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【Ocean Newsletter】バックナンバー

第440号(2018.12.05 発行)

世界的な海洋プラスチックごみ 総量削減対策の動向

[KEYWORDS]欧州委員会/使い捨てプラスチック製品/太平洋ごみベルト
(公社)日本海難防止協会欧州代表、神戸大学海洋科学部客員教授◆長谷部正道

世界の海洋プラスチックごみ量が増大するなか、プラスチックごみの削減は緊急の課題になっており、欧州委員会をはじめとする世界の主要国はプラスチックごみの総量削減のための法制化を進めている。
わが国では、プラスチックごみの分別収集が進んでいるため、プラスチックごみの海洋への流出は他人事と考えている国民も多いが、わが国においても早急にプラスチックごみの総量削減対策に官民で取り組む必要がある。

増え続ける海洋ごみ

人類の生活スタイルの近代化・快適化に伴いプラスチックの生産量は1960年代と比べると約20倍に拡大し、さらに2036年までに現在の倍に増加することが予想される。一方で、世界平均でリサイクル率が9%と低いため、プラスチックの生産量と比例して増加するごみ処理対策が世界的な課題となっている。2015年に行われた研究によれば、プラスチックごみの総量の2%から5%が(約480万から1,270万トン)が毎年海洋に流出した結果、すでに約1億5,000万トンのプラスチックごみが世界全体の海洋に蓄積されている。2016年に欧州委員会がEUの海岸で行った調査によれば、数量ベースで海岸ごみ全体の約半分が使い捨てプラスチック製品、約1/4が漁網等のプラスチック製の漁具で、その他のプラスチックごみと併せると海岸のごみの8割以上がプラスチック製品であった。

プラスチックごみ総量削減が早急に必要となった事情

私の住んでいる英国では今年の正月にBBCで世界的に有名な動物学者であるSir David Attenboroughが『Blue Planet II』という特別番組を通じて、海洋環境汚染、なかでもプラスチック汚染の問題を取り上げた(https://www.youtube.com/watch?v=IW3jEIYBFzg)。この番組をご覧になった英国女王は直ちに英国王室が管理する施設における使い捨てのプラスチックストローやプラスチックボトルの使用を一切禁止し、英国民に範を示したのは記憶に新しい。
こうした国民レベルでの海洋プラスチックごみに関する認識の高まりに加えて、欧州諸国の政府の背中を強力に押しているのが中国の存在である。中国は再生プラスチック製品を国内で安価に生産するために、世界で発生するプラスチックごみの約半分を欧州・日本等から輸入してきたが、近年の中国政府による環境重視政策の一環で、2018年からプラスチックごみの受け入れを一切停止した。これに困った欧州諸国等は中国に代わって、ベトナム・タイ・マレーシア等の東南アジア諸国にごみの引き受けを肩代わりさせようとしたが、中国のようなプラスチック再生産業が発達していないこれらの国の引き受け余力は限られており、中国のプラスチック再生事業者が中国国外に大規模なプラスチック再生施設を整備するまでは、欧州諸国等はごみ処理の方法として海外への輸出に頼れない状況に追い込まれた。日本のようにプラスチックごみを再生・焼却する設備が十分に整備されておらず、ごみ処理の方法として未だに埋め立て処理の比率が約27%と高い欧州諸国では、早急にプラスチックごみの総量を削減する必要に迫られている。

プラスチックごみ総量削減の欧州の取り組み事例

このような状況を踏まえて、欧州委員会は2018年5月に、海洋プラスチックごみの大部分を占める使い捨てプラスチック製品とプラスチック製の漁具に的を絞ったプラスチックごみの総量抑制のためのいくつかの対策からなる規制案を提案した(欧州委員会を含む各国の対策の具体的な内容については別表参照)。10月24日には一部修正し、対応が強化されて可決した。
主たる対策としては、5つある。第1に、ストローなど紙製品によって代替可能なプラスチック製品の製造・販売を禁止する市場規制である。第2に、加盟各国に国家目標を立てさせて、プラスチック代替製品を提供したり、スーパーのレジ袋など使い捨てプラスチック製品を有料化することによる消費量の削減である。第3に、飲料を販売するにあたってボトル代を事前に課金し、ボトルを回収する際にボトル代を返金するといったデポジット制度などを活用することにより、ペットボトルの回収率を2025年までに90%までに引き上げる分別回収の徹底である。第4に、使い捨てプラスチック製品とプラスチック製漁具の製造者に対して、ごみの収集・清掃・処分費用や利用者への啓発活動のために必要な費用を負担させる製造者責任の拡大である。第5に、プラスチック製品の再利用・ごみ処理の方法・ごみを不当に投棄した場合に環境に与える悪影響などについて消費者の関心を高める啓発活動の強化である。以上のような対策を総合的に実施することにより、2030年までに使い捨てプラスチック製品を数量ベースで56%、重量ベースで35%減少させる結果、温暖化ガスの排出量を263万トン削減し、プラスチック製の漁具については、海洋に投棄される不要となった漁具を毎年2,600トン削減することを目的としている。

わが国における今後の対策

日本においても、日本財団が実施している「海と日本プロジェクト」などを通じて、海洋ごみ問題に対する国民の関心は高まってきており、日本政府は来年2019年G20大阪サミットの議長国として、海洋プラスチックごみの削減を主要議題にすることを決め「プラスチック資源循環戦略」の策定を進めている。東京都杉並区などの一部の自治体が既にスーパーのレジ袋の有料化等を義務付けているものの、これまでの日本におけるプラスチックごみ対策は、ごみの分別収集や海岸清掃などごみの回収対策が主体であり、製品の生産段階にまでさかのぼったプラスチックごみの総量削減対策については世界的に見て立ち遅れている。最近の欧米諸国の調査では、海洋プラスチックごみの半数以上の発生源はアジア諸国であり、有名な太平洋ごみベルト地帯に浮かぶプラスチックごみの中では、東日本大震災の日本起源のものが1/3を超え最も多いという調査結果もある。プラスチックごみは決して他人の問題ではないことを認識し、アジア諸国の先頭に立って、欧州の取り組み事例も参考にしながら使い捨てプラスチック製品の総量削減などに積極的に取り組んでいく必要がある。(了)

  1. 海洋ごみについては、本誌第432号「海底に沈むごみの映像や画像で人類が及ぼす深海の姿を見る」(2018/8/5発行)、第424号「超深海まで拡がっていたPOPs汚染」(2018/4/5発行)、第397号「海域に浮遊するマイクロプラスチック研究の最前線」(2017/2/20発行)を参照下さい。
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