論考シリーズ

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第9回論考 2018/08/12

中国経済の現状

田中 修(奈良県立大学特任教授)

はじめに

 対外経済における米中経済摩擦の激化、国内における指標の悪化により、中国では経済の先行き不安が広がっている。本稿では、4-6月のGDP成長率を含め、6月までの指標をもとに、中国経済の現状を考えてみたい。

  

1.GDP

  

1-6月期のGDPは、実質6.8%の成長となった。2017年の四半期別の成長率は1-3月期6.9%、4-6月期6.9%、7-9月期6.8%、10-12月期6.8%であり、2018年1-3月期は6.8%、4-6月期は6.7%であるため、経済成長率は横ばいから減速に転じた。
 また、これを需要項目別の成長率への寄与率でみると、最終消費は78.5%、資本形成は31.4%、純輸出は-9.9%であった。2017年の成長率への寄与率は、最終消費58.8%、資本形成32.1%、純輸出9.1%であるので、純輸出がプラスから大幅なマイナスに転換するのは、奇異に感じられるかもしれない。だが、現在輸出入では輸入の伸びが輸出よりはるかに大きく、経済成長は純輸出(輸出-輸入)の伸びで決まるわけであるから、外需が成長率にマイナスに寄与することは自然である。むしろ筆者は、2017年の9.1%が国家統計局の計算ミスではないかと考えている。

  

2.各指標の推移

  

 ここで主要な経済指標の推移を見てみよう。

(1)インフラ投資
 都市固定資産投資の伸びは鈍化しているが、これはこれまで投資を支えてきた、インフラ投資の伸びが鈍化しているためである。 現在、中国は2020年までの重点政策として、①重要なリスクの防止と解消、②農村の脱貧困、③環境対策の3大堅塁攻略戦で勝利を得るとしている。特に重視されているのが重要リスクの防止と解消であり、その中心は金融リスクである。
 金融リスクは、主として政府部門(とりわけ地方政府)と企業部門(とりわけ国有企業)の債務比率の高さが問題とされ、その引下げ(脱レバレッジ)が大きな課題である。このため、政府の債務比率をこれ以上高めないため、財政部は財政赤字の規模を前年度と同額に抑えることで、2018年度の財政赤字の対GDP比率を、3%から2.6%に引き下げることを決定した。このため中央政府の建設国債と地方政府の新規地方債の発行額を抑えなければならず、インフラ投資にブレーキがかけられたのである。

(2)不動産開発投資
 不動産投資は、相変わらず高い伸びを維持しているが、これは住宅市場の過熱がおさまらないためである。人民銀行は2016年前半に経済の下振れを防止し、株式市場を安定化させるため、金融緩和を行った。この余剰資金が住宅市場に流れ込み、一線都市と一部の二線都市の住宅価格が高騰したのである。これらの都市では、16年後半から17年にかけて厳しい住宅購入制限政策が採用され、現在価格は高止まり状態となっている。しかし、規制を嫌った資金が残りの二線都市と三線都市に流れ込んだため、住宅価格の上昇が全国に拡大した。
6月の全国70大中都市の新築分譲住宅価格は、前月比で63都市で上昇しており、横ばいは3都市、下落は4都市に過ぎない。都市の規模別でも一線都市が0.6%上昇、二線都市が1.2%上昇、三線都市が0.7%上昇と、全てのレベルの都市の住宅価格が上昇傾向を示している。この住宅価格の上昇が不動産開発投資を支えているのである。
また、このような不動産市場の活況は、地方政府の重要な財源である国有地使用権譲渡収入を増加させており、1-6月期は前年同期比43%増にも達している。これは、地方政府の債務比率引下げに資する面もあり、このため地方政府は、住宅価格のコントロールに十分力が入らないのである。
ただ住宅価格の上昇が地方に拡大した結果、住宅ローンの負担が重くなり、これが家計部門の債務比率上昇につながっている。人民銀行によれば、2017年末の債務残高の対GDP比率は250.3%で、前年末より2.7ポイント上昇した。しかし、家計部門の債務比率は55.1%と、前年末より4ポイント上昇しているのである。

(3)民間投資
 民間投資は、2016年に一時伸びが2%台にまで鈍化したが、李克強総理が民間企業の参入規制の緩和などテコ入れ策を打ち出したため、その後の伸び率は大きく持ち直した。しかし、最近は再び伸びが鈍化している。
 これは、これまで人民銀行が金融リスクを防止し、企業部門の債務比率を低下させるため、金融政策を引締め気味に運営し、シャドーバンキングの拡大を厳しく抑制していたためである。このため、M2と社会資金調達規模残高の伸びは低く抑えられ、1-6月期で銀行ルートを通じた資金調達のウエイトは、フローベースで96.3%と、前年同期より22.5ポイント増加している。
 しかしながら、シャドーバンキングにはノンバンクも含まれ、これは民間企業及び中小企業の資金調達源となっている。シャドーバンキングの縮小は、中小企業とりわけ小型及び零細企業の資金調達難と資金調達コスト高を招き、これらの企業が発行する債券のデフォルトが増加している。今年1月から6月24日までにデフォルトとした債券は、件数で30件、企業数で19社に及んでおり、これが民間投資の伸びを阻んでいる可能性がある。

(4)消費財小売総額
 消費の鈍化の兆しは、既に昨年12月に現れていた。これまで2ケタの伸びであった消費財小売額伸びが12月は9.4%と1ケタに落ち込んだのである。当時、これは一時的なものか、傾向的なものか議論があったが、その後の経過を見ると、消費の伸びは明らかに鈍化傾向を示している。
 その原因の1つは、前述した家計部門の債務比率の増大であろう。債務負担が増大すれば、消費に回す資金の余裕はなくなる。
 また、都市部の所得の伸びの鈍化も、消費に影響しているのではないか。1-6月期の全国住民1人当りの可処分所得は、前年同期比実質6.6%増であった。しかし、これを都市と農村に分けると、都市住民1人当たり平均可処分所得は実質5.8%増、農民1人当たり可処分所得は実質6.8%増であり、都市の所得の伸びは成長率を大きく割り込んでいる。これは、消費支出にも影響しており、1-6月期の都市住民1人当たり消費支出は実質4.7%増、農民1人当たり消費支出は実質10.1%増であった。この都市の消費支出の伸びの低さが、小売総額の伸びの鈍化に反映されていると考えられる。

(5)外需(純輸出)
 輸入の伸びが輸出の伸びを大きく上回る状態が依然続いており、この傾向が改善されなければ、外需は基本的に成長率にマイナスに寄与するはずである。加えて、米中貿易摩擦が激化すれば、外需のマイナス効果がさらに拡大する可能性もある。

(6)雇用
 今年から正式に失業統計として採用された、全国都市調査失業率と31大都市調査失業率は、いずれも改善傾向を示している。
 1-6月期の新規就業者増は752万人であり、年間目標「1100万人以上」を前倒しで達成する勢いである。また、4-6月期の有効求人倍率は1.23であり、前年同期比0.12ポイント増であった。
 2017年に引き続き雇用指標は良好であるが、今後の米中貿易摩擦の動向と「ゾンビ企業」の淘汰の進展次第では、この傾向に変化が現れる可能性もある。

3.下半期のマクロ経済政策(純輸出)

 次の3つの会議が注目される。

(1)国務院常務会議(6月20日)
 小型及び零細企業への貸出強化、そのための預金準備率の引下げ、「債務の株式転換」の推進、を打ち出した。これを受け、人民銀行は7月5日から預金準備率を引き下げ、約7000億元の資金を解放し、小型及び零細企業と「債務の株式転換」を支援する方針を決定した。これは、やや引締め気味の運営から緩和方向への金融政策の「微調整」である。対象を絞ったのは、安易な金融緩和は住宅市場を一層過熱させ、「ゾンビ企業」の淘汰等の構造改革の妨げとなるからであろう。

(2)国務院常務会議(7月23日)
 減税と費用引下げに的を絞り、「積極的財政政策はより積極的でなければならない」とした。金融政策については、「穏健」を維持しながら、従来の「景気中立型」の表現を削除している。
 また、「ゾンビ企業」を断固として清算するとともに、民間投資を活性化させ、有効な投資の安定的な伸びを推進することとした。

(3)党中央政治局会議(7月31日)
 当面の経済運営について、「安定の中で変化があり、いくらかの新たな問題と新たな試練に直面し、外部環境は顕著な変化が生じた」とする。
 マクロ経済政策については、雇用、金融、対外貿易、外資、投資、予想を安定させることに重点を置くこととされ、サプライサイド構造改革については、インフラ分野の脆弱部分の補強が重点任務とされた。また、金融リスクの防止及び解消と、実体経済への金融サービス強化を一層うまく結びつけるとしている。
 改革開放については、効果が明白な重大改革措置を推進し、市場参入を大幅に緩和する重大措置を実施するとした。このほか、雇用の安定を際立てて位置づけるとともに、過熱がおさまらない不動産市場については、住宅市場の上昇に断固として歯止めをかけるとしている。

おわりに

 現在中国は、構造改革を進めながら債務比率の引下げを行う「構造的脱レバレッジ」を進めている。しかしながら、その過程で、投資と消費の減速、小型及び零細企業の資金調達難と資金調達コスト高、これらの企業が発行する債券のデフォルト、と国内に不安材料が出ている。加えて、米中貿易摩擦の激化が経済の行方に暗雲を投げかけている。
 4-6月期のGDP成長率が、1-3月期より鈍化したことにより、財政金融政策へのプレッシャーが強まっているように見える。しかし、景気浮揚のため安易に財政赤字を拡大すれば、政府部門の債務比率はさらに拡大することになる。また金融緩和は、住宅市場を一層過熱させ、家計部門の住宅ローン債務を増加させる危険を含んでおり、中国経済は、難しいジレンマを抱えているのである。
 今回の下半期の経済政策の特徴は、国務院常務会議の役割が前面に出てきたことである。これまで習近平総書記への権力集中により、下半期の政策については、党中央政治局会議とその前に開催される党外人士座談会の概要が7月末に公表されるだけで、国務院常務会議での検討状況は公表されなくなっていた。しかし、6月20日の会議と共に7月23日の会議の概要がわざわざ公表されたことは、内外が多事多端の状況で、マクロ経済政策について国務院ないし李克強総理の役割が再び見直されている可能性がある。
 米中貿易摩擦が泥沼化するなかで、習近平指導部は改革開放を一層推進する方向を打ち出した。米国の知識層に深く広まっている対中不信感を緩和するには、民間企業と外資が市場参入するための規制緩和の徹底、私有財産権と知的財産権の保護強化と、国有企業改革の大胆な推進が必要である。その中で、対米交渉を担当する劉鶴副総理が、7月に国務院国有企業改革領導小組の組長についたことは興味深い。改革開放40周年を控え、習近平指導部がどのような重大措置を打ち出すのか、注目される。

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