論考シリーズ

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第1回論考 2018/03/05

習近平経済思想と2018年の経済政策

田中 修(財務総合政策研究所 中国研究交流顧問)

はじめに

 1月18日、2017年の主要経済指標が発表された。また、2017年12月18-20日、党中央と国務院の共催により、2018年の経済政策を決める中央経済工作会議(以下「会議」)が開催された。本稿では、2017年の経済動向を総括するとともに、会議と2017年12月21日人民日報社説(以下「社説」)をてがかりに、「習近平新時代中国の特色ある社会主義経済思想」(以下「習近平経済思想」)の特徴と、2018年の経済政策のポイントを解説する。

1.2017年の中国経済

 GDPの実質経済成長率は6.9%となった。四半期別では、1-3月期6.9%、4-6月期6.9%、7-9月期6.8%、10-12月期6.8%となっており、年後半の成長がやや鈍化している。成長率への寄与率でみると、最終消費は58.8%、資本形成(投資)は32.1%、外需は9.1%であった。主要項目のポイントは以下の通り。

(1)物価
 消費者物価は前年比1.6%上昇と、3%以下のインフレ目標をクリアした。
(2)消費
 社会消費品小売総額は、前年比10.2%増(16年は10.4%増)と、ほぼ同水準の伸び率を保った。これは、全国インターネット小売額(Eコマース)が、前年比32.2%増と高い伸びを続けていることに支えられたものであり、消費の伸びが成長を牽引している。
(3)投資
 都市固定資産投資は、前年比7.2%増(16年は8.1%増)と、やや伸び率が鈍化した。これはインフラ投資が19.0%増と投資を支え、不動産開発投資も住宅価格の高止まりを背景に7.0%増と一定の伸びを維持したためであり、民間投資は6.0%増とやや伸びが弱い。
(4)輸出入
 輸出は、前年比7.9%増(16年は-7.7%)、輸入は15.9%増(16年は-5.5%)と、世界経済の回復を反映して、いずれもマイナスからプラスに転じた。このため、外需の成長への寄与もマイナスからプラスに転じている。
(5)雇用
 2017年の新規就業者増は1300万人と、年間目標1100万人以上を超過達成した。雇用は依然好調である。

2.「習近平経済思想」のポイント

 「会議」と「社説」を総合すると、「習近平経済思想」の主要内容は、次のように整理される。

(1)時代認識
 まず「わが国経済の発展は新時代に入り、わが国経済は既に高速成長段階から質の高い発展の段階に転換している」という時代認識が示された。
 従来用いられてきた「新常態」は、「中国経済が高速成長から中高速成長に転換している」という認識を示していた。「中高速成長」が「質の高い発展」に置き換えられたことにより、「新常態」は「新時代」に置き換えられたのである。
(2)「習近平経済思想」の内容
 会議によれば、2015年に習近平総書記が提起した新発展理念(イノベーション、協調、グリーン、開放、成果を共に享受することによる発展)が主要な内容であり、これを体現したものが「質の高い発展」であるとする。「社説」は、「質の高い発展とは、人民の日増しに増大する素晴らしい生活への需要をよく満足できる発展であり、新発展理念を体現した発展である」とまとめている。

 「社説」によれば、新発展理念以外には、次の項目が重要な内容として列挙されている。

①経済政策に対する党中央の集中的で統一的な指導を強化する。
②人民を中心とする発展思想を堅持し、「五位一体」(経済建設、政治建設、文化建設、社会建設、生態文明建設)を統一的に企画推進し、「四つの全面」(小康社会の全面的実現、改革の全面的深化、法に基づく国家統治の全面的推進、全面的な厳しい党内統治)を協調して推進する。
③資源配分において市場の決定的役割を発揮させ、政府の役割を更によく発揮する。
④わが国の経済発展の主要矛盾の変化に適応して、マクロコントロールを整備し、サプライド構造改革の推進を経済政策の主線とする。
⑤問題志向により経済発展の新戦略を手配する。
⑥正確な政策の策定と方法を堅持し、安定の中で前進を求め、戦略の底力を維持し、最低ラインを守るという考え方を堅持する。
⑦経済発展の新常態に適応し、これを把握しリードすることを堅持する。

 つまり、「習近平経済思想」は、経済発展が高速成長から質の高い発展に転換する「新時代」に入ったという認識を前提に、イノベーション、協調、グリーン、開放、成果を共に享受することによる発展を基軸としながら、党中央の集中的で統一的な指導の下で、経済体制改革と経済構造調整を進めていこうとするものである。

3.小康社会の全面的実現のための3大堅塁攻略戦

 会議では、2020年までの3つの重点政策が明らかにされた。

①重大リスクの防止解消
 マクロの債務比率を有効にコントロールし、システミックな金融リスクを有効に防止しコントロールしなければならない。
②正確な脱貧困
 特定の貧困層への正確な貧困支援に狙いを定め、貧困が深刻な地域に集中的に力を発揮し、脱貧困の質を高めなければならない。
③汚染対策
 青空防衛戦に打ち勝ち、主要汚染物質排出総量を大幅に減少させ、生態環境の質を総体として改善しなければならない。

 経済の質の高い発展が要求されたことにより、2020年までの重点目標も、従来のGDP倍増といった、量を重視した目標ではなく、金融リスク解消、経済格差是正、環境改善といった経済の質の改善に重点が置かれている。

4.マクロ政策の基本方針

 会議はまず、「安定の中で前進を求めるという政策の総基調は、国政運営の重要原則であり、長期に堅持しなければならない。『安定』と『前進』は弁証的に統一されたものであり、一体として把握すべきものである」とする。2017年が19回党大会を控え、「安定」が強調されたのに対し、2018年は改革開放40周年であり、経済構造調整及び経済体制改革で一定の前進が必要とされるのである。

 マクロ政策の総論としては、次の原則が挙げられている。

①積極的財政政策の方向は不変とし、地方政府の債務管理を強化する。
②穏健な金融政策は中立性を維持し、システミックな金融リスクを回避する。
③構造政策では、民間投資の合理的な伸びを促進する。
④民生問題では、基本公共サービスを強化し、社会矛盾を遅滞なく解消する。
⑤経済体制改革を再び速め、基礎的でカギとなる分野においてブレークスルーを得る。

 金融リスク解消の観点から、当面金融緩和を避け、財政政策と民間投資で経済を下支えしながら、経済体制改革を加速する方針を示している。

5.2018年の重点政策

 会議は、次の8項目を重点政策とした。

(1)サプライサイド構造改革を深化させる
 「中国による製造から中国による創造への転換、中国の(成長)速度から中国の(発展の)質への転換、製造大国から製造強国への転換を推進しなければならない」と3つの転換を提起する。サプライサイド構造改革は、従来の5大任務(過剰生産能力の削減、住宅在庫の削減、脱レバレッジ、企業のコスト引下げ、脆弱部分の補強)よりも、内容が広がっている。
(2)各種市場主体の活力を奮い立たせる
 国有企業及び国有資本改革方案を整備し、資本管理を主とすることを軸に、国有資本の授権経営体制を改革するとしている。
 民営企業の発展支援については、「財産権保護政策を実施し、法に基づき社会の不満が強烈な財産権紛争事件を弁別し是正する」とし、引き続き私有財産権保護強化の姿勢を示している。これは、民間投資の合理的な伸びを確保する手段でもある。
(3)農村振興戦略を実施する
 農業においても、「サプライサイド構造改革を推進し、質の面での農業振興とグリーンな農業振興を堅持し、農業政策を増産から質向上の方向へと転換する」としている。
(4)地域の協調発展戦略を実施する
 「基本公共サービスが均等化し、インフラの普及程度が比較的バランスがとれ、人民の生活水準が大体相応であることを実現しなければならない」と、インフラについても、地域格差を縮小させる趣旨が盛り込まれた。
「一帯一路」(シルクロード経済ベルト、21世紀海のシルクロード)建設をめぐっては、「対外投資方式を刷新し、投資により貿易及び産業の発展を牽引しなければならない」としている。「一帯一路」が、「地域発展戦略」の対外投資として語られており、しかも「刷新」が必要とされている点が注目される。
また、戸籍制度改革の実施の歩みを加速する、としている。
(5)全面的な開放の新たな枠組みの形成を推進する
 改革開放40周年を踏まえ、「開放の範囲とレベルを一層推し進めなければならない」とし、外資関連の法律整備、知的財産権の保護強化等が挙げられている。輸出強国建設の面では、「輸出の質と付加価値の向上をより重視し、サービス貿易を大いに発展させる」としている。
(6)民生の保障と改善のレベルを高める
 雇用については、「構造的な就業の矛盾の解決を重視し、性別や身分による差別の問題をしっかり解決する」とする。
 社会保障では、「基本年金保険制度を改革し、年金保険制度の全国統一を早急に実現する」とする。ここ数年、年金の全国統一は財政面での大きな課題となっている。
 また、インターネット金融の普及に伴い、新たに「ネット上の虚偽情報及び詐欺、個人情報の売買等の際立った問題の解決に力を入れる」という表現が追加されている。
(7)多くの主体が供給し、多くのルートで保障し、賃貸と購入が並存した住宅制度を早急に確立する
 住宅賃貸市場を発展させ、専業化した住宅賃貸企業の発展を支援する、としている。一線都市から四線都市まで不動産市場の状況が異なり、過度な引締めにより不動産価格の全面的な急落を回避する必要があるため、「不動産市場のコントロール政策の連続性と安定性を維持し、差別化したコントロールを実行する」と慎重な表現を採用している。
(8)生態文明建設の推進を加速する
 大気汚染対策のほか、大規模な国土緑化キャンペーンの始動、生態保護・修復に専門に従事する専業化した企業の育成、水質汚染防止行動計画・土壌汚染防止行動計画の実施等が列挙されている。

 この8項目が3月の「政府活動報告」の経済政策各論の柱となるものと考えられるが、順位的に構造改革、国有企業改革が前に出ており、前述のマクロ政策の基本方針に基づき、構造調整と構造改革を前面に据える姿勢が窺える。

おわりに

 今回の中央経済工作会議は、「習近平経済思想」の中身を明らかにすることに重点が置かれたが、その中心は「新時代」に入った中国経済の「質の高い発展」への転換であり、新発展理念が主要な内容であることが確認された。

 また、2020年までの金融リスク解消、脱貧困、汚染対策という3大堅塁攻略戦も提示され、習近平指導部第Ⅱ期の重点政策が、しだいに明確になりつつある。

 2018年について言えば、改革開放40周年を意識して、経済体制改革の加速がうたわれており、特に停滞が指摘されて久しい国有企業改革に、一定の進展が見られるかどうかが、試金石となる。3月には、経済主要閣僚の交代も予想されており、「政府活動報告」と憲法改正の内容に注目したい。

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