論考シリーズ

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第17回 2019/05/08

中国の対外認識――全人代中国外交記者会見から見る変化と継続

井上一郎(関西学院大学総合政策学部教授)

はじめに

 貿易問題から始まった米中間の緊張は、昨年10月のペンス副大統領による包括的な中国批判演説、更に、12月のファーウエイ事件など広範な分野での対立にまで至り、中国外交は予想外の守勢に立たされることになった。また、米国主導で行われた2度にわたる米朝首脳会談、特に第2回会談の決裂は、中国の期待を大きく裏切るものとなった。今や大国となった中国といえども、昨年は、米国に振り回され、思い通りの外交が展開できない1年であったといえる。この間、中国の対外認識、ひいては基本的な外交方針に変化は生じつつあるのであろうか。3月7日に行われた全国人民代表大会(全人代)での「中国外交政策と対外関係」に関する王毅国務委員兼外交部長の記者会見から、現時点での中国の対外観を探ってみたい。

1 全人代と中国外交

 本題に入る前に、先ず、全人代における中国外交の位置づけについて、若干の説明をしておきたい。開幕式当日、国務院総理によって読み上げられる政府活動報告は、例年そのほとんどの内容が経済、社会などの国内問題に当てられ、外交安保政策について触れられる分量は全体のごくわずかである。このことからもわかるとおり、毎年3月に定例で開催される全人代は、外交政策そのものに焦点が当てられた場ではない。中国では重要な外交政策は、外交部のような政府側ではなく、基本的には党側で決定されることから、これまでもむしろ、それは党の重要行事においてより明確に打ち出され、また、確認することが出来た。
 たとえば、「新型国際関係」や「人類運命共同体」という概念、更には「中国の特色ある大国外交」が強調されるようになった2017年の第19回中国共産党大会における習近平演説などがそうである[1]。あるいは不定期に開催され、最高指導者も含めた政治局常務委員会メンバーも参加する中央外事工作会議などを節目に、新しい外交方針が打ち出されることもある。一方で、中国外交の変化や継続を分析する上では、このような会議で打ち出された外交政策のレトリック(言葉使い)だけでなく、中国が個別具体的な問題において、どのような行動を実際にとっているのかを確認することが何よりも重要となる。その意味では、今日の中国外交については米中関係に注目が集まりがちではあるものの、一方で、中国がその他の地域や国々との関係でどのような外交を展開しようとしているのか、またその関連で、「一帯一路」の具体的な進展ぶりや南シナ海問題での実際の行動などにも着目する必要がある。
 中国に限らず、一般に、ある国家が重要な対外政策を形成、あるいは変更する原因がどこから来るのかということを考えれば、そこには国内要因と国際要因がある。古典的な分類として、対外政策の起源を、①人間としての政策決定指導者レベル、②政治体制も含めたそれぞれの国家単位のレベル、更には、③国際環境、すなわち国際システムレベルの3つの分析のレベルに求める考え方もある[2]。あくまで一般論であるが、大国になればなるほど、自らが外部環境に影響力を行使できるようになり、制約要因としての国際要因は相対的に小さくなる。また、民主主義国家との比較において、権威主義国家の方が、最高指導者個人の政策決定における裁量が大きい傾向にある。
 これまでの政権との比較において、今日の中国外交を考えれば、先ず、自国の国力が飛躍的に高まったことにより、かつてと比べれば、中国外交の制約要因としての国際環境のハードルは下がっているといえる。習近平時代の中国外交において、中国として未だ配慮が必要だと考えているのは、「リベラルな国際秩序」そのものや、その主要な構成員たる個々の西洋諸国などに対してではなく、もはや米国一国の「力」のみであるという、強気の姿勢がしばしば見られるようになってきている。
 一方で、中国外交を動かす国内要因に目を向ければ、かつての集団指導体制から個人への権力集中が進んだことにより、今日の中国外交を分析するに当たっては、習近平個人の思想信条やパーソナリティーなど、最高指導者個人レベルについてこれまで以上に光を当てる必要性も出てきている。米国の圧力を前にして、習近平は何を思い、どのように対応しようとしているのか。このような問題意識で、今般の王毅記者会見の内容から、現時点での中国の対外認識を読み取るべく試みる。

2 王毅国務委員兼外交部長記者会見

 例年、全人代の外交部長記者会見は2時間にもおよび、中国国内のみならず外国の記者も多く参加する。当然ながら、直近の国際情勢とこれに関連する中国外交に多くの質問が寄せられる。今年の場合には、やはり対米関係、北朝鮮問題などに関心が集まり、更に「一帯一路」、南シナ海、ロシア、日本、インド・パキスタン、中南米との関係、その他にも、中国の国内発展に関する外交部の活動や領事保護など、今日の中国外交が直面する課題が広範に取り上げられた。
 そのなかで、中国の対外認識に関して注目すべきは、中国外交の基本的な考え方を問うた人民日報記者による冒頭質問である。記者は「今年は新中国建国70周年だが、あなたは、これまでの外交で最も重要な成果、経験は何だと考えるか、現在の情勢下でどのような重要な意義があるか」と問うている。これに対し、王毅は、過去70年に成し遂げた中国外交の成果について総括した上で、以下のとおり締めくくっている。「2018年の中央外事工作会議で習近平外交思想の指導的な地位が確立されたが、これは新中国の外交理論の形成において画期的な意義のある重大な成果」である。そして、「現在世界は100年に1度の大きな変局の最中にある」、「民族の復興を実現するためにさらに有利な外部条件を作り出すだけでなく、世界の平和を擁護し、人類の進歩を促すため、新たに更に大きな貢献も行っていく」と述べた[3]。
 この発言自体、習近平時代に入ってからの中国外交について基本的な立場を繰り返しているようにも見える。しかし、米中関係の緊張が高まる以前の昨年の時点での、同じく人民日報記者による中国外交全般に関する冒頭質問との比較では、若干の違いも見て取れる。昨年の質問は以下の通りである。「第18回党大会以来、中国外交はこれまでにない重大な成果を収め、全国人民の普遍的な賞賛を得た。第19回党大会後の最初の年として、今年の中国外交にはどのような重要な課題があるのか」。質問の内容からして、例によって、勝ち誇った楽観的なトーンにつつまれた当時の雰囲気が伝わってくる。
 これに対し、王毅は、「第18回党大会以来、習近平同志を核心とする中央の正確な指導のもと、我々は中国の特色のあるスタイルの、風格のある大国外交の道を進んできた。国家主権と人民利益を守り、また、国内改革発展の大局が重要な作用を発揮するのに、歴史的な成果を上げることができた」、「習近平総書記は、第19回党大会において、各国と一緒に、新型国際関係を共同して建設し、人類運命共同体を構築することを強調したが、これは新時代の中国の特色ある大国外交の目標である」と述べている[4]。
 今年の王毅記者会見と比べると、相変わらず、これまでの成果を自画自賛するというスタイルでは同じようにも見える。しかし、昨年の記者会見の冒頭の質疑応答では、「大国外交」が繰り返し強調されたのに対し、今年は、慎重に避けられている。すでに多くの指摘があるが、今年の李克強総理による政府活動報告においても、「中国製造2025」への言及が避けられるなど、目下の米中間の緊張を意識して、米国に対する配慮がなされているのは明らかである[5]。また、対米関係についても、昨年の記者会見では「米国国民の中国に対する好感度は50%を超えており、これは最近30年来で最高である」と楽観的な見通しを述べていたのとは一転して、今年の冒頭質問における国際情勢認識においては、「過去1年は、入り組んで複雑な国際情勢」といった表現で、最近の中国をとりまく国際環境の変化に対する戸惑いも示されている[6]。
 なお、最近の中国の対外認識に関し、もう一つ比較対象として、昨年12月の「2018年国際情勢・中国外交シンポジウム」開幕式における王毅演説を取り上げてみたい。この時点ではすでに、10月のペンス米副大統領演説もあり、米中間の対立は単なる貿易問題ではなく、より構造的で深刻な様相を呈していた。但し、そこで王毅は、「2018年の国際情勢において最も顕著な特徴は、不確定性が満ちている」ことであるとの認識を示しながらも、「新時代に入った中国の特色ある大国外交」という表現で、これまでどおり「大国外交」にも言及し、同様に「新型国際関係」や「人類運命共同体」といった習近平外交のキーワードも強調している[7]。こうして見ると、国内関係者が主な聴衆と考えられる同シンポジウムにおいては、引き続き本音で「大国外交」を強調する一方で、外国メディアも多く参加する全人代記者会見では、あえてそのような表現は避け、比較的穏健な印象を与えるべく努めたとも考えられる。  

3 対米慎重姿勢と「大国外交」

 今年の全人代における中国の対米慎重姿勢をもって、中国は国際協調を旨とする鄧小平時代の韜光養晦(とうこうようかい)に回帰したのではとの報道もあるが[8]、これまでの中国の対応をみれば、現段階で、習近平外交の基本方針に根本的な変化が生じているとまでは判断できない。たしかに、中国が他国との対立の際にしばしば見せる激しい姿勢とは対照的に、米国に対しては、相当抑制的な態度を保っているとはいえる。しかしこれは、中国が自ら穏健な外交政策、すなわち韜光養晦に回帰したというよりも、米国との関係において、これ以上のエスカレーションを避けるための戦術的忍耐を示したと見るべきであろう。同時に中国は、これまでの積極的な「大国外交」がもたらした諸外国の警戒感や、「一帯一路」を展開する上での自国のイメージにも一定程度配慮するようになってきている。
 米国との関係については、昨年末までの時点において、「米国に対抗せず、冷戦を避ける。順序立てて市場を開放し、国家の核心的利益は譲らない」とする方針がまとめられたとの未確認情報もある[9]。しかし、これまでのところ見えてくるのは、米国との関係をなんとか穏便に管理しながらも、一方で、引き続き「一帯一路」を展開し、大国外交を推進しようとする姿勢である。「一帯一路」に関しては、今年の記者会見の質問において、「債務の罠」、「地政学的道具」、「新植民地論」などの疑念が指摘されたのに対し、王毅はこうした言説を正面から否定し、「地政学的な意図などはなく、むしろ、共同発展のチャンスである」と強調している[10]。しかし、中央アジア、中東、アフリカ、中南米、東欧、そして最近は南欧にまで至る各国の経済面での過度の中国依存が、結果として、これらの地域への中国の影響力拡大につながるであろうことは想像に難くない。
 一方、このような状況のなかで、近年、米国のみならず独仏などの西欧の国々や豪州においても、中国の「小切手外交」に対する警戒感は高まっている。それ以上に注目すべきは、これら欧米諸国と中国との関係が、今日再びイデオロギー的対立の側面でとらえられるようになってきたことである。これまでは、米中間には強い経済相互依存関係があるので、冷戦時代の米ソ関係とは異なり、政治体制の違いから来る対立は一定程度相殺できるとしばしば説明されてきた。しかしかつて韓国、台湾などが開発独裁から民主化へと移行したのとは異なって、今日、権威主義的で国家資本主義的な中国の発展モデルは、民主主義と法の支配、小さな政府などからなる西側モデルに対抗し得る成功モデルとして、他の世界の地域、特に民主主義の基盤の弱い国々に影響を与え始めた[11]。こうした動きに対する警戒感が米国のみならず西欧でも高まっている。このような状況を中国はどのようにとらえているのであろうか。現時点では、米国に対処するという問題意識はあっても、すでに大国になった中国が、その他の世界との関係をどのように構築しようとしているのかについては十分に説明されていない。多くの共感を得られるような世界観は未だ提示出来ていない。「新型国際関係」や「人類運命共同体」についても、それが具体的に何を意味するのかについては不明なままである。
 目下の米国との対立について、これから中国がどのように長期的、戦略的に対応しようとするのか見る上では、すでに述べたとおり、これまで以上に、政策決定者としての習近平自身のパーソナリティーや思想信条、ひいてはその対外観にも着目していく必要があると考える。もちろん、習近平の心の中は外からは明確にはわからない。また、人の考えというのは時を経て変わるものである。その上で、これまでの習近平の言動からしばしばうかがえるのは、米国を中心とする西洋文明への強い対抗心、愛国心、自国の文化への自負である。これらの特質は、これまでの他の中国の指導者にも共通しているが、習近平においては特に強く表れているといえる。米中の緊張が高まった後、習近平は、各所の演説でしばしば「自力更生」に言及するようになっている[12]。また、これまでの対立相手に対する自国の態度は棚に上げつつも、米国の中国に対する態度については、「弱い者いじめ」であると憤慨している[13]。そこから推察するに、たとえ目下の貿易問題が解決し、米中関係が表面上正常化したとしても、今回の対立の教訓として、習近平は、やはり米国とはうまくやっていけない、そしていざという時には米国に屈しない力を付けなければならない、という確信を深めることになるであろう。

おわりに

 江沢民は、1999年、コソボ問題へのNATO空爆介入の際、米軍機によってユーゴスラビアの中国大使館が爆撃され死傷者が発生し、米中間の緊張が著しく高まった時に[14]、政治局常務委員会で次のように述べている。「全党全国上から下まで皆がんばり、臥薪嘗胆して、必ずや我が国の社会生産力、総合国力、国際競争力を向上させなければならない。(中略)我が国が発展し、繁栄し、強大になってこそ、国際的な闘争の中で、更に大きな主導権を得て、負けることがなくなる」[15]。
 本稿においては、全人代における王毅国務委員兼外交部長の記者会見を通じて、米国との緊張が高まったこの1年間を経ての、現時点での中国の対外認識の変化と継続について、そして、やや想像力をたくましくして、習近平自身がこの状況をどのように受け止めているのかについて考えてみた。今日の米中関係の緊張の高まりに際して、習近平も、当時の江沢民と同様の思考回路を有しているとすれば、米国の力を凌駕するまで十分強くならなければ、中国は安心出来ないという前提に立つことになり、やはり、米中の対立は根深く、構造的なものであると考えられる。

(脱稿日 2019年4月24日)

1 「決勝全面建成小康社会、奪取新時代中国特色社会主義偉大勝利」『人民日報』2017年10月19日第2版。なお、「新型国際関係」という用語自体は、これ以前にもすでに使用されている。

2Kenneth N. Waltz, Man, the State and War, a Theoretical Analysis, Columbia University Press, 1959.

3「王毅談新中国外交70年成就和経験(2019-03-08)」『中国外交部HP』(https://www.fmprc.gov.cn/web/wjbz_673089/xghd_673097/t1643858.shtml、2019年4月19日最終アクセス)。

4「王毅談2018年外交亮点:四大主場活動(2018-0308)」『中国外交部HP』(https://www.fmprc.gov.cn/web/wjbz_673089/xghd_673097/t1540465.shtml、2019年4月19日最終アクセス)。

5 全人代政府活動報告における中国の対米姿勢については、以下を参照。諏訪一幸「トランプに振り回される習近平-全人代政府活動報告から浮かび上がる対米慎重姿勢」『SPF China Observer』(https://www.spf.org/spf-china-observer/、2019年4月19日最終アクセス)。

6「王毅談新中国外交70年成就和経験(2019-03-08)」。

7「在2018年国際形勢与中国外交検討会開幕式上的演講(20181211)」『中国外交部HP』 (https://www.fmprc.gov.cn/web/wjbz_673089/zyjh_673099/t1620761.shtml、2019年4月19日最終アクセス)。

8たとえば、「中国全人代、政府活動報告から消えた『製造2025』」『日経ビジネス電子版』2019年3月5日付(https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00002/030500139/、2019年4月19日最終アクセス)。

9 「戦闘準備でも対米不戦、習近平方針混乱が示す危機」『日経新聞電子版』2019年1月9日付(https://www.nikkei.com/article/DGXMZO39751470Y9A100C1000000/、2019年4月19日最終アクセス)

10「一帯一路不是債務陷阱而是惠民馅饼2018-3-08)」『中国外交部HP』(https://www.fmprc.gov.cn/web/wjbz_673089/xghd_673097/t1643878.shtml、2019年4月19日最終アクセス)。

11中国政治学者のエリザベス・エコノミーは、エチオピアやタンザニア、ウガンダなどの小国では、政府官僚が中国側のカウンターパートを通じて、メディアの統制や異なる政治的意見の制御の仕方を学ぶなど、単に経済発展のよき相手としてだけではなく、中国はそのような政治のイデオロギー的標準を広める存在にもなっていると指摘する(Elizabeth C. Economy, “The Problem With Xi’s China Model: Why Its Successes Are Becoming Liabilities,” Foreign Affairs, March 6, 2019(https://www.foreignaffairs.com/articles/china/2019-03-06/problem-xis-china-model)。

12 「習主席『自力更生』訴え 対米貿易戦争の長期化に備え」『日経新聞電子版』2018年9月26日付(https://www.nikkei.com/article/DGXMZO35799230W8A920C1FF2000/、2019年4月19日最終アクセス)。

13“ 習近平「在慶祝改革開放40周年大会上講話」『人民日報』2018年12月19日第2版。

14なお、この事件については、米国は直後に「誤爆」であったとして謝罪したが、中国内では「意図された爆撃」と信じられ、大規模な反米デモが巻き起こった。

15『江沢民文選(第二巻)』人民出版社、2006年、327頁。

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