Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第496号(2021.04.05発行)

編集後記

帝京大学戦略的イノベーション研究センター客員教授♦窪川かおる

♦見えないものを見えるようにする技術の発達は著しい。宇宙、超深海、そしてウイルスまで見える。新型コロナウイルスはごく小さいが、電子顕微鏡で鮮明に形がわかる。これは抗体やワクチンや薬を作るために重要な情報である。ウイルスの飛散もスーパーコンピューター「富岳」で可視化され、感染症対策が立てられる。しかし得体のしれない疫病が蔓延する時代はまだ終わっていない。歴史から学ぶことはたくさんある。
♦Ocean Newsletter 前編集代表で山梨県立富士山世界遺産センター所長の秋道智彌氏は、(公財)笹川平和財団理事長の角南篤氏と共に「海とヒトの関係学」シリーズ((株)西日本出版社)を出版されてきたが、この3月に第4巻「疫病と海」を出されたので、その内容をご紹介いただいた。この本は、疫病と海の包括的なかかわりを教えてくれる。歴史を掘り下げ、海が疫病の拡散の大きなルートであったことを示し、事例の検証から学ぶべき疫病への対応をまとめている。さらに海に由来する課題として水俣病や海洋プラスチック汚染などを取り上げ、経済活動の活発化と連動する「海の病い」を感染症と重ね合わせている。本誌および本書のご一読をお勧めする。
♦20年前、山形県の離島、飛鳥の西海岸には1.5mのプラスチックごみの壁があったが、一時は一部裸足で歩けるようになった。これは「飛鳥クリーンアップ作戦」のお陰であるが、それを推進してきたNPO法人パートナーシップオフィスの金子博理事より、大局的見地と総合的な取り組みの大切さを教えていただいた。多様な主体による連携もその一つである。2020年には「海ごみゼロアワード2020日本財団賞」を受賞された。さらに海洋プラスチックごみ問題の解決には、大量生産、大量消費、大量廃棄という経済構造を変える必要がある。陸と海でのさらなる活躍を期待したい。
♦北極域研究推進プロジェクトArCSの成果の一つに北極域研究学習ゲーム「The Arctic」がある。制作者のひとりである(国研)海洋研究開発機構の渡邉英嗣副主任研究員よりその解説をいただいた。プレイヤーは、海洋学者・先住民・漁業者・文化人類学者・開発業者・外交官のいずれかになり、北極域の急激な海氷減少に対して環境・文化・経済のレベルを一定以上に保つことを目指すゲームである。海氷の減少を実感し、北極研究の幅の広さを網羅的に知り、環境・文化・経済のバランスを考えることができる。制作に関わった研究者と日本科学未来館職員の13名の専門分野の広さからも充実度が窺える。体験会や貸出ができるそうである。(窪川かおる)

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