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SPF China Observer

衛星画像分析 2021/05/24

上海江南造船所

池田 徳宏(元海上自衛隊呉地方総監/海将)

 新華社通信が中国海軍3隻目の空母(現在は「003型空母」と呼称)の建造を公式に配信したのは2018年11月であった。米国の戦略国際問題研究所(Center for Strategic and International Studies, CSIS)は衛星画像を用いて詳細な分析[1]を行い、2019年5月に上海江南造船所において「003型空母」の建造が開始されているであろうと分析した。新しい組み立て施設や大型艦を係留する岸壁が建設中であり、その組み立て施設に船首部と思われる構造物が確認できたとされている。

 笹川平和財団China Observerでは今回初めて2020年10月までの江南造船所の衛星画像を入手した。CSISのこれまでの分析も参考にしつつ003型空母の建造状況等について画像分析する。

 下の写真は2020年10月の上海江南造船所の衛星画像である。003型空母は「新・組み立て施設」においてブロック工法により組み立てられた後に、既に大部分のブロックが約2Km離れた「造船台(乾ドック)」に移動されている。これまで中国海軍は未完成であったソ連の空母ワリヤーグを買い取り大連造船所でこれを完成させ初の空母として2012年9月に「遼寧」を就役させた。2番艦「山東」(中国初の国産空母)も大連造船所で2019年12月に就役させている。3番艦である003型空母が大連造船所ではなく上海江南造船所において建造されることになった理由は不明であるが、今回入手した衛星画像は江南造船所において空母建造のために相当なスピードで大規模改修工事が実施されてきたことを示している。

2020年10月 (China Observer)

© MAXAR Technologies, Inc.

 003型空母の「新・組み立て施設」付近はCSISの分析[1]によれば2018年10月の時点では沼地(Agricultural Fields being Flooded)のような状況であったが2020年8月には巨大係留施設が建設されたことが示されている。

NEW BASIN AT JIANGNAN SHIPYARD

© MAXAR Technologies, Inc.

 まず、「新・組み立て施設」について分析する。

 今回入手した「新・組み立て施設」の衛星画像には、2019年3月、2019年12月、2020年4月そして最新の2020年10月のものがある。

 下の衛星画像は2019年3月のものである。環境シェルターという移動式の建物と大小二つの「ガントリークレーン」が設置されている。「1レーン」には資材が置かれ「2レーン」においてこれらの資材をブロック化する作業が行われている。ブロック化の作業は移動式の環境シェルター内で実施され、完成されたブロックは環境シェルター外に出ていることが確認できる。「3レーン」は未整備の状態であり、また沼地も浚渫作業が終了していない状況である。

2019年3月 (China Observer)

© MAXAR Technologies, Inc.

 下の衛星画像は2019年12月のものである。3月との大きな違いは、沼地の浚渫作業がほぼ完了したと思われること、および小型の運搬船と台船と思われる船が新たな岸壁に係留されていることである。また、1レーンと2レーンの間に通常のクレーンが2基設置されており、新しい岸壁に横付けされた作業船や台船と「新・組み立て施設」の間の荷役作業のために設置されたものと考えられる。また道路側には大型の運搬車両も2両確認できるので、海路運搬に加えて陸路運搬も併用されているものと思われる。

2019年12月 (China Observer)

© MAXAR Technologies, Inc.

 下の衛星画像は2020年4月のものである。通常のクレーン2基は既に撤去され、小型運搬船や台船もなくなっている。浚渫済みの海上に通常のクレーンと台船が確認できることから、所要の都度、台船で通常のクレーンを洋上から「新・組み立て施設」に設置していることがわかる。2019年12月の画像よりも船首部分が鮮明に確認できる。また1レーンの運河側の部分がきれいに整備されているとともに、3レーンの敷地が若干整地され始めているのがわかる。CSISの分析1によれば2020年5月24日から6月2日の間に組み立てられたブロックが「造船台(乾ドック)」に移動したとされていることから、この衛星画像にあるブロックはこの直後に移動したこととなる。

 造船所の能力は、ガントリークレーンの重量制限と大型運搬車両の積載制限に大きく左右される。重量制限と積載制限が小さければ小さなブロックごとに、「造船台(乾ドック)」に運搬することとなり非効率である。また「造船台(乾ドック)」にクレーンで吊るした状態でのブロックの溶接作業が増加すればそれだけ建造の精度は悪くなってしまう。

 2レーンのブロックの大きさのものを大型運搬車両で「造船台(乾ドック)」に移動したとすれば、その運搬車両の積載制限は比較的大きいものと見積もられる。

2020年4月 (China Observer)

© MAXAR Technologies, Inc.

 下の衛星画像は最新の2020年10月のものである。この画像では「新・組み立て施設」がほぼ完成されたように見える。3レーンは既に組み立て施設として利用されており、環境シェルターが2レーンから3レーンに移動され、小型のガントリークレーンも3レーンに移動している。また浚渫済の海には新たな係留施設がほぼ完成している。また周辺には「新たな建物」が建設されている。

 2レーンには新たなブロックが置かれており、3レーンの環境シェルター内ではブロックの組み立て作業が進捗しているように見える。「新・組み立て施設」の「新たな岸壁」には「浮きドック」が横付けされている。このように「新・組み立て施設」は003型空母の建造に合わせて大規模改修が実施された。この組み立て施設は陸上部分だけでなく、沼地を浚渫して両岸に約1000mの艦船係留施設(岸壁)が2つ建設された。今後この施設及び新たな係留施設が本造船所の艦船組み立てと艤装および修理の中枢となるものと思われる。

2020年10月 (China Observer)

© MAXAR Technologies, Inc.

 他方艦船建造の効率化を考えると1レーンは「乾ドック」として建設したかったのではないか。艦船建造のスピードが速すぎてそこまでの建設ができなかったのであれば、今後1レーンを「乾ドック」に建設する可能性がある。

 通常は、下図のようにガントリークレーンは「乾ドック」と「常盤」を跨いで設置される。(003型空母建造中の「造船台(乾ドック)」もそのようになっている。)このようにすれば「常盤」において精密にブロックの大組(ある程度の艤装品をで組み込み)が実施でき、これをガントリークレーンによって横移動させて造船台においてブロックを連結することができ効率的かつ建造の精度がよくなるからだ。

乾ドック 常盤 ガントリークレーン

図 筆者作成

 次に003型空母が建造されている「造船台(乾ドック)」の分析を行う。

 下の衛星画像は2020年10月のものであり、「新・組み立て施設」と「造船台(乾ドック)」の位置関係を示している。この画像では003型空母建造中の「造船台(乾ドック)」の後部に055型ミサイル駆逐艦が入渠している。

 この画像でも、江南造船所が今後の大型軍艦建造のために大規模な施設建設を実施していたことが確認できる。「新・組み立て施設」の「大規模係留岸壁」(約1000m)には大型の商船が係留されている。今後は003型空母がこの岸壁において艤装工事や修理を行うことになるであろう。

 また「新・組み立て施設」には「浮ドック」が接岸されているが、浮ドックは艦船の修理のためには効率がよく多く使用されるが、動揺が予想されるため精密なブロック溶接には不向きであり、艦船建造の造船台には適さない。

2020年10月 (China Observer)

© MAXAR Technologies, Inc.

 下の衛星画像は2020年10月の003型空母建造中の「造船台(乾ドック)」である。

 CSISの分析[1]では2020年8月の段階で9つの船体ブロックが間隔を置いて配置されていると分析されたが、この画像の段階では既に4つの船体ブロックになっていることがわかる。これらブロックの合計の長さは約300mである。飛行甲板を含めた「遼寧」の全長が304.5m、「山東」が315mであることから、300mの船体に飛行甲板が設置されることを考慮すると、003型空母は「山東」と同程度あるいはそれ以上に大きな船体を有することが予想される。船体部分の高さを影の長さから確認すると船体ブロックの積み上げられた高さは乾ドックの高さよりも高く、後部に入渠中の055型ミサイル駆逐艦のマストの影の約1/2にまで積み上げられていることから間もなく船体部分のブロック組み立ては完了するものと考えられる。

 先に示した2020年10月の「新・組み立て施設」の画像では2レーンに既に新たなブロックが置かれている。その形状は003型空母の後部に類似しているが、船体幅が「造船台(乾ドック)」にて建造中の003型空母が43mであるのに対して、2レーンの新たなブロックの船体幅は31mであり4番艦空母ではない艦船の建造が始まっているものと考えられる。中国海軍の空母4番艦の建造が開始されるのではないかとの見方もあるが、この衛星画像ではその兆候は確認できない。引き続き江南造船所内の変化について空母4番艦建造開始の兆候、003型空母の飛行甲板等の組み立て及び「新・組み立て施設」の更なる建設等について分析していく必要がある。

2020年10月 (China Observer)

© MAXAR Technologies, Inc.

(脱稿日 2021年3月17日)

1 China Power : Tracking China’s Third Aircraft Carrier

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