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第49回 2024/04/02

台湾海峡危機における日台軍事協力のあり方について(中編)
― 台湾海峡危機の背景(近因)―

廣中 雅之(元CNAS上級研究員)

 今後、相対的な国力の低下に伴い米国のリーダーシップが弱体化すること、すなわち、米国が諸外国の紛争に関与することに躊躇し始めることに疑いの余地はない。現在の民主党政権だからこそ一定の安定が保たれているが、共和党政権になればより激しく米中が対立することは容易に想像できる。さらに、本年秋には多くの関係者が懸念を持っている特異な考え方と行動様式を持つドナルド・トランプの大統領再選があるかも知れない。短期的には、米国が内政・外政ともに大変な状況を迎える中で、否応なく米国は中国と戦い続けなければならないことになる。『デンジャー・ゾーン』は鋭い指摘であるが、つまるところ、米中間の覇権競争は「100年戦争」とはいかないまでも、短期決戦では(各種のWar Gameの結果で明らかなように)米国がコストを払い過ぎる。そのため米国は戦略的には中国との長期戦を目指さざるを得ない。つまり、米国は、台湾海峡危機においては、あらゆる手段を駆使してそれを抑止し、万一、抑止が破綻した場合においては長期戦に持ち込んで勝利を獲得しようとしていると言うことである。西太平洋における現状維持は米国の勝利によってのみ可能となり、中国による台湾統一の阻止となる。

 台湾海峡危機の背景を踏まえると、抑止が破綻し、実際に台湾海峡危機事態が発生する可能性(ケース)は次のとおりであろう。

  • 共産党指導部が、中国の経済成長の鈍化に伴う国民の不満を逸らすために対外強硬策をとる。国内経済、社会情勢の悪化に伴い現政権指導部の対外政策への批判が強まるなど共産党内部の権力闘争が激化し、対抗措置として強硬策を取らざるを得なくなった場合。
  • 独裁政権である共産党指導部、とりわけ習近平が、ロシアのウクライナ侵攻におけるプーチン同様に武力侵攻が容易であるとの判断ミスをする。この際、人民解放軍が米軍と戦い勝利することができると過信し、強く進言する場合。
  • (台湾政府指導者は現実路線をとっているのでほとんど可能性はないが)台湾が自主独立を突然公式に宣言した場合には、中国共産党はその正当性を失う。そのため、中国は武力行使をしてでも直ちに独立を阻止しなければならないことになる。
  • (極めて可能性は低いが)人民解放軍と前方展開中の米軍の間で偶発的な事故が起きてエスカレーションする場合。

率直に言って、台湾海峡危機の発生のいずれのケースにも日本が直接間接に関与するところはない。米国との戦争の危険を冒してでも、武力を行使する強い動機を中国共産党指導部、習近平が持ち得るかどうか、つまり習近平の米中の軍事バランスの評価こそが、台湾海峡危機が発生するか否かの最も重要なポイントとなる。従って、台湾海峡危機は偶発的に危機が発生すると言うよりも、中国共産党の計算された政策決定の結果として起こる可能性が明らかに高い。2023年11月の米中首脳会談で緊張緩和に向けての国防・軍高官対話の再開が合意され、同年12月、チャールズ・ブラウン統合参謀本部議長と劉振立(リュージェンリー)参謀長の米中軍高官対話が行われた。残念ながら、このチャネルの対話は、ほとんど可能性のない偶発事故防止に止まっている。

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