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第43回 2023/03/08

2022年の経済と23年の経済政策の重点課題

田中 修(拓殖大学大学院経済学研究科客員教授)

はじめに

 中国ではまもなく全国人民代表大会が開催される。本稿では、2022年の主要経済指標を振り返り、22年中国経済の特徴を確認するとともに、22年12月の中央経済工作会議における習近平重要講話を手掛かりに、23年の経済政策の重点課題を整理することとしたい。

1.2022年の経済

 (1)国内総生産(GDP)

 3月5日、全人代が開催され、李克強総理が政府活動報告を行った。

 2022年のGDPは、23年1月発表の速報値では121兆207億元であり、実質3.0%の低成長となり、年間目標5.5%を大きく下回った。

 成長率を四半期ごとに見てみると、GDP成長率は、1~3月期4.8%、4~6月期0.4%、7~9月期3.9%、10~12月期2.9%となっている(23年1月発表時点。以下、四半期成長率は同時点のもの)。

 しかしこれは、前年同期比で計算しており、欧米や日本などの先進国の計算方法とは異なる。たとえば、先進国では22年10~12月期の成長率を1四半期前の22年7~9月期と比較して計算している。1期前からの成長率であるので、これを「前期比成長率」と呼ぶ。これは3ヵ月分の成長率となるので、数値は非常に小さくなる。このため、通常これを4倍して、年間換算成長率を公表している。

 これに対し、中国では22年10~12月期の成長率を1年前の21年10~12月期と比較して計算している。1年前の同時期からの成長率であるので、これを「前年同期比成長率」と呼ぶ。前年同期比成長率は、前年の経済の状況に大きく左右される。

 たとえば、21年1~3月期の前年同期比成長率は18.7%と非常に高くなったが、これは20年1~3月期に新型コロナ感染症が流行し、経済が大きく落ち込み、比較のベースが大変低かったためである。

 逆に、21年10~12月期の前年同期比成長率は4.3%と低いが、これは1~3月期より10~12月期の経済が悪化したのではなく、20年10~12月期には経済がかなり回復し、比較のベースが高くなっていたためである。

 このように、前年同期比成長率は数値が前年の経済に大きく左右されるため、経済が今好調であるのか、下振れ気味であるのか、横ばいなのかを正確に判断できない。このため先進国では、前四半期と比較する前期比成長率を採用しているのである。

 中国国家統計局も、先進国から前期比成長率も計算してもらいたい、という要望が強いため、四半期成長率発表時に、試算値として前期比成長率も発表している。それによれば、22年の四半期前期比成長率は、1~3月期1.3%、4~6月期-2.4%、7~9月期3.9%、10~12月期0.0%の成長となっている。これを4倍すれば年率換算となるが、これで見ると、4~6月期の成長率は約-9.6%となり、国家統計局の公表値である0.4%とは大きくかけ離れている。ただ、これはあくまで試算値であり、3ヵ月ごとに過去にさかのぼって改定されている。たとえば、22年10月に発表された22年の四半期前期比成長率は、1-3月期1.6%、4-6月期-2.7%、7-9月期3.9%とされていた。数値が0.1ポイント程度上下することは普通であり、これを4倍すれば年率換算の誤差はさらに大きくなる。

 2022年は、3月から上海市などで新型コロナ感染症が再流行し、上海市では3月末~5月末に都市封鎖が実施されたため、4~6月期の経済は大きく落ち込んだ。7~9月期になると流行が一段落し、業務や生産の再開が順調に進んだため、経済は急速に回復した。

 しかし、10月以降新型コロナが再流行し、これに対し地方政府が徹底的なコロナ封じ込め政策(いわゆる「ゼロコロナ政策」)で臨んだため、11月には市民の抗議行動が発生した。市民の不満をなだめるべく、共産党中央は11月から急速にゼロコロナ政策を緩和したが、その結果コロナ感染者が急増し、経済社会は混乱を極めた。このため、10~12月期は経済が再び落ち込んだのである。これらの結果22年の四半期前期比成長率は、乱高下している。

 (2)2022年の成長率の留意点

 ただ、2022年の成長率が3%となったことは、やや不自然さを感じる。

 李克強首相は22年5月25日、10万人を動員して「全国経済大基盤安定テレビ電話会議」を開催したが、彼は経済の現状について、「3月とりわけ4月以降、雇用、工業生産、電力使用、貨物輸送等の指標が顕著に低迷し、一部の方面と特定の範囲で2020年のコロナの深刻なダメージの時よりも困難が大きい」と述べていた。

 20年は、新型コロナ感染症の流行が終息すると、経済は順調に回復し、前年同期比成長率は、1~3月期-6.9%、4~6月期3.1%、7~9月期4.8%、10~12月期6.4%と順調に上昇した。だが経済成長率は2.2%にとどまったのである。

 しかし、22年は4~6月期と10~12月期に2回経済社会が混乱している。にもかかわらず、成長率が3%に達したことは、つじつまが合わない。

 李克強首相は23年1月18日、中国に在住する外国人専門家と座談会を開催した。前日17日に国家統計局は22年の主要経済指標を発表していたため、李首相は年間新規就業者数、12月の都市調査失業率、年間消費者物価上昇率については、具体的数値を示して説明した。しかし、経済成長率については、「年間の経済は合理的成長を実現した」と述べるのみで、3%に言及しなかった。李首相はその後、2月3日に開催された国務院全体会議、2月6日に開催された各界人士と末端代表との座談会、2月13日に開催された党外人士との座談会においても、雇用と物価の統計については数字を示しているが、経済成長率については、過去5年平均や過去10年平均の成長率を述べるのみで、22年の成長率については言及していない。

 中国の年間成長率は翌年1月に発表されるが、同じ年の12月に突如数値が改定されることがある。たとえば、20年の成長率は2.3%から2.2%に、21年の成長率は8.1%から8.4%に改定された。23年12月に、22年の成長率が下方改定される可能性は十分ある。ただし、李首相は前述の外国人専門家との座談会で、「22年の成長率は20年より高かった」とは明言しているので、改定されるとしても、2.3%から2.9%の間ということになろう。

 (3)産業・需要項目別の成長率への貢献

 GDPの産業別構成比で見ると、23年1月の公表時点では、第1次産業7.3%、第2次産業39.9%、第3次産業52.8%であり、第3次産業のウエイトは、コロナ禍の影響により、21年より0.7ポイント低下した(23年1月公表時点の数値。以下同じ)。成長率への寄与率は、第1次産業10.5%(寄与度0.3ポイント)、第2次産業47.7%(同1.4ポイント)、第3次産業41.8%(同1.3ポイント)である。第3次産業の寄与率は、コロナ禍の影響により、21年より12.9ポイント低下し、22年は第2次産業主導の成長となった。

 また、需要項目別での成長率への寄与率を見ると、最終消費は32.8%(寄与度1.0ポイント)、資本形成(投資)は50.1%(同1.5ポイント)、純輸出(輸出-輸入)は17.1%(同0.5ポイント)であり、消費の寄与率は、コロナ禍の影響により、21年より25.5ポイント低下し、22年は投資主導の成長となった。

 以下、各需要項目の動向を見ることにしたい。

  1. ①消費
    2022年の小売総額は、43兆9733億元、前年比-0.2%となった。消費は21年の12.5%増から、新型コロナ感染症の再流行と厳しいゼロコロナ政策により、再びマイナスとなった。22年の飲食消費は、前年比-6.3%であったが、12月は前年同月比-14.1%と大きくマイナスの状態である。
    自動車消費の伸びは前年比0.7%増と21年の7.6%増から鈍化した。これが工業生産に反映し、22年の自動車生産は3.4%増と、こちらも21年の4.8%増から鈍化した。ただ、新エネルギー車の生産は97.5%増であり、工業生産の回復に貢献している。
    消費で注目すべきは、全国インターネット商品及びサービス小売額(Eコマース)であり、13兆7853億元、前年比4.0%増となった。新型コロナを契機に、実物商品の小売のうち、Eコマースのウエイトは21年の24.5%から27.2%に拡大した。
  2. ②投資
    2022年の都市固定資産投資は、57兆2138億元で、前年比5.1%増と、21年の4.9%より加速した。
    うちインフラ投資は9.4%増と、21年の0.4%増から大きく伸びた。これは財政部が地方政府特別債の発行を大幅に前倒して、地方のインフラ投資の財源を確保し、プロジェクトの新規着工を進めたためである。他方、製造業投資は9.1%増であり、21年の13.5%を下回った。
    また不動産開発投資は、13兆2895億元、前年比-10.0%と、21年の4.4%増からマイナスとなった。これは21年後半から続く、不動産市場の動揺が影響しているものと思われる。不動産市場の景況の目安である分譲建物販売面積は、1~2月に増加から減少に転じ、22年は前年比-24.3%(21年は1.9%増)となった。分譲建物販売額も1~2月に増加から減少に転じ、22年は前年比-26.7%(同4.8%増)となった。
    民間固定資産投資は、31兆145億元、前年比0.9%増と、コロナ禍により1~2月の11.4%増から大きく鈍化した。
  3. ③外需
    2022年の輸出は3兆5936.0億ドル、前年比7.0%増となった。月ごとの輸出は、世界経済の低迷により10月からマイナスに転じ、12月は前年同月比-9.9%となっている。
    輸入は2兆7160.0億ドル、同1.1%増となった。月ごとの輸入では、中国の内需の低迷により10月からマイナスに転じ、12月は前年同月比-7.5%となっている。
    このように10月から輸出と輸入ともに落ち込み、特に輸出の落込みが大きかったため、10~12月期成長率2.9%への最終消費の寄与度は0.2ポイント、資本形成の寄与度は3.9ポイントであったのに対し、純輸出の寄与度は-1.2ポイントとなった。

 (4)2023年の経済へのインプリケーション

 2021年の経済成長率が20年の2.2%から一気に8.4%に跳ね上がったように、前年の経済が悪かったときは比較のベースが低くなるので、翌年の成長率が大きく上昇する傾向がある。特に、四半期でみると、22年4~6月期と10~12月期は経済社会が混乱したため、コロナ感染症の再流行や内外情勢の急変がなければ、23年4~6月期と10~12月期の前年同期比成長率は、大きく上昇する可能性が高い。

 しかし、これは経済の実力が高まったわけではなく、正常に復しただけのことであり、24年の成長率は再び大きく鈍化することになる。この統計のバイアスによる経済情勢判断ミスを回避するため、李首相は、21年の各指標を公表する際、19年同期からの2年平均伸び率を計算して同時に発表し、参考に供していた。コロナ前の19年同期からの2年平均伸び率であれば、コロナによる経済の落込みと、その後の回復が相殺されるので、経済の動向を比較的正確に見極めることができるからである。

 したがって、23年の主要経済指標の伸び率についても、22年同期比で見るだけでなく、前期比、さらには経済が比較的安定していた21年同期からの2年平均で見ることが重要となる。李首相は、これを奨励していたが、李克強は3月の全人代で首相を退任するため、後任と目される李強が、この21年同期からの2年平均伸び率を国家統計局に公表させるかどうかは、定かではない。この点、23年の経済統計を見る場合は、注意を要する。

2.2023年の経済政策の重点課題

 2022年12月15-16日に開催された中央経済工作会議で習近平総書記が行った、重要講話の中心部分「当面の経済政策のいくつかの重大問題」の概要が、「求是」2023年2月15日に掲載された。これによれば、23年の経済政策の重点課題は、以下のとおりである。

 (1)国内需要の拡大に力を入れる

 重要講話は、「総需要の不足は、当面の経済運営が直面する際立った矛盾である。内需拡大戦略の実施に力を入れ、更に有力な措置を採用して、社会の再生産で良性の循環を実現させなければならない」とする。課題と具体的政策は、次のとおりである。

  1. ①消費の回復と拡大を優先的に位置づける
    都市と農村の個人所得を増やし、とりわけ、消費傾向が高いにも関わらず、コロナの影響を大きく受けている、中低所得者の消費能力を向上させる。
    消費者ローンを合理的に増やし、住宅改善、新エネルギー自動車、高齢者介護サービス、教育、医療、文化、スポーツ等の消費を支援する。
  2. ②政府投資と政策によるインセンティブを通じて、全社会投資を有効に牽引する
    現在、民間投資が力不足のため、まずは政府投資が誘導の役割をしっかり発揮させる。具体的には、第14次5ヵ年計画の重大プロジェクトの実施を加速し、交通、エネルギー、水利、農業、情報等のインフラ建設を強化する。
    メガロポリス(都市群)と都市圏での現代化インフラ体系の建設を支援し、都市更新及び農村建設を実施する。
    科学技術と産業投資を増やし、重大科学技術インフラとカギないしコアとなる技術の研究開発能力整備を前倒して展開する。
    政策性金融機関が、国家発展計画と産業政策の方向性に合致する重大プロジェクトに対して、融資支援を強化する。
    民間投資の市場参入条件を緩和し、更に多くの民間資本を奨励、吸収して、国家重大プロジェクトと脆弱性補強のためのプロジェクトの建設に参加させる。

 (2)現代化した産業システムの建設を加速する

 「わが国には世界で最も完全な産業システムと潜在力が最大な内需市場があり、産業チェーンとサプライチェーンの強靭性と安全水準を確実に高め、短所の補強と長所の鍛錬にしっかり取り組まなければならない」とする。課題と具体的政策は、次のとおりである。

  1. ①国民経済循環の円滑さを確保する
    食糧、エネルギー及び資源の安全保障能力の向上に力を入れ、とりわけ食糧をしっかり確保する。
    新しい大規模な食糧生産能力向上運動を実施し、耕地と科学技術を生産能力向上に振り向け、国土資源を食物に振り向ける。
    重要エネルギー及び鉱産資源の国内探索開発と備蓄増加、生産向上を強化し、新しいタイプのエネルギー体系の計画と建設を加速し、輸入の多元化を加速するとともに、国家戦略物資の備蓄保障能力を高める。
  2. ②産業システムのグレードアップと発展の実現を加速する
    伝統的優位性のある産業の先導者としての地位を強固にするのみならず、新たな競争の優位性を創造する。
    伝統製造業については、デジタル化転換を加速し、先進応用技術を普及させ、ハイエンド化、スマート化、グリーン化水準の向上に力を入れる。
    戦略的新興産業については、新エネルギー、AI、バイオ製造、グリーン低炭素、量子コンピューティング等の先端技術の研究開発と実用化と普及を加速し、「専門的、精密な、特色ある、革新的な」企業の発展を支援する。
    デジタル経済の発展に力を入れ、日常的な監督管理の水準を高める。
    プラットフォーム企業については、発展のリード、雇用創造及び国際競争において、プラットフォーム企業が技量を大いに発揮することを支援する。

 (3)「2つのいささかも揺るぐことなく」を確実に実施する

 重要講話は、まず「一時期以降、社会において、我々が社会主義市場経済をなお行うのか行わないのか、『2つのいささかも揺るぐことなく』を堅持するのかしないのかについて、いくらかの不正確な議論、甚だしきは誤った議論がある。我々は態度を鮮明にし、いささかも曖昧であってはならず、社会主義市場経済改革の方向を常に堅持し、『2つのいささかも揺るぐことなく』を堅持しなければならない」と、強い口調で述べている。

 「2つのいさかも揺るぐことなく」とは、1)いささかも揺るぐことなく公有制経済を強固にして発展させ、2)いささかも揺るぐことなく非公有制経済の発展を奨励、支援、誘導することであり、もともとは2002年の第16回共産党大会で決定されたものである。ここでいう、「公有制経済」は主として国有企業、「非公有制経済」は主として民営企業を指している。課題と具体的政策は、次のとおりである。

  1. ①国有資本・国有企業改革を深化させ、国有企業のコアコンピタンス(核心的競争力)を高める
    まず、国有企業の問題点として、事業用国有資産の規模が大きく、一部企業の資産収益が高くなく、革新能力が不足していると指摘し、以下の政策を掲げている。
    資本管理を主とした健全な国有資産管理体制を整備し、市場を通じて国有企業を整理合理化及び再編し、いくらかのイノベーション型国有企業を作り上げる。
    中国の特色ある国有企業の現代コーポレートガバナンスを整備し、真に市場化メカニズムに基づいた運営を行い、世界一流の企業の建設を加速する。
  2. ②民営企業の発展環境を最適化し、民営企業の発展と壮大化を促進する
    まず、「民営経済は、経済社会の発展、雇用、財政及び税収、科学技術イノベーション等にとって、重要な役割を果たしている」と、民営経済の役割を積極的に評価する。その上で、次の政策を掲げている。
    制度及び法律上、国有企業と民営企業を平等に扱い、政策と世論の両面において民営経済と民営企業の発展及び壮大化を奨励、支援する。
    法に基づき、民営企業の財産権と企業家の権益を保護する。
    企業に係る法律及び規則を整理、改正し、平等な参入への障壁を引き続き打破する。
    公平な競争制度を整備し、地方の保護主義と行政の独占を取り締まる。
    中小及び零細企業の管理サポートを強化し、中小及び零細企業と個人事業者の発展を支援する。

 (4)外資の誘致と利用に更に力をいれる

 「我々はハイレベルの対外開放を推進し、わが国の超大規模な市場の優位性に依拠し、国内大循環により世界の資源や要素を吸収し、良質の既存外資を留め置くのみならず、更に多くの質の高い外資を誘致して、貿易及び投資協力の質と水準を高めなければならない」とする。課題と具体的政策は、次のとおりである。

  1. ①市場参入を拡大する
    外資参入ネガティブリストを合理的に縮減する。現代サービス業の開放を強化する。
    自由貿易試験区、海南自由貿易港、各種開発区及び保税区等の開放プラットフォームの先行テストを推進する。
  2. ②ビジネス環境を全面的に最適化する
    外資企業の国民待遇をしっかり実施し、公平な競争を促進し、外資企業が法に基づき、政府調達、入札、基準制定に平等に参加することを保証し、知的財産権と外資の合法権益の保護を強化する。
    環太平洋パートナーシップに関する包括的・先進的な協定(CPTPP)、デジタル経済パートナーシップ協定(DEPA)等の高基準の経済貿易協議への加盟を積極的に推進し、関係ルール、規制、管理、基準に主体的に従って、国内関係分野の改革を深化させる。
  3. ③外資企業へのサービスを的確にしっかり実施する
    外資との円滑な交流を強化し、外資が中国で貿易、投資、商談に従事するために最大の便宜を提供する。
    経済や貿易の担当者が、海外で日常的に企業誘致と外資導入を推進する。

 (5)重大な経済リスク、金融リスクを有効に防止し解消する

 「システミックリスクを発生させない最低ラインをしっかり守る」。課題と具体的政策は、次のとおりである。

  1. ①不動産業によるシステミックリスクの誘発を防止する
    「経済成長、雇用、財政及び税収入、個人財産、金融安定にとって、不動産業はいずれも重大な影響を与える」と、現在最大のリスクが不動産リスクであることを認めている。このため、システミックリスクの防止とモラルハザードの関係を正確に処理し、リスク対応の各政策をしっかり実施して、不動産市場の平穏な発展を確保することが、リスク対策の最重要課題となる。具体的な政策は、以下のとおりである。
    都市の事情に応じて施策を講じ、将来予想の改善に力を入れ、有効需要を拡大し、ハードな住宅需要と改善関連の住宅需要を支援する。
    出産政策と人材政策の実施を支援し、新市民(農村から都市に移転した出稼ぎ農民とその家族)及び若者等の住宅問題をしっかり解決する。
    地方政府と金融機関が、社会保障的性格をもつ(低所得者向け)賃貸住宅の供給を増やすことを奨励し、長期住宅賃貸市場の建設を模索する。
    「住宅は住むためのものであって、投機のためのものではない」という位置づけを堅持し、不動産市場の需給関係と都市化構造等の重大な傾向的、構造的な変化を深く検討及び判断して、中長期の根本的対策を早急に検討し、長年の「高負債、高レバレッジ、高速回転」の発展モデルの弊害を除去し、不動産業の新たな発展モデルへの平穏な移行を推進する。
  2. ②金融リスクを防止し解消する
    重大金融リスクとモラルハザードの双方をしっかり防止し、地域的ないしシステミック金融リスクの形成を防止する。
    金融政策及び行政に対する党中央の集中、統一的指導を強化し、金融体制改革を深化させる。
  3. ③地方政府の債務リスクを防止及び解消する
    既に存在する隠れ債務の処理を強化し、債務の期限構造を最適化し、金利負担を引き下げ、地方政府の隠れ債務と法定債務の監督管理の統合を着実に推進し、断固新規債務増加に歯止めをかけ、既存債務を解消する。
    各種の形を変えた借入行為を禁止し、地方の国有企業と公益事業体の「プラットフォーム化」を防止する。
    融資プラットフォーム会社の総合ガバナンスを強化し、分類した転換を推進する。
    財政と税制改革を深化させ、財政移転支出体系を整備し、省以下の健全な財政体制を整備し、地方税の体系整備を着実に推進する。

 (6)その他

 2023年のその他の重要政策としては、次のものが列挙されている。

  1. ①農村振興を全面推進し、食糧生産を安定させ、大規模な貧困逆戻りを断固防止し、都市及び農村の要素の流動と循環を円滑にする。
  2. ②ハイレベルの社会主義市場経済体制の構築を軸に、ハイレベルの対外開放を推進し、新たな改革の全面深化を計画する。
  3. ③第3回「一帯一路」国際協力サミットフォーラムを開催し、「一帯一路」共同建設の質の高い発展を推進する。
  4. ④地域重大戦略と協調発展戦略を深く実施し、優位性を相互補完し、各々が長所を発展させる。
  5. ⑤経済社会発展のグリーン転換を推進し、炭素排出削減、汚染物質排出削減、グリーン拡大、経済成長を協同推進して、エネルギー消費の「総量及び強度(GDP単位当たり消費)のコントロール」を、炭素排出「総量及び強度(GDP単位当たり排出)のコントロール」制度に転換し、青い空、青い水、清浄な土壌をしっかり守る。

おわりに

 最後に、この重要講話について、留意点をいくつか指摘しておきたい。

 第1に、ここで公開された重要講話は全文ではないと考えられる。

 前節で紹介した重点課題の第5、不動産リスクの部分について、中央経済工作会議では、「住宅引渡保障、民生保障、安定保障の各政策を着実にしっかり実施し、不動産業の合理的な資金調達需要を満足させ、不動産業の再編とM&Aを推進し、優良トップ企業のリスクを有効に防止し解消して、資産と負債の状況を改善しなければならない」との言及があったが、発表された重要講話では省かれている。このことから、今回「求是」に掲載された重要講話は、全文ではなく概要と推察される。

 第2に、この重要講話の最大の目的は、社会主義市場経済体制の整備に向けた改革、ハイレベルの対外開放、民営企業の発展支援といった、これまでの改革開放路線や主要政策に変更がないことを再確認することであったと思われる。

 2020年秋に党中央が「共同富裕の推進」や「資本の無秩序な拡張防止」を強調し、21年には民間大手プラットフォーム企業の独占や不当行為への取締り、芸能界の脱税摘発、民間大手プラットフォーム企業及びその経営者に対する慈善事業への多額の寄付の要請といった、民営企業や富裕層に対する厳しい政策が次々に打ち出された。すると、内外からは、民営企業発展支援のみならず、改革開放路線そのものの継続が危ぶまれるようになった。

 特に22年の第20回党大会で、「習近平一強体制」が一層堅固となり、李克強、汪洋、劉鶴といった改革派の重鎮が党中央から去ることが決まると、経済政策の左傾化への懸念はますます強まった。この懸念を払しょくするためには、最高権力者である習近平総書記自身が改革開放等従来路線の堅持を明確に語る必要があったものと考えられる。

 習近平総書記は、重点課題の第3で、「2つのいささかも揺るぐことなく」を確実に実施し、民営経済と民営企業の発展と壮大化を奨励、支援し、民営企業の財産権と企業家の権益を保護する旨を明らかにした。またその第4では、外資企業の政府調達、入札、基準制定への平等な参加、知的財産権と外資の合法権益の保護を約束している。CPTPPへの加盟の目的についても、あくまで国内改革の深化であると強調している。さらに第6のその他の項目では、新たな改革の全面深化を計画するとした。新たに改革の全面深化が検討されるとすれば、13年の党18期中央委員会第3回全体会議(3中全会)以来10年ぶりとなる。

 第3に、今後注目すべきは、23年秋に開催が予想される党20期3中全会だということである。

 党大会で新指導部が誕生すると、通常翌年秋に党3中全会が開催され、新指導部の経済政策の基本方針が決定される。18年秋には党の中全会は開催されなかったが、今回は首相をはじめ指導層が大幅に交替するので、新指導部の経済政策の基本方針を明らかにするため、秋に党3中全会が開催される可能性が高い。

 22年の第20回党大会と中央経済工作会議では、これまでの改革開放路線の堅持が繰り返されてきたが、ここまでは会議決定の内容について、李克強や劉鶴の意向が反映されていたと考えられる。まもなく開催される全人代における政府活動報告も、李克強首相の最後の報告であるため、基本的に改革開放の堅持が強調されることになろう。

 しかし、新指導部が主導する党20期党3中全会の決定は、これらの既存方針を部分的に「上書き」する力がある。ここで、重要講話で言及された新たな改革全面深化の計画が決定されるのか、あるいは全く異なるテーマが提起されるのか、引き続き注目していく必要がある。

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