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中国の対外経済支援等データ分析

ホームへ 2020/10/15

「中国の対外支援等データ分析」プロジェクト
中国の海外港湾に対する投資と背景

笹川平和財団上席研究員 小原凡司

初めに

 本プロジェクトは、「中国の海外港湾に対する投資が、中国の外交戦略の一部として行われている」という仮説を検証するために、同投資に関するデータを収集し分析を行うことを目指した。しかし、本稿では中国の全ての海外港湾に対する投資の分析を行うことはできず、また、中国の外交戦略を示すデータの収集まで行うことができなかったため、仮設そのものを検証することは困難である。本稿が提示することができるのは、特定の港湾建設の投資について、中国が商業目的以外の目的を有していたか、という問いに対して推論する程度であろう。そこで本稿では、パキスタンのグワダル港を例にとり、中国の港湾建設に対する投資が商業目的以外の目的を有していたかどうかを検証する。
 中国の対外借款および投資等には、受入国の返済能力を超えて行われ、返済が滞ると、本来の目的であるインフラの運営権を獲得する等といった「債務の罠」のイメージが付きまとう。また、中国が投資した港湾は、完成後も商業的に成功しているものばかりではないように見受けられる。例えば、パキスタンのグワダル港、ミャンマーのチャウピュー港などは、定期的に船舶の運航状況を確認しても、入港している船舶がほとんど見当たらない。こうした港湾に関して、そもそも中国はこれら港湾を商業目的ではなく、軍事目的に使用する計画であったとも言われるのである。
 一方で、多くの一帯一路関連プロジェクトが、必ずしも習近平主席あるいは党中央の思惑どおりに行われておらず、各実施企業が短期的な利益を求めて融資を利用しているとの見方もある。商業的に成功する見込みを立てられず、あるいは投資元の銀行等が十分な調査を実施しないにもかかわらず投資を行い、回収が困難になると、各企業が中国共産党指導部からの批判を恐れて、運営権等だけでも獲得しようとすると言われるのだ。
 中国の対外投資に関わる企業の意図について明らかにすることは困難であるが、本稿では、商業的に成功しているとは言い難いグワダル港を例にとり、中国の外交戦略を実装する手段としての中国海軍の活動との関係に焦点を当てて考察する。

グワダル港の商業的意義

 パキスタンのグワダル港の第1期建設工事(2002~2006年)は、中国政府とパキスタン政府の双方が出資して進められた。第1期工事の投資総額は2.48億米ドルで、その内、中国政府は1.98憶ドルを、助成金、無利息借款、優遇借款およびバイヤーズクレジット等の形式で融資している[1]。
 しかし、グワダル港は、商業的に成功しているとは言い難い。貨物の取り扱いが不十分で、港湾の使用も不足しており、2019年夏に、中国遠洋海運集団有限公司の子会社である中遠海運集装箱運輸有限公司(COSCO Shipping Lines)がコンテナ・サービスを停止した[2]。2015年に開始された第2期工事は投資総額10.2億米ドルに上るとされる[3]が、グワダル港の自由貿易区は60%しか完成していない[4]。
 実際に、グワダル港を利用する船舶の数は極めて少ない。グワダル港入港船舶(表1)を見れば、商用港として成功していないことは明らかである。また、グワダル港のインフラ建設は基本的に、2015年には完成していたとされている[5]が、入港隻数は増加するどころか、減少傾向にある。

表1 グワダル港入港船舶

 さらにグワダル港は、48,278平方メートルという広大なコンテナ積載エリアと、6,875平方メートルの空のコンテナスタッキングエリアを有している[6]が、入港船舶にBulk Ship(ばら積み貨物船)が多い。コンテナ船の入港がほとんどなく、これだけの施設が利用されていないことになる。このことは、グワダル港のコンテナ取り扱いに問題があることを示唆している。グワダル港には、200メートルのバース(荷役を行う岸壁)があり、50,000トンで最大喫水12.5メートルの貨物船が入港可能である[7]。
 もし、中国が商用以外の目的でグワダル港を使用するとすれば、海軍艦艇の補給が考えられる。ホルムズ海峡の出口に当たる戦略的要衝を、中国海軍が利用したいと考えるのは想像に難くない。2018年5月、米国のシンクタンクであるCSISは、グワダルにおける人民解放軍海軍の行動拡大の予測が、インド太平洋地域における海上プレゼンスを拡大する中国の取り組みに関して、これまでとは異なる連接を形成するため、より大きな安全保障上の問題を提起する、としている[8]。
 しかし、中国が当初から軍事的な目的を持ってグワダル港を建設したという根拠はなく、中国人民解放軍のグワダル港利用状況を併せて分析する必要がある。

中国海軍のパキスタンにおける活動

 2010年5月23日、梁光烈・中国国防部長(日本で言う国防大臣)がパキスタンを訪問した。パキスタン国防部長は、「中国軍事代表団のパキスタン訪問は、隣国である両国の間の相互関係を強化し促進する」と述べている[9]。
 中国国防部長のパキスタン訪問以降、中国海軍艦艇のパキスタン訪問等は増加しているが、それでも中国が「護航」と呼ぶアデン湾における海賊対処部隊がその往復に親善訪問する程度であった。

表2 中国海軍艦艇のパキスタン訪問等

 中国海軍艦艇が毎年、パキスタンを訪問するようになるのは2015年からである。2015年は、中国とパキスタンの協力強化が謳われた年でもある。同年4月20日から2日間、習近平主席がパキスタンを訪問し、460億ドル相当51の協定および覚書を締結しているのだ[10]。これら協定および覚書の中には、パキスタン政府最大の関心である発電プロジェクトへの融資協力が多い。また、中国西部からパキスタン北部を経由してアラビア海への出口となるグワダル港までの高速道路、鉄道、空港やパイプライン建設という、中国パキスタン経済回廊(CPEC)について中国政府が融資することとされた[11]。
 しかし、表2からも分かるように、中国海軍の水上艦艇および潜水艦の多くが入港しているのはグワダル港ではなく、カラチ港である。中国海軍潜水艦は、カラチ港のドックに入り、整備も行っている。一方のグワダル港は、ドックヤードに建設予定であった人工島の建設がマスタープランから除外され、造修能力を含め、艦船に対する整備補給能力が当初目的に達しない可能性もある[12]。
 あるいは、中国海軍艦艇のグワダル入港は、メディアによって報道されていない可能性もある。2017年6月14日にインドメディアが、情報機関の話として、中国海軍水上艦艇および潜水艦が頻繁にカラチおよびグワダルに入港していると報じているからだ[13]。2018年以降、中国海軍艦艇のパキスタン入港に関する報道が見られなくなったのは、報道規制がかかっているからである可能性もある。
 それでも中国がインド洋における海軍の活動を活発化させていることは間違いない。特に、中国海軍の潜水艦運用の活発化は顕著である。しかも中国は、自国海軍潜水艦を派遣するだけでなく、東南アジアおよび南アジア諸国に潜水艦を輸出することによって、インド洋の海象情報等を入手しようとしていると考えられている。バングラデシュは2013年、中国から2隻の中古の「明型」通常動力型潜水艦の購入を決め、2014年3月に就役させた。タイも2014年4月、中国製としては「明型」の2世代後継に当たる「元型」の新造艦1隻の購入を決定し、さらに2隻の購入を計画している。パキスタンは、2015年に中国の習近平家主席が訪問した際、中国潜水艦8隻の購入に関して協議が行われ、翌2016年に中国側が正式に確認した。この8隻は「元型」通常動力型潜水艦で、そのうち4隻はパキスタンで建造される予定である[14]。

おわりに

 中国がグワダル港建設に対する積極的な投資を行っていることは事実であるが、グワダル港が未だ商業的に成功していないことも事実である。一方で、報道から見る限り、中国海軍艦艇、特に潜水艦のグワダル港入港は認められないが、インド情報機関は、中国海軍水上艦艇及び潜水艦がカラチおよびグワダルに頻繁に入港しているとしている。さらに2016年11月、パキスタン海軍は、中国海軍艦艇がグワダル港に展開される可能性について言及している[15]。
 こうした状況は、中国のグワダル港建設に対する投資が中国海軍艦艇の活動拡大の拠点とする目的を有していたことを否定するものではないが、断定的な根拠を示すどころか、連関を示唆するものとしても十分とは言えない。
 いかなる国であれ、国家の意図を計るのは容易ではない。ましてや中国の情報公開は、中国共産党によって管理されている。本稿から言えるのは、客観的な根拠となり得るデータの収集の重要性であり、分析のための多大の努力の必要性である。引き続き、データを収集してデータベースを構築し、データを可視化して複数の角度からの分析を容易にする可視化を継続していく必要がある。

(脱稿日 2020年3月3日)

1 ‟瓜达尔港“一波三折”建设路”≪人民网≫2015年4月20日。
http://paper.people.com.cn/gjjrb/html/2015-04/20/content_1555581.htm

2 ‟China-Pakistan Gwadar Port runs into rough weather”, The Economic Times, Sep 10, 2019.
https://economictimes.indiatimes.com/news/international/world-news/pakistan-china-gwadar-port-runs-into-rough-weather/articleshow/71041565.cms

3 ‟Zhuhai Port scores big with deal in Pakistan”, China Daily USA, October 30, 2015.
http://usa.chinadaily.com.cn/epaper/2015-10/30/content_22326165.htm

4 ‟Gwadar Port City”, CPEC China-Pakistan Economic Corridor.
http://cpecinfo.com/gwadar-port-city-1/

5 ‟瓜达尔港“一波三折”建设路”≪人民网≫2011年04月20日。
http://paper.people.com.cn/gjjrb/html/2015-04/20/content_1555581.htm

6 ‟PORT PROFILE”, Gwadar Port Authority
http://www.gwadarport.gov.pk/portprofile.aspx

7 前出‟PORT PROFILE”.

8 ‟Pakistan’s Gwadar Port - A New Naval Base in China’s String of Pearls in the Indo-Pacific”, CSIS, March 2018.
https://www.csis.org/analysis/pakistans-gwadar-port-new-naval-base-chinas-string-pearls-indo-pacific

9 ‟中国国防部长出访巴基斯坦引印度关注”, RFI, 2010年5月24日。
http://www.rfi.fr/cn/%E4%B8%AD%E5%9B%BD/20100524-%E4%B8%AD%E5%9B%BD%E5%9B%BD%E9%98%B2%E9%83%A8%E9%95%BF%E5%87%BA%E8%AE%BF%E5%B7%B4%E5%9F%BA%E6%96%AF%E5%9D%A6%E5%BC%95%E5%8D%B0%E5%BA%A6%E5%85%B3%E6%B3%A8

10 ‟CPEC Long Term Plan”.
https://www.pc.gov.pk/uploads/cpec/LTP.pdf

11 「発電所や高速道路事業に中国が大規模融資-習国家主席のパキスタン訪問-」『JETRO』20115年05月22日。
https://www.jetro.go.jp/biznews/2015/05/b6eb649388b361a0.html

12 ‟Gwadar News: Artificial Island Built in Gwadar Dockyard is Dropped”, Gwadar Dock, March 1, 2020.
http://gwadardock.com/index.php/2020/03/01/gwadar-news-artificial-island-built-in-gwadar-dockyard-is-dropped/

13 ‟Chinese warships frequently visit Karachi, Gwadar in bid to expand presence in Indian Ocean”, India Today, June 14, 2017.
https://www.indiatoday.in/india/story/indian-ocean-china-warships-submarines-navy-presence-goodwill-visit-peoples-liberation-army-982649-2017-06-14

14 「中国、インド洋沿岸国に潜水艦輸出 データ収集狙いか」『朝日新聞DIGITAL』2018年1月14日。
https://www.asahi.com/articles/ASL1D4FXVL1DUHBI00X.html

15 ‟巴基斯坦:中国海军或在瓜达尔港部署舰艇”≪日本经济新闻≫2016年11月26日。
https://cn.nikkei.com/politicsaeconomy/politicsasociety/22547-2016-11-28-08-51-03.html