研究調査プロジェクト

論考シリーズ

SPFアメリカ現状モニター

ホームへ

論考 2018/11/12

2020年大統領選挙に向けて民主党はどうなるのか?

西山隆行(成蹊大学法学部政治学科教授)

 2018年の中間選挙に対する米国民の関心は記録的に高かった。中でも、民主党支持者の関心は共和党支持者のそれよりも一貫して高かった。今回の中間選挙にはトランプ政権の中間評価という意味が込められており、連邦議会上下両院の多数派奪還を目指す民主党は積極的な選挙キャンペーンを展開した。

 民主党支持者の間で、人種や民族、ジェンダーなど、アイデンティティをめぐる争点が大問題となっていた。中でも、トランプの数々の女性蔑視発言への反発を背景として、女性が積極的に選挙戦に関与したのが特徴である。1992年は、セクハラ疑惑が出たクラレンス・トーマスを、被害を訴えた人に十分な聴取をせずに最高裁判事として承認したことへの反発から、5名の女性上院議員が当選して、「女性の年」と呼ばれた。今回の選挙では、民主党の女性支持者は、#MeToo運動の盛り上がりもあり、それ以上の盛り上がりを見せた。下院選を戦っている女性候補239人の内、民主党系が187人と大半を占めている。

 これら女性候補の中には、進歩派と呼ばれる左派も多い。連邦最高裁判所判事に任命されたブレット・カバノーの性的スキャンダルも重なり、民主党左派の政治行動は過激化した。保守派のカバノーが連邦最高裁判事になり、連邦最高裁判事の構成は、保守派5名、リベラル派4名となった。今のところ、最高裁判事の中で中間的立場に立つことになるジョン・ロバーツ長官は、最高裁判所の正統性を保つためには判例を頻繁に覆すのは好ましくない、と考えているといわれ、論争的かつ世論が判例の変更に強い賛意を示さない争点を取り上げないようにするのではないかとの予測もある。だが、州の最高裁判所が連邦最高裁の判例に反する判決を繰り返し出す、というような法的安定性を損なう事態が頻発すれば、連邦最高裁判所もその問題を取り上げざるを得なくなる。

 保守派判事がこれ以上増えることになれば、人工妊娠中絶や同性婚に関する判例も変更されるのではないかとの危惧がある。連邦裁判所の判事は大統領が任命し、上院の承認を経て就任することになるため、上院で歯止めをかけるべくLGBT活動家も活発に活動していた。民主党は過去最高の数の女性、LGBTの候補を擁立しており、黒人候補も多かった。候補の大半が白人男性であった共和党とは対照的だ。

 マイノリティの活発な政治活動は、中間選挙で民主党を利する。大統領選挙の際には有権者登録した人の6~7割が投票に向かうが、中間選挙の場合はその割合は4割に低下する。とりわけ、若者、女性、黒人、中南米系の投票率が下がることが知られている。だが、今回の選挙では彼らの投票率は従来と比べて高かった。

 今回の選挙の結果、民主党は連邦議会下院で多数派を奪還した。だが、2020年大統領選挙などを念頭に置いて考えると、民主党への好条件がそろっているとは言えない。民主党は党内で穏健派と左派の対立が続いており、党の顔というべき人物がいない。2016年の大統領選挙では、サンダース支持者が穏健派のヒラリー・クリントンが候補に決定した後もヒラリーへの批判を続け、投票に行かなかった人が多かった。トランプが勝利した後にも、左派系の人物が候補であれば勝てたはずだ、という発言を繰り返した。

 今日でも穏健派と左派の対立は続いており、いずれかの立場に立つ人物に党の顔としての役割を期待することはできない。このような中で、夫婦そろって民主党支持者の間で評判がよく、スキャンダルもないオバマ夫妻に選挙への応援を求める動きが出たのは理解できる。だが、日本の首相が退陣後も背後から政治的影響力行使を試みるのとは違い、アメリカの大統領は退任後は表舞台から遠ざかり、政治的発言を控えるのが一般的である。前大統領が後任者に辛辣な発言を行うとともに、選挙活動に関与するのは、極めて異例である。オバマが穏健派と左派の仲介を期待され、退任後の大統領は政治的発言を控えるという不文律を破ってまで選挙戦に関与している事態は、民主党が人材不足であることを示しており、深刻である。

 ブルッキングズ研究所の調査では、民主党の予備選挙を勝ち抜いた非現職候補の内、穏健派が139名、左派が101名と、左派の躍進が著しい。今後、民主党内で左派の発言力や存在感が増す可能性は高い。だが、左派の中には、移民関税執行局(ICE)廃止など、現実味のない提案を行っている人もいる。また、カバノー承認問題に関して左派活動家の取った行動に問題があったとの声もある。問題とされた性的暴行疑惑はカバノーが17歳の時のものである。法的には時効が成立していたとしても、政治的な意味では時効は存在しない、というのが彼らの立場なのかもしれない。だが、推定無罪の原則を強調し、犯罪者に更生の機会を与えるよう主張する傾向の強いリベラル派が、この事例に関しては有罪推定をしてカバノーを徹底的に批判したことはダブルスタンダードに映った。女性の尊厳という、抽象的には誰も否定しない理念に基づいて相手を叩き潰す手法は暴力的だという印象も与えた。これらのこともあり、民主党への反発も強まっており、トランプ派の政治関与度を押し上げたのは周知のとおりである。

 連邦議会下院の選挙は、選挙区が小さく有権者の同質性が高い。現職に有利な形で選挙区割りが行われていることもあり、選挙が始まる前から勝敗が決している選挙区も多い。そのため、過激な立場をとる候補も勝利可能だ。だが、選挙区が大きい上院選挙や大統領選挙で勝利するには穏健な有権者の支持を獲得する必要があり、事情が異なる。

 近年では有権者レベルでも分極化が進んでおり、共和党支持者はとりわけ民主党左派に強く反発している。2016年大統領選挙でトランプが勝利したのは、本来ならば民主党に投票してもおかしくなかった白人労働者層の支持を獲得できたためであり、彼らは人種やジェンダーに関する争点を嫌っている。カバノーに対する批判の強まりを受け、社会的保守派がこれまで以上に共和党の下に団結している。共和党は民主党が非現実的で過激な立場をとっていると批判している。民主党左派が強くなるのは、トランプ的共和党候補にとっては思うつぼだともいえる。2020年大統領選挙も視野に入れると、民主党にも多くの課題が残っている。

(了)

  • Facebook
  • Twitter
  • LINE
  • はてな

アメリカ現状モニター

ホームへ

アジア戦略イニシアティブ

ホームへ

Asia Strategy Initiative

ホームへ

Worldviews on the United States, Alliances, and International Order

ホームへ

Worldviews on the United States, Alliances, and International Order

ホームへ
ページトップ