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週刊国際海洋情報(2023年2月18日号)

1.ノルウェー政府基金:気候変動対策に不熱心な投資先企業役員を不承認へ

ノルウェーの石油ガス収入を原資に1.35兆ドル(約177兆円)を同国の中央銀行が運用する同国政府年金基金は、世界最大の投資家の一つで、70か国の9200社の企業に投資している。パリ協定の目標に従い、2050年までに炭素中立を達成するという同国の方針に従い、同基金は、投資先企業にも2050年までの炭素中立を求める方針を昨年9月に表明しているが、2月9日に発表した年次報告書の中で、投資先企業が気候変動リスクの管理と情報公開において重大なミスをした場合、気候変動問題に適切に対応していない当該企業の役員を承認しないという方針を表明した。

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Reuters (2/10)


2.2022年の世界の船員放棄は過去最高の103人に

RightShipの報告書によれば、2022年における船員が放棄された船舶数は、全世界で過去最高の103隻で、合計1682人の船員が放棄された。この結果、過去20年間の合計で、約700隻の船舶で約1万人の船員が放棄されたこととなり、過去5年間連続で増加し続けている。船員に対する未払いの賃金も過去20年間増え続けており、総額で4000万ドル(約53億円)に上っている。この上昇基調は、世界金融危機の直後に、年間で65隻の船で船員放棄が発生した2009年の状況と酷似している。2017年の船員労働条約(MLC)は、船員が放棄され、2か月間、賃金の未払いが続いた場合、船員の給与を補償する保険に加入することを船主に義務付けているが、この保険によって、船主が船員をかえって放棄しやすくなっているのではないかと同報告書は指摘している。報告書によれば85の旗国を含む106の国が船員放棄に関与しており、隻数が多い順に、UAEが89隻、スペインが45隻、トルコが37隻となっている。放棄された船員の数を国籍別にみると、インドの1491人に次いで、ウクライナとロシアの放棄された船員数も過去最高となっている。

原文

The Maritime Executive (2/10)


3.英国政府:国際的に通用する低炭素水素認証制度を2025年までに創設へ

2月9日、英国政府は標記認証制度の創設について発表したところその概要は以下のとおり。①水素は、肥料や鉄鋼製造の原材料や、ガラス・陶磁器製造時の高熱の製造過程に使用される代替燃料など、様々な革新的な用途に用いることができるが、現状では、低炭素水素の認証制度が存在せず、英国の低炭素水素製造業の透明性と信頼性を担保するため、英国政府は国際的に通用する低炭素水素の認証制度を創設する。②水素生産に伴って排出されるCO₂の量を信頼できる方法で認証する制度を導入することは、英国内の水素製造業の脱炭素化を進め、水素の国際貿易を促進し、再生可能なグリーン水素の生産と雇用の拡大を促進する。③ 低炭素水素に関する業界・消費者の信頼性を高めるため、英国政府は今後、2025年までに認証制度を開始することを目指して、関連業界関係者と協議を進める。

原文

英国政府 (2/11)


4.EU首脳:「焦点を絞った暫定的で相応な」グリーン産業支援策実施に合意

国際エネルギー機関は、クリーンエネルギーに関する世界の市場規模が2030年までに現状の約3倍の6500億ドル(約86兆円)となると予測しているが、米国が昨年、米国内で生産することを条件として、グリーン産業に対して3690億ドル(約49兆円)もの補助金を支給するインフレ削減法(IRA)を施行したことにより、欧州のグリーン産業が製造拠点を米国に移転する可能性が懸念されている。こうした状況に対応すべく、欧州委員会は、再生可能エネルギー・脱炭素関連産業・水素/ゼロエミッション自動車などに対する加盟国による国家支援に関する規制を緩和することを提案していたが、2月10日、欧州首脳は、米中に対抗して、欧州をグリーン産業の基盤とするために「焦点を絞り、暫定的で、(米中の支援策と)相応な」支援を実施することで合意した。この合意を受けて、グリーン事業の許認可に必要な期間を短縮するNet-Zero Industry Actと、グリーン産業に必要な希少金属について中国への依存を削減するために、製品リサイクルを促進し、輸入先の多元化を図るCritical Raw Material Actを、欧州委員会は3月22日に開催されるEU首脳会合までに提案する予定。

原文

Reuters (2/11)


5.自動車・燃料業界がバス・トラックに対する内燃機関の禁止に反対

2月6日、バス・トラック車両の製造事業者や燃料事業者は、連名の公開文書で公開書簡を発表し、内燃機関車であっても、化石燃料をバイオ燃料や再生可能電力によって生産されるe燃料に置換すれば、EUのCO₂削減目標が可能であることを強調した。一方で、環境団体は、普通車だけでなく、トラックやバスを含む自動車全体について、内燃機関車の販売を段階的に禁止し、EV或いは水素燃料車に可及的速やかに切り替えることを求めている。トラックなどの重量運搬車は、EU全体の自動車交通量の2%しか占めていないが、CO₂排出量で見れば、自動車全体の約28%を占めている。欧州委員会は、自動車から排出されるCO₂の量が、EUの目標通りに削減できるのであれば、採用する技術は問わないとしているが、100%削減を目指すことは、事実上内燃機関を禁止することに等しい。普通車については、2035年からガソリン・ディーゼル車の新車販売を禁止することが決定されているが、バス・トラックについては2040年から禁止することが提案される見込み。

原文

Euractiv (2/14)


6.欧州委員会:再生可能水素の定義等を定める2つの委任規則案を提案

2月13日、欧州委員会は、再生可能エネルギー指令の下、エネルギーインフラ整備・国家助成・産業/交通分野における再生可能水素拡大達成目標上、「再生可能水素」と認められる水素の範囲等を詳細に定める2つの委任規則案を発表した。上記EUの政策目的上、バイオ素材を原料としない再生可能燃料(RFNBOs)と認められるためには、再生可能電力から製造されることが条件であることを明確にしている。REPowerEU Planでは、2030年までにEU域内で再生可能水素を1000万トン製造し、一方で同量の再生可能水素を域外から調達することを目的としている。1番目の委任規則は、どのような条件を満たせば、水素・水素を原料とする燃料・水素キャリアがRFNBOsと認められるかを規定している。規則では、再生可能水素の生産によって、既存の再生可能発電の利用が制約されないように、再生可能水素は追加的で新たな再生可能発電源によって生産されるべきことが規定されている。2番目の委任規則は、RFNBOsのライフサイクルにおいて排出されるCO₂の計算方法について規定している。

原文

欧州委員会 (2/14)


7.OECD:Inclusive Forum on Carbon Mitigation Approachを結成

OECDが中心となって、全世界のGDPの90%以上、CO₂排出量の85%以上を占める103の諸国と9つの国際機関が参加して、2月9日から10日にかけて、「炭素緩和アプローチに関する包摂的なフォーラム(IFCMA)」の設置総会が開催された。IFCMAは、情報の共有・科学に裏付けされた相互学習・包摂的な多国間ダイアローグを通じで、全世界におけるCO₂削減対策の世界的な影響を改善することを支援するために作られたイニシアティブで、世界の各国が関連する政策的な視点を持ち寄り、平等な立場で、異なる炭素削減対策の効果について検討を行う。1月30日現在、全世界で133か国が炭素中立目標を掲げ、パリ協定の原則に従い、各国の状況に応じて様々な気候変動対策に取り組んでいるが、これらの各国の対策が世界的に見て可能な限り効果的であることを担保することが課題となっている。このためIFCMAは、各国の政策責任者が良い前例(good practice)を紹介する一方で、このような成功例から各国の目的や状況に応じた緩和政策を、各国の政策責任者が選択し適用することを支援することを目的とする。

原文

OECD (2/15)


8.欧州委員会:トラックなど大型車の新車のGHG排出量を2040年までに90%削減

トラック・都市バス・長距離バスなどの大型車(HDVs)から排出されるGHGはEU全体の総GHG排気量の6%を占め、道路輸送だけを見れば、25%以上のシェアを占めているが、2月14日、欧州委員会は、HDVsについて、2030年以降のGHGの野心的な排出削減目標を提案した。具体的には、2030年以降、販売されるHDVsから排出されるGHGの排出量を2019年実績比で、2030年までに45%、2035年までに65%、2040年までに90%削減することに加え、都市バスについては、2030年以降導入される新車はすべて炭素中立とする。この提案によって、都市部における大気汚染が改善し、欧州市民の健康が改善されるほか、欧州グリーンディールとREPowerEUの目的に従い、輸入化石燃料への依存を減らすことによってエネルギー転換を促進し、EUの交通分野の省エネと効率化を促進する。

原文

欧州委員会 (2/15)


9.ICS:新たなIMO持続可能性基金案をIMOに提出

国際海運会議所(ICS)は、船舶が排出するCO₂の量に応じて強制的に課金してIMO持続可能性基金を創設し、メタノール・アンモニア・水素・持続可能なバイオ燃料・再生可能電力から製造される合成燃料・CCSを用いた化石燃料などの代替燃料を使用する先進的な船舶に対して、削減されるCO₂の量に応じて支援金を支給する新たな提案をIMOに提出した。新たな提案の中では、どのようにIMOが強制的に船舶から課金を徴収するか説明したうえで、加盟国間の合意が得られやすいよう、課金の水準については、燃料1トンあたり50ドル程度の比較的低い水準に課金率を設定したとしても、代替燃料と既存燃料の間の価格差を縮小するには十分であり、多くの途上国が懸念しているように、課金制度によって、貿易に過大な悪影響を与えることも防止できるとしている。さらに、基金の資金によって、途上国における代替燃料の生産を支援し、また、代替燃料供給インフラの整備も支援する。

原文

Offshore Energy (2/17)


10.米政府:国内のEV充電ネットワークの迅速な拡大に75億ドルを支援

米国政府は2030年までに新車販売の50%をEVにすることを目指しているが、充電施設が十分に整備されていないため、EV販売の足かせとなっているため、2月15日、米国政府は、8か月の議論の末、国内のEV用充電ネットワークの整備に関する最終規則を発表し、2024年までに、米国産の部品を55%以上使用して建設される充電施設に対して、総額で75億ドルの支援を行うと発表した。米国政府は、テスラ社の同社製のEV専用で米国最大のネットワークであるSuperchargersを他社製EVへの開放させることを含め、EV利用者が米国内全域で充電施設を利用できることを目指す。連邦政府から、充電施設の整備に対する補助を受ける条件として、整備事業者は、米国内で支配的なCombined Charging Systemの基準に従って施設の整備を行うとともに、支払方法や利用者のID確認方法について標準方法を採用し、ほぼ常時(97%)充電施設を使用できるようにしなくてはならない。

原文

Reuters (2/17)


その他のニュース

1.再生可能エネルギー
 (ア)洋上風力発電
  ①フランス
   欧州委:洋上風力発電に対する20.8億ユーロの国家支援を認可 原文(2/15)
 (イ)グリーン水素
  ①EU
   欧州委:原子力によって製造された水素を再生可能と認める案 原文(2/14)
2.エネルギー転換
 (ア)転換の阻害要因
  ①エネルギー憲章条約
   欧州委:加盟国にエネルギー憲章条約からの一括脱退を勧告 原文(2/14)
 (イ)化石燃料産業への批判
  ①米国
   大統領:所信表明演説で石油産業の巨額利益に対し不快感を表明 原文(2/10)
3.気候変動
 (ア)氷河・海氷の減少
  ①氷河湖
   氷河湖の決壊によって世界で最大1500万人が被災する恐れ 原文(2/10)
 (イ)海面上昇
  ①将来予測
   海面上昇を止めるには1.5℃以内に気温上昇を抑制する必要 原文(2/16)
4.気候変動緩和対策
 (ア)各国の政策
  ①米国
   環境保護庁:GHG削減基金のInitialProgramDesignを発表 原文(2/15)
 (イ)金融・投資機関
  ①化石燃料産業への融資の停止
   英国NatWest銀:石油ガス田の探査・開発・生産への融資を停止 原文(2/11)
5.エネルギー安全保障
 (ア)対ロシア
  ①ロシアによる減産
   西側の製品上限価格制導入に対して3月から石油生産を5%削減 原文(2/11)
6.環境問題一般
 (ア)大気汚染
  ①NOx
   EUの全首都で自動車排ガスのNO₂汚染がWHO基準値の4倍 原文(2/17)