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週刊国際海洋情報(2023年3月23日号)

1.英国政府:小型モジュール炉の開発を積極支援

英国では原子力発電が総発電量の13%を占めているが、2030年までに、1基を除いて、老朽化した原子炉の運転を停止し、新たな原子炉に代替する予定だが、大規模な原子力発電所は、初期投資額が大きく投資を集めるのが困難なので、より小型で少ない予算で建設できる小型炉に重点を置くため、3月15日、英国の財務大臣は、2023年予算案の発表にあたり、小型モジュール炉(SMR)の設計に関する提案の公募を開始して、年末までに締め切り、実現可能な提案がなされれば、政府としても共同で投資を行うと表明した。英国政府は2016年にも同様の公募を実施して、33件の提案を受けたが、この時には、第一段階としての情報の収集にとどまり、次の段階には進まなかった。2022年には、Rolls-Royce社の実施する5億ポンド(約800億円)のSMRの開発事業に対し、英国政府は2.1億ポンドの支援を実施している。財務大臣は、原子力への民間投資を促進するため、原子力発電を「環境上持続可能な」エネルギーとして認めることについても意見照会を始めると発言した。

原文

Reuters (3/18)


2.解説:Net-Zero Industry ActとCritical Raw Material Actの5つのポイント

標記概要は以下のとおり。①目標:中国への依存を削減するため、2030年までに、EUが炭素中立を達成するために必要なグリーン産業・技術の最低40%を域内で生産すること。選定された希少原料については、2030年までに、EUが年間消費する量の最低10%を域内で産出し、最低40%を域内で加工する。②重点対象産業:太陽光発電、バッテリー・蓄電装置、ヒートポンプと地熱発電、電解槽、燃料電池、バイオメタン、(再生可能電力に対応する)送電技術、炭素回収貯留技術。戦略的原料として、銅・リチウム・磁石に必要なレアアースなど16品目を指定。③許認可期間の短縮と簡素化:戦略事業として指定され、年間1GW以上を発電する事業については、1年以内に認可。EU の域内・域外を問わず、希少原料の採鉱は2年以内、加工とリサイクル施設については1年以内に認可。④財源:重点事業については、Temporary Crisis and Transition Frameworkの対象となり、加盟国による国家助成に対する規制が大幅に緩和。加盟国による新たな共同借り入れを財源とするEuropean Sovereign Fundの創設も検討中。⑤環境影響面での配慮:エネルギー関連インフラの建設と希少原料の採鉱・精練・リサイクル事業は、自然保護や水質保全保護規制との関連では、「超越的利益」と位置付けられる。

原文

Politico (3/18)


3.解説:欧州重要原材料法の概要

標記以下のとおり。①重要原材料(CRM)は、炭素中立産業・デジタル・宇宙・防衛などのEUの戦略産業に必要な広範な技術に不可欠な原材料であり、グリーン/デジタル転換に伴い、今後益々需要量が急増するが、幾つかのCRMの90%以上は中国に依存しており、経済的・社会的・安全保障上のリスクとなっている。②欧州重要原材料(ECRM)法は、ECRMのバリューチェーンのすべての段階を強化し、ECMRの輸入先を多元化して特定国への依存を減らし、CRM供給が混乱するリスクを監視・緩和するためのEUの能力を向上させ、CRMの循環性・持続可能性を改善する。③欧州域内で確保すべきシェアとして、CRMの採鉱については最低10%以上、加工については最低40%以上、リサイクルについては最低15%以上とし、以上の各段階において、特定の第3国(中国)への依存度を65%以下とすること。④欧州委員会は、「重要原材料クラブ」というアライアンスをパートナー国と結成し、CRMのサプライチェーンの強化と調達先を多元化する。

原文

欧州委員会 (3/19)


4.中国:2025年までに世界の1/3のリチウムを支配下に

リチウムは電気自動車のバッテリーを製造するために不可欠だが、UBS銀行が3月10日発表したところによれば、アフリカ諸国を含む中国が支配するリチウム鉱山の産出量は、2022年の19.4万トンから、2025年には70.5万トンに拡大し、この結果、世界シェアも24%から32%に拡大する見通し。中国国内ではレピドライトなどからリチウムが生産され、2022年には8.8万トン生産されたが、中国政府の継続的な支援を受けて2025年には、28万トンに生産量が拡大し、世界シェアの13%が中国国内で生産される見込み。

原文

Mining Weekly (Bloomberg) (3/19)


5.ECSA:非バイオ再生可能燃料を戦略的Net-Zero技術として位置付けるべき

欧州船主協会(ECSA)がNet-Zero Industry Actについてコメントを発表したところその概要は以下のとおり。①海運業界は、エネルギー・食料等の貿易品の輸送を担う、欧州にとっての戦略的な産業であり、法案において、海運業界の国際的な競争力の強化を念頭に置くべき。②海運は最も脱炭素化が難しい業界であり、経済的に受け入れ可能な低・ゼロ炭素燃料・技術の拡大がポイントとなる。③従って、非バイオ再生可能燃料の生産技術を、法案において、「戦略的なnet-zero技術」と位置付け、同燃料の生産能力の速やかな拡大を図るべき。④洋上風力発電と炭素回収貯留技術が「戦略的なnet-zero技術」と位置付けられたのは歓迎する。

原文

ECSA(3/21)


6.IPCC:最終報告書を発表

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、3月20日、最終報告書を発表したところその概要は以下のとおり。①2018年に発表した先回の報告書では、前例を見ない規模の異常気象を克服するためには、地球の気温上昇を産業革命以前と比較して1.5℃以内に抑制する必要があることを指摘したが、その後もGHGの排出量は増え続ける一方で、これまでに実施された地球温暖化対策は、速度においても規模においても不十分なものであった。②この結果、産業革命以前と比較して、地球の気温は既に1.1℃上昇しており、より頻繁に、熱波・豪雨などの激しい異常気象が発生し、世界のいたるところで、猛暑で人々が死亡し、食料や飲み水の確保が困難となり、パンデミックや地域紛争と相まって、被害を管理するのが難しくなっている。③地球の温暖化の原因を作っていない世界の人口の約半分の人々が、気候変動の影響を受けやすい地域に居住しており、洪水・干ばつ・嵐で死亡する確率は、気候温暖化の原因を作った先進国に住む人々より、15倍も高いというclimate justiceの問題が顕在化しており、途上国におけるloss and damageに直ちに取り組む必要がある。

原文

IPCC (3/21)


7.オランダ政府:500MWの洋上グリーン水素製造施設の建設計画を発表

オランダ政府は、再生可能エネルギーを利用して、2030年までに陸上で4GWの水素を製造する目標を持っているが、それに加えて、3月20日、フローニンゲン沖の北海の風力発電施設と連結した500MWのグリーン水素を生産する大型洋上施設を建設し、2031年から運用を開始すると発表した。製造された水素は、既存の天然ガスパイプラインを利用して、陸上に輸送される。

原文

Reuters (3/22)


8.バイデン大統領:ESG投資に関する規則を守るために初めて拒否権を行使

労働省は、1.5億人の年金生活者のために、合計で12兆円(約1580兆円)の資金を運用する年金基金のファンドマネージャーが、投資先を決定し、株主としての権利を行使するにあたり、環境・社会・会社統治(ESG)の要因を考慮しやすくする規則を制定したが、これに対し、議会共和党と民主党のManchin議員などが、この規則によって、ファンドマネージャーが運用利益より、リベラルな考えを優先することを許容するとして、この規則を無効とする法案を3月1日に上院で可決した。この法案に対して、バイデン大統領は、共和党の法案は、民間の投資に不当に介入するもので、年金生活者の利益を害するとして、初めて拒否権を行使した。

原文

Reuters (3/22)


9.欧州委員会:合成e燃料のみ使用する内燃機関自動車を許容する案を作成

欧州委員会は、EU域内において2035年から内燃機関を使用する自動車の新車販売を禁止する法案に関し、独政府と合意するために、回収したCO₂を使用した合成e燃料だけを燃料とする内燃機関自動車という新たなカテゴリーを設けて、新車販売を引き続き認める案を作成した。合成e燃料だけ使用できることを担保するために、それ以外の燃料が使われた場合に、エンジンがかからないような不正予防技術の導入を条件として求める方針。但し、既に欧州委員会・欧州理事会・欧州理事会で合意済みの内燃機関自動車の段階的な廃止法が成立した後でなければ、合成e燃料を使用する新たな自動車関する提案はしないと欧州委員会はコメントしている。

原文

Reuters (3/23)


10.欧州議会法務委員会:環境犯罪の類型の拡大と罰則の強化を承認

環境犯罪は、国際犯罪の中で最も収益率が高く、拡大している犯罪の分野で、年間2000億ポンド(約32兆円)以上の不法収益があげられている。こうした状況に対応するため、欧州委員会は2021年12月に、環境犯罪指令を改正し、加盟国間で、環境犯罪者を罰する枠組みの整合性を図る提案を行った。欧州委員会の提案を受けて、欧州議会では、違法な木材の取引、不法利用に伴う水源の枯渇、船舶による環境汚染、EU化学規則違反などを新たに環境犯罪の対象に加えるとともに、罰金額を、違反行為を行った企業が全世界において過去3年間に売り上げた総売上額の最低10%以上とし、犯罪の個人の禁固期間を4年から10年へと大幅に強化することを、欧州議会法務委員会は、3月21日、全会一致で承認した。さらに当該企業は公的資金の供与を拒否され、事業免許をはく奪され、「汚染者負担の原則」に従い、環境被害を復元し、被害者に補償を行わなくてはならない。

原文

Euractiv (3/23)


その他のニュース

1.再生可能エネルギー
 (ア)グリーン水素
  ①EU:再生可能水素の供給拡大へ欧州水素銀行を設立へ 原文(3/18)
2.エネルギー転換
 (ア)石炭の取り扱い
  ①海外新規事業への投資の停止
   中国の海外石炭火力事業からの撤退は経済的な理由 原文(3/22)
 (イ)原子力の取り扱い
  ①EU
   原子力によって作られる低炭素水素の扱いで欧州諸国が対立 原文(3/21)
 (ウ)重要原材料
  ①EU
   ポーランド政府の要請で原料炭がEU重要原材料リストに残る 原文(3/22)
 (エ)エネルギーの貿易量
  ①英国
   2022年のエネルギー輸入額が対前年比2倍増以上で過去最大 原文(3/23)
3.海運の脱炭素化
 (ア)炭素回収貯留
  ①燃焼前炭素回収システム
   ロイズ船級協会:燃焼前炭素回収システムを基本承認 原文(3/20)
4.気候変動緩和対策
 (ア)炭素回収貯留
  ①EU
   CO₂地下貯蔵容量に関する目標を世界で初めて立てる 原文(3/18)
5.気候変動
 (ア)氷河・海氷の減少
  ①北極海
   北極海の海氷の冬季最大面積が史上5番目に狭い面積に 原文(3/19)
6.気候変動適応対策
 (ア)早期警報システム
  ①WMO
   2027年までに世界のすべての場所で早期警報システム稼働へ 原文(3/23)
7.船舶の安全性
 (ア)旗国の責任
  ①便宜置籍
   クック諸島・パラオ・シエラレオネ・トーゴ籍船を集中監査 原文(3/19)