Ocean Newsletter

【Ocean Newsletter】バックナンバー

第385号(2016.08.20 発行)

日仏間の総合海洋協力~海と海洋の開発と安全保障のための触媒的なイニシアチブ~

[KEYWORDS]海洋安全保障/総合的海洋政策/海洋タスクフォース
海軍大佐、在日フランス大使館付国防武官●Christophe Pipolo

海洋空間の安全保障の確保のためには、総合的な海洋政策が求められている。
日本とフランスは海によって遠く隔たれるが、両国は共通の地球規模の課題と 安全保障上の課題に直面していることを認識しており、
さまざまな海洋の問題に対しても密接な関連の中で対応していくことができるはずである。
日仏両国の海洋政策の背景を捕らえつつ、両国が包括的海洋イニシアチブを作る可能性とその条件を考察する。

はじめに

本稿のテーマは、対内的には省庁間にまたがり、対外的には国際間の関係にかかわり、また、日仏両国で今も将来も進化し続ける、複雑なテーマである。したがって、本稿は、両国における既定または検討中の公式見解を網羅的に分析するものではない。本稿は、日本およびフランスがそれぞれ策定した二つのブループリント、すなわち、2013年12月に閣議決定された日本の『国家安全保障戦略』および2014年4月フランス国防省制定の『アジア太平洋地域防衛安全保障政策』が、日仏両国にかかわるインド洋・アジア・太平洋地域における海洋問題をどのようにとらえているかを検討する。そして、日仏両国の海洋政策の背景と複数の面接調査の結果に基づき、日仏間で結ばれた「特別な戦略的パートナーシップ」の一環として、共通の包括的海洋イニシアチブを作る可能性とその条件を考察する。

海洋空間(maritime spaces)と総合的海洋政策

本稿で述べる、海洋空間とは、地域的、物理的、経済的、文化的実体に起源をもつ概念である。海洋空間は全球海洋の小区分をなすもので、そこで展開されるあらゆる種類の人間活動と自然現象を含み、活動の全てまたは一部が海に由来し、または海へ向けられているすべての沿岸国の領域(海外領土dependencies)およびその住民をも含むものである。従って、海洋空間とは、多様な活動の場である「海」それ自体だけではなく、海と陸の人間活動と自然現象が収斂する場である沿岸域をも含むものである。こうした理解に立つと、地理的に近い国同士でも、さらには互いに遠く離れた海域同士であってもネットワークを通じて、大きく相互依存しあい、「海をはさんだ」関係が拡大していることに気づかされる。
したがって、海洋空間における安全保障とは、世界の最重要地域においてあらゆる側面の安定・発展・保全が保障されることを目的として、その最重要地域の進化を観察・分析・予測する国家の個別的または集団的な能力、ということである。そのためには国益と「人類の共同の財産」である海洋の管理とを両立させつつ、海洋に存在するさまざまな危険や脅威を克服しながら、平和的かつ持続可能な形で海洋を開発するために、協力的な予防・保護・介入措置を確立することが、暗黙に求められる。これこそが、国内的な海洋政策と対外的な海洋政策の課題であり、総合的な海洋政策の策定が必要な理由である。
日本は、政府のあらゆる海洋関連活動を網羅する総合的な海洋政策を策定する意向を表明し2007年、国会において海洋基本法が成立した。これによって日本の総合海洋政策の基盤が作られ、各省庁間の調整機関として、内閣官房総合海洋政策本部が設立された。
フランスにおける同様の調整機関は、海洋事務総局(SG Sea)である。ただし、その任務は、自然災害および人為的災害への対応に限られている。フランス沿岸では、重大な災害が頻度を増している。SG Seaは、対応する政府機関(海軍、税関、海事局、国家警察、憲兵隊、内務省市民防衛局)を、各地域において一つの権限のもとにまとめる役割をもつ。フランス本土では、Prefet Maritime(管区担当海事長官)が、海外領土においてはPrefet(長官)または高等弁務官がSG Seaの代表を務める。フランス本土では、周辺の海域(英仏海峡、北海、大西洋、地中海)を担当する各司令官(海将)がPrefet Maritimeを兼務し、それぞれの指揮下の艦艇を用いて任務を遂行する。海外領土においては、各地域の長官あるいは高等弁務官が、その海域の指揮官を務める海軍士官の補佐を得ながら任務の遂行にあたる。
2015年10月、省庁間海洋委員会(CIMER)において、SG Sea の調整のもとで策定された国家海洋安全保障戦略が採択された。これは海洋空間の安全保障の確保のための総合的な海洋の戦略的ビジョンと目標を、関連省庁が連携して達成するものとして定めた、共通の枠組みである。

■フランスのEEZ(水色)と大陸棚申請域(赤色)
 (出典:National strategy for the security of maritime areas、2015)

日仏両国の動向と今後への提案

経済その他のあらゆる交換・交流がグローバル化する中で、世界の大国は、戦略的にチームを組む傾向がある。日本とフランスの関係はその顕著な例である。両国の首都の間には1万2千キロという隔たりがあるが、両国は共通の地球規模の課題と安全保障上の課題に直面している。地理的条件の違いから、どの問題を重視するかには差異があるが、環境問題であれ、健康に関する問題であれ、伝統的・非伝統的安全保障の問題であれ、日仏いずれかに重大な危険が生じた場合、それが欧州、あるいはアフリカ、中東、インド洋・太平洋地区などの安全保障にも影響が及ぶことを、両国は認識している。
より具体的には、アジア太平洋地域において両国がそれぞれ主権を有する海洋空間の監視を行うことが、おそらくは両国の海洋協力を試行する手始めとなるであろう。日仏両国が、類似の海洋管理組織と海洋政策を持っているとすれば、東京・ヌメア(仏領ニューカレドニア)・タヒチ(仏領ポリネシア)を結ぶ線上の海洋空間の安全保障問題を調査・監視することが考えられる。このようなイニシアチブは、国防省防衛研究所(NIDS)、フランス軍事学校戦略研究所(IRSEM)等の戦略研究機関、海洋政策研究所(OPRI)等のシンクタンク、各省庁の専門家、海軍および沿岸警備隊の職員・要員、海洋政策・海洋監視・国家安全保障関係省庁間調整機関の専門家などからなるネットワーク(海洋タスクフォース)によって、実施可能であろう。
フランスはこうした包括的な取り組みをすでにオーストラリアおよびニュージーランドとの間で実施している。日仏間においても、安全保障、持続可能な開発、さらに、海洋監視・観測、小島嶼地域と気候変動、再生可能エネルギー、深海鉱物資源、漂流ゴミ、広域海洋保護区などの社会・環境問題などに対して密接な関連の中で対応していくことができるはずである。日仏の研究者および政府の専門家を一堂に集めた省庁間連携海洋セミナーを、2017年末までに日仏が共催して、具体的で触媒的な一歩を踏み出すことは可能であろう。(了)

本稿は、著者が仏防衛研究所第62期一般課程研修員として2014年9月より2015年6月までの期間に行った戦略的研究プロジェクトの成果をもとに執筆されたもので、所属部署ならびに仏政府の公式見解ではありません。
英語で寄稿いただいた原文を事務局が翻訳・まとめたものです。原文は /opri/projects/information/newsletter/backnumber/2016/385_1.htmlでご覧いただけます。
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