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論考シリーズ

論考 2017/12/26

トランプ政権下で深まる政党内部の亀裂

渡辺将人(北海道大学大学院メディア・コミュニケーション研究院准教授)

オバマ大統領の元補佐官らの指摘によれば、オバマ前大統領が政権最大の成果と考えているものは「オバマケア」で、最も残念だと感じているのは(銃規制の失敗などを除けば)「トランプ大統領の誕生と自らの成果が破壊されていくこと」であるという。ブッシュ外交への反発で当選したオバマ氏が、クリントン政権が実現できなかった課題をあえて優先したように、トランプ大統領もまたオバマ政権の成果を覆すことに執着した1年だった。

1年前の2016年12月の論考で一部紹介したように(アメリカ大統領選挙 UPDATE 6)、2016年11月、ペローシ米下院院内総務周辺の民主党議会幹部が懸念するトランプ政権についての問題は2つに収斂しており、「第1に気候変動(パリ協定脱退)、第2に最高裁判事(保守系判事就任)。オバマケアは部分修正に留まり、不法移民の強制送還も壁建設も困難。民主党は共和党の穏健派から造反者を引き出す議会工作を続ける」との予測であった。

税制改革法案をめぐる動きを除けば、この見立ては概ね正しかった。ゴーサーチ最高裁判事が承認され、パリ協定離脱が表明されたものの、トランプ支持者への主な約束である移民問題(国境の壁)、オバマケア撤廃は頓挫している。「トランプ党」の大統領と共和党議会の足並みの完全な一致には依然として難がある上に、両党の議席差も上院では僅差に留まっている。

しかし、通常であれば大統領と反対側の政党が有利になるはずの来年の中間選挙に向けて、民主党に関して楽観論は聞こえてこない。民主党も今後の党の方向性が定まっていないためだ。2016年大統領選挙から引きずる問題でもある。民主党は大きく分ければ2つの方向性の選択を迫られている。1つは、女性、LGBT、人種的マイノリティなどの政党としての文化的リベラル路線である。もう1つは、白人労働者層を取り戻し、中道化に引き戻す路線だ。

トランプ政権誕生後、旧ビル・クリントン政権周辺のニューデモクラット派は、穏健派議員の選挙を資金面で支える「New Democracy」を立ち上げるなど、後者の道の模索を急いでいる。民主党穏健派シンクタンク「NDN」のサイモン・ローゼンバーグは、「トランプ支持者を見捨てるか取り戻すかという選択肢の立て方は間違っている」として、白人労働者票奪還の自明性を強調する。コロンビア大学教授のマーク・リラは、「アイデンティティ政治を排して権力奪取に集中せよ」と提唱し、マイノリティの権利に拘泥した民主党の「運動の政治」を痛烈に批判し始めた。

だが、トランプ政権成立後、民主党支持者が組織したのが「労働者の行進」ではなく「女性の行進」だったように、民主党では長期的な文化リベラル路線が強まっている。彼らは1960年代以降に台頭した党内「後発集団」であるが、2000年代以降のディーン旋風、ペローシ下院議長就任、オバマ政権、サンダース旋風などリベラル派の台頭を経て一定の勢力に成長している。ヒラリーも2016年大統領選では、夫の路線を離れて文化リベラル路線に加担した。

事態を複雑にしているジレンマは通商問題である。TPP離脱、NAFTA再交渉などでは、「トランプでよかった」と告白する民主党有権者は少なくない。労働組合はトランプ政権のインフラ投資案に期待すらしている。経済問題に有権者の関心を過度に向ければ、トランプ批判の歯切れは悪くなる。貿易政策をめぐる論争は単なる保護貿易ではなく反グローバリズムが絡むため、労働者層だけでなく、環境保護団体、消費者団体などのリベラル派も「反TPP連合」に加わっている。

そこで民主党は、ある種の消去法で、大統領の反移民、人種差別的な言説を批判する「文化戦争」に焦点を絞らざるを得ない状況がある。しかし、これは2016年のヒラリー敗北と同じ「いつか来た道」であり、トランプ大統領には望む所でもある。トランプ氏はオバマケア、不法移民対策という重要公約で保守的な支持基盤を失望させるたびに、人種問題など文化的対立の先鋭化に救われてきた。例えば、DACAに関する民主党議会幹部との妥協姿勢とオバマケア撤廃法案の難航が支持層を怒らせていた2017年9月下旬、NFLで国歌斉唱時の起立を拒否した選手を大統領が糾弾したことでトランプ支持者の大統領批判が止んだ。同選手がアフリカ系だったことで人種問題化し、民主党も「文化戦争」に引きずり込まれた。民主党リベラル派の戦略家は「トランプ政権期はアメリカ戦後史で最も進歩派が活性化する時期になる」と息巻くが、これは白人労働者層の民主党離れが本格化し、「文化リベラル政党」に変質するリスクと裏表ではないか。

他方、共和党内のトランプとの感情的な距離感は依然として埋まっていない。筆者が2017年9月に参加した中西部共和党の会合にもその空気は鮮明に表れていた。反移民の急先鋒でトランプ大統領に失望を隠さないスティーブ・キング下院議員のお膝元でもあるアイオワ州の会合では、ジョニ・アーンスト上院議員が基調演説を行なった。共和党は上下両院とホワイトハウスを掌握しながら、マコーネル上院院内総務の当初案では2月半ば実現ともされていたオバマケア撤廃に失敗し続けた。アーンスト上院議員は最高裁判事指名を成果としてアピールするのがやっとだった(税制法案はその時点では実現していなかった)。外交での「リーダーシップの復活」も謳ったが、リバタリアンに気を遣ってか「アメリカが再び外に出ていくという意味ではなく、アフガニスタンでもどこでも負担は他国にも負ってもらう」と付け加えた。あくまで「アメリカ・ファースト」による限定関与と同盟国負担増の強調で、「大統領は孤立主義ではなくアメリカ・ファースト」なのだとして、政権の対外関与への疑念を払拭することに共和党議員は地元で躍起になっている。

ところで、トランプ大統領を個人的に知る者の間では「プライベートと外での顔が違う。本当はマイノリティに優しく、人種差別主義者ではない」という評価が多い。たしかに、白人至上主義的な一部の有権者にすり寄る戦術は、感情に訴える「煙幕弾」「文化カード」以上の思想的な深みがあるのか疑問だ(その意味で、バノン氏の大統領への政策面以上の思想面での影響には慎重な検討も要する)。「政策のディテールには興味はなく、衝動と勘で動く勝負師」とも言われるトランプ氏だけに、当事者性なきゲーム感覚での人種カードの乱発は、その副作用に勘が回らない気配もある。トランスジェンダーの軍からの排除を宣言した直後は、上述アーンスト上院議員など共和党の元軍人政治家や退役軍人からも反発を招いた。軍人や愛国者がイコール白人至上主義者や反同性愛者ではないし、失業不安を感じる労働者がどの地域でも「反移民」とも限らない。この辺りの複雑な政治嗅覚は、白黒付けることを好む大統領の意外な落とし穴かもしれない。

トランプ大統領との協調路線を共和党エスタブリッシュメントが渋々とるのは、トランプ支持層という新たな有権者集団を手放したくないからだ。だが、トランプ政権下で共和党を憂える議論を交わしているのはコアなトランプ支持者ではない。相変わらず共和党地方支部の政党イベントには、コアなトランプ支持者はあまり参加しない。トランプ支持者が、党派的な支持基盤に進化するかは未知数だ。トランプ個人に熱狂しつつ共和党に興味が薄い彼らを中間選挙でも吸収し続けられるかは大きな課題だ。

両党の支持基盤に支持者を跨ぐ大統領の出現で、民主党、共和党の双方に内部の亀裂が打ち込まれている。これが支持基盤の組み替えによる政党再編の端緒になるのかも注視を要する。

(了)

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