論考シリーズ

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第4回論考 2018/05/07

外交体制を強化する第二期習近平政権

井上 一郎(関西学院大学教授)

はじめに

 本年3月に開催された中国の全国人民代表大会(全人代)では、第二期習近平政権における中国の外交体制強化に向けての取り組みに注目が集まった。そして、その取り組みは早くも、全人代閉幕直後、3月25~28日の金正恩朝鮮労働党委員長の訪中に際し、垣間見ることができた。金正恩の北京滞在中、習近平国家主席、李克強総理の他に、王滬寧(おうこねい)政治局常務委員、新たに国家副主席に就任した王岐山、更に、政治局委員の楊潔篪(ようけつち)、新たに国務委員兼任となった王毅外交部長も、それぞれ関連する行事に参加した[1]。
 昨年10月の第十九回中国共産党大会と、これを受けた今回の全人代を通じて、新しく強化された中国の外交体制が輪郭を現した。先ずは、党大会において、王滬寧が政治局常務委員に昇格し、最高指導部入りを果たした。王は国際政治学者出身で、江沢民、胡錦濤時代を通じて最高指導者の外交アドバイザーとして活躍し、更には共産党の重要指導理論の起草に関わるなど、党のブレーン役を務めてきた人物である。政府の側では、元外交部長で当時は国務委員であった楊潔篪が、党の側で政治局委員に昇格した。その後、今般の全人代では、王岐山が新たに国家副主席に任命されたが、その所掌範囲には対外関係も含まれる。王岐山は、先の党大会で政治局常務委員としての去就が注目されていたが、これまでの定年の慣行に従い退任していた。また、実務レベルでは、王毅外交部長が、外交部長を兼任しながら、楊潔篪の後任として国務委員に昇格した。

1.ハイレベルの外交体制整備

 政治局常務委員にまで上り詰めた王滬寧は、長らく党中央政策研究室主任として、胡錦濤時代の外遊に、中央弁公庁主任の令計画とともに、最も頻繁に同行している[2]。個別、単独で外国人と接触することがほとんどない王滬寧は、外部からは最も理解しにくい人物である。最高指導者の側近であり、外交アドバイザーとしての役割を果たしてきたと考えられるが、その後、政治局委員を経て、政治局常務委員にまで昇進した。政治局常務委員の伝統的な所掌分担からみれば、直接対外関係を担当するのは国家主席の習近平と国務院総理の李克強の二人である。王滬寧については、習近平政権第一期に政治局委員に昇格した時点で、外交問題よりも、より大局的な党指導理論などの職務に集中するのではないかという見方もあった。更に、今般、政治局常務委員に昇進しイデオロギー部門を担当するとみられることから、もはや外交には直接関わらないのではないかとも考えられていた。しかし、金正恩訪中の際には、政治局常務委員では、習近平、李克強以外で唯一、王滬寧も関連する活動に参加したと公式には伝えられており[3]、引き続き対外関係での職責も一定程度果たすことになるのかが注目される。
 王岐山が就任した国家副主席のポストは、これまでは単に象徴的な場合も多く、必ずしも大きな役割を伴うものではなかった。しかし、これまでの金融専門家としてのキャリア、副総理時代の対米交渉で培われた人脈、そして、何よりも習近平の信任の厚さを兼ね備えた王岐山が国家副主席に任命された時点で、今後ハイレベルでの対外関係、特に対米関係で重要な役割を果たすことが予想された。しかし、就任直後の3月23日には訪中したフィリピン外相と会談[4]、また、金正恩訪中の際の活動にも参加するなど、現時点では対米経済関係のみならず、すでに外交全般の活動について関与している様子が伺える。

2.対外関係重視の政策、党機構重視の方針

 中国の対外政策にハイレベルで関与するのが王岐山であれば、これを実務レベルで支えるのが、外交部出身の楊潔篪と王毅であり、昨年の党大会と今次全人代を通じて、外交部関係者がそれぞれ党、政府機構内で昇格したことは注目される。外交部関係者が政治局委員を務めるのは、90年代から2000年代初頭にかけての銭其琛以来である。銭其琛は、党中央では更に、外事工作領導小組の副組長(組長は江沢民)、政府の側にあっては、外交担当の副総理の地位についていた。その後、後任の唐家璇以降、戴秉国、(第一期習近平政権の)楊潔篪まで、外交部出身の最高位者の地位は、党側では中央委員、政府の側にあっては副総理の一ランク下の国務委員どまりであった。銭其琛時代の政治局委員、副総理のポストを回復することが外交部関係者にとっての悲願となっていた。
 今世紀に入り、中国がWTO加盟を経てグローバル大国となり、中国自身が他の世界に大きな影響を与える存在にまでなった反面、外交当局の地位が低下したという指摘がしばしばなされてきた[5]。グローバル化の進展とともに外交部以外の省庁、地方などさまざまな主体が広く海外とかかわるようになり、外交部の役割が相対的に小さくなるという結果となった。しかし、こうした傾向は、他の国でもしばしば見られる一般的な現象でもある。但し、諸外国の外務省と比べても、伝統的に対外経済関係や安全保障関係は所管してこなかったその狭い所掌範囲のため、中国外交部の任務は外交の実施機関、あるいは政府の外交関係の窓口としての役割に限定されてきた。江沢民から胡錦濤の時代にはグローバル化が進行し、ますます拡大、複雑化する中国の対外関係業務に対する外交部のコントロールが弱まった。その一方で、指導者にとっては対外関係よりも国内問題の方が重要な関心を占めるようになり、治安や宣伝部門に対する党、政府の関心は、常に外交部への関心を上回る状況が続いたと言われる[6]。
 対外経済を所管するかつての対外経済貿易合作部(現商務部)は、貿易政策や対外借款の窓口として重要な役割を果たし、90年代以降、李嵐清や呉儀など同部出身の政治局常務委員や政治局委員、政府側では副総理などを輩出した。一方、対外経済貿易合作部の地位向上とは対照的に、外交部の地位は低下していった[7]。対外経済部門が優位となった背景としては、改革・開放政策以来の中国共産党の経済発展重視政策があった。また、安全保障を担う軍との比較も興味深い。近年、軍は、党側の政治局において中央軍事委員会副主席の2名が政治局委員のポストを得るとともに、政府側において、軍内序列第3位の人物が国務委員兼国防部長に就いてきた。これに対して、外交部関係者は、先に述べたとおり、銭其琛の退任以降政治局にはポストがなく、政府においては、最高位の人物が国務委員に就いてきたのであった。
 一連の外交部関係者の昇格人事は、近年、軍や対外経済部門に比べ相対的に低かった外交当局幹部の党及び政府内における地位が、今回ようやく一定程度引き上げられたということを意味する。こうした動きの背景には、習近平第一期政権を通じて見えてきた対外関係重視の政策とともに、党機構重視、党の政府に対する優位の方針があると考えられる。昨年、楊潔篪が政治局委員に昇格したことから、かつての銭其琛と同様、3月の全人代で国務院において、国務委員から副総理へ、同時に、王毅外交部長が国務委員に昇格するという観測もあった。しかし、副総理と国務委員との関係はランクの差はあるものの、所掌範囲として上下関係にあるのではなく[8]、国務院に外交担当が2人いる必要性はない。外交部出身最上位で政治局委員の楊潔篪が国務委員からはずれて政府機構にポストを有さない一方で、次のランクの外交部長の王毅が国務委員兼任になった。その結果、これまで軍において最上位の2名が政治局委員として国務院にはポストを有さず、軍序列3位が国務委員兼国防部長に就いている党優位の体制と似た形となった。

3.格上げ強化された外交実務者の役割

 では、党側にのみポストを有する政治局委員の楊潔篪の役割はどのようなものであろうか。楊潔篪は、すでに習近平第一期において、前任の戴秉国を引き継ぎ、党中央外事工作領導小組のメンバーであるのと同時に、事務方としてそれを支える外事工作領導小組弁公室の主任であった。今般、新たに党中央外事工作委員会が設立されることになり[9]、これに伴い、事務方の党中央外事工作委員会弁公室の主任に楊潔篪が就任することになる。しばしば、中国ではトップダウンで新組織が設立されても、関連する法制、人員、予算等が同時に整合的に準備され、その発足の時点でスムーズに機能するわけではなく、現実に活動を続けるなかで、徐々にその役割が定まってくることの方が多い。その意味では、現時点では、この新組織の実態は、既存の外事工作領導小組やその弁公室の看板の掛け替えに過ぎないと考えられるものの、今後どのように強化されていくのか注視する必要がある。
 更に、楊潔篪の重要な役割として、ハイレベルの外交実務者として、対外交渉を担うことが期待される。米国専門家としてブッシュ・ファミリーをはじめとする対米人脈を有し、駐米大使を経た楊潔篪と、日本専門家としてスタートし、駐日大使を経た王毅とでは、これまでも前者は対米中心、後者は対アジア中心という、ある程度の役割分担が見られた。しかし今後は、楊潔篪が前職の国務委員より格上の外交のプレーヤーとして振る舞うことによって、中国の外交を展開する有力なコマが一つ増えたことになる。すでに、金正恩訪中を受けて、「習近平主席特別代表」の肩書きで韓国を訪問したように、楊潔篪が特使として個別の重要イシューで海外に派遣され、交渉する役割が増えそうである[10]。また、4月に開催された日中ハイレベル経済対話では、新たに国務委員の肩書きを得た王毅が中国側交渉団の議長としての役割を果たすことになった。これまで地方勤務が長く中央に強固な基盤を有さなかった習近平は、権力集中の過程で、かつての浙江省あるいは福建省人脈の側近を多く登用することにより政権基盤を固めてきた。しかし、外交分野では地方の人材には限界があり、引き続き、伝統的に江沢民系の上海人脈の影響が強いとされる、楊潔篪をはじめとする外交部人材に当面は頼らざるを得ないと見られる。
 習近平は、前任の胡錦濤に比べれば、はるかに対外関係に関心を示すと同時に、強い中国への志向をもはや隠さなくなっている。ハイレベルでは王岐山を国家副主席に据える一方で、実務レベルでは外交部の地位もある程度引き上げ、中国全体としての外交体制を強化した。近年、中国の外交姿勢が強硬化しつつあるといった指摘が多くなされてきたが[11]、一昨年の南シナ海問題をめぐる常設仲裁裁判所の判決以降は、むしろ戦術的な政策調整を行い、比較的穏健な姿勢を保っている。同時に、アメリカとの直接の対立を避け、むしろ中国の西側に勢力圏を拡大しようとする「一帯一路」を推し進めている。今日の世界が混沌の度合いを増し、リベラルな秩序が後退するなかで、国力の向上により外交の基礎体力を高めた中国は、かつてのような単純で強硬な姿勢ではなく、それぞれの局面で、より巧妙な外交戦術を展開できる体制と能力を整えつつあるといえる。

おわりに

 習近平体制になって、その第一期に中央国家安全委員会を立ち上げ、第二期目において党中央外事工作委員会の設立を含む外交体制の強化が進められている。そして、その多くの強化策は中央のハイレベルにおける政策決定や調整のプロセスの効率化に向けられている。しかし、党中央で扱うのは往々にして重要な外交問題や戦略問題である。外交および安全保障に関連する領導小組のあり方がそうであったように、問題が発生してからアドホックに開催され、受け身で対応することが多い[12]。その結果、危機などの突発事件への対応に遅れがちな構造的体質を有していた[13]。しかし、中国外交の実際において、これまで問題になってきたのは、こうしたハイレベルでの政策決定や調整の問題もあるが、むしろ、指導部の意図と政策実施レベルの現場の行動との乖離、上層部の決定に対する現場の硬直的対応、あるいは迎合的過剰反応、または、危機における責任回避の体質などの問題であった。これらは、党中央が中心となり主要政策を決定する一方で、政策の実施主体は外交部その他の実施官庁レベルであるという中国政治の根本的な構造や、各党政府機構に深く根付いた組織文化などから来る問題でもある。今般、中国の外交体制は強化されたものの、それは、これまで対外関係が緊張するたびに、しばしば露呈してきたこのような構造的問題の改善につながるものではないことにも注意を払うべきだろう。

1「習近平同金正恩挙行会談」中華人民共和国外交部、2018年3月28日付
[http://www.fmprc.gov.cn/web/zyxw/t1546010.shtml](最終検索日:2018年4月17日)

2L.ヤーコブソン、D.ノックス(2011)、『中国の新しい対外政策―誰がどのように決定しているのか』(岡部達味監修、辻康吾訳)岩波書店、2011年、14-15頁。

3「習近平同金正恩挙行会談」中華人民共和国外交部。

4 「王岐山氏、外交デビュー、中国副主席」『日経電子版』2018年3月24日付
[https://www.nikkei.com/article/DGKKZO28503520T20C18A3FF8000/](最終検索日:2018年4月17日)

5L.ヤーコブソン他前掲書、17-18頁。

6David M. Lampton, Following the Leader: Ruling China, from Deng Xiaoping to Xi Jinping, California: University of California Press, 2014, p.164.

7Lu, Ning, The Dynamics of Foreign-Policy Decision Making in China, Second Edition, Colorado: Westview Press,1997. pp.164-165.

8全体を総括する常務副総理は例外である。

9「中共中央印発〈深化党和国家機構改革法案〉」『新華網』2018年3月21日付
[http://www.xinhuanet.com/2018-03/21/c_1122570517.htm](最終検索日:2018年4月17日)

10「習近平主席特別代表楊潔篪将訪問韓国」『人民網』2018年3月29日付
[http://world.people.com.cn/n1/2018/0329/c1002-29895047.html](最終検索日:2018年4月17日)

11これに関連して、特に2010年に高まった近隣諸国との一連の緊張は、それぞれ個別の要因によるもので、これをもって中国が近年その対外政策を強硬策に転じたとする根拠には出来ないとの見方もある。Alastair Iain Johnston, “How New and Assertive Is China’s New Assertiveness,” International Security, Vol.37, No.4 (Spring 2013),pp.7-48.

12Yun Sun, “Chinese National Security Decision-Making: Progress and Challenges,” The Brookings Institutions, 2013, p.10.

13Michael D. Swaine, “The PLA Role in China’s Foreign Policy and Crisis Beghavior” in Phillip C. Saundeers and Andrew Scobell eds., PLA Influence on China’s National Security Policy Making, California: Stanford University Press, 2015, pp.150.-151.

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