SPF China Observer

中国の政治・経済・社会・外交・安全保障についての分析を発信

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衛星画像分析 2022/09/22

特別寄稿:ザポリージャ原発の現状と今後の懸念事項

小林 祐喜(笹川平和財団研究員)

 ウクライナ南東部に位置し、ロシアが占拠している欧州最大規模のザポリージャ原子力発電所をめぐる情勢が緊迫している。2022年8月以降、砲撃が相次ぎ、ウクライナ、ロシア双方が相手による攻撃と非難している。9月に入り、国際原子力機関(IAEA)のグロッシ事務局長を含む調査団が同原発の安全性を検証し[1]、その後、2名のIAEAスタッフが常駐しているが、砲撃は止んでいない。ウクライナ軍の反転攻勢が伝えられる中、ロシアは同原発の軍事拠点化を進めている。同原発からウクライナ軍に対してロケット砲などを発射しても、原子炉の破損などによる大規模な放射性物質の放出の恐れがあり、本格的な反撃を受ける可能性は小さい。つまり、同地域の奪還を目指すウクライナ軍に対して原発を「核の盾」とする姿勢を強めている。

 世界の懸念が強まる中、笹川平和財団China Observerでは、衛星画像から同原発の現状と今後の懸念事項を検証した。具体的には、IAEAの査察チームの一員としてイラン、イラクの核開発疑惑の検証にあたった岩本友則・日本核物質管理学会事務局長とともに、衛星画像を分析し、同原発の構造や今後の課題を抽出した。

 下に示す衛星画像は2022年9月3日に撮影されたザポリージャ原発(衛星画像1)である。画像の中央からやや左寄りに、丸形の赤い屋根の建造物が六つ並んでいる。これらは原子炉を収納した建屋であり、原子炉6基が集中立地していることがわかる(画面下から上へ1号機~6号機)。日本では東京電力福島第一原発(原子炉6基)や同柏崎刈羽原発(7基)など、原子炉の集中立地は珍しくないが、欧州で5基以上が集中立地する事例は多くない。9月11日、安全確保のため、唯一運転されていた6号機を停止し、すべての号機が運転休止となっている。

衛星画像1

衛星画像1

 ザポリージャ原発の原子炉はロシア型加圧水型原子炉(VVER)と呼ばれる型式を採用している。原子炉の中で、核燃料の熱により発生した高温高圧の水を蒸気発生器に送り,そこで蒸気を発生させてタービンに送り発電する方式である。旧ソ連で開発された原子炉で、初期型は原子炉を保護する格納容器がなく、チョルノービリ原発のように核燃料の溶融(メルトダウン)が発生すれば、高濃度の放射性物質がそのまま放出される恐れがあった。ザポリージャ原発で採用されているVVERは第三世代で、格納容器を備え、安全強度については西側諸国の原子炉並みに高めている。

 6基の原子炉は、それぞれ1,000Mwe(メガワット)の電気を出力する能力を有し、合計6,000Mweを発電できる。この発電能力は、福島第一原発(6基計4,696Mwe)を上回り、欧州で最大、世界では柏崎刈羽原発(7基計8,212Mwe)などに次ぐ3番目の大きさであり、ザポリージャ原発はウクライナの電力供給の約20%を賄っている。

 6基の原子炉建屋の真後ろ、画像でいえば右側に、灰色の建物が2棟並んでいる。これらの建物には、各原子炉を運転、監視する中央制御室が置かれ、作業員が常駐している。

 画像の上部にある黄色の囲いで示した白っぽい建物は使用済み核燃料の保管庫とみられる。下に示すのはこの建物を拡大した衛星写真(衛星画像2)である。屋上付近に熱交換器(赤で囲った部分)が観察できるため、岩本氏は「使用済み燃料を冷却する目的とみられ、ここに使用済み燃料を保管しているのだろう」とみる。

衛星画像2

衛星画像2

 今回の衛星画像分析で最も注目し、分析を試みたのは危機管理センターの位置である。全ての原発は、原子炉異常などの緊急事態に備え、放射性物質を遮蔽する素材で建築した緊急対策室、あるいは危機管理センターと呼ばれる施設を有している。ザポリージャ原発に関しては、危機管理センターをロシア軍が占拠しており、IAEAの調査チームの立ち入りが認められなかった。分析にあたり、下に示す衛星写真(衛星画像3)やIAEAの調査報告書の衛星写真など同原発全体を俯瞰するものを岩本氏とともに分析したが、特定できなかった。

衛星画像3

衛星画像3

 衛星画像3は原子力発電のもう一つの特徴を示唆している。原子炉の冷却のために大量の水を必要とするため、豊富な水源が近くにあることが不可欠である。ザポリージャ原発はドニエプル川のカホフカ貯水池の岸に位置する。衛星画像3の貯水池を見れば、原子炉建屋に水を送る配管施設のほか、核燃料などを搬入する広大な港湾施設も設置していることが観察できる。

 ドニエプル川はロシア北部のヴァルダイの丘(標高220m)に源流があり、ベラルーシを通ってウクライナを縦断する。首都キーウ、ザポリージャを経て最後は南部ヘルソン州に至り、黒海に注ぐ。総延長約2,290キロの大河で、流域には、肥沃な黒土地帯が広がり、同国中部、南部は、ロシア帝政時代から「欧州の穀倉」と呼ばれてきた。世界第5位の輸出を誇る小麦をはじめ、農業は同国の主要産業となっている。ウクライナ国家統計局の2019、2020両年のデータによると、穀物は同国の輸出額(約492億ドル)の19%を占める。

 この事実がザポリージャ原発の「核の盾」としての価値を高めているという皮肉な側面がある。放射性物質の大規模な放出が起これば、食糧安全保障についても、その世界的影響は計り知れない。さらに、その場合は、ロシアが実効支配するクリミア半島にも汚染が広がるほか、欧州の広域にわたって放射性物質がまき散らされることになる。同原発を運営するウクライナ国営のエネルゴアトムはすでに放射性物質の拡散予測を公表している[2]。

 そのような惨事に至る原因として、まず、送電線の破壊などによって、原子炉を制御する中央制御室が機能不全に陥ったり、原子炉の冷却機能が喪失したりする事態が考えられる。原子炉の冷却ができなくなれば、核燃料のメルトダウンにより、原子炉内が異常な高温高圧になり、炉そのものや原子炉を保護する格納容器が破損するほか、核燃料が溶融する過程で大量の水素が発生、漏洩するため、原子炉や格納容器を収容する建屋の爆発が発生する。結果として大量の放射性物質が放出される。

 衛星画像1をあらためて見ていただきたい。IAEAの調査で中央制御室があるとみられる建屋の屋根に砲撃痕が確認されており、その部分を緑色の囲みで示している。この建物は2号機原子炉建屋からわずか130メートルほどしか離れておらず、同原発が危険と隣り合わせであることを物語る。

 使用済み燃料の適正管理も重要である。原子炉が頑丈な鋼鉄製であり、そのうえ格納容器で保護され、意図的な航空機の激突にも耐えられる頑健性を有するのと異なり、衛星画像2で示した使用済み燃料の保管施設は外部からの攻撃に対して脆弱である。使用済み燃料が大気にむき出しになれば、高濃度の放射線が放出される。

 ザポリージャ原発は現在、すべての原子炉が停止されているが、それで安全が確保されるわけではない。運転を休止しても、核燃料自体は膨大な熱を出し続け、原子炉の冷却が欠かせないためである。メルトダウンは進展が早く、危機は連鎖する。福島第一原発事故では、発生から5日の内に、1号機原子炉建屋の爆発、3号機原子炉建屋の爆発、2号機格納容器の破損、4号機使用済み燃料プールの爆発及び火災が立て続けに発生した。この4号機使用済み燃料プールの爆発後、日本政府は「最悪のシナリオ」として、東日本にほとんど人が居住できない状況も想定していた[3]。

 こうしたことから、IAEAは現在、ザポリージャ原発周辺に「安全保護区」と称する非武装地帯を設置しようと、ロシア、ウクライナ両国と協議している。反転攻勢に転じたウクライナ軍がザポリージャ原発のドニエプル川対岸に着々と軍隊を配備していると伝えられる中、原子力が有する潜在的な脅威を両国が理解し、周辺国を含め、広域に影響が及ぶような事態を回避するよう期待する。

(了)

1 IAEA “Nuclear Safety, Security and Safeguards in Ukraine: 2nd Summary Report”

2 Енергоатом Facebook

3 「福島原子力発電所の不測事態シナリオの素描」。パワーポイント15枚の資料で、当時の菅直人内閣が近藤駿介原子力委員会委員長に作成を依頼した。内閣への提出は事故発生から2週間後の2011年3月25日。同内閣はこの資料を公開していないが、筆者が独自に入手した。

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