事業紹介

2015年
事業

インド国会議員戦略対話

事業概要

本事業は、インドの国会議員を日本に招へいすることによって、インド国会議員と日本の政財官などとの交流の場を設け、日印間協力体制の強化、新規のパートナーシップの構築、相互理解の促進を図ることを目的としています。

【事業計画】
 ➣ インド国会議員団の訪日、来日記念講演会の開催
 ➣ フォローアップ会合の開催(於インド)

事業実施者 インド産業連盟 (CII)(インド) 年数 3年継続事業の3年目(3/3)
形態 自主助成委託その他 事業費 9,000,000円
インド国会議員訪日記念講演会 サマリー (2015年10月27日実施)

【インド経済の急成長と鉄道】


モディ政権が誕生してからインドの経済は大きな回復をみせている。インドの2015年の国内総生産(GDP)は7.5%の成長率が見込まれ、さらに2016年7.8%、2017年8%と右肩上がりが予想されている。インドの成長率が中国を凌駕したという意味で、同国にとり2015年は分岐点となろう。インドの経済がこのような新たな弾みをつけた中で、インド鉄道のインフラ整備は、これまでに増して重要となる。現政権は、インド鉄道インフラの近代化と改良に最優先順位を置いている。


インド鉄道は、世界でも最大の鉄道システムを誇っている。総延長キロは6万6,000kmで、地球を1周してさらに半周するほどの路線距離を有する。約8,000の駅を結び、1日当たり1万2,000本の列車を走らせて、2,300万人の乗客を運んでいる。これは、オーストラリアの全人口を動かしているのに等しい。そして7,000本以上の貨物列車が、毎日300万トンの貨物を運んでいる。年間の貨物量は11億トン以上にも達する。これらの数字からも明らかなように、インド鉄道は、同国にとって文字通りライフラインと言っても過言ではない。



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V.P.バドノール議員



【インド鉄道の需要と問題点】


インド経済の拡大と人口増加にあいまって、鉄道サービスに対する需要が高まっている。本年度現時点でのインド鉄道の収益は2,530億ドルに達し、前年同期比で12.16%増加した(前年2,256億ドル)。収益の割合は多い順に、貨物1,716億ドル、ついで旅客68億7,000万ドルである。これからの予測として、旅客と貨物輸送がともに向こう10年間で倍増するとみられている。すなわちインドの鉄道にとっての喫緊の課題は、その需要に応え、しかも緊急に整備していなかければならないことにある。


しかしながら、インド鉄道は依然として多くの問題を抱えている。例えば、品質の問題、安全性の問題、快適性の問題、列車運行スピードの問題など、解決すべき問題が多く残されている。これらの問題を解決できず、利用客の需要に応えられない主要な理由は、何十年にもわたって、鉄道インフラおよび技術に対する投資不足が続いたためである。その結果として、インド鉄道の近代化と拡大計画に影響を与えることになった。


過去60年間でインドの貨物輸送量は、実に1,344%増加した。くわえて旅客輸送量も1,642%増えたが、これに対し延伸された路線距離はわずか23%増に過ぎない。また複線化などによる路線延長は、289%しか増えていない。需要と輸送能力の間に大きな乖離があることは明白である。



【インド鉄道をめぐる日印協力】


インド鉄道インフラの近代化と改良について、インド政府は現在、野心的な計画を立てている。鉄道システムの近代化に必要な投資額として、1,300億ドルが見積もられている。未曾有の投資額ではあるが、換言すれば、国内外の投資家の目の前には大きなビジネスチャンスが広がっている。


日印間の提携関係を強めることのできる鉄道分野として、コアインフラの近代化、高速鉄道の整備、駅や貨物ターミナルの整備・開発、専用貨物回廊の整備、地下鉄プロジェや車輌製造プロジェクトなどの立ち上げ等が考えられる。線路の整備・更新はとても重要なことであり、インド政府は今後5年間に包括的なネットワーク拡大計画を立案している。具体的には、①2,000kmの新線、②1万1,000kmの複線化、③4,000kmのゲージ幅転換、⑤2,800kmの専用貨物回廊の整備、⑥1万kmの鉄道路線の電化である。


インド政府が積極的に整備を進めようとしているもう一つの分野に、高速鉄道プロジェクトがあり、特に日本との提携を考えている。インド政府はすでに高速鉄道会社(High Speed Rail Corporation of India)と呼ばれる専用の組織を創設している。現在、いくつかの高速鉄道プロジェクトが検討されているが、すでにJICAがアーメダバード — ムンバイ高速鉄道に対してフィージビリティスタディを実施した。


さて、デリーとムンバイを結ぶ貨物専用鉄道(DFC)西回廊は、まさにインドと日本における協力拡大の新たな輝かしい事例となっている。JICAから6,451.73億円の円借款を受けたが、この中には約200台の電気機関車の調達も含まれている。このプロジェクト・コンセプトをさらに促進するべく、インド政府はインド貨物専用鉄道公社(DFCCIL)を立ち上げた。現在、6つの回廊が計画されており、DFCCILが貨物専用鉄道の計画、開発、資源の投入、建設、維持、運用を担当し、プロジェクトそのものは、EPCとPPPの両方合わせて実行することになる。


もう一つの大きなインドにおける事業、そして投資の機会が、大量高速輸送システム(MRTS)である。デリーメトロは日印の戦略的パートナーシップをより高い次元の協力に引き上げた事例である。日本による経済的、技術的な支援がデリーメトロ・プロジェクトを成功に導いた。毎日約250万人が利用するデリーメトロは、デリー市の風景を一変させるとともに、公害の悪化を食い止めることにも貢献している。
インド政府は、今年5月に50の都市におけるメトロシステムの導入を発表した。総予算額は750億ドルが見込まれている。デリーメトロ建設にみられた日印協力関係は、それらの都市にも拡大していくべきと考える。



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会場の様子



【結論】


日本とインドの両国は、すでに輸送インフラ部門で強力な2国間関係を構築してきた。またデリーメトロ、貨物専用鉄道西回廊、デリー・ムンバイ間産業大動脈構想(DMIC)など輝かしい協力の成功例がある。このような関係をさらに構築し、そして拡大する好機が今まさに到来している。日本政府はインドに対する直接投資と企業進出を5カ年で倍増すると発表した。他方、インド鉄道は1,300億米ドル以上の投資機会を提供している。日本からの多くの投資があれば、インド政府の最優先課題である、インド鉄道インフラの近代化と改良に必ずや役立つことになるであろう。



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森地茂教授



VP・シン・バドノール議員による講演終了後、モデレーター兼コメンテーターである政策研究大学院大学政策研究センター所長の森地茂教授より、まず日本の鉄道に関し、①日本が国際的にインパクトを与えた鉄道政策(新幹線、空港と鉄道のリンク、国鉄民営化、都市鉄道)、②高速鉄道(新幹線の特徴、国際比較)、③都市鉄道(日本とアジア諸国の公共交通比較、都市鉄道導入のタイミング)、④鉄道に関わる財源制度(運賃、補助金、内部補助、開発利益、PPP)について説明がなされた。次いで、フロアとの間で、インドにおける新幹線の強み、インド北東部地域と東アジア間の鉄道網の整備構想、高速鉄道と航空機の競合、日中の高速鉄道受注競争などについて意見交換が行われた。



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質疑応答の様子



インド国会議員招へい報告

2015年10月25日から7日間の日程で、超党派で構成されたインド国会議員団(4名)が訪日しました。(訪問都市:東京・金沢)

笹川平和財団は2004年度より日印間の相互理解の更なる促進を目的に、インド工業連盟(CII)への助成を通じ、インド国会議員の招へい事業を実施してまいりました。12年目にあたる今年度は、現在のインド国家開発計画において最重要課題のひとつである「鉄道インフラ」をテーマに、インド国会議員4名を日本に招へいしました。インド側からは、現在同国で建設予定計画が進められている高速鉄道に重点を置いた視察を行いたいとの強い要望があったため、2015年3月に開通したばかりの北陸新幹線(グランクラス)に実際に乗車し日本の新幹線の技術と安全性について感じてもらったほか、関連施設も訪問し、新幹線の運営管理システムや組織体制の詳細について関係者から説明を受けました。また、細田博之日印友好議連会長、西村康稔副会長兼事務局長、山本順三国土交通副大臣、濱地雅一外務政務官への表敬訪問などを行い、高速鉄道を始めとする幅広い分野での日印協力について貴重な意見交換を行いました。



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細田博之日印友好議連会長・西村康稔副会長兼事務局長とともに



また10月27日には、「インド鉄道インフラの近代化と改良に向けて:日印協力への期待」(運輸政策研究機構後援)と題した来日記念講演会を笹川平和財団ビルにて開催し、訪日団団長のV.P.シン・バドノール上院議員が代表してインドの鉄道インフラの概況について講演しました。コメンテーターには政策研究大学院大学(GRIPS)の森地茂教授をお招きし、日本と世界各国の高速鉄道の比較、都市開発における鉄道インフラ整備、PPPスキームを含むインフラファイナンスの課題等についてコメントを頂いたほか、インドの高速鉄道参画に向けた日本企業が直面する課題や空港輸送との比較等について、フロアも巻き込み非常に活発な議論が行われました。



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レセプション



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国会議事堂見学



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東京駅での意見交換・新幹線の視察