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論考 2019/02/18

マティス退任後の新トランプ・ドクトリンの可能性

渡部 恒雄(笹川平和財団上席研究員)

 トランプ大統領の2019年の外交・安保政策は、2018年末に、それまでトランプ政権に一定の規律と方向性をもたらしてきたケリー首席補佐官とマティス国防長官が政権を去ったことで、軍出身者のリアリストの影響が薄れ、よりトランプ氏自身の意向を反映した外交・安保政策となることが予想されている。それは新「トランプ・ドクトリン」と呼ばれるような一定の政策の方向性を示すことになるのか、それともトランプ大統領の政策の特徴であるトランザクショナル(取引の材料となるもの)な要素が前面にでて、2018年以上の混乱を内外にもたらすのだろうか?それとも政権内のリアリストの退任の後に、新しい政策あるいは政策をめぐる新しいパワーバランスが出現するのだろうか?

保守派コラムニストが示唆する「トランプ・ドクトリン」

 1月29日付のニューヨークタイムズ紙のロス・ドーザットのコラム「The Trump Doctrine: A chaotic administration's unexpectedly coherent grand strategy」(トランプ・ドクトリン:混沌とした政権による予想外に一貫した大戦略)1は、今後のトランプ政権の外交・安全保障戦略の可能性を、むしろ現実主義的観点から評価して、その可能性を考えようと試みる興味深いコラムである。ドーザットは、トランプ政権には今後の立法と議会対策、政策アジェンダ、恒久的な不人気対策への戦略はまったく存在していないが、少なくとも、トランプ政権の外交には、将来の後継の米国の政権が、合理的に継承しようとするかもしれないドクトリンらしきものがみられる、と指摘する。

 その「トランプ・ドクトリン」とは、トランプ大統領が選挙キャンペーンで有権者に約束してきた「孤立主義」ではなく、逆に時折みせる腕を振り回してアピールする「好戦的姿勢」でもない。それは、「これまでの理想主義的な期待や非現実的な世界への軍事コミットメントを止め、仮想敵と米国が影響を与える国家のリストを絞ろうとする試みであり、巻き込まれ防止(disentanglement)、戦線縮小(retrenchment)、外交資源の再配分(realignment)のドクトリンだ」と指摘する。そして、その全体のゴールは、「米国のプライマシー(卓越した地位)を失わせたり、同盟国を見捨てたりするのではなく、そのエネルギーと努力を、中国の影響力とパワーを封じ込め、米国のプライマシーを維持することに費やすことであり、これはトランプへの批判者がしばしば訴えてきたものでもある」と、ドーザットは喝破する。

 その根拠として、トランプ政権がアフガニスタンでタリバーンとの和解交渉を進める一方で、ベネズエラのマドゥロ大統領に対抗して暫定大統領就任を宣言した野党指導者フアン・グアイド氏を支援していることをドーザットは挙げる。ボルトン国家安全保障担当大統領補佐官のノートパッドに、隣国のコロンビアに3,000人の軍を送るという走り書きをカメラが捉えたことで、ベネズエラへの軍事介入の可能性が国内でも議論となり、議会からは反対意見もでてきている。トランプ政権の対応は、すべてのオプションがテーブルにあるというもので、これはトランプ大統領のベネズエラへの姿勢としては一貫しているし、欧州諸国や他の南米諸国も、グアイド氏を支持している。しかも、ベネズエラ問題の政府代表には、ネオコンサバティブの代表で、ブッシュ政権の国家安全保障担当次席補佐官としてイラク戦争を先導したエリオット・エイブラムスを任命した。エイブラムスは、レーガン政権時代に、イランとの秘密取引を行い、武器の売却資金を、ニカラグアの反共ゲリラ「コントラ」の援助に流用していた事件で有罪判決を受けた人物である(ブッシュ(子)大統領が恩赦をした)。

 タリバーンとの和平は、むしろエイブラムスのようなネオコンの主張とは反する行動だが、ベネズエラに人権や民主主義の理念から軍事力行使もいとわないという姿勢を持つエイブラムスがベネズエラ問題に登用されたことは重要だろう。

一般教書演説で中東からの米軍撤退を主張

 2月5日の一般教書演説でのトランプ大統領の外交方針は、ドーザットの指摘に沿ったものだ。トランプ大統領は「我々の軍は約19年もアフガニスタンに駐留している」と指摘し、「私は大統領候補として新しいアプローチを提案した。偉大な国家は出口のない戦争は戦わない」として、アフガニスタンとシリアからの撤退を強く訴えた。2

 ここに、「トランプ・ドクトリン」と後年、評される可能性がある戦略性を見出すことは可能だ。米国の限られた資源を、アフガニスタンに投入し続けて体力を消耗するよりは、効果的に「損切り」をして、むしろ余力を米国にとってより深刻な対象に振り分けよう、という戦略である。その最も大きな対象は中国であるが、米国の足元のベネズエラに対しては、米国の歴史上、常に世界の他の地域とは異なる対応をしてきたし、米国の世論の支持も付いてくる。ましてや、ベネズエラのマドゥロ政権を支援しているのは、目下のところ、経済的にも軍事的にも最も重要なライバルである中国とロシアである。

 その一方で、トランプ大統領は、シリアからの米軍撤退を進め、シリアのアサド政権とそれを支援するロシアに対しては、一定の譲歩姿勢をとっている。この決定に抗議して退任したマティス国防長官が反対するように、欧州の同盟国を懸念させる政策であるが、トランプ政権の思惑としては、欧州の同盟国に対してはある程度の不安を与え、それによって、より自らのリソースをNATOの共同防衛に割かせるような方向に持っていくことで、米国の限られたリソースをセーブし、その余力を中国に向けることができる、というのも考え得る「トランプ・ドクトリン」だ。ロシアは、経済的な脆弱さから、米国にとっての脅威ナンバーワンにはなりえない。

 そして、ドーザットは、このような戦略はトランプ大統領の頭の中からではなく、トランプ大統領の孤立主義的な衝動と、よりタカ派の国際主義者で、米国のプライマシーを維持しようと考えているトランプ大統領の側近(おそらくボルトン補佐官やポンペオ国務長官)との相互作用により、形成されていると指摘する。3

 確かにトランプ大統領は一般教書演説で、「中国が我々を出しぬいていることを非難しない。むしろそのような結果を引き起こした米国の指導者や議員たちを批判する。私は習主席に大きな尊敬を持っているし、中国との新しい貿易のディールをしている。しかし、それらは、真の構造変化を伴い、不公正な貿易慣習を終わらせ、慢性的な貿易赤字を削減し、アメリカ人の職をまもらなくてはならない」と発言している。4ここに将来の技術覇権や覇権をめぐる競争を反映した内容は見当たらないし、南シナ海や台湾なども出てこなかった。トランプ大統領にとっては中国はあくまでも貿易赤字を解消すべき相手なのである。

 ドーザットの考察は、他のオブザーバーによるトランプ政権の現状の対中強硬姿勢についての分析とも共通する。例えば、ワシントンポストのジョシュ・ロギンが昨年、米国の対中強硬の新思考は、ジョン・ボルトン国家安全保障担当補佐官のタカ派的姿勢、ジム・マティス国防長官の戦略的思考、ピーター・ナヴァロ国家通商会議ディレクターの経済ナショナリズム、そしてペンス副大統領の民主的価値を重視する主張が合体したものと示唆している。5それが、トランプ大統領の再選戦略と矛盾しないかぎり、この方向性は継続するだろう。

 しかも、ドーザットが指摘するように、トランプ政権ではこのような戦略が中途半端に終わったとしても、将来の米国の戦略を担う人物が、現在の「トランプ・ドクトリン」の仮説を検討して、採用していく可能性はある。歴史的にみれば、かつてニクソン大統領が、ベトナム戦争に足を取られて肝心の対共産圏への戦略に危機が生じた際に、劇的な中国との和解で、ベトナム戦争を終結させて「損切り」をし、自国のリソースと戦略を建て直して、最終的にはソ連との冷戦に勝利したような戦略性を内包しているように思われるからだ。

(了)

1 Ross Douthat, "The Trump Doctrine: A chaotic administration's unexpectedly coherent grand strategy. The New York Times, January 29, 2019, <https://www.nytimes.com/2019/01/29/opinion/trump-doctrine-venezuela-afghanistan.html>, accessed on February 14, 2019.

2 "Remarks by President Trump in State of the Union Address," The White House, February 6, 2019, <https://www.whitehouse.gov/briefings-statements/remarks-president-trump-state-union-address-2/>, accessed on February 14, 2019.

3 Ross Douthat, op.cit.

4 The White House, op.cit.

5 Josh Rogin, "The Trump administration just 'reset' the U.S.-China relationship, "The Washington Post, October 4, 2018, <https://www.washingtonpost.com/opinions/global-opinions/the-trump-administration-just-reset-the-us-china-relationship/2018/10/04/c727266e-c810-11e8-b2b5-79270f9cce17_story.html?utm_term=.7e9fb93da505>, accessed on February 14, 2019.

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