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論考シリーズ

論考 2018/02/13

トランプ政権の国家安全保障戦略と国家防衛戦略が示す
現実主義と同盟国重視への回帰

渡部恒雄(笹川平和財団上席研究員)

2017年に発足したトランプ政権の外交・安全保障は、多くの同盟国を不安にさせた。トランプ政権の「アメリカ・ファースト」が、同盟国よりも米国の利益を優先し、トランプ大統領の「ディール」というスタイルは、米国が対立国との短期的なディールを優先して、同盟国の安全を犠牲にする可能性を示唆していたからだ。しかし、トランプ大統領や閣僚が2017年に行った演説や、2017年12月に発表された国家安全保障戦略(NSS)と2018年に1月に発表された国家防衛戦略(NDS)の文書で判断する限り、「アメリカ・ファースト」や「トランピズム」は文言に残しながらも、米国のこれまでの政権が継続してきた力による国家間の関係を重視する現実主義に乗っ取った政策が、政権に定着してきたと思われる。

2016年の大統領選挙中のトランプ候補の発言は、アジアおよび欧州の同盟国に不安を与えるものだった。アジアにおいては、安全保障よりも、貿易不均衡に関心を寄せ、貿易赤字国である中国と日本を、同盟とは無関係に同じ文脈で批判的に語り、日本の米軍基地の財政的負担についても、不十分だというような発言をしていた。

この、同盟関係の維持による世界の安定を犠牲にしても、同盟国の財政負担を優先するという基本姿勢を、より深刻に受け止めたのは、欧州の多国間同盟であるNATO(北大西洋条約機構)加盟国、特にウクライナ内戦に介入しウクライナ領のクリミア半島を、「ハイブリッド」戦争において、一方的に力で併合したロシアの圧力に面しているバルト諸国や東欧諸国だった。トランプ候補は、選挙中のインタビューで、ロシアのバルト諸国への軍事的圧力にどう対処するかという文脈の中で、北大西洋条約第5条が定めた集団的自衛権の行使について、無条件ではなく、同盟国の貢献度により判断すると発言して、バルト諸国をはじめとして、欧州のNATO加盟国に懸念を引き起こした。しかも、トランプ大統領は、ロシアとの関係改善を自らの政策の中心においており、ロシアによる米国の大統領選挙介入についても、米国のインテリジェンス機関のブリーフィングによる事実を、なかなか受け入れようとしなかった。

しかしながら、政権発足から一年、トランプ政権の同盟国への姿勢は徐々に変化し、より米国の伝統的な現実主義に基づく政策に収束してきた。過去一年、トランプ大統領、マティス国防長官、ティラーソン国務長官らの政権の主要メンバーの発してきた発言は、あきらかに外交・安全保障政策の現実主義回帰であり、同盟国重視の姿勢といえるだろう。


国家安全保障戦略と国家防衛戦略の中心課題

2017年12月に発表された国家安全保障戦略は、「中国とロシアは米国の安全と繁栄を侵食することで、我々のパワー、影響力、利益に挑戦している」と規定している。そして、「これらの挑戦は『ライバル国との関係構築や国際社会への取り込みをすれば、相手は国際ルールを尊重する善意のアクターや信頼できるパートナーになる』というこれまでの過去の米国政府の前提に再考を迫るものだ」とする。1 この表現は、歴代の米政権が使わなかった強硬なものだが、ロシアによるウクライナ内戦介入とクリミア併合および中国による東シナ海と南シナ海での拡張姿勢を経験した現在の世界認識としては、むしろ同盟国と世界に安心感を与えるものであり、米国内でも大きな批判は少なかった。それが圧倒的な現実だと世界が認識しているからだ。

2018年1月に発表された公表版の国家防衛戦略の要約の中では、上記の認識を基に、「中国とロシアとの長期的な競争が国防総省の最優先事項である」と述べている。そして、以下のように米国自身の軍事力強化とともに、同盟国との関係維持と強化を重要な戦略として掲げている。「互恵関係にある同盟国とパートナー国との関係は、どのようなライバル国も達成できない持続的で非対称的な戦略的優位性を我々の戦略に与えてくれる必要不可欠なものだ」。しかも「このアプローチが、過去75年、平時においても戦時においても、米国に貢献してきた」として、米国の伝統的な同盟国重視の姿勢を確認している。2

このような現実主義および同盟国重視回帰は、米国をとりまく国際環境を考えれば、当然の帰結といえるが、反エスタブリッシュメント、および反グローバリズムを中心に動いたトランプ政権の成り立ちを考えると、この地点に至るには紆余曲折があった。それは、かなりの部分、政権内部における「現実主義者」と「トランプ主義者」との主導権争いの側面であったと考えられる。

実は、トランプ主義者を代表するバノン前首席戦略官が体現する経済ナショナリズムによる保護主義的な要素も、国家安全保障戦略文書には含まれている。「アメリカの繁栄の促進」という一章を割いて、二国間貿易と投資協定の追及や不公正貿易への対抗などの項目が示されている。しかし、米国が国力の源である経済繁栄を戦略の中心に据えるのは当然のことである。外交・安全保障上の同盟国に対して、競争国と同じように、経済・貿易上の理由で圧力をかけて関係を悪化させることが問題なのである。その意味で、先にみた同盟国重視の内容と組み合わせて考えれば、国家安全保障戦略は、同盟国が通商・経済政策について不安に思うほどの内容ではないと考えられる。


トランプ大統領が重視するのは政策ではなく信頼できるスタッフ

外交・安全保障については、大統領選挙の早い段階からトランプ陣営にアドバイザーとして参加し、トランプ大統領の個人的信頼を勝ち取った軍出身のジェームズ・マティス国防長官とジョン・ケリー大統領首席補佐官らの「現実主義者」の継続した影響力が大きい。また、マクマスター国家安全保障担当補佐官の下で戦略担当次席補佐官を務めたディナ・パウエルに対するトランプ大統領からの信頼も、政権内部の関係者から指摘されている。パウエル氏は、ニューヨークに離れて暮らす家族との関係を重視し、2017年いっぱいで辞職したが、トランプ大統領自らが、ホワイトハウスでこれまでの労をねぎらっているし、ニューヨーク在住で勤務ができるため、次期国連大使の候補にも名前が挙がっている。

彼女は、ブッシュ(子)政権で国務次官補を務めた伝統的な「現実主義者」であり、今回の国家安全保障戦略も彼女がまとめ上げたといわれている。トランプ氏にとって重要なのは、「現実主義者」か「アメリカ・ファースト」かではなく、大統領に忠誠を誓い、信頼できる人物かどうかである。もちろん、これはトランプ大統領に限ったことではないが、トランプ大統領にはそのような「属人的要素」がきわめて重要なことが示されたのが、国家安全保障戦略文書なのである。

結果としてこの文書は、一般的には「アメリカ・ファースト」というスローガンと、トランプ大統領の発言を散りばめて(各章の最初に彼の言葉が示されている)、トランプ主義の化粧をしてはいるが、その実体は伝統的な米国の「現実主義」であるというのが一般的な評価であろう。


米国の軍事力の影響力を再認識したトランプ大統領

そもそも軍事的な実力でみれば、中国もロシアも、まだまだ米国に挑戦できる段階には至っていない。トランプ大統領自身が、マティスやケリーへの個人的な信頼に加えて、軍の最高司令官の大統領として、米軍の威力を実感せざるを得ない経験をしてきたことも、重要な要素だと思われる。 

米国がいまや戦略文書で明確に示している戦略課題である北朝鮮の核開発の阻止および米国が支える秩序維持への中国からの挑戦を退けるためには、在日米軍とそれを支える日本という同盟国の存在の重要性は重要である。これについては、「現実派」とは異なる世界観を持つバノン元首席戦略官らの「経済ナショナリスト」にとっても、その反中姿勢から反対するものではなかった。

したがって、トランプ政権が最初に見せた同盟国重視姿勢は、中国、北朝鮮への対処に重要な日本と韓国に対してであった。まず、安倍訪米に先駆けて、2017年2月に訪日したマティス国防長官が在日米軍駐留経費について「日米の分担のあり方は他の国の手本になる」と述べ、また岸田外務大臣(当時)に「尖閣諸島は日本の施政の下にある領域であり、日米安全保障条約第5条の適用範囲である。米国は、尖閣諸島に対する日本の施政を損なおうとするいかなる一方的な行動にも反対する」と表明している。

これは、日本のみならず、NATOの同盟国にとっても、同盟国重視の先駆けとなる重要な出来事だった。筆者は、訪日中のバルト諸国のシンクタンク研究者と、現在のトランプ政権の同盟への姿勢について意見交換をする機会があったが、この人物は、かつてNATOの同盟国であるバルト諸国を念頭に、ロシアからの軍事攻撃があった際の、集団的自衛への参加に条件を付けたトランプ政権について、以前のような懸念を抱いていないと語っている。その理由は、2017年4月にトランプ政権が、シリアのアサド政権の化学兵器の使用に対して、巡航ミサイル「トマホーク」59発を発射して、シリア空軍基地を攻撃したことだという。これは、2013年の9月にオバマ政権が、シリアのアサド政権が化学兵器を使用する際には軍事力攻撃をする、という「レッドライン」を示したにもかかわらず、ロシアの仲裁に任せて、軍事力を行使しなかったことと対照的だ、とこの人物は指摘する。

しかも、日本やアジアの同盟国からすれば、この重要な軍事的示威行動を、訪米して会談中の中国の習近平国家主席の目の前で行ったことに、意味があった。現在、北朝鮮に対する米国からの先制的な軍事攻撃についても、その可能性は十分にあると考えられているが、それゆえに、軍と軍人出身者の影響力が強まり、トランプ大統領に米国の軍事力を再認識させ、トランプ政権を現実主義および同盟国重視に収束させたといえるだろう。

(了)

1National Security Strategy of the United States of America, December 2017, pp.2-3. [https://www.whitehouse.gov/wp-content/uploads/2017/12/NSS-Final-12-18-2017-0905-2.pdf](最終検索日:2018年2月9日)

2Summary of the 2018 National Defense Strategy of the United States of America, Department of Defense, United States of America, January 2018, p8. [https://www.defense.gov/Portals/1/Documents/pubs/2018-National-Defense-Strategy-Summary.pdf](最終検索日:2018年2月9日)

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