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論考 2017/12/11

税制改革法案でのトランプ大統領と共和党議会の距離

渡部恒雄(笹川平和財団上席研究員)

現在のトランプ政権と議会共和党の最大の課題は税制改革法案の成立である。下院での法案可決に引き続き、12月1日、上院で税制改革法案が51対49で可決した。今後は上下院の間での法案の調整作業があるが、トランプ政権と共和党にとっては、税制改革法案の成立に大きく近づいた。共和党から唯一、法案に反対票を投じたのが上院外交委員長を務めるボブ・コーカー上院議員であった。

これに先立つ10月初め、ワシントンでは、トランプ大統領とボブ・コーカー上院議員の関係に注目が集まった。対北朝鮮などの外交政策での意見対立だけでなく、トランプ大統領は、10月7日、ツイッターで「コーカー氏は再選するため、私からの支持を『懇願』した。私が『NO』と言うと彼は撤退した」「彼は再選へのガッツがなかった」と発信した。コーカー氏は、「私は(トランプ大統領からの支持について)結構です(No Thanks)と言った」とし、「ホワイトハウスが(トランプの面倒を見る)『大人の託児所』になっている」とツイッターで反撃した。[1] これにより、両者の確執が明らかになった。

税制改革法案で貴重な一票を握るコーカー上院議員との確執は、法案成立に直接影響するため、大きな注目を浴びた。この夏、オバマケア撤廃法案が失敗したのは、上院では共和党がかろうじて2票だけの過半数(共和党52議席対民主党48議席)を維持していたからだ。

共和党案に民主党が合意する可能性は極めて少ないため、共和党から3人の離反がでれば法案は通らない。実際にはオバマケア撤廃法案で反対票を投じたマケイン上院議員やスーザン・コリンズ上院議員を始め、ロン・ジョンソン上院議員などが法案に対して懸念を示していた。コーカー氏は、共和党上院の貴重な一票を握っている上に、税制法案を審議する上院予算委員会の有力メンバーでもある。しかもコーカー氏も、来年の中間選挙には出馬しないことを明らかにしており、ホワイトハウスや党からの圧力を受けることはほとんどない。

コーカー氏の税制改革の方向性は、トランプ政権や共和党とそれほど異なるわけではない。例えば、先進国の中で最も高い法人税は早急に減税が必要だという点ではあきらかに一致している。また、トランプ大統領が2016年の選挙で「忘れ去られた人たち」と形容した米国の中間層の不満を理解し、高所得者や大企業に有利になる複雑な税制の抜け穴を防ぎ、同時に20兆ドルにおよぶ深刻な政府の累積赤字を削減する必要もある、と考えている。[2] これは9月27日にトランプ大統領が発表して、「中間層に奇跡」を起こすと豪語した税制改革案とも整合性がある。

大きな違いは財政赤字への対処で、これは他の共和党の財政タカ派議員とも共有しているものだ。しかし全体として、それほど両者の政策観が乖離しているわけではない。しかし、だからこそ両者の感情的な対立が懸念されたのである。

 トランプ大統領も、税制改革でのコーカー氏の影響力を理解したらしく、10月10日、この対立が税制改革を推進するうえで悪影響はないとの見方を発表した。[3] しかし、コーカー氏が「大人の託児所」と批判したとおり、これまでもトランプ大統領は、自らの政策の成否や国益よりも、その場の感情が先行する「子供のような」態度を取り続けてきた。

 しかしトランプ政権にとっても、共和党にとっても、税制改革は待ったなしだ。9月末に行われた経営者層、富裕層から成る共和党の資金提供者たちとの集会で、司会を務めたテッド・クルーズ上院議員は、「共和党が税制改革を成立させなければ、来年の中間選挙はウォーターゲート事件レベルの大打撃を受ける」と発言している。特に、共和党の最大の資金提供者であるコーク兄弟のネットワークは、税制改革のためのロビーイングに、今年だけで、1000万ドルを投入したといわれている。[4] それで、税制改革法案が通らないとなれば、中間選挙では共和党議員への風当たりは強くなるだろう。

10月、カール・ローブ元ブッシュJr.大統領上級顧問は、ウォールストリートジャーナルに「内輪もめで自滅するトランプ氏と共和党」を寄稿し、「大統領は自身の政策課題を成立させることを期待はしておらず、コーカー氏への集中攻撃によって議会にその責任を押しつけることを狙っている」との見方を示した。[5] ローブは、考えを改めないと、大統領の任期後半は民主党が上下院いずれかの主導権を握ることになるとして、「トランプ氏が今、オーバルオフィス(大統領執務室)での生活を不愉快に思うならば、民主党が上下院いずれかで過半数を占めた場合、2020年の大統領選が近づくなかで同党が着手するだろうさまざまな調査や議事妨害についてよく考えるべきだ」と警告した。[6]

その後、トランプ大統領は、コーカー上院外交委員長との関係はこじらせたままだが、少なくともマコネル上院院内総務ら党執行部との協力により、共和党をまとめることには成功し、税制改革法案の実現に大きく歩みを進めた。これで、少なくともトランプ政権はひとまず一息つけるはずだ。ただし、10月のワシントンポスト・ABCの共同世論調査によれば、米国民の有権者のうち、この法案を「支持する」と答えたのは28%で、そのうち「強く支持する」は15%にすぎないことがわかっている。[7] 民主党および無党派に極めて人気のない税制法案の成立が2018年の中間選挙に吉とでるか凶とでるかは、現時点では予断を許さない。

1Jonathan Martin and Mark Landler, "Bob Corker Says Trump's Recklessness Threatens 'World War III'", The New York Times, October 8, 2017. [https://www.nytimes.com/2017/10/08/us/politics/trump-corker.html](最終検索日:2017年12月4日)

2"Corker, Toomey Statement on Tax Reform", Senator Bob Corker's website, September 19, 2017. [https://www.corker.senate.gov/public/index.cfm/news-list?ID=ED66A1A9-C2F9-4383-89F7-457330EBDF0B] (最終検索日:2017年12月4日)

3「トランプ氏、有力議員との対立は税制改革に悪影響ないと指摘」『ロイター電子版』2017年10月10日。[https://jp.reuters.com/article/trump-corker-idJPKBN1CG053] (最終検索日:2017年12月4日)

4Sean Sullivan, "Cruz warns GOP could face 'Watergate-level blowout' in midterms if it fails on taxes, health-care", The New York Times, October 13, 2017. [https://www.washingtonpost.com/powerpost/cruz-warns-gop-could-face-watergate-level-blowout-in-midterms-if-it-fails-on-taxes-health-care/2017/10/13/17e5fcee-b028-11e7-a908-a3470754bbb9_story.html?utm_term=.33bbdd59ff7e] (最終検索日:2017年12月4日)

5カール・ローブ「内輪もめで自滅するトランプ氏と共和党」『ウォールストリートジャーナル日本版』2017年10月12日。[http://jp.wsj.com/articles/SB10619584679174994860804583448100851355398] (最終検索日:2017年12月4日)

6同上。

7"Washington Post-ABC News poll September 18-21, 2017", The Washington Post, October 20, 2017. [https://www.washingtonpost.com/page/2010-2019/WashingtonPost/2017/09/26/National-Politics/Polling/release_492.xml?uuid=lY3IyqKpEee1c47IbN_h7Q] (最終検索日:2017年12月4日)

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