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衛星画像分析 2021/11/09

003型空母の建造状況

小原 凡司(笹川平和財団上席研究員)

 2021年3月17日の、元海上自衛隊呉地方総監、池田徳宏海将(退役)による論考は、2020年10月25日現在の上海江南造船所の衛星画像を用いて分析されたものである。本稿では、以降の003型空母の建造状況を紹介する。

図1 2021年3月10日 建造中の003型空母(上海江南造船所)

図1 2021年3月10日 建造中の003型空母(上海江南造船所)

 図1は、2021年3月10日現在の同艦の建造状況を示す衛星画像である。乾ドックでは同艦の船体下部の建造が進んでいる。衛星画像で測定する限り、この状態での船体の全長は305メートル、全幅は45メートルである。同画像から、同甲板上の一部の配線や配管の様子も観察できる。また、船体下部に、主機(エンジン)や発電機などが配置される甲板を見ることができる。

 また、常盤には上部甲板構造物が9つのブロックに分かれて設置されており、乾ドックに設置された船体上に増設されていくと考えられる。

図2 2021年3月23日 建造中の003型空母(上海江南造船所)

図2 2021年3月23日 建造中の003型空母(上海江南造船所)

図3 2021年4月26日 建造中の003型空母(上海江南造船所)

図3 2021年4月26日 建造中の003型空母(上海江南造船所)

 図2および図3は、それぞれ同年3月23日および4月26日の衛星画像である。常盤に置かれていた9つのブロックが順に船体上部に据え付けられ、4月26日現在、9つ全てのブロックが上部甲板として設置されていることが分かる。同画像からは、下部甲板の配管の設置が進んでいる状況も見て取れる。

図4 2021年5月7日 建造中の003型空母(上海江南造船所)

図4 2021年5月7日 建造中の003型空母(上海江南造船所)

 常盤上の9つのブロックは全て船体に設置され、配管や装置の設置といった艦内の作業が進められているように見える。

 2021年5月7日現在、甲板の中部および後部に、前後方向約30メートル左右方向約25メートルの甲板が塞がれていない部分が確認できる。ロシア海軍の空母と同様の構造であるとするなら、甲板が塞がれていない部分から観察できる艦内の区画は機関部であると考えられ、ここに主機(エンジン)が設置されると予想される。

図5 2021年7月12日 建造中の003型空母(上海江南造船所)

図5 2021年7月12日 建造中の003型空母(上海江南造船所)

 7月12日の画像では、エンジン関連装置および艦内の配線の状況が確認できる。また、カタパルト関連装置と考えられるレール状の線が前甲板に2本、左舷に1本確認できる。

 中国は、2014年には試験用電磁式カタパルトを製造し実験を開始していたことが分かっており、003型空母は電磁式カタパルトを採用するとみられる。周囲の配線は、発電機、強制蓄電装置と直線リニアモーターを繋ぐものである可能性もある。

 また、右舷に上部構造物(アイランド)の下層部分が建造されているのが確認できる。

図6 2021年7月23日 建造中の003型空母(上海江南造船所)

図6 2021年7月23日 建造中の003型空母(上海江南造船所)

 7月23日現在、甲板が塞がれていない二箇所それぞれの艦尾側の半分ほどの上部に環境シェルターが設置されており、機関室において衛星画像等の情報を取られたくない装備品の設置等が行われた可能性がある。

図7 2021年9月6日 建造中の003型空母(上海江南造船所)

図7 2021年9月6日 建造中の003型空母(上海江南造船所)

図8 2021年9月27日 建造中の003型空母(上海江南造船所)

図8 2021年9月27日 建造中の003型空母(上海江南造船所)

 9月6日の画像では、前甲板の2本のカタパルトのうち、左舷側の線状の構造物の上部に環境シェルターが設置され始めたことが見て取れる。9月27日の画像では、その線状構造物の4分の3が覆われている。電磁式カタパルトのコア技術の一つである直線リニアモーターを設置するにあたり、衛星などによって当該装備品に関する画像情報等を取られないようにするためのものであるとも考えられる。

 また、9月27日の画像でも、主機等の動力系統が未だ設置されていない状況が確認できる。

図9 2021年10月23日 建造中の003型空母(上海江南造船所)

図9 2021年10月23日 建造中の003型空母(上海江南造船所)

図10 2021年10月30日 建造中の003型空母(上海江南造船所)

図10 2021年10月30日 建造中の003型空母(上海江南造船所)

 10月23日の画像では、エンジン・ルーム上の甲板が設置されている状況が確認でき、すでに主機が設置されたものと理解できる。前甲板左舷側のカタパルト装置に加え、左舷のカタパルト装置にも環境シェルターがかけられている状況が確認できる。また、右舷のアイランド(上部構造物)はすでに上部まで建設が進んでいる。

 建造の状況および常盤に別の船体のものと思われるブロックが置かれていることから、003型空母は遅くとも2022年の早い時期に進水する可能性が高い。

 完成形に近い思われる10月30日の画像で計測すると、003型空母の全長は318メートル、全幅は78メートルである。全長では米海軍のジェラルド・R・フォード級空母の337メートルに比して約20メートル短いが、全幅は同等であり、003型空母は米海軍の最新空母と同等に近い航空機を搭載できるとの分析もある。

 しかし、当初、4基のカタパルトを装備すると予想された003型空母は、衛星画像を見る限り、3基のカタパルトしか装備しておらず、また、航空機用昇降機(エレベーター)も、ジェラルド・R・フォード級空母の3基(右舷2基、左舷1基)に対して003型空母は右舷に2基を装備するのみである。カタパルトと昇降機の数の差は、航空機運用効率の差につながるため、003型空母の航空機運用能力は米海軍空母に及ばないと考えられる。

 さらに、003型空母には艦載機の問題が残されている。2016年には米海軍関連メディアが、カタパルトを用いて射出するためのカタパルト・ローンチ・バーを装備したJ-15の存在を報じている[1]。だが、「遼寧」および「山東」に搭載されているJ-15は操縦系統に問題があり、すでに生産が停止されているとされる。中国海軍の現有のJ-15は、「遼寧」および「山東」の搭載所要さえ満たせないとの見方もある。そうすると、003型空母には新しい艦載機が必要とされる。

 2020年7月、中国航空研究院が公式サイトで「2021年に新世代戦闘機が初飛行する」と宣言した。だが、その前年の2019年に中国航空工業集団有限公司が公式サイト上で新型戦闘艦載機のシルエットを示し、ネットユーザーにその正体を問うクイズを出していたことから、新しい艦載機は2021年中に初飛行すると考えられていた[2]。中国航空工業が示したシルエットはJ-31に似ているという指摘もある。中国人民解放軍は研究開発の順序が違うとしてJ-31を採用しないとしていたが、輸出用のFC-31の改良型が艦載機とされる可能性が高いとする報道もある[3]。一方で、中央軍事委員会はJ-20を改良して艦載機にしたいという意向を有するとも言われ、新型艦載機の実体は未だ明らかになっていない。2021年11月現在、新世代戦闘機の初飛行も確認されていない。

 中国海軍の艦載機搭乗員の養成にも課題が残っている。中国空母の能力については、空母そのものの航空機運用能力に加え、艦載機および艦載機搭乗員の能力についても考慮しなければ、明確にすることはできない。まして、中国の軍事力を評価するに当たっては、兵器の性能を見るだけでは不十分であり、技術力を含むそれぞれの兵器の製造能力および運用能力等も併せて分析しなければならない。さらに他の兵器との連携やバランス、作戦全体の中での位置付けなども考慮されなければならないのである。

(脱稿日 2021年11月9日)

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