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週刊国際海洋情報(2023年2月24日号)

1.ISSB:気候変動関連情報開示に関する規則を採択

2月16日、G20が支援する国際持続可能性基準審議会(ISSB)は、気候変動によって民間企業の事業がどのような影響を受けているかを開示する基準について合意した。採択された基準は、来年1月から発効し、各企業の2024年以降の年次報告書においては新基準に従って、情報開示が行われる。現在、EUと米国の当局も、環境・社会・統治(ESG)に関する情報公開に関する規則作りを進めており、国際的な企業は、複数の開示基準に対処しなくてはいけないことを危惧しており、約5万社の企業はEUの情報公開基準であるESRSを適用する一方で、ISSBの基準に従った情報公開も同時にしなくてはならない。G20の金融安定化審議会(FSB)は、ISSBとEUに対して、双方の基準が互換性を持つことによって、企業が情報開示のために重複したコストを支払わずに済むよう要請しているため、ISSBの決定機関は、ISSBの規則の付属書としてEUの規則を援用し、企業がEUの規則に合致していることをもって、ISSBの規則に合致することを認めた。

原文

Reuters (2/19)


2.世界における電気自動車市場の急拡大に追い込まれる日本メーカー

BloombergNEFが発表したエネルギー転換に関する報告書によると、2022年における電気自動車の売り上げは、対前年比53%と急増し、3880億ドル(約5.2兆円)となり、この結果、これまでの自家用EV車の総売上額は1兆ドル(約134兆円)を超えたが、世界における年間の自動車売上高は約2.5兆ドルで、EVが出現した10年間の合計売上高が25兆ドルであると考えれば、そう大きな比率ではないかもしれない。しかし、成長率で見れば、過去のEVの売り上げの総計の約60%が過去18か月に集中し、2023年の売上額も軽く5000億ドルを超えることが予測されている。日本の自動車メーカーは、全社併せても、世界のEV売り上げの5%以下で、10大EVブランドにも入っておらず、2023年には、EVの販売比率が世界全体で18%に急増する中で、厳しい状況に置かれている。特に中国市場におけるEV車の販売比率は、2019年に5%だったのが、今年は30%を超える見込みで、この結果、中国市場における日本メーカーのシェアは2020年の25%から、昨年は21%に低下している。こうした危機感により、本田はEV戦略を刷新し、トヨタの新社長は、EV-first戦略を掲げたが、トヨタはEV専用のプラットフォームの投入は2027年にずれ込むことを認めている。

原文

Bloomberg (2/19)


3.ECSA:燃料供給事業者に代替燃料供給義務を負わせることを要求

欧州船主協会(ECSA)は、現在、欧州議会・欧州理事会・欧州理事会の3者で最終協議中のFuelEU Maritime Regulationについて、2月15日、意見を表明したところその概要は以下のとおり。①欧州議会の修正案129で示されているように、船舶燃料の供給事業者に対して、代替燃料供給の目標を課し、供給に強制力を持って義務付けることにより、代替燃料が供給されない場合に、船主が不当に責任を負わされないこと。②上記要件が満たされれば、ECSAとして、欧州議会の修正案82に従い、バイオ燃料以外の代替燃料について個別の目標を設定することに同意する。③持続可能で十分な供給が可能な代替燃料に対して、規則上、相対的に高い乗数を認めること。

原文

ECSA (2/20)


4.EU:全ての化石燃料の段階的使用停止をCOP28で推進することを合意へ

気候変動に関する国際パネルの科学者たちは、気候変動の破壊的な影響を回避するためには、2030年までに化石燃料の使用を大幅に削減する必要があると勧告しているが、昨年のCOP27で、インドが提案した化石燃料全体の段階的使用停止は、80か国以上の賛同を得たものの、サウジアラビアをはじめとする産油国の反対で合意に至らなかった。11月30日から開催されるCOP28におけるEUとしての対処方針として、世界の約200か国が既に合意している石炭の段階的な使用停止に加えて、石油・ガスを含むCO₂回収貯留装置を伴わないすべての化石燃料の段階的な使用停止をEUとして求めていくことが、2月20日の外相会議で合意される予定だが、いくつかの加盟国が、合意予定文書に含まれる再生可能エネルギーの促進やロシア産天然ガスに使用停止などの他の論点について不満を持っているので、合意が持ち越される可能性もある。

原文

Reuters (2/20)


5.ICS:ウクライナ紛争1周年にあたり、残された船員と船舶の解放を要請

国際海運評議会(ICS)は、2月24日でウクライナ紛争1周年を迎えるにあたり、まだウクライナの港に取り残されている331人の船員と62隻の船舶の解放を求めて、30以上の組織と共同で国連事務総長に公開書簡を送ったところその概要は以下のとおり。①国連並びに外交的力を持つ国連事務総長に対し、未だ黒海とアゾフ海のウクライナの港に拘束されている船員と船舶を即時解放する支援を求める。②船員は海運の宝であり、決して忘れ去られてはいけない存在で、彼らの力の及ばないところで、12か月にも及び、彼らの命をかけながら、職務を遂行している。③トルコの仲介により、国連がウクライナとロシアの間に立って、黒海穀物イニシアティブを成功裏に実施していることを認知し、穀物と肥料を最も必要とされているところに安全に送り、急騰しかねない穀物価格の抑制に貢献しているが、こうした成功が、無実の船員の犠牲のもとに行われるべきではない。

原文

ICS (2/22)


6.交通と環境:航空機に関するEU taxonomy規則の基準強化を求める

1990年から2017年の間に、航空機の燃費効率は18%上昇したものの、同期間中に航空機から排出されたCO₂の量は、129%増加した。国際民間航空機関は航空機のCO₂効率基準を設定しているが、最近の新型航空機の大部分が、このICAOの設定基準より10%から20%良い効率を既に達成しているため、これらの航空機から排出されるCO₂量は15%から20%削減される見込みだが、現在、欧州委員会が検討している基準では、既存の航空機がこれらの新型機によって代替される場合、EU Taxonomy上、Best-In-Classと認定されるので、現在航空会社が発注している航空機の90%以上が、ほぼすべての燃料を化石燃料に依存しているにもかかわらず、Best-In-Classな航空機として、グリーンな投資対象として認定される見込みである。交通と環境は、欧州委員会に対しこのような甘い基準を見直し、ゼロエミッションの航空機とか高品質の持続可能な航空燃料といった真にCO₂排気量を減少できる技術に限って、グリーンと認定すべきであると主張している。

原文

交通と環境 (2/22)


7.IEA:石油ガス業界に対してメタン排出防止に必要な投資を要請

国際エネルギー機関(IEA)は、2月21日、Global Methane Tracker 2023を発表したところその概要は以下のとおり。①2022年中に、世界のエネルギー産業によって大気中に排出されたメタンは1.35億トンとなり、2019年に記録した最高値をわずかに下回った。人類の活動によって排出された全メタン量に占めるエネルギー産業のシェアは約40%と、農業分野に次いで第2位となった。②メタンは産業革命以降の地球の気温上昇の30%の原因となっている。③石油ガス産業から排出されるメタン総量の75%は既存の技術で安価に削減することが可能で、このために必要な1000億ドルの投資額は、世界の石油産業の2022年の収入額のわずか3%に過ぎない。④石油ガス産業の事業活動によって、約2600億㎥のメタンが毎年空気中に放出されており、このうち3/4のメタンは放出せずに回収し利用できれば、ウクライナ侵攻以前にEUがロシアから輸入していた年間の天然ガス輸入量より多いエネルギーを得ることができる。

原文

IEA (2/23)


8.2022年の米国の洋上風力発電の需要が2倍、投資が3倍に拡大

米国のNPOであるBusiness Network for Offshore Windが発表した「2023年版:米国洋上風力発電市場報告」の概要は以下のとおり。①2022年における洋上風力関連の契約数は対前年比36%増加し、過半数は米国の企業が契約を獲得した。②各州政府が設定した長期的な洋上風力発電の目標発電量の合計は、対前年比79%増加した。中でもカリフォルニア州は25GWの目標を発表したほか、Louisiana/New Jersey/Rhode Island各州も新たな目標を発表した。③12月に太平洋側で初めて実施された入札では、2日間の落札額の合計が7.8億ドル(約1022億円)に達した。この落札額は、2022年に米国で実施された洋上風力発電の競争入札の中で3番目となったが、5つの落札企業によって、150万戸の家庭に電力を供給できる4.6GWの洋上風力発電施設が建設される見込み。④2022年中に洋上風力発電に投資された額は、対前年比3倍以上の98億ドル(約1.3兆円)となり、過半数は入札に使用されたが、44億ドル(約5900億円)は、洋上風力発電施設の建設等の支援に必要な港湾インフラの整備・サプライチェーンの開発・送電施設の整備に投資された。

原文

The Hill (2/23)


9.米政府:メキシコ湾でも初めて洋上風力発電の入札を実施へ

米国の洋上風力発電に関する入札は、遠浅の海岸が多い米国東岸を中心に行われてきたが、昨年12月を皮切りに浮体式洋上風力発電を前提とした入札が、米国西岸でも開始され、2月23日、ホワイトハウスは、メキシコ湾でも浮体式を前提に初めて入札を実施すると発表したが主たる概要は以下のとおり。①内務省は、Texas/Louisiana両州の沖合のメキシコ湾の3か所で、130万戸の家庭に供給が可能な発電が可能な、浮体式洋上風力発電の入札を実施する。同省の海洋エネルギー管理局と米国海洋大気庁が協力して、メキシコ湾全体を調査し、他の海洋利用との調整が少なくて済み、海洋生態系への影響が最も低い海域を選定した。②昨年、バイデン大統領は、大西洋岸の洋上風力発電が地域の雇用とコミュニティに最大の利益をもたらすことを目的として、米国東岸の11州の州知事と「連邦・州洋上風力発電実施パートナーシップ」を結成したが、洋上風力発電の海域を太平洋岸とメキシコ湾にも拡大したため、California/Louisiana両州もこのパートナーシップに参加することとなった。③本日から、エネルギー省・内務省・商務省・運輸省共催で、2日間の浮体式洋上風力Shotサミットを開催し、多くの関係者が参加して、2035年までに浮体式の発電コストを75%削減するというバイデン政権の目標の実現を目指す。

原文

The White House(2/24)


10.英国:EUとの競争条件均衡化の観点から電力多消費型産業の電力料金引き下げへ

2月23日、英国政府ビジネス貿易大臣は、電力多消費型の鉄鋼・金属・化学・製紙などの300社に対して、欧州のライバル企業との競争条件の均衡化を図る観点から、電力料金を引き下げるというBritish Industry Supercharger (BIS)政策を発表したところその概要は以下のとおり。①今回の支援の対象となる電力多消費型の産業は、英国内で約40万人の熟練労働者を雇用し、これらの産業に依存するサプライチェーンの産業・労働者も間接的に支え、2019年の実績で英国の全輸出額の28%を担っている。②2024年春からの実施を目指して、BIS政策の詳細はこの春からパブコメにかかる予定だが、固定価格の買い取り制度・差額決済契約・再生可能エネルギー導入義務・電力容量市場などの再生可能エネルギー促進に伴う賦課金を免除し、network chargeの減額が検討される。③BISは電力多消費型の既存産業に対する支援ばかりでなく、電気自動車やバッテリーの生産といった電力を大量に必要とする新たなグリーン産業において、英国が先導的な立場を確保するのにも有効である。

原文

英国政府 (2/24)


その他のニュース

1.再生可能エネルギー
 (ア)太陽光発電
  ①屋上太陽光パネル
   英国:集合住宅の屋上太陽光パネルで家庭の電力料金が半減 原文(2/19)
2.エネルギー転換
 (ア)新たな化石燃料開発
  ①米国
   テキサス沖の石油積出港が完成すれば地球温暖化に深刻な影響 原文(2/23)
3.気候変動
 (ア)異常気象に伴う損害
  ①全世界
   世界で気候変動に脆弱な地域のトップ20のうち16か所が中国に 原文(2/22)
4.気候変動緩和対策
 (ア)エネルギー節約・効率化
  ①ヒートポンプ
   仏・フィンランド・ポーランド等でヒートポンプ導入が急拡大 原文(2/19)
  ②EU
   8月から1月の天然ガス使用量を約20%削減することに成功 原文(2/23)
 (イ)企業に対する義務付け
  ①ESG情報の開示
   ISSB:IFRSS1&S2基準を6月までに完成・発表 原文(2/22)
5.エネルギー安全保障
 (ア)エネルギー価格高騰対策
  ①貧困層の救済
   エネ価格の高騰により全世界で最大1億4100万人が追加で極貧に 原文(2/19)
 (イ)対ロシア
  ①制裁回避
   データから見る「ロシア闇の艦隊」の規模 原文(2/19)
6.気候変動適合対策
 (ア)途上国対策
  ①国際開発金融機関(MDBs)改革
   G20:世界銀行改革のための専門家グループ結成へ 原文(2/24)
7.水産業
 (ア)持続可能な水産業
  ①EU
   欧州委員会:持続可能な水産業に関するパッケージを提案 原文(2/24)