国際海洋情報の内容については、有料メールニュースなど営利目的での転載はご遠慮頂くとともに、二次使用の際は国際海洋情報からの転載である旨を明示していただきますよう、お願いいたします。

週刊国際海洋情報(2023年3月18日号)

1.EU:米国へのグリーン産業流出を阻止するために国家助成規制を緩和

2022年夏に、米国がインフレ削減法を制定して、生産拠点を北米に置くことを条件として、今後10年間に、グリーン産業や先端技術産業が経営規模を拡大する際の支援として、総額3690億円の税額控除や直接助成を行う政策を発表したが、こうした米国の強力なグリーン産業誘致策に対して、欧州委員会は、現地生産を条件とすることは、差別的・不公正・違法で、米政府の魅力的な助成策によって、欧州から多くのグリーン産業が米国に移転し、EUの長期的な国際競争力が低下することを懸念している。このため、欧州委員会は、バッテリー・太陽光パネル・風力発電のタービン・ヒートポンプ・電気分解装置・炭素回収装置の6つの主要製品とその部品・原材料について、国家助成規則を簡素化し、各加盟国が補助金・低利融資・税額控除といった形で公的支援を実施することを可能とし、さらに、米国に生産拠点を移転される可能性が高い場合は、米国の助成制度と同様の助成(matching aid)を実施することまで認めることとした。

原文

Euronews (3/12)


2.欧州委員会:ヒートポンプ普及のための行動計画立案へ

ヒートポンプは、冷蔵庫の逆の原理で、大気中の熱を凝縮して、建物の暖房に利用するもので、既存の暖房装置と比べると格段にエネルギー効率が良く、欧州の家庭の脱炭素化推進の中心的な手段となり、2022年の5月に発表されたロシアへの依存脱却戦略であるREPowerEUの中では、今後5年間に温水ヒートポンプを1000万台、2030年までに3000万台導入することが目標となっている。EUのエネルギー問題担当コミッショナーは、3月9日、欧州議会産業委員会で、3月14日に公表される予定のGreen Deal Industrial PlanとNet-Zero Actの一部として、ヒートポンプを上記目標以上に拡大する行動計画を作成し数か月以内に発表すると発言した。ヒートポンプの製造についても国際競争が激化しており、近年中国から欧州への輸出が急激に増加している。ヒートポンプは3月9日に発表された国家助成に関するTemporary Crisis Frameworkの中でも、太陽光パネルやバッテリーと並んで戦略品目に指定されており、2022年12月20日に発表された特別緊急規則の中でも、今後18か月間に限定して、大規模な新設の暖房装置の設置許可の審査機関を1か月以内に短縮することも定められている。

原文

Euractiv (3/12)


3.英国気候変動委員会:2035年までに電力を脱炭素化する方策

英国気候変動委員会が、標記報告書を3月9日に発表したところその概要は以下のとおり。①2050年炭素中立を実現し、信頼でき自然災害にも強い電力を供給し、輸入される化石燃料への依存を削減するためには、2035年までに英国の電力を脱炭素化する必要がある。②英国政府は以上の目的を達成するために、既存の再生可能エネルギーに係る目標だけでなく、原子力に係る目標についても同時に達成する必要がある。③電力の脱炭素化とエネルギーシェアを拡大することによって、輸入される石油・ガスへの依存を減らし、国際的な化石燃料価格の乱高下の悪影響を減らすことが可能。④エネルギーの電化によって、経済成長と雇用が促進される。例えば、英国内の洋上風力発電事業の就業人口は、現在でも31000人を超えているが、2030年までに洋上風力産業に、1550億ポンド(約25兆円)が投資され、就業人口も97000人に拡大する見込み。太陽光と陸上風力でも同様に投資と雇用の拡大が見込まれる。

原文

気候変動委員会 (3/13)


4.欧州理事会と欧州議会が2030年における最終エネルギー消費量を11.7%削減で合意

3月10日、欧州理事会と欧州議会は、エネルギー効率指令に暫定合意したところ、その概要は以下のとおり。①EU加盟国は全体として、2020年に策定された2030年におけるエネルギー消費量の見通しより、最終消費エネルギーを11.7%以上削減する。その結果、最大消費可能最終エネルギーは石油換算で7.63億トンとなる。②各加盟国は、それぞれの国家エネルギー・気候計画において、法的拘束力のない国家削減目標と削減計画を定める。国家削減目標の算出式も法的拘束力はなく上下2.5%の幅を持たせることが可能。③2024年から2030年までの年間平均削減率が1.49%となるよう、加盟国は期間中に削減率を徐々に引き上げ、2030年末には1.9%まで引き上げる。④公共交通と軍隊を除く、公共部門については、年間エネルギー削減率を1.9%とし、さらに公共部門が所有する建物について、年間最低3%以上改修してエネルギー効率の改善を図る。

原文

欧州理事会 (3/13)


5.英国:石炭の消費量の減少でCO₂排出量が3.4%減少

再生可能エネルギーの順調な増加や、気温が平年気温より0.9℃高く、さらに化石燃料価格が史上最高に達したため、2022年における英国国内で石炭と天然ガスの消費に伴うCO₂排出量はともに減少した。特に石炭の消費量は、対前年比15%の減少となり、1757年以来の最低を記録した。一方で、道路交通量がパンデミック以前の水準に回復し、航空輸送が対前年比2倍となったため、石油の消費に伴うCO₂排出量は増加したが、石炭・天然ガスの減少分が上回った。1990年と比較して、経済規模は75%拡大したにもかかわらず、CO₂排出量は49%減少した。英国政府発表の速報値によれば、2022年に英国全土で排出されたCO₂の量は、対前年比3.4%の1400万トン減少したが、2050年炭素中立を実現するためには、今後30年間、同量のCO₂排出削減を継続する必要があるので、建物・交通・農業分野からのCO₂排出量削減に取り組む必要がある。

原文

Carbon Brief (3/14)


6.中国最高人民法院:環境関連訴訟の取り扱いに関するガイダンスを発表

習近平国家主席は、2030年までに炭素の排出量をピークアウトさせ、2060年までに炭素中立化を図るという目標を最近再確認したが、中国最高人民法院は、同国の判事が環境関係の訴訟を取り扱う際に、開発と環境保護について均衡のとれた判断することなどを含む、環境問題関連訴訟の取り扱いに関する24条のガイドラインを発表した。さらに、CO₂排出枠の適用・大気汚染に関する責任・森林伐採など環境関係の訴訟で予想される11のモデルケースを示し、特に、近年訴訟が増えている炭素排出権取引に関する訴訟に力を注ぐように指示している。今回の措置は、2022年10月に開催された中国共産党第20回全国代表大会で表明された環境保護に関する宣言を実施するための重要なステップとして発表された。この宣言では、低炭素産業の振興・資源の市場原則による配分・環境被害の削減などが表明されている。

原文

Climate Change News (3/14)


7.英国政府:CCS技術開発に年間10億ポンドを投資へ

英国政府の財務大臣は、3月15日にclean energy resetとして炭素回収貯留(CCS)技術に対して、今後20年間に200億ポンド(約3.3兆円)を投資し、2030年までに2000万から3000万トンのCO₂を回収貯蔵し、最大で5万人の新規雇用を創出することを発表する。200億ポンドは政府の資金だけではなく、英国民がエネルギー代金の一部として負担する。英国政府は、現在小型モジュール原子炉(SMRs)開発の公募を実施しており、近日中に結果を発表する予定。英国政府は2035年までの電力脱炭素化を目指しており、同年には、総電力の70%は太陽光発電と風力発電によって供給される予定だが、再生可能エネルギーについては新たな政策は発表されない見込み。

原文

Evening Standard (3/16)


8.欧州議会:CO₂削減目標とcarbon sinksの拡大に合意

3月14日、欧州議会は2030年までに1990年実績比でGHGの排出量を55%削減するというFit for 55パッケージの一環として、2つの法律を承認した。第1の法律は、現在EU排出権取引制度の対象となっていない道路交通・建物の暖房・農業・廃棄物処理などの分野からEU全体のGHGの約60%が排出されているが、これらの分野から排出されるGHGを2005年実績比で、2030年までに削減する目標を30%から40%に全体として引き上げる一方で、デンマーク・フィンランド・独・ルクセンブルグ・スウェーデンなどの先進国は50%削減という高い目標を掲げる一方で、旧東欧のブルガリアには10%削減といった各国の事情を反映した削減目標について合意した。2番目の法律は、欧州の森林・湿地などを拡張して、大気中から吸収するCO₂の量から、大気中に放出するCO₂の量を差し引いた純吸収量を、現在の実績に比べて約15%拡大して、2030年までに3100万トンに拡大することに合意した。具体的な方法としては、古い森林を再生し、新たな森林を創生し、泥炭地に水を供給して湿地に変え、土壌中により多くの炭素をため込むために、農耕の方法を変えて、土地を耕す回数を減らすことなどが考えられる。

原文

Reuters (3/16)


9.英国:洋上風力発電の建設のために40億ポンドの投資が必要

英国政府と関係業界から構成される浮体式洋上風力発電タスクフォースは報告書を発表し、英国がclean energy産業の世界のリーダーになるためには、40億ポンド(約6480億円)の投資が必要で、国内の最大11の港湾を浮体式洋上風力発電施設の建設・保守支援のために改造する必要があるとしている。同報告書では、政府が迅速な対応を取れば、2040年までに最大で34GW分の浮体式洋上風力発電施設の建設が可能で、まずは、2030年までに5GW分建設するという高い目標を政府は掲げるべきとしている。また、浮体式洋上発電施設は1ポンドの投資あたり4.3ポンドの経済波及効果が見込まれるとも試算している。3月13日はウェールズ政府がケルト海に、浮体式洋上風力発電施設を建設することにより、ウェールズをclean energyの一大拠点とする計画を承認した。スコットランドには既にKardine沖に浮体式洋上風力発電施設が建設され、さらに北ハイランド沿岸の沖にも浮体式洋上風力発電施設を建設する計画がある。

原文

Aberdeen Live (3/17)


10.欧州委員会:Net-Zero Industry Act案を発表

3月16日、欧州委員会は、EUにおけるクリーン製造産業の拡大と、EUがclean-energyへのスムーズな転換を図るために、Net-Zero Industry Act案を発表したところその概要は以下のとおり。①Net-Zero産業を始めるための行政手続き上の負担を削減し、許認可手続きを簡素化する。特に、化石燃料燃焼時に回収されたCO₂を安全に貯留する事業など、EUの産業の耐久性と競争力を強化するのに重要なNet-Zero戦略事業を指定・優先する。②全て電化することが難しいエネルギー多消費型産業から回収したCO₂を経済的に処理するために、石油ガス業界に応分の負担を求めて、2030年までに年間5000万トンのCO₂を戦略的なCO₂貯留施設に注入することを目標とする。③Net-Zero技術の普及促進を図るために政府公共機関による調達・競売参加の条件として、持続可能性・持久性要件を入れることを求める。④Net-Zero戦略事業に従事する技能を持った人材を養成するために、Net-Zero欧州プラットフォームの支援と監督のもとに、Net-Zero産業アカデミーを創設することを含む新たに技能労働者の育成を図る。⑤柔軟な規制の下で、革新的なNet-Zero技術を試験し、革新を進めるために、加盟国が法規制上のsandboxesを創設することを認める。

原文

欧州委員会(3/17)


その他のニュース

1.再生可能エネルギー
 (ア)各国の支援策
  ①米=EU間の貿易紛争
   フォルクスワーゲン:欧州委員会に米国並みの支援措置を求める 原文(3/12)
  ②カナダ
   グリーン産業誘致をめぐって米国との報復合戦は望まず 原文(3/12)
 (イ)電力の脱炭素化
  ①EU
   欧州委員会:EU電力市場改革案を発表 原文(3/17)
2.エネルギー転換
 (ア)原子力の取り扱い
  ①英国
   2つの老朽原子力発電所の運転期間を2年延長 原文(3/13)
 (イ)新たな化石燃料開発
  ①米国
   バイデン政権:アラスカの新規Willow石油開発を認可 原文(3/16)
 (ウ)化石燃料産業への批判
  ①米国
   大統領予算案:石油・ガス産業への補助金の大幅削減を提案 原文(3/13)
  ②英国
   化石燃料産業が再生可能エネ産業より多くの政府助成を受ける 原文(3/14)
3.気候変動緩和対策
 (ア)CO₂排出実績
  ①ドイツ
   2022年のGHG排出量は対前年比1.9%減少 原文(3/17)
 (イ)COP28
  ①EU
   G20:世界銀行改革のための専門家グループ結成へ 原文(2/24)
 (ウ)食料・農業
  ①食品廃棄物からのCO₂排出
   世界のGHG総量の約1/6が食物廃棄物から発生 原文(3/16)
4.循環経済
 (ア)再生PET
  ①飲料業界の優先使用
   欧州委員会:飲料業界が再生PETを優先使用することを拒否 原文(3/14)