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論考シリーズ

論考 2017/12/11

ドリーマーと共和党の困惑

西山隆行(成蹊大学法学部政治学科教授)

近年のアメリカでは、民主党、共和党の二大政党の分極化と対立が激しさを増している。日本などと比べて党議拘束が弱いこともあり、アメリカでは超党派的立法が行われることがしばしばあった。だが、近年では様々な争点について二大政党の政策的立場が対立するようになり、超党派的な立法活動は見られなくなっている。

このような趨勢の中で、現在、ドリーマーと呼ばれる不法滞在中の若者の法的地位をめぐって、超党派的な立法が行われる可能性が浮上している。

今日のアメリカには、1100万人程の不法移民が滞在しており、彼らの処遇をめぐって対立が存在する。不法滞在中の人は国外に追い出すのが筋だと主張する人もいれば、これほど多くの不法移民を退去処分にするのは困難なので、国内に長く滞在している人のうち犯罪歴のない人には滞在を許可するべきだと主張する人もいる。

伝統的に見て、移民政策は、超党派的な対応が必要な政策分野だった。二大政党内部には、不法移民に対して寛大な態度を示す勢力、批判的な勢力の両方が存在した。民主党にはマイノリティの支持を得ていることから不法移民に寛大な立場をとる人が多い。だが、不法移民の存在は労働賃金の低下につながる可能性があるため、労働組合系の人々は不法移民に厳格な態度を示す人が多かった。他方、共和党には、不法移民がアメリカの政治文化を変える可能性があるとして不法移民に批判的な立場をとる人が多い。だが、企業経営者などは安価な労働力を提供する不法移民に好意的な立場をとってきた。

このような状況下で不法移民対策を進めるには、超党派的な取り組みが必要になる。そこで、ロナルド・レーガン政権期に、国内に居住する一部の不法移民に対する合法的滞在許可と国境警備厳格化をともに含む形での立法がなされたのをモデルとして、以後の政権も同様の立法を試みるようになった。

だが、民主党側では労働組合の弱体化を受けて不法移民に寛大な立場が優勢となり、片や共和党側では不法移民に厳格な態度をとる人々の声が強くなるのを受けて、不法移民対策も二大政党間の対立争点となっていった。このような状況下で、不法移民取締り強化を主張するトランプ政権が誕生したのである。

不法移民対策が対立争点化する中で、例外的な位置を占めるのがドリーマーと呼ばれる人々である。例えば、幼少期に親に連れられて不法越境し、今日も滞在している人は、法的には不法滞在だが、その責を彼らに帰するのは妥当でない。彼らに対しては、例外的に滞在を許可しても良いのではないか、との声がある。

その様な声を背景に、バラク・オバマ元大統領が在任中の2012年にDeferred Action for Childhood Arrivals (DACA)と呼ばれる行政命令を出した。16歳になるより前に入国した31歳未満の若者で、5年以上継続してアメリカに不法滞在している人のうち、一定の要件を満たしている者に合法的滞在と労働を認めるものである。

この行政命令から69万人が恩恵を受けているとされ、国内でも一定の支持が得られている。だが、行政命令で労働の許可を与えることは連邦議会の持つ立法権を侵害しており、三権分立の原則を揺るがすものだ、という批判も強かった。それを受けて、トランプ大統領は今年9月、DACA中止を発表した。

トランプ支持者はこの発表を歓迎した。だが、その後トランプは、民主党指導部との間で、国境警備強化と引き換えに、ドリーマーの強制送還を猶予し、合法的滞在許可を与える政策の法制化に向けて協力することで合意した。ここでいう国境警備強化には米墨国境の壁建設は含まれていない。

この決定は、共和党指導部に衝撃と困惑を与えた。今後も移民人口が増大していくことを考えると、以後の大統領選挙で勝利するためにも、共和党指導部はこの決定に賛成したいと考えられる。だが、議会の共和党指導部をバイパスして大統領が民主党指導部と合意をしたことは、共和党指導部にとっては愉快ではない。共和党指導部は、DACA代替法案を議会共和党の功績として通過させたかったであろう。

とはいえ、トランプと民主党指導部の会談により、ドリーマーをめぐって予期せぬ形で超党派的立法が行われる可能性が出てきたことは、近年の二大政党の対立状況を考えると注目に値する。

では、DACA代替法案の立法化は今後実現するのだろうか。連邦議会が立法化を進めるには、いくつか問題が存在する。

まず、議事日程の問題がある。アメリカでは現在、連邦予算の債務上限問題やオバマケアをめぐる問題、ハリケーンへの対応など課題が山積している。限られた日程の中で、議会指導部がどの問題を優先するかという問題がある。

また、共和党議員、とりわけ下院議員がDACA代替法案にどう取り組むかもわからない。現職の共和党議員の選挙区は、中南米系有権者が少ないところが大半である。来年の中間選挙を控えて、DACA代替法案の実現よりも、他の争点を重視すべきとの声が支持者の中から上がっても不思議ではない。

このように、DACA代替法案の行方は必ずしも楽観できない状況にある。とはいえ、伝統にとらわれないトランプ大統領が、連邦議会共和党の頭越しに民主党と合意したことをきっかけとして、超党派立法が行われる可能性がある。予期せぬ形で浮上したDACA代替法案の行方に注目する必要があるといえるだろう。

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