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第48回 2024/03/28

台湾海峡危機における日台軍事協力のあり方について(前編)
― 台湾海峡危機の背景(遠因)―

廣中 雅之(元CNAS上級研究員)

 中国は14の国と国境を接し、長い海岸線に囲まれた広大な国土と世界最大の人口を持つ国である。中国の長い歴史と固有の文化に対する誇りと19世紀以降の半植民地化の苦い経験が中国国民の国力強化への強い願いとナショナリズムを生んでいる。米国は、中国を「力による現状変更を狙っている国家」として、その経済成長と軍事力の増強を領土拡大とアジアにおける影響力の拡大に利用しているとみている。中国共産党の政策の正当性は、著しい経済成長の持続と建国以来の課題である台湾の統一による一つの中国の実現によって証明される。中国共産党にとって台湾統一は核心的な利益であり、共産党政権の正当性を立証する最も重要な残された課題である。

 中国共産党が政権獲得をして以降、これまで70年にわたって武力侵攻と暴力行為を繰り返してきている歴史的な事実を踏まえると、中国は明らかに力による現状変更の意図のある国家だと言える。今年度、中国は約34兆8000億円、世界第二位の多額の国防費を計上している。中国の国防費は年々着実に増加しており、核戦力の増強、近代化と長距離攻撃力の増強も著しい。1996年、中国は第3次台湾海峡危機とされるミサイル発射と大規模な軍事演習を行い台湾に強大な軍事的圧力をかけた。この第3次台湾海峡危機に際し、米国は2個空母打撃群を台湾海峡に派遣し、台湾海峡における完全な制海権と制空権の獲得を誇示した。中国共産党指導者と人民解放軍の指揮官たちは米軍の強大なプレゼンスに圧倒された。台湾統一のためには、米軍を圧倒する軍事力が絶対に必要だと認識した中国は、ここから接近阻止・領域拒否(A2/AD)と言われる戦略目標を掲げ軍事力の急激な増強を始める。

 中国が重視している接近阻止/領域防衛(A2/AD)の狙いは、中国が核心的な利益とする台湾の占領の既成事実化までの間、第三国、特に米国の関与を阻止し、拒否しようとするものである。具体的には戦域となる台湾周辺海域、東シナ海、南シナ海の聖域化である。そのための手段としては、優勢な米国及び同盟国の海空戦力と正面から戦うことを想定せず、非対称的なアプローチをとる。非対称なアプローチとは、サイバー戦、宇宙空間での戦いを制し、また、圧倒的に有利なミサイルの数を有効に活用して戦いを進めることである。まず、サイバー、宇宙領域において、米国及び同盟国の指揮統制(C2)や情報・監視・偵察(ISR)機能を妨害し、次に、人民解放軍が圧倒的に有利な中距離弾道ミサイルや巡航ミサイルによる攻撃によって米国の海空戦力の戦域への接近阻止を図る。その結果として、第一列島線内側での優位性を確保し、領域拒否を図る。そして、最終的に台湾占領のための陸上兵力の渡洋侵攻を実施することが予想される。

 中国が、平和統一ないし、武力統一を進めようとしている台湾は、最新の世論調査の結果では、中国との戦争は望んでいないが、84%の台湾人が中国からの独立を希望している。台湾軍は、陸上戦力約14万人(有事には約166万人の予備役)、海上戦力は艦艇約390隻、航空戦力は比較的近代化された作戦機約500機を擁しているが、中台の軍事バランスについては、台湾は完全に中国の軍事力に凌駕されている状況にある[1]。

  1. 陸上戦力については、中国が圧倒的な戦力を持っているものの、現時点では台湾本島への着上陸侵攻能力は限定的である。ただし、近年、中国は大型揚陸艦の建造など着上陸侵攻能力を着実に向上させている。
  2. 海空戦力は、中国が量的に圧倒しているが、従来、台湾が優勢であった質的な戦力においても、近年、中国の海・空軍力は急速に近代化されている。
  3. ミサイル攻撃能力については、台湾は、PAC-3など弾道ミサイル防衛能力を強化しているが、中国は、台湾を射程に収める短中距離弾道ミサイルを圧倒的に多数保有しており、台湾には有効な対処手段が乏しい。

 米国は世界中で唯一あらゆる紛争に関与できる意志と能力を持つ国である。台湾海峡危機の当事国である中国は、米国の対外戦略上、優先順位ナンバー1の脅威とされている。オバマ政権の末期に米国の安全保障政策コミュニティの専門家から米中間の100年戦争(マラソン)という概念が示された。英語では、Pacing Threatと表現されるが、マラソンに例えると、レース中盤までトップを独走していた米国のすぐ後ろにいつの間にかぴったりとついて走り、レース終盤で、スパートの時期を虎視眈々と狙っている不気味な存在が中国のイメージである。

 CIAの年次報告によると、米国が、このまま何も対応をしなければ、2035年に経済力(GDP)で、中国に世界ナンバー1の座を奪われ、軍事力でも2040年代には追い付かれてしまう。その後、中国は、成熟期に入って国力が減衰し、2050年頃には、米国が再びナンバー1になるものの、この2035年から2050年の15年間をどうするかが、米国のリアリズムを尊重する安全保障政策コミュニティの中では強い問題意識として共有されている。

 今ここで、米国が中国に対して総力戦をもって臨めば、米国も少々痛むが、相対的には中国の被害が大きく、米国が中国に追い抜かれる時期を遅らせることができる、うまくいけば、追い抜かれずに済むかも知れないという現実主義者たちの思惑を背景にして、米国の対中戦略は構築されている。米国の対中戦略は、最先端技術の覇権獲得の戦いであるが、超党派、かつ、全省庁が一丸となるオール・アメリカの対処となっている。米国の国家安全保障政策コミュニティの最大の関心事項は、具体的な対中戦略の開発と米軍の対処能力の向上であり、現下の民主党政権もこれに取り組まざるを得ない。

 さらに、米国の安全保障研究者が2022年12月に発表した『デンジャー・ゾーン(Danger Zone: Coming Conflict with China)』という報告書では、米中関係は長期戦ではなく短期決戦である。中国経済の低迷に中国共産党が動揺し、2020年代末までに台湾海峡危機が起きる可能性がある。そのために米国は中国との短距離競争に備えなければならないと言う提言が発表された。台湾海峡危機は、中国が、米国との戦争の危険を冒してでも、台湾はもとより日本、インド、フィリピンに懲罰を与えるため、あるいは、民主的な台湾を屈服させるために近隣諸国にも武力を行使する強い動機を持つ時に発生する。米中間では、偶発的な危機の発生よりも、中国共産党のより計算された政策決定の結果として台湾海峡危機が起こる可能性が高い。台湾海峡危機に備えるため、当面、米軍の即応能力の強化を最優先すべきとする安全保障政策コミュニティの専門家が相当数いることも事実である。

1 防衛省『令和5年度版防衛白書』(日経印刷、令和5年7月)94頁
参考文献
Hal Brands,Michael Beckley, DANGER ZONE: The Coming Conflict with China, W W Norton & Co. Inc., (August 2022)

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