Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第426号(2018.05.05発行)

もっと知りたい 海のこと 地球のこと ~GODACの海洋教育の取り組み~

[KEYWORDS]海洋教育/JAMSTEC/地域連携
(国研)海洋研究開発機構 地球情報基盤センター国際海洋環境情報センター(GODAC)管理課課長◆松井宏泰

国際海洋環境情報センター(GODAC)では、主に3つの海洋教育プログラムを展開している。
複数回にわたりプログラムを体験してもらうことで海洋地球科学の知識や体験の「定着」を図るとともに、キャリア教育プログラムでは知識や体験が「仕事」に役立つことを伝えている。
また沖縄県北部の他機関と連携して人材育成の取り組みを行っており、地域のさまざまな分野と広がりを持った取り組みにすることで、海洋教育を推進することができると考えている。

GODACの二つの使命

GODAC(ゴーダック、Global Oceanographic DAta Center、http://www.godac.jp/)は、沖縄県名護市にある2001年11月に開所した(国研)海洋研究開発機構(JAMSTEC)の拠点の一つである。GODACの使命の一つは、JAMSTECの研究情報を世界に発信する役割で、潜水調査船や無人探査機、研究船で得られた映像、画像、観測などの研究データのアーカイブ、加工とその情報発信を行っている。もう一つは、海洋科学技術を身近に感じてもらうための沖縄県内の人材育成や理解増進に関する役割であり、施設内の利用開放ゾーンは個人・団体の見学を受け入れており、昨年度の年間来館者は約2万人、開所からの累計は約22万人に上る。また、海洋教育・人材育成の取り組みとして、施設来館者への解説のほか、イベント開催、学校などに出向く「おでかけ教室」などを行っている。

もっと知りたい 海のこと 地球のこと

このキャッチフレーズのもと、GODACでは、伝える相手ごとに視点とメッセージを設定し、さまざまな人材育成プログラムを展開している。GODACのメインターゲットとなる小学校低学年には、海洋科学技術の存在を認識させるために、「驚きと発見・科学に対する興味」を持つきっかけを提供し、科学好きな子どもたちを育むことを目的としたアプローチをしている。小学校高学年から中学生には、既存展示以上の科学情報を伝えるために、「理科から科学へ」を意識したプログラムにしている。中学生後半から高校生対象には、「科学的な見方や考え方を育む」ことを意識したプログラムにするとともに、進路選択を間近に控えた高校生には「キャリア教育プログラム」受講を積極的に勧めている。高校生後半から大学生は「科学的分野への高い関心」が養われていることを前提に、進路/専攻での実践を意識した情報提供を行うようにしている。そして、この子どもたちを見守る先生や保護者には、子どもや地域にGODACの情報を橋渡ししてくださるメッセンジャーの役割と考えて接している。

海洋地球科学の「定着」を図る

具体的にGODACの三つの取り組みと地域での取り組みを紹介する。
一つ目の取り組み「おでかけ教室」は、離島を含む沖縄県内の小中学校に出向いて授業1コマほどの時間で提供するプログラムである。学校にはない道具を使った実験や映像を交え、理科の授業などをサポートできる三つのプログラムを提供している。

  • 「深海のお話」と「水圧実験」(小学校第4学年理科「粒子/空気と水の性質」、中学校第1学年理科「エネルギー/力と圧力」をサポート)
  • 「サンゴ礁のお話」と「海の酸性化実験」(小学校第6学年理科「粒子/水溶液の性質」、中学校第3学年理科「エネルギー/自然環境の保全と科学技術の利用」、「生命/生物と環境」をサポート)
  • 「海洋科学に関わる仕事」(キャリア教育プログラム)

■図1
小型ROV操縦の効果測定の様子

二つ目の取り組み「水中カメラロボット(ROV)操縦体験」は、JAMSTECが行う深海調査を身近に感じてもらうための体験型プログラムで、施設一般公開や外部機関のイベントでとても人気の高いプログラムである。
この二つの取り組みを提供して感じていた共通の課題は、知識としての「定着」である。以前のGODACの理解増進事業は、施設見学に来る子どもを対象に深海生物の紹介、海洋観測機器の説明、水圧実験などを詰め込んで伝えていた。しかし、1時間弱の施設見学だけでは時間が足りず、伝えたかったこと、知識として持ち帰ってほしかったことが子どもたちに定着しているか? という疑問があった。ROV操縦体験も「楽しかった!」という体験だけで終わってしまう子どもが多く、知識を持ち帰る内容になっていなかった。また、この体験が将来の「仕事」に役立つという気づきも持ち帰ってほしいと考えていた。
それを改善するため、施設見学を希望する学校には、事前におでかけ教室も行う2段階構成のプログラムを提案することにした。おでかけ教室ではワークシートを提供して事前学習、施設見学では実機や標本を間近に見てもらい答え合せ、さらに湧いた興味には説明員が解説、という形にした。ROV操縦体験については、スキルアップ形式を取り入れた「ROVパイロットトレーニング」というプログラムを開発した。一年を通した3段階、4回シリーズのだんだん難しくなる操縦課題にチャレンジするもので、最終的に効果測定(卒業検定)を行って小型ROV操縦パイロットの免許証を取得するという達成感が得られる内容にした(図1参照)。
三つ目の取り組み「キャリア教育プログラム」は、お出かけ教室の三つ目のプログラムでも実施している「海洋科学に関わる仕事」の紹介である。海洋観測技術員を経験したGODACの職員がJAMSTECの調査船で行った仕事を詳しく紹介するオリジナルプログラムである。GODAC館内でもユニフォームを展示しながらパネルや映像を使って紹介しているが、仕事をしていた本人から聞く話は、リアリティがあり真剣に聞いてもらえていると思う。このプログラムの開発のきっかけは、「施設見学やおでかけ教室で学んだことが、何に役立っていくのかを示すプログラムが必要ではないか?」「職業を意識したプログラムができないか?」というGODAC職員の意見や利用者ニーズだった。海に囲まれる沖縄の子どもたちには「海の仕事=海洋レジャー・漁業・海運」となりがちだが、その視野を広げるプログラムということで、教育機関の方から好評をいただいている。

地域と連携して人材育成を

最後は、地域の取り組み『ALLやんばる まなびのまちプロジェクト』である。「やんばる」は沖縄県北部地域を指し、この地域に所在する教育研究機関等と連携し、子どもたちへの学びの楽しさを伝えることを目的に教育コンテンツの共同開発、出前授業、イベント等の共催を実施している(図2)。機関単独だと、人手や内容に限界があるが、複数の機関が連携することで、そのデメリットを相互補完でき、ワンストップで色々なプログラムを提供することも可能となった。
子どもたちは、先生方だけでなく地域で育んでいくものだと思う。『ALLやんばる まなびのまちプロジェクト』のような取り組みが各地で行われ、多様性を持った人材育成メニューを揃えながら、海洋教育が拡がっていくことを期待する。(了)

■図2
「ALLやんばる まなびのまちプロジェクト」参画機関 http://allyanbaru.com/

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