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第433号(2018.08.20 発行)

熊本県沿岸域再生官民連携フォーラムの設置と目指すところ

[KEYWORDS]有明海・八代海/環境と防災の調和/沿岸地域づくり
熊本大学名誉教授・熊本県沿岸域再生官民連携フォーラム企画運営委員長◆滝川 清

有明海・八代海の環境再生が、まだまだ思うように進展していない現状に対して、まずは熊本県から関係するさまざまな人・機関が集い、熊本県沿岸域の環境と防災の調和した沿岸地域づくりをみんなで考える場としての「熊本県沿岸域再生官民連携フォーラムの設置」について、その背景・経緯・目的などを紹介する。

有明海・八代海の現状と課題

広大な干潟、潮位差、閉鎖性内湾など独特の自然環境を有する有明海・八代海域は、気象・海象・地象の要素に生態系が加わり、さらに内陸からの人為的影響を大きく受ける複雑な因子に支配される環境系にあります。かつて豊穣の海として多くの恵みをもたらしてくれたこの両海域は、水産資源の減少や赤潮の長期化・大規模化、底質の悪化などに代表されるように、著しい環境劣化の悪循環に陥っていると考えられ、海域環境の回復と再生に関する科学的研究の実施と共に、再生策が緊急を要する国家的課題であります。
また、海域環境の悪化が著しい一方で、台風の常襲地帯でもあるこの両海域では、毎年、高潮・高波等の海象災害や強風、豪雨による洪水、土砂災害などに悩まされ、自然災害に対する防災・安全対策は欠かすことができません。その反面、1999(平成11)年台風18号による被害状況から高潮対策のための海岸堤防等の防災構造物の建設が自然環境に影響を及ぼしている面もあります。すなわち、この海域では環境と防災という課題に直面している事実があり、どちらかを選択するというような単純な課題ではなく、「いかにして環境と防災との調和した沿岸地域社会を形成するか!」が大きな課題であります。

フォーラム設置の背景と経緯

有明海・八代海の環境悪化が顕著となり、その再生が社会的重要課題として取り上げられてから約20年もの長期になっています。国家行政レベルでは、2000年冬の「有明海ノリ不作」を契機に「有明海及び八代海を再生するための特別措置に関する法律」が2002年11月に施行され、環境省に「有明海・八代海総合調査評価委員会」が設置されました。数多くの調査・研究を基に、平成18年および平成28年度に『有明海・八代海等総合調査評価委員会報告』が取りまとめられていますが、実効性のある具体的な再生策は未だに不十分のままの状況にあります。さらに最近では2016年4月の熊本地震や2017年7月の九州北部豪雨など、頻発する自然災害への課題にも直面しており、この海域では環境と防災の両者への対応に迫られている現状にあります。
この、有明海・八代海が抱える重要課題に対しては海域および陸域を含めた沿岸域一帯としての取り組みが必要であり、国や県等の行政機関のみならず地域住民・学識者など関係するすべての人々が参集し、議論し対策を検討・実施していく「体制(システム)とその場」が重要です。しかし、現状では有明海・八代海の海域全体にかかわる「体制・場づくり」の設置は、社会的にもさまざまな障害が存在しており、非常に困難と判断せざるを得ない状況です。
このような状況のもと、まずは八代海を対象に、2015年10月に「第8回全国アマモサミット2015 in くまもと・やつしろ」を開催し、白熱の議論を展開しました。その成果を『熊本宣言文』※1としてまとめ、皆で再生に取り組むという大きな一歩を踏み出しました。このサミットは、有明・八代海の再生に向けて、まずは熊本県から「再生の体制・場づくり」を始め、再生連携体制の範例となることを意図したものです。
このサミットの後、多様な関係者から構成される準備会を立ち上げ「熊本県沿岸域再生官民連携フォーラム」の設立の準備を進めてきたところです。また、2017年7月には、日本沿岸域学会全国大会(熊本)2017を開催、「シンポジウム:熊本地震と有明・八代の海~有明海・八代海の将来に向けてどう取り組むか?~」において議論を交わし、『提言:熊本の海の再生に向けた行動を』※2をとりまとめ、早急にアクションを起こすことを参加者一同で確認、宣言しました。

官民連携による環境と防災の調和した沿岸地域づくり

上述の背景と経緯のもと、2017年12月1日に「熊本県沿岸域再生官民連携フォーラム」※3の設立総会を開催しました。有明海・八代海の環境再生が、まだまだ思うように進展していない実情に対して、本会は、まずは熊本県沿岸域を対象に、関係するさまざまな人・機関が集い、熊本県沿岸域の環境と防災の調和した沿岸地域づくりを目標に設置したものです。わが国における海域再生に関わる会議(フォーラム)の設置は、東京湾、大阪湾、伊勢湾、広島湾では、すでに行政主導により「再生推進会議」が設置されておりますが、有明海・八代海には未設置のままで、産・官・学・民が当初から協働・連携して立ち上げ、活動・展開するという、前例のない極めて画期的・先駆的な取り組みであります。設置に際しては「東京湾再生官民連携フォーラム」を手本として、放送大学学長・東京湾再生官民連携フォーラム議長の來生新先生、海洋政策研究所古川恵太氏に多大なご教示を賜りました。
本フォーラムの全体概要は図に示すように、沿岸海域に関わるすべての関係者が集い「海域環境の保全と改善」「水産資源の回復と漁業振興」「環境と防災の調和」の3つを基本として「沿岸地域の活性化」を図ることをテーマに掲げ、各テーマに関わる具体的な計画と実施を行うプロジェクトチーム(PT)を設置し活動を推進します。本フォーラムは沿岸地域づくりに関する自主活動とともに熊本県沿岸域再生施策推進者(熊本県、市町村、国、漁業関連機関等)への提言や連携を行います。国の行政レベルの有明海・八代海再生の特別措置法に対し、地元住民・地元行政が連携して具体策を提言し、実施を行うものです。
現在は、官学民から構成する22名の企画運営委員から承認された2つのプロジェクトチーム(八代海湾奥環境改善・保全シナリオづくりおよび再生策検討PT、活動PR戦略PT)が活動しています。
有明海・八代海の再生にあたっては、国や県等の行政のみならず、関係する全ての人々が集い、議論を重ね、対策を検討・実施していくことが重要であり、この「熊本県沿岸域再生官民連携フォーラム」がまさに、その「みんなで考える場」であります。広く皆様にも、本会へのご理解と多数のご参画をお願い申し上げます。(了)

■フォーラム全体像

  1. ※1八代市HP 日本各地の英知を集めて海の再生を 全国アマモサミット http://www.city.yatsushiro.lg.jp/wadai/kiji0034857/index.html
  2. ※2沿岸域学会誌/第30巻 第2号 2017.9
  3. ※3熊本県沿岸域再生官民連携フォーラムHP http://www.kumamoto-forum.com/index.html
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