中国の対外経済支援等データ分析

ホームへ 2020/10/15

中国企業の海外における港湾建設、運営事例:カメルーン・クリビ港

北野尚宏

 中国企業は、国内の港湾建設、運営を通して積み上げた技術力と経験に加えて、豊富な資金を動員し海外における港湾建設、運営に積極的に関与している。
 海外における港湾建設、運営に携わっている中国の主な企業としては、グローバル・ターミナル・オペレーターと呼ばれる、中遠海運控股股份有限公司(COSCO SHIPPING Holdings Co., Ltd.)[1] 傘下の中遠海運港口有限公司(CSP:COSCO SHIPPING Ports Limited)、や招商局集団有限公司(CMG:China Merchants Group Limited)傘下の招商局港口控股有限公司(CMPort:China Merchants Port Holdings Co., Ltd.)、代表的な中国国有建設企業である中国交通建設股份有限公司(CCCC:China Communications Construction Company Ltd.)[2] 傘下の中国港湾工程有限責任公司(CHEC:China Harbour Engineering Company Ltd.)などを挙げることができる。CSPはギリシャ・ピレウス港など、CMPortはトーゴ・ロメ港、スリランカ・コロンボ港、ハンバントタ港などの港湾公社に出資、あるいは埠頭の運営権を取得している。
 本稿では、中国建設企業が建設、運営を担っている事例として、CHECカメルーンのクリビ(Kribi)港を取り上げたい。カメルーンは中央アフリカの大西洋側(ギニア湾)に位置し、西にナイジェリアと国境を接する天然資源に恵まれた国である。人口は約2千5百万人、面積は日本の約1.3倍で、首都のヤウンデは内陸部にある。同国最大の港であるドゥアラ港は、世界銀行による支援に加えて、日本も円借款でコンテナ・ターミナル整備に協力した実績がある。一方、河川港で水深が浅く取扱能力にも限界があることから、かねてよりギニア湾に面するクリビ(Kribi)深水港の開発が旧宗主国であるフランス(仏)などの協力により検討されていた。しかし、資金調達などに課題があり実現には至っていなかった。CHECは、2006年にカメルーン政府がクリビ港建設を検討中との情報を得たことがきっかけで、同港建設参入に向けた取り組みを開始した。2008年に無償で建設計画を提出し、2009年には中国輸出入銀行(中国輸銀)の優遇条件の借款を確保することを条件にした第1期工事に関する契約をカメルーン政府と締結した。
 CHECはカメルーンでの港湾建設の実績がなかったため、仏コンサルタントを雇用し、CHECの技術提案が適切であることを模型実験で証明してもらうなどの手立てを講じた。中国輸銀は本事業の重要性に鑑み、2011年に4.2億ドルの優遇バイヤーズクレジットを供与し、工事が開始され、2014年に完工した。浚渫工事は、名古屋に本社を置く(株)小島組がCHECのサブコントラクターとして自社の大型浚渫船を投入して実施した。コンサルタントとして米エンジニアリング会社であるルイス・バーガー(Louis Berger)社が雇用された。
 2014年には、クリビ港の所在するロラベとクリビ市街区を結び、ドゥアラ港につながる35kmの高速道路建設事業に対する3.9億ドルの優遇バイヤーズクレジットが供与され、CHECが現在工事中である。2015年には仏国際物流会社ボロレ (Bolloré)社、世界有数の海運会社である仏CMA CGM社、CHECの3社連合が競争入札の結果、コンテナ・ターミナルの運営権(25年)を獲得した。2017年には中国輸銀が第2期工事のために1.5億ドルの優遇借款と5.3億ドルの優遇バイヤーズクレジットを供与した。工事はCHECが受注している。
 2018年3月にはクリビ港の運営が始まり、CMA CGM社は、クリビ港寄港によりヨーロッパ・西アフリカ航路の輸送日数短縮を図っている。2019年のコンテナ取扱量は年間取扱能力35万TEUに対して、15.3万 TEUであった。チャドや中央アフリカ向け貨物も取扱っている。今後、クビリ港の後背地には物流施設や工業団地が建設される計画があり、CHECも関与している。
 このようにCHECは、中国輸銀の優遇バイヤーズクレジットを活用することで、クリビ港の建設を受注しただけでなく、同港の第2期工事やアクセス高速道路など新規案件も実現しつつある。加えてCHECは、仏企業と第三国市場協力を行うなどして、これまで港湾建設主体だった業務を港湾運営にシフトしようとしているが端緒についたばかりといってよい。
 中国企業は、このような中国輸銀や中国開発銀行の融資を裏付けとしたインフラ建設を、アフリカ諸国をはじめインフラニーズの高い途上国で大規模に展開してきた。しかし、借入国の債務持続性の問題に直面し、現在、見直しを余儀なくされている。
 このようなアプローチはカメルーンにおいても曲がり角に来ているようにみえる。中国はカメルーンに対して、2008年から2015年にかけて約30億ドルの融資を供与した。その後も継続して新規融資が供与されている。その結果、上述した以外に、水力発電所や、ドゥアラ港と首都ヤウンデを結ぶ高速道路の一部など中国企業によるインフラ整備は進捗したものの、同国の中国に対する債務残高は急増した。
 カメルーン政府は国際通貨基金(IMF)に拡大クレジット・ファシリティ(ECF)を要請し、2017年より3年間同プログラムのもとにある。ECFは慢性的な国際収支上の問題を抱える低所得国向けのIMFによる支援制度である。カメルーンは債務破綻状態に陥るリスクが高いとされており、中国も無利子借款については、2019年に6千万ドルの債務減免を行っている。一方、2019年の対外元利金返済額は約8億ドル(4,710億CFAF)まで増加する見込みで、うち35%は中国からの借入分である。カメルーン政府は中国政府に中国輸銀の債務の返済期限延長を要請しているが、現時点では結果は公表されていない。このように、カメルーンにおいても、中国企業によるインフラ建設は持続可能性を維持するのが難しくなっているのが現状である。
 中国企業がこれらの課題をどのように乗り越えて、途上国におけるインフラ建設に持続的に関わっていこうとするのか今後の動向を注視したい。

以上
(脱稿日 2020年2月9日)

1 親会社は国務院国有資産監督管理委員会の管理監督下にある中国遠洋海運集団有限公司(China COSCO Shipping Corporation Limited)。

2 親会社は国有資産監督管理委員会の管理監督下にある中国交通建設集団有限公司。

参考資料

Bolloré Transport & Logistics Bolloré Ports PORT OF KRIBI kribi Conteneurs Terminal, Cameroon.
https://www.bollore-ports.com/en/media/news/ports-of-kribi.html
https://www.bollore-transport-logistics.com/en/media/news/port-of-kribi.html
https://www.bollore-ports.com/en/worldwide-network/africa/port-of-kribi-cameroon.html
CMA CGM
https://www.cma-cgm.com/local/netherlands/news/174/cma-cgm-news-start-of-its-commercial-operations-at-the-kribi-container-terminal
https://www.cma-cgm.com/ebusiness/schedules/port/detail?POLDescription=KRIBI%20%3B%20CM%20%3B%20CMKBI
ICTSI has been declared preferred bidder of the Multi-Purpose Terminal of the Port of Kribi
https://www.ictsi.com/sites/default/files/2019-06/port_of_kribi_06.17.19.pdf
IMF 2019 Cameroon: Fourth Review under the Extended Credit Facility Arrangement and Requests for Waivers of Nonobservance of Performance Criteria and Modification of Performance Criteria-Press Release; Staff Report; and Statement by the Executive Director for Cameroon
https://www.imf.org/en/Publications/CR/Issues/2019/07/24/Cameroon-Fourth-Review-under-the-Extended-Credit-Facility-Arrangement-and-Requests-for-48525
Kimeng Hilton Ndukong 2017 Cameroon: Financing Projects - Exim Bank China, Chinese Government Set New Conditions https://www.mfa.gov.cn/zflt/eng/zxxx/t1500795.htm
https://www.louisberger.com/our-work/project/kribi-port-and-industrial-complex-cameroon
Kribi Containers Terminal
http://www.kribi-conteneurs-terminal.com/en/
Port Authority of Kribi
http://www.pak.cm/en
The Economist
https://country.eiu.com/article.aspx?articleid=1025342686&Country=Cameroon&topic=Economy&subtopic_1
http://country.eiu.com/article.aspx?articleid=1753496559&Country=Central%20African%20Republic&top_2
Thierry Pairault 2019 Kribi: Bolloré, CMA-CGM & CHEC ACE
https://www.pairault.fr/sinaf/doc/kribi.pdf
小島組ウェブサイト http://www.kk-kojimagumi.co.jp/work/work_overseas/entry-129.html
赵忆宁2017年3月29日 中国驻喀麦隆特命全权大使魏文华:“中国从来没有离开过非洲”
http://www.21jingji.com/2017/3-28/1MMDEzNjFfMTQwNTU1MQ.html?ulu-rcmd=0_comdf_art_1_2151c9be-cd50-41e3-9a50-4261d72648ed
https://www.fmprc.gov.cn/zflt/chn/zfgx/t1449755.htm
赵忆宁 雅温得 2017年3月28日21世纪经济报道 「中国港湾中部非洲区域管理中心总经理许华江:合作开发第三方市场 喀麦隆是最大的利益攸关者」
http://www.21jingji.com/2017/3-28/zOMDEzNjFfMTQwNTUzOQ.html?ulu-rcmd=0_comdf_art_2_86d8dd5d-9071-4376-9325-e412a97f9560
http://news.sina.com.cn/c/2017-03-28/doc-ifycspxp0177362.shtml