Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第507号(2021.09.20発行)

編集後記

日本海洋政策学会会長◆坂元茂樹

◆2021年2月施行の中国海警法に対する関心が高まっている。分立していた海洋法執行機関を束ねる中国海警局が2013年に創設され、2018年に武警海警総隊に改編され、軍隊組織に変わった。海上法執行を軍隊組織が担うことは各国の実行にも見られ、そのこと自体問題ではない。ただ、同法22条で武器使用の対象範囲が外国組織に拡大され、83条で防衛任務が付与された。尖閣諸島領海への侵入を繰り返す海警船舶を排除する任務を行う海上保安庁巡視船に対する武器使用の懸念がある。なお、対峙する海上保安庁は文民の警察機関である。
◆岩並秀一前海上保安庁長官より、これまで海軍、国境警備機関、警察機関などの機関により実施されてきた海上保安業務を専任的に実施する海上保安機関を設置する国が増大していることをご紹介いただいた。中国の動きとは逆である。近年、各国で海上保安機関の名称や船体塗装の標準化(船体前部に斜めの塗色)や警告措置、停船措置の海上法執行手法の標準化が見られるという。日本は、海上保安庁と日本財団が連携して海上保安機関の多国間連携を本誌第416号でも紹介した世界海上保安機関長官級会合等を通じて主導しており、今後の活動に期待したい。
◆山下東子大東文化大学経済学部教授より、広大なEEZを有する太平洋島嶼国の漁業の実態についてご寄稿いただいた。パラオなどが組織したナウル協定加盟国9カ国のEEZは、カツオ、マグロの通り道になっており、この海域で操業する日本を含む各国はVDS(隻日数)と呼ばれる入漁料を支払っている。島嶼国はこのVDSを外交カードに、自国船籍化、自国での転載・加工、自国民の雇用などの要求を実現しているという。こうした沖合漁業とは異なり、沿岸漁業が国勢調査で家事に分類されているのは興味深い。ぜひご一読を。
◆変異株の影響もあり、新型コロナウイルスの感染拡大が続いている。橋村修東京学芸大学人文社会科学系教授より、江戸時代の九州西岸の疫病の水際対策についてご説明いただいた。最近話題になっているアマビエは九州西岸の海域に出現したとの語りで共通しているという。薩摩藩の異国船漂流者への水際対策では、「唐人」、「朝鮮人」など漂着者の属性によって病死者対応を分けていたとのこと、江戸中期から幕末まで猛威を振るった疱瘡や幕末期のコレラの流行に際しては、五島列島・天草諸島では山への隔離から地付きの無人島への隔離が行われていたとのことで、興味のつきない論考である。(坂元茂樹)

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