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国際海洋情報(2023年3月18日号)

1.欧州委員会:CO₂地下貯蔵容量に関する目標を世界で初めて立てる

使用するエネルギーをすべて電化することが難しい、鉄鋼・セメント・化学産業などのエネルギー多消費型の産業が炭素中立を達成するためには、炭素回収貯留(CCS)が経済的に実現可能となる必要があり、3月16日、欧州委員会はNet-Zero Industry Act提案の中で、エネルギー転換のために必要な重要技術の一つとしてCCSを選択し、EU全体として、CO₂を地下に貯蔵する量を、2030年までに年間5000万トンとするという目標を世界で初めて掲げ、具体的な関連資源・技術・知識を有する石油ガス産業に対し協力するよう強く要請した。3月には、デンマークがベルギーで回収されたCO₂を海上輸送して、同国の領海内の北海海底の石炭ガス採集跡地に貯留する国際事業を世界で初めて開始したが、CCS技術を大規模に普及させ、同技術に対する投資リスクを下げるために、EU全域で、デンマークと同様な国境を越えたCO₂貯留事業が実施されることを、欧州委員会は望んでいる。

原文

Euractiv (3/18)


2.英国政府:小型モジュール炉の開発を積極支援

英国では原子力発電が総発電量の13%を占めているが、2030年までに、1基を除いて、老朽化した原子炉の運転を停止し、新たな原子炉に代替する予定だが、大規模な原子力発電所は、初期投資額が大きく投資を集めるのが困難なので、より小型で少ない予算で建設できる小型炉に重点を置くため、3月15日、英国の財務大臣は、2023年予算案の発表にあたり、小型モジュール炉(SMR)の設計に関する提案の公募を開始して、年末までに締め切り、実現可能な提案がなされれば、政府としても共同で投資を行うと表明した。英国政府は2016年にも同様の公募を実施して、33件の提案を受けたが、この時には、第一段階としての情報の収集にとどまり、次の段階には進まなかった。2022年には、Rolls-Royce社の実施する5億ポンド(約800億円)のSMRの開発事業に対し、英国政府は2.1億ポンドの支援を実施している。財務大臣は、原子力への民間投資を促進するため、原子力発電を「環境上持続可能な」エネルギーとして認めることについても意見照会を始めると発言した。

原文

Reuters (3/18)


3.EU:再生可能水素の供給拡大へ欧州水素銀行を設立へ

ロシア産輸入化石燃料に対する依存から数年以内に脱し、2050年炭素中立達成のためにも、水素の役割は大きいので、EUはREPowerEU戦略において、2030年までにEU 域内で生産する再生可能水素と海外から輸入する再生可能水素をそれぞれ1000万トンずつ確保することを目標としている。EU域内における再生可能水素の生産については、2022年になって初めて最終投資決定まで至った事業が出たが、大多数の事業計画は未だ計画段階にある。このため、欧州委員会は、3月16日、Net-Zero Industry Act案の一部として欧州水素銀行(EHB)を2023年末までに立ち上げ、再生可能水素のvalue chainを創造し、各事業が開始当初直面する財政的な課題を支援するとともに、海外で生産された再生可能水素のEUへの輸入確保にあたることを提案した。EHBは再生可能水素の確保のほかに、再生可能水素に関する需要・必要となるインフラの規模・コストなどに関する情報を評価・共有して、投資のための透明性を向上するとともに、既存の金融手法を合理化し、新たな官民の資金調達手段との融合を図ることを目的とする。

原文

欧州委員会 (3/18)


4.解説:Net-Zero Industry ActとCritical Raw Material Actの5つのポイント

標記概要は以下のとおり。①目標:中国への依存を削減するため、2030年までに、EUが炭素中立を達成するために必要なグリーン産業・技術の最低40%を域内で生産すること。選定された希少原料については、2030年までに、EUが年間消費する量の最低10%を域内で産出し、最低40%を域内で加工する。②重点対象産業:太陽光発電、風力発電、バッテリー・蓄電装置、ヒートポンプと地熱発電、電解槽、燃料電池、バイオメタン、(再生可能電力に対応する)送電技術、炭素回収貯留技術。戦略的原料として、銅・リチウム・磁石に必要なレアアースなど16品目を指定。③許認可期間の短縮と簡素化:戦略事業として指定され、年間1GW以上を発電する事業については、1年以内に認可。EU の域内・域外を問わず、希少原料の採鉱は2年以内、加工とリサイクル施設については1年以内に認可。④財源:重点事業については、Temporary Crisis and Transition Frameworkの対象となり、加盟国による国家助成に対する規制が大幅に緩和。加盟国による新たな共同借り入れを財源とするEuropean Sovereign Fundの創設も検討中。⑤環境影響面での配慮:エネルギー関連インフラの建設と希少原料の採鉱・精練・リサイクル事業は、自然保護や水質保全保護規制との関連では、「超越的利益」と位置付けられる。

原文

Politico (3/18)