Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第523号(2022.05.20発行)

地域主体のSDGs「海の環境認証ブルーフラッグ」

[KEYWORDS]ブルーフラッグの認証基準/環境教育/SDGs
(特非)FEE Japan理事長◆伊藤正侑子

ブルーフラッグは海の環境認証である。2022年3月現在、50の国の4,831のビーチ、マリーナ、観光船舶にブルーフラッグが授与されている。アジアでは韓国とインドにブルーフラッグ認証ビーチがあるが、日本はビーチもマリーナもアジアで最初に認証を取得している。
フランスで誕生して37年を迎えるブルーフラッグ認証の歴史、その基準、特徴などを紹介する。

ブルーフラッグ認証の歴史

ブルーフラッグとは、海の環境認証です。日本で比較的知られている海の環境認証と言えば水産エコラベル※1でしょうか。もちろん水産資源は海を構成する非常に重要な部分ですが、海には他にも多くの機能(図1)があります。ところが、特に人間がレクリエーションとして利用する海水浴場やマリーナ、観光船舶についての環境認証はありませんでした。
今から16年前の2006年、環境省が快水浴場百選を選定しました。当初は3年ごとに更新される計画だったようですが、その後一度も更新されていません。今なお、快水浴場百選に選定されたことを掲げている海水浴場が日本にはたくさんあることを思えば、これらの認証を受けた地域の方々の期待も大きかったと思います。
ご存知の通り環境破壊は時間をかけてゆっくり進行するものです。しかし、例えば地震、津波、台風などの自然災害や、タンカー座礁などの海難事故、経済性のみを優先した無計画な乱開発などの人的影響で、一瞬にして起こってしまうケースもあります。今日の美しい海岸が明日も同じように続く保証がない時代であることを、今では誰もが感じています。
ブルーフラッグは1985年にできた歴史ある環境認証です。廃水処理と海水浴場の水質に関する基準に基づきフランスで生まれ、世界初のブルーフラッグがフランスの自治体に授与されました。1987年には欧州委員会(EC)からの支援を受け、その後EU海水浴場水質基準を適用する手段として、ブルーフラッグは正式に国際NGO FEE※2のプログラムとなり欧州全体に広がっていきました。水質だけでなくゴミ管理、沿岸地域の開発計画と保護、マリーナを含めた管理なども求める内容です。
1998年、EU諸国以外で南アフリカが初めてブルーフラッグ・プログラムに取り組むことを決め、2001年にEU以外の国で初のフラッグを授与されました。その他にも多くの欧州観光客が訪れるカリブ海諸国で1999年より、カリビアン・ブルーフラッグ協会がUNEP(国連環境計画)、UNWTO(国連世界観光機関)と協力して申請に取り組み、EU以外でも広がっていきました。また南アフリカに続き、ブラジル、カナダ、チリ、モロッコ、ニュージーランドの各国でブルーフラッグ・プログラムへの取り組みが2006年以降始まりました。

■図1

認証取得には環境教育の実施が必須

ビーチでブルーフラッグを取得するには、「環境教育と情報公開」「水質」「環境マネージメント」「安全とサービス」の4つのカテゴリーに分けられた33の基準を満たす必要があります。審査は国内審査と国際審査があり、まず国内審査で認められないと国際審査を受けることができません。また国際審査を経て認証を取得しても、有効なのはその年だけで毎年更新が必要です。
すべての認証ビーチ・マリーナには旗(図2)を揚げているシーズン中に現地審査が入ります。現地審査は国内審査(調査)委員だけでなく、国際審査会が行う場合もあり、たいてい抜き打ちです。現地審査で基準の不順守があれば、違反の報告が申請団体に通知され、その程度によって旗を一時的またはそのシーズン全期間にわたり揚げることができません。現地審査委員だけでなく、ビーチやマリーナを利用する誰でもが基準違反を報告できるように、ブルーフラッグの情報掲示板には、国際本部および国内審査団体の連絡先が記載されています。もちろん情報掲示板にはブルーフラッグの順守すべき基準についてわかりやすく記載されています。つまり誰もがその認証を監視できるのです。ブルーフラッグ認証の信頼性は、旗を揚げている全てのビーチへの厳しい調査と審査を通じて担保されています。
ブルーフラッグのユニークなところは環境教育の実施を義務づけている点です。ブルーフラッグ・プログラムを運営する国際NGO FEEは、環境教育を通した持続可能な開発を促進することを目標としています。環境教育はブルーフラッグをはじめFEEの5つのどのプログラムにおいても中心的価値であり特徴となっています。環境教育は、ビーチやマリーナを訪れる人に対する環境問題への意識向上と環境に配慮した行動や活動への教育、ビーチやマリーナの管理・運営を行っている人やそれらの業務に関わる人に対するSDGsを理解するための教育、ビーチやマリーナがある地域全体に対する環境への主体的な関わりを促進する教育などに留意することが必要です。
環境教育は基準のトップに置かれており、認証取得には最低5つ以上の活動を行わなければなりません。環境問題を知り、持続可能な未来を創るために何かできることを見つけ、参加していく、ブルーフラッグ認証は単なる証しではなく、人のつながりを創り、人を育て、人によって活動が広がっていくことを重要視していると言えます。

■図2 ブルーフラッグ(由比ガ浜海水浴場での初掲揚) ■図3 若狭和田海水浴場での環境教育

日本のブルーフラッグビーチ

現在アジアでは、韓国とインドにブルーフラッグ認証ビーチがあります。日本は、ビーチでもマリーナでもアジア初の取得国でした。2022年は1月に国内審査、4月に国際審査があり、現在、表のように7つが認証を得ています。
ブルーフラッグを取得する意義は、ビーチやマリーナの所在する周辺地域の持続可能な発展を促進することにあります。それはまさに持続可能な世界の実現を目指す国連のSDGsと一致します。ブルーフラッグ認証基準は、SDGsの17の目標全てに関わっています。言い換えれば、ブルーフラッグの認証基準を満たすための行動を行い、認証を取得するということが、まさに未来を見据えた行動、SDGsに取り組んでいる証しとも言えるのです。2022年シーズンはコロナ禍への対応策も進み、日本の海に7つのフラッグがはためくことを願っています。(了)

  1. ※1水産資源や生態系などの環境に配慮された漁業や養殖業の認証
  2. ※2FEE(Foundation for Environmental Education)国際本部ホームページ https://www.fee.global/

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