民大学、南開大学などの日中関係専門家・有識者からなる研究チームを立ち上げ、30年間の日中交流に関する調査研究やワークショップを開催しました。また、編集者や執筆者間で会議を行い、30年間の日中交流を総括する『中日友好交流三十年(1978~2008)』と題する書籍の編集方針、内容構成、刊行計画などを確定し、執筆作業に入りました。
本年度は、政治、経済、文化教育と民間交流など、各自が担当する執筆部分の原稿を提出した後、校正作業や執筆原稿の審査会議を経て編集・出版作業を進めました。
そして、2008 年11 月に、政治篇、経済篇、文化教育・民間交流篇からなる『中日友好交流三十年(1978~2008)』中国語版全三巻の書籍を公刊しました。また、主要執筆者、中国国内の有識者、社会科学院、両国のメディアや基金の関係者を集め、北京で出版報告会を開催しました。会議の模様は中国国内の大手新聞各社が取り上げ、同書の紹介記事も掲載されました。この書籍の日本語版は東京大学出版会より09 年7 月に発行される予定です。
自主事業としては、『中日友好交流三十年(1978~2008)』の日本語版の翻訳、編集作業を行うとともに、2年間の助成事業の研究成果を総括評価するために、09年3月に東京でシンポジウムを開催しました。シンポジウムへは、日中両国の研究者や有識者、大学院生、メディア、財団関係者など約60名が参加しました。本事業は、過去30年の日中現代史を中国人の視点から総括する初の試みであり、『中日友好交流三十年(1978~2008)』の中国における資料的価値は、日本の関係者にも評価されています。また、日中同時出版が行われることにより、両国民が現代日中関係の全体像を知るうえでの一助となることが期待されます。なお、中国側でのこうした取り組みに呼応して、来年度以降、日本側でも「日中関係四十年(1972~2012)」を総括する事業が計画されています。
※本事業は、2007年度を助成事業「中日交流三十年(1978~2008)」として実施し、2008年度は事業形態を自主・助成事業へ変更し実施しました。

事業実施者 笹川平和財団 中国社会科学院社会科学文献出版社(中国) 年数 2年継続事業の2年目(2/2)
形態 自主助成委託その他 事業費 12,657,500円
1. 事業実施の背景

日本と中国の関係は、中国の経済発展によって、ますます互いになくてはならない存在になっています。しかし一方で、歴史認識問題や東シナ海の中間線や尖閣諸島の問題、食品衛生問題などがきっかけとなって、相互不信が生まれる場面もまたよく目にします。 そういう問題が発生したとき、わたしたち日本人には、戦後日本が世界平和に果たしてきた役割や、中国の発展のためにしてきたことを中国人は知らないのではないか、という思いがわきます。 一方、中国人にしてみれば、日本人は中国人の日本人に対する根本的な感情について理解していないのではないか、という思いがあるのかもしれません。 そうした認識のギャップについて、たがいにもっとよく理解する必要があるのではないかと、わたしたちは考えました。もちろん、日中で考え方に違いがあってもいい。しかし、それがどう違うのかを理解しておこう、という意味です。

そこでわたしたちは、2007年度開始の事業のひとつとして、1978年から2008年の日中関係を中国側ではどうみているのか、ということをあきらかにする事業に着手しました。 具体的には、中国社会科学院を中心に、近現代の日中関係史を専攻する中国人研究者を集め、この30年の日中の交流実態を整理・総括する研究会を組織し、その取りまとめ役をおこなう中国社会科学院社会科学文献出版社に対して助成することにしたのです。 ちなみに、2006年秋は、安倍晋三首相が訪中して、胡錦涛主席と会談し、数年間冷え込んでいた日中関係に改善の兆しが見えかけていたころでした。 275-01-01.jpg

安倍-胡錦涛会談 (画像は中国駐日本国大使館のサイト)より

2. 中国側の研究・執筆活動

2007年度に中国社会科学文献出版社が中心となって、中国で、日中関係に詳しい専門家や研究者を集め、研究チームを立ち上げました。

メンバーは、中国社会科学院の3つの機関(近代史研究所、中日歴史研究センター、日本研究所)や、天津師範大学、南開大学、北京大学、北京師範大学、南京大学などに所属する研究者たちで構成されました。

その研究チームのなかでもコアとなるメンバーが集まって、2007年4月、6月、8月の3回、ワークショップを開催しました。そして、この一連の研究成果を『中日友好交流三十年』として編集、出版する準備が進められました。

そして、2008年3月にはその初稿が完成しました。

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2008年3月 初稿段階の『中日友好交流三十年』

6月には北京郊外で合宿会議を開き、主要執筆者ら30名が集まり、内容について検討を行いました。

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2008年6月1日合宿会議

その後、秋まで編集作業が行なわれ、校正とリライトが繰り返されました。

3. 『中日友好交流三十年』出版

2008年11月、中国人研究者らによる1年数ヶ月にわたる共同研究の成果として『中日友好交流三十年』(中国語、全3巻)が、中国で出版されました。

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この本の特徴はいくつかあげることができますが、なかでも、日中平和友好条約締結から30年の日中交流の実態について、網羅的にカバーしているという点に高い価値があるといえます。

また、著者たちによれば、この本を中国で出版する意義のひとつは、一般読者に日中関係の基本的だけれど知られていない諸事実を提示することだったということです。

つまり、アカデミックな議論を行なうというより、むしろ、日中関係の全体像を一般向けにわかりやすく提示することに主眼があり、その意味で中国初の本です。

2008年11月7日(金)、この本の出版を記念して、北京の社会科学院で内外のマスコミ関係者を呼んで出版報告会を行いました。

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4. 2009年3月23日日中関係シンポジウム

『中日友好交流三十年』の出版報告会を2008年11月に北京で行いましたが、日本でも、この出版にあわせて、2009年3月23日に日本財団ビルで「日中関係シンポジウム」を開催しました。

このシンポジウムには『中日友好交流三十年』の主要執筆者も中国からお呼びし、また日本の中国研究の先生がたにもお越しいただいて、本の構成に合わせて政治、経済、文化という分野ごとのセッションで、この30年の日中関係から現在の話題まで活発な議論を行いました。

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5. 日本語版の製作

『中日友好交流三十年』は中国語で書かれています。わたしたちはそれを日本でも広く読まれるように、日本語版の製作準備を2008年秋ごろから進めました。

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『中日友好交流三十年 1978-2008』

2009年春にはその翻訳の初稿ができあがり、東京大学高原明生教授、中央大学服部健治教授のチェックを経て、東京大学出版会から夏に刊行されることになりました。

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『中日関係史 1978-2008』(東京大学出版会より近日刊行予定)


書名が「日中関係史」ではなく「中日関係史」と、日本ではあまりなじみのない順序になっています。これは、あくまでこの本は中国側から見たときにどう見えているのか、ということを表わすために、しいてそうしているものです。

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