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国際海洋情報(2023年3月12日号)

1.EU:米国へのグリーン産業流出を阻止するために国家助成規制を緩和

2022年夏に、米国がインフレ削減法を制定して、生産拠点を北米に置くことを条件として、今後10年間に、グリーン産業や先端技術産業が経営規模を拡大する際の支援として、総額3690億円の税額控除や直接助成を行う政策を発表したが、こうした米国の強力なグリーン産業誘致策に対して、欧州委員会は、現地生産を条件とすることは、差別的・不公正・違法で、米政府の魅力的な助成策によって、欧州から多くのグリーン産業が米国に移転し、EUの長期的な国際競争力が低下することを懸念している。このため、欧州委員会は、バッテリー・太陽光パネル・風力発電のタービン・ヒートポンプ・電気分解装置・炭素回収装置の6つの主要製品とその部品・原材料について、国家助成規則を簡素化し、各加盟国が補助金・低利融資・税額控除といった形で公的支援を実施することを可能とし、さらに、米国に生産拠点を移転される可能性が高い場合は、米国の助成制度と同様の助成(matching aid)を実施することまで認めることとした。

原文

Euronews (3/12)


2.カナダ:グリーン産業誘致をめぐって米国との報復合戦は望まず

米国のインフレ削減法(IRA)に基づく、米国への投資に対する莫大なインセンティブを踏まえ、世界の主要国は低炭素のエネルギーへの迅速な転換レースで先行しようとしのぎを削っている。カナダ政府の2023年度の予算では、いくつかの分野で、米国の助成策と同水準の国家支援を実施し、競争条件の均衡化を図ろうとしているが、限られたパイを米国と取り合うのではなく、米国と協力しながらグリーン産業というパイの拡大を図る中で、カナダの役割を確保していくとカナダ政府高官は非公式に表明した。カナダの総輸出量の3/4は米国向けで、両国の自動車産業は高度に統合され、電気自動車生産に不可欠な希少金属の豊富な産地であることにかんがみても、米国とカナダとの連携は優位性を持っている。米国はIRAによって1兆ドル以上の投資を実施するとされているが、財政規模が限られているカナダにおいては、送電網の能力拡大・バッテリー生産・マスティンバー建造物などの分野に集中投資する方針。特に、2050年炭素中立を実現するためには、発電・送電の規模を倍増するために、1.7兆カナダドル(約165兆円)の投資が必要と見込まれている。

原文

Reuters (3/12)


3.欧州委員会:ヒートポンプ普及のための行動計画立案へ

ヒートポンプは、冷蔵庫の逆の原理で、大気中の熱を凝縮して、建物の暖房に利用するもので、既存の暖房装置と比べると格段にエネルギー効率が良く、欧州の家庭の脱炭素化推進の中心的な手段となり、2022年の5月に発表されたロシアへの依存脱却戦略であるREPowerEUの中では、今後5年間に温水ヒートポンプを1000万台、2030年までに3000万台、EU全体で導入することが目標となっている。EUのエネルギー問題担当コミッショナーは、3月9日、欧州議会産業委員会で、3月14日に公表される予定のGreen Deal Industrial PlanとNet-Zero Actの一部として、ヒートポンプを上記目標以上に拡大する行動計画を作成し数か月以内に発表すると発言した。ヒートポンプの製造についても国際競争が激化しており、近年中国から欧州への輸出が急激に増加している。ヒートポンプは3月9日に発表された国家助成に関するTemporary Crisis Frameworkの中でも、太陽光パネルやバッテリーと並んで戦略品目に指定されており、2022年12月20日に発表された特別緊急規則の中でも、今後18か月間に限定して、大規模な新設の暖房装置の設置許可の審査機関を1か月以内に短縮することも定められている。

原文

Euractiv (3/12)


4.フォルクスワーゲン:欧州委員会に米国並みの支援措置を求める

電気自動車用のバッテリーの生産は、中国・韓国・日本に独占されているが、米国・欧州諸国も追いつくための緊急体制に入っており、バッテリー工場の存否が自動車産業の命運を握っている。欧州委員会は、2025年までに世界の電気自動車のためのバッテリー市場は年間2500億ユーロ(約36兆円)の規模に拡大すると予測しているが、米国でバッテリー製造を行えば、インフレ削減法(IRA)の中のadvanced manufacturing production 税額控除制度の対象となって、1工場当たり年間何十億ドルもの税額控除を受けることができる。欧州最大の自動車メーカーであるフォルクスワーゲンは、米国政府による手厚い助成を受けて、米国で大規模なバッテリー製造工場の建設を進めているが、東欧で同様の大規模工場を建設するために、欧州委員会に対し、EUが米国と同様の手厚い助成を保証するIRA matching clauseの導入を求めており、matching clause無しでは、IRAによる優遇措置によって、欧州は将来的な大規模投資の機会を失うと警告している。

原文

The Guardian (3/12)