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論考 2019/04/19

アメリカが後ろ向きになった時にどうするのか?
:同盟に代わる「プランB」をめぐる議論

中山 俊宏 (慶應義塾大学総合政策学部教授)

 オーストラリア戦略政策研究所(ASPI[通称アスピー])は、オーストラリアでも米豪同盟派として知られている研究所である。このASPIのピーター・ジェニングス所長が、昨年7月、オーストラリアン紙に投稿したコラムが話題になった。それは、"With Trump at Large, Australia needs a 'Plan B' for Defense1と題されていた。その意味するところは明らかだ。もはや、オーストラリアは米豪同盟に安住しきっていることはできない。米豪同盟を超えて、「プランB」を考える必要があるという主張だった。同盟派のジェニングス所長の主張だっただけにインパクトがあった。

 ジェニングスは、こう主張する。国防計画において、自国の安全保障政策の根幹を揺るがすような可能性は、実は封じ込められてしまう傾向にある。よって、米豪同盟が本格的に揺らいだ時、またはアメリカがアジア太平洋地域に後ろ向きになるという事態は想定外として検討の対象になっていないと。しかし、トランプ大統領は、そうした状況が実際に起きる可能性を示唆しており、オーストラリアとしては、アメリカが引いた後の世界について考えはじめなければならないと主張し、10のステップ(国防費増加、日豪同盟の模索、原潜の開発、兵員の倍増など)を提示している。ジェニングスは、同盟を見限っているわけではない。10のステップは、アメリカにとって米豪同盟を強化する根拠にもなると主張している。

 ある会議で、ジェニングス所長の主張を直接する見聞する機会があった。非常にインパクトがあったので、とあるアメリカのシンクタンク関係者にジェニングス所長の反応をどう思うか尋ねたところ、オーストラリアの不安はよくわかるという。というのも、オーストラリアは、日本とは違って、同盟の重要性を絶えず保障(assure)してくれる固定的な「同盟コミュニティ」のようなものがなく、トランプ政権の「言葉」がオーストラリアを直撃するからだと。トランプ政権の政策に危うさを感じたとしても、日本のように政権の内外で日米同盟の重要性をassureしてくれる広範なコミュニティがあるのとは対照的だ。数多くの日米関係に関するフォーラムが存在し、リチャード・アーミテージ、ジョセフ・ナイ、カート・キャンベル、そしてマイケル・グリーンらに代表される超党派的な同盟派が絶えず日本を訪れ、会議に参加し、同盟を支えようとしてくれている状況とは大きな違いだと。大手のシンクタンクには、いずれも日本を見ている専門家がいる。たしかに彼らは現在の政権とはかなり距離があるものの、彼らと繋がっている人脈が、同盟を支えているという安心感があるのも事実だろう。さらに、つい先日、トランプ政権と近いとされるハドソン研究所がジャパン・チェアを設け、H・R・マクマスター前大統領補佐官(安全保障担当)の就任が発表されたばかりだ。

 日本は、はたしてオーストラリアのような「不安」を感じている、もしくは感じることができるのだろうか。もともと日米同盟に批判的なグループは別にして、同盟派から「プランB」の模索のような発想が出てくるとは考えにくい。トランプ政権の下、日米関係は盤石でまったく問題なしと言い切れる人は多くはないだろうが、トランプ政権は日本にとってグッドニュースだと見なす人が少なからずいるのも確かだろう。ジェニングス的な「プランB」の発想は、日本ではテイクオフしない。おそらく日本は、オーストラリアの不安が感覚的にわからないという点では世界の中で際立っているともいえるだろう。こう考えると、日本側の同盟コミュニティは過剰にassureされているのではないかと不安になるほどだ。2

 たしかに日本の場合、オバマ外交との対比で、トランプ政権の方が、総体として見るならば、日本にとって好都合だという見方がある。それは部分的にはそうだろう。「ポストモダン大統領」とも言われたオバマ大統領は、もっぱら「地球温暖化」や「パンデミック」をアメリカが直面する「実存的脅威」とみなし、烈度を増す大国間競争に対しては、関心が低いように見えた。「核なき世界」という志高き目標も、軍拡競争という北東アジアの現実の前には空虚に響いた。それとは対照的に、トランプ政権は、ペンス演説3に代表されるように、中国との戦略的競争を前面に押し出している。オバマ政権は中国との戦略的競争に尻込みするのではないかとの不安を絶えず惹起したが、トランプ政権にはそのような不安がない。それが言い過ぎだとしても、文書化された戦略ドクトリン(NSS20174NSS20185)には、そのことが明示されている。しかし、日米関係は、真空状態の中で存立しているわけではなく、アメリカの対外政策全体の中に位置づけられ、アメリカのアジア政策の中で機能するということを考えると、今のトランプ政権が日本にとって好都合なのは理解できるとして、それで完結していいものではないだろう。

 私自身は、日本にとっては、日本が直面している状況に対処するためには日米同盟しかないと考えている。それはトランプ政権においても変わりはない。日米関係に関する講演をアメリカでするときは、「日本にとっては、たとえトランプ政権下においても、いつも通り淡々と同盟の維持を続けるだけだ(it's business as usual for Japan)」と締め括っている。しかし、そう考えていることと、トランプ政権の危うさ、もしくはトランプ政権を超えた米国の対外政策における憂慮すべき傾向を認識することは両立するはずである。同盟をassureしてもらうことはありがたいが、それが思考停止に帰結しないよう、日本は絶えず、米国を選択しているということについて自覚的にならなければならないだろう。

 最近、非常に気になる論考を読んだ。それはエリオット・コーエンの"America's Long Goodbye6だ。レイモンド・チャンドラーの小説のタイトルを想起させるこの論考は、現在、政治的座標軸の両端に見られる左右のアメリカ・ファーストが(わかりやすくいえばトランプ流とサンダース流のアメリカ・ファーストといってもいいかもしれない)、いずれ「疲弊しきった中道層(exhausted middle)」にまで浸透し、やがてアメリカの国際主義の根幹が侵食されると、そして、国際主義の砦であったジョン・マケインの死がいみじくも象徴するように、それを押し返す力学はもはや期待できない、とコーエンは述べている。日本にとって「プランB」の模索はまだ早急にすぎる。しかし、コーエンの予測が当たるとすると、オーストラリアの不安も他人事ではない。そうなったとき、「プランB」という言葉を使うかどうかは別として、ジェニングスの発想は参考になる。それは、日本自身が能力を高め、アメリカに日本を選択するよう強いるという発想だ。そのためには、日本自身の意識の改革、能力の向上が伴わなければならないだろう。すでに日本は部分的にはこれに取り組んでいるともいえる。そこには実は言語化はされずとも、「プランB」も視野に入った発想が埋め込まれているということなのかもしれない。

(了)

1 Peter Jennings, "With Trump at Large, Australia needs a 'Plan B' for Defense," The Australian (July 21, 2018), https://www.theaustralian.com.au/nation/inquirer/with-trump-at-large-australia-needs-a-plan-b-for-defence/news-story/840268f5a43a0d8ad82e2c84c0ccbc97(2019年4月17日参照)

2 同じ会議に出席し、ピーター・ジェニングス所長の主張を見聞した秋田浩之氏が、同種の問いかけをしている。秋田浩之「米国一点張りの落とし穴 アジア安全保障で取るべき道」日本経済新聞(2019年3月1日)https://www.nikkei.com/article/DGXMZO41877930Y9A220C1TCR000/(2019年4月17日参照)

3 "Vice President Mike Pence's Remarks on the Administration's Policy Towards China October 4 Event", Hudson Institute https://www.hudson.org/events/1610-vice-president-mike-pence-s-remarks-on-the-administration-s-policy-towards-china102018(2019年4月14日参照)

4 National Security Strategy(December 2017) https://www.whitehouse.gov/wp-content/uploads/2017/12/NSS-Final-12-18-2017-0905.pdf

5 Summary of the 2018 National Defense Strategy(December 2017) https://dod.defense.gov/Portals/1/Documents/pubs/2018-National-Defense-Strategy-Summary.pdf

6 Eliot A. Cohen, "America's Long Goodbye-The Real Crisis of the Trump Era," January/February 2019, Foreign Affairs https://www.foreignaffairs.com/articles/united-states/long-term-disaster-trump-foreign-policy(2019年4月14日参照)

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