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オーシャンニューズレター

第86号(2004.03.05発行)

第86号(2004.03.05 発行)

「浮体式海釣り公園」造りにまつわる諸問題

元JFEエンジニアリング(株)ソリューションエンジニアリングセンター、マリンエンジニアリンクグループ副部長(現JFE環境(株))◆米澤雅之

浮体構造物については、国土交通省海事局が船舶の視点から"係留船"という見方をし、港湾局が"港湾の施設"という見方をし、国土交通省住宅局が陸上での建築物的利用に着目して"海洋建築物"という見方をしている。つまり、構造物としての安全性について、それぞれの法体系のもとに船舶安全法、港湾法、建築基準法(含消防法)の三法の適用を義務付けているが、今回の二事例は適用対象外となっており、今後も新規性のある積極的な海域利用では各種の法制度や規則が、障害となるのではなく促進材料となっていくことを希望したい。

メガフロートの後利用

平成10年から平成12年にかけて、横須賀沖で空港利用実証実験に使用したメガフロート、"浮体空港モデル"(長さ1,000m×幅60/120m×深さ3m)は、その使命を終えたあとの処理、利用について様々な検討がなされたが、結局解体された後、主要な部分は全国5カ所で再利用されることとなった。

A=「マリンパーク・くまの灘」(三重県)、B=「フェリー桟橋」(島根県隠岐島)、C=「あしずり港移動式耐震係留施設」(高知県)、D=「うずしおメガフロート南淡」(海釣り等、多目的施設)(兵庫県淡路島)、そしてG=「清水港海釣り公園」(静岡県)がそれらである。(図1参照)

筆者は、そのうちA(平成13年6月、三重県南勢町五ケ所湾奥)とG(平成15年11月、静岡市清水港)の2つを手がけたので、その体験から思うところを述べることとしたい。

■ 図1 メガフロートの後利用 (クリックで拡大)

情報バックアップ基地、W杯イベント会場、そして海釣り公園へ

ところで、「清水港海釣り公園」は、後利用としては途中に二段階の変遷を経ている。最初の後利用としてはまず、E=「メガフロート情報基地機能実証実験」として設置された。これは想定される大地震災害の対応策として、コンピュータのバックアップ基地を地震の影響を受けない浮体式構造物の上に設置することの意義を実証するもので、成功裏に終了した。そしてその途中、F=「2002年サッカー・ワールドカップ決勝戦の前夜祭イベント会場」としても利用された。さらにその後、G=「清水港海釣り公園」へと三度目の変身を遂げて今日に至ったものである。

この海釣り公園は、面積約6,200m2の長方形で、外周部に幅4mの海釣りエリアを柵で仕切って設けてある。柵の内側の主デッキ上には、魚のつかみ取りが楽しめる親水広場や、バーベキューなどができる多目的広場、休憩スペースやトイレなども備え、釣具のレンタルや餌の販売も行っている。オープンは当初、2003年夏を予定していたが、諸手続きなど日数がかかり、11月16日となった。同公園は、連絡橋で陸上と繋がってはいるが、これはあくまでメンテナンスおよび非常用であって、利用者は清水港内の船だまりから船で渡る。公園の入場料は無料だが、この渡船料(12歳以上200円、小学生100円)と、外周部で釣りをする場合は海釣りエリアの入場料(15歳以上500円、小中学生300円)が必要となる。

複雑な法制問題や手続き

浮体構造物は、その活用の仕方によっては、国土交通省海事局(旧運輸省海上技術安全局)が船舶の視点から"係留船"という見方をし、港湾局が"港湾の施設"という見方をし、国土交通省住宅局(旧建設省住宅局)が陸上での建築物的利用に着目して"海洋建築物"という見方をしている。

つまり、構造物としての安全性について、それぞれの法体系のもとに船舶安全法、港湾法、建築基準法(含消防法)の三法の適用を義務付けているが、今回の事例は適用対象外であった。また、このような施設を設置する際には、港湾区域、漁港区域あるいは自然公園指定区域であるかなどによって、設置水域を管理する者の許認可を必要とする。「マリンパーク・くまの灘」、「清水港海釣り公園」の場合の具体的な内容を総括して表示しておく。(表1参照)

各規則の設計への適用状況を見てみると、概略次のようなことが言える。まず、舶用/陸用品の使用状況についてだが、日本建築センターから「海洋建築物安全性評価指針」が出される平成2年4月以前に三法が適用された浮体構造物案件においては、同一設備に対する複数法規の適用により一部設備が二重設備となったり、特注品を装備せざるを得なかったりしたものがある。ただ、それ以降の案件においては舶用/陸用品の混合使用はあるものの、二重設備や特注品装備といった不合理は解消されているようである。

■表1「マリンパーク・くまの灘」と「清水港海釣り公園」の概要
施設名 マリンパーク・くまの灘 清水港海釣り公園
運営母体 くまの灘漁業協同組合 静岡市
浮体サイズ 120m×60m×3m136m×46m×3m
水域・施設用地占用許可 三重県、南勢町、南島町 静岡県清水港管理局
設置届先 鳥羽海上保安部 清水海上保安部
簡易標識設置届 鳥羽海上保安部 静岡航路標識事務所
自然公園法にもとづく届出・許可 環境省自然公園管理事務所 ―――――
運輸省海技局に船舶安全法の適用・非適用の確認 不特定多数の人が利用する閉囲された区画(レストラン、劇場等)がなければ非適用 不特定多数の人が利用する閉囲された区画(レストラン、劇場等)がなければ非適用
浮体の構造強度、安全性 (社)日本海事協会の鑑定 (社)日本海事協会の鑑定
建築基準法
(海洋構造物)
受付/売店スペース、休憩スペースとも200m2以下であり、建築基準法に基づく建築確認は不要。但し、海上構築物に関する三重県の内規があるため、建築届けを提出した 200m2(特殊建築物に該当する場合は100m2)以上の建築物を設置する場合は、建築確認申請を行う。設置場所が都市計画区域に指定されたため、市建築指導課が建築審査会を設置した
漁業法(区画漁業権等)の一部変更・調整 県主管課 ―――――
係留計算 設置場所は漁港区域と一般海域にまたがっているため、係留装置の計算は、港湾法、漁港法:「漁港構造物標準設計法」・「漁港の防波堤・けい船岸等の設計指針と計算例」を参考にした計算書を提出 海釣り公園設置予定場所は港湾区域に指定されているため、係留装置の設計、係留計算は「港湾の施設の技術上の基準・同解説」に準拠して行った

次に、設計条件および設計荷重についてだが、三法でチェックを行い一番厳しい設計条件および荷重条件を採用し、浮体の構造設計および安定性については主に船舶安全法にもとづいている。消火設備、排煙設備および避難設計については主に建築基準法(含消防法)にもとづくこととし、係留設備については主に港湾法にもとづいて設計、という具合である。

こうした三法適用上の調整の動きも、最近の規制緩和の動きを受けて、関連省庁間で調整する動きが出てきた。つまり、関連各省庁はいずれも平成10年3月31日付で以下に示す通達を発行している。「係留船に係わる取扱いについて」、「浮体構造物の取扱いについて」、「海洋建築物の取扱いについて」がそれらである。また、全体としての相互関係を図示しておく。(図2参照)

「清水港海釣り公園」造り

この海釣り公園は、設置海域が清水港という港湾区域であって管理者が静岡県であるのに対し、海釣り公園自体は静岡市の公園整備事業の対象として整備された(したがって、市内の他の公園と同様、入場無料なのである)ので、上記のような全体像の中で行政の許認可を得るために種々の申請を行い、審査が必要となった。その過程で、浮体上に設置する建築物の使用方法に制約がでてきたり、折角ある浮体内部のスペースを利用することに制限がかかることになった。デッキ上の親水広場も、プールとしてしまうと関連法規が別途かぶさってきて運営体制や水管理のシステム整備が必要になり、コスト高を招き、運用管理がより複雑となってしまうので、あくまで膝下程度の深さの水遊び場とするなどの設計上の工夫が必要となった。

いずれにせよ、本件のような浮体構造物利用案件については、今後旧来の縦割り体制を超えて、関連部署に的確な指示を行う総合調整の役割と権限をもつ部署を設置して迅速な行政対応をしていただくこと、各種の法制度や規則が、新規性のある積極的な海域利用の障害となるのではなく促進材料となっていくことを切に希望したい。(了)

■図2浮体式構造物の関連規則
浮体式構造物あるいは海洋建築物に関しては、設置海域、使用目的等により適用すべき規則が相違する。一般的には下図に示す規則のいずれかまたは複数が適用される。

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