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週刊国際海洋情報(2023年2月9日号)

1.欧州委員会:米中に対抗してグリーン産業を欧州で活性化させる方策を提案へ

米国・中国は大規模な国家支援を背景に、グリーン産業の育成・囲い込みを図っているが、欧州委員会は、対抗措置として、バッテリー・CCS・再生可能エネルギー・グリーン水素・電力蓄電設備・低炭素建設技術などのグリーン産業に対する許認可手続きの簡素化・迅速化を図るとともに、欧州の拡大する需要に対応できるようにそれぞれのグリーン産業の2030年までの成長目標も定める。欧州委員会は、炭素中立製品と認定されるための要件定めるなど、EU全体としてのクリーン技術の基準を定め、加盟国政府には、政府調達に当たっては、こうした炭素中立製品の優先調達などを求めることも検討している。

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Reuters (2/1)


2.洋上風力発電施設のライフサイクルCO₂発生量を計測する業界標準を作成

2021年末までに、世界中で55GWの洋上風力発電が稼働中だが、国際エネルギー機関(IEA)によれば、2050年までに炭素中立を達成するためには、2030年から毎年、70から80GWの洋上風力発電施設を建設する必要があるが、大規模な建設を持続可能な方法で実施するため、Orsted/RWE/Vattenfall等の世界の11の主要洋上風力発電の設計・建設・運用を行う事業者がCarbon Trustと連携して、洋上風力発電施設に使用される部品の製造や洋上風力発電施設の設置作業など洋上風力発電のライフサイクル全体から発生するCO₂を計測評価するための業界統一の手法を定めるための「洋上風力持続可能性共同産業プログラム」を立ち上げることに合意した。この標準化されたCO₂計測の手法を用いることによって、洋上風力発電施設の整備自体から排出されるCO₂を削減し、開発事業者や事業そのものの比較可能性を高めることを目的とする。

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Carbon Trust (2/1)


3.欧州委員会:Green Deal Industrial Planを発表

2月1日、欧州委員会は標記計画を発表したところ計画の4本柱の概要は以下のとおり。①炭素中立産業の拡大目標を定め、同産業の迅速な展開に必要な簡素・迅速化した許認可手続きを設定し、欧州の戦略的な事業を促進し、欧州単一市場において、必要な技術拡大のための基準を設定するNet-Zero Industry Actを近日中に提案する。②同産業に対する国家助成制度に関する欧州委員会の承認手続きを簡素・迅速化するため、Temporary State aid Crisis and Transition Frameworkを見直し、General Block Exemption Regulationを改正して、同産業に関する国家助成については、手続きを届け出で済むようにする。③グリーン転換に伴い雇用者全体の35%から40%が転職を余儀なくされるため、Net-Zero Industry Academyを設立して、転換の対象となる産業の労働者の技能の向上や再訓練を実施する。④EU域内の自由貿易協定のネットワークを拡充し、希少金属の競争的で多様な世界供給網を確保するために需要国と資源国によるCritical Raw Materials Clubの創設を目指す。

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欧州委員会 (2/4)


4.豪がEUにとっての再生可能エネルギーとレアアースの供給源に

2021年において、豪は発電の71%を化石燃料に依存し、中でも石炭火力のシェアは依然として過半数を超える51%を占めているが、1999年には83%であったことから、シェアを急速に落としてきており、代わりに、再生可能エネルギーの比率が29%に急上昇している。2022年には、豪で政権交代が起こり、2010年代の化石燃料中心政策を改め、環境問題に熱心な政権に交代し、同国のみならず、世界の脱炭素化の動きを先導しようとしており、2030年までに同国内の発電量に占める再生可能エネルギーの比率を82%とし、2050年までに炭素中立を達成することを目指している。1月31日、ブラッセルを訪れた豪の気候変動・エネルギー担当大臣は、同国は将来的に、現在世界全体で発電されている再生可能電力の8倍以上の再生可能電力を発電することが可能で、同国のエネルギー需要が旺盛なEUにとって、グリーン水素などの再生可能エネルギーの供給源となりうると発言した。また、同国は最新技術の開発に不可欠なレアアースなどの供給でも重要な役割を担うことができると述べた。

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Euractiv (2/4)


5.米FMC:海運会社による荷主との交渉拒否に関する規則案について再意見募集

米国連邦海事委員会(FMC)は、2022年の外航海運改革法(OSRA 2022)の実施状況等について、1月25日委員会を開催したところ、その主要審議事項の概要は以下のとおり。①FMCは昨年9月に、貨物の輸送引き受けに関する荷主との交渉を正当な理由なくして海運会社が拒否する(unreasonable refusal to deal or negotiate with respect to vessel space accommodation)ことに対する規制案を発表し、同案に対するコメントを受け付けたが、この結果、多くの重要な問題が提起されたため、規制案に対するさらなる意見公告(Supplemental Notice of Proposed Rulemakings:SNPRM)を実施することとした。②コンテナの超過保管料金と返却延滞料金に関する規制案について、FMCは180件以上のコメントを受理した。また、FMCは昨年のOSRA施行以来、「海運会社による課金に対する不服申し立て (Charge Complaints)」についても、200件以上の申し立てを受け付けたが、そのうち、70件以上が、FMCの調査を開始する要件に合致した。この結果、船社と荷主の間の和解が進み、6月以降、70万ドルを超える料金が荷主に返金されている。

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FMC (2/5)


6.仏等が原子力から生産される水素をグリーン水素と同列に扱うことを要求

エネルギー源を完全に電化できない肥料・鉄鋼などの産業にとって、炭素を発生しない水素の利用は、CO₂排出削減の切り札となるが、先週(1月30日の週)、仏・ポーランド・チェコなど9か国の担当大臣は連名で欧州委員会に書面を送り、EUの再生可能エネルギー拡大目標の達成方法の一部に原子力発電によって製造された低炭素水素も含めることを要求した。今週(2月6日の週)、EU各国と欧州議会は、2030年までの再生可能エネルギー拡大目標を定める法令について交渉を行う予定だが、欧州議会の交渉責任者は、欧州委員会が昨年に定義するはずであった「再生可能水素」の定義をいまだ明確に示していないことを理由として、交渉の延期を求めている。一方で、独・デンマーク・オーストリア・ルクセンブルグなど9か国以上は、化石燃料依存から脱却する方法として、風力や太陽光などの再生可能エネルギーの拡大に絞って取り組むべきであるとして、原子力によって生産された水素をグリーン水素と同列に扱うべきでないと反対している。

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Reuters (2/6)


7.英国:すべての海運活動をETSの対象にすれば18億ポンドの収入に

環境NGOの「交通と環境」は、2月6日、海運活動全体を英国の排出権取引(ETS)の対象とした場合、英国政府は18億ポンド(約2800億円)の収入を得ることができるとする報告書を発表したところその概要は以下のとおり。①2021年において、英国における海運活動からは、英国内の全自動車が排出するCO₂の量の約1/3に相当する2200万トンのCO₂が排出されており、これをすべてETSの対象とすると、英国政府は18億ポンドの追加収入を得ることができる。②しかし、5000GT以上の船舶による内航しかETSの対象としないとする英国政府の案に従えば、総排出量の10%以下しか対象とならず、1.7億ポンド(約270億円)の収入しか得られない。③英国全体のCO₂削減目標を達成するためには、海運からのCO₂排気量を半減する必要があるが、外航海運については、2033年からしかETSの対象とならない予定なので、それまでは、他の排出量削減対策を実施する必要がある。④政府から独立した「気候変動委員会(CCC)」も外航海運をETSの対象とすることを勧告している。

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Transport & Environment (2/7)


8.ASEAN:中国との南シナ海における行動規範の合意を急ぐ

2016年に国際仲裁裁判所で、南シナ海における中国の領有権主張が否定されたにもかかわらず、中国は九断線の北側の南シナ海ほぼ全域における主権を主張しており、ASEAN諸国のうち、フィリピン・ベトナム・マレーシア・ブルネイは中国と領有権を争っており、インドネシアは北ナツナ海における同国の海底石油ガス田の開発行動に対して、中国から妨害されている。南シナ海における行動規範(COC)をめぐるASEANと中国の交渉は、ASEAN加盟国の一部が中国との二国間関係を優先したため、ここ数年停滞しているが、2月4日、ASEANの今年の議長国であるインドメシアは、ASAN外相会議の取りまとめで、南シナ海における中国との緊張の高まりを受けて、COCの合意を急ぐ考えを明らかにした。インドネシアは3月の交渉を皮切りに、本年中に中国と複数の交渉を予定している。

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Reuters (2/7)


9.UNEP:薬物耐性(AMR)菌の拡大によって2050年までに年間1000万人が死亡

2月7日、国連環境計画(UNEP)が、バルバドスで開催中の第6次薬物耐性(AMR)に関するGlobal Leaders Groupに「Superbugsへの準備」と題する報告書を提出したところその概要は以下のとおり。①気温の上昇・異常気象・土地利用の変更によって、微生物多様性を変化させ、生物学的・化学的汚染を拡大することによって、AMRが発生・拡散している。②WHOによれば、2019年において、全世界で127万人がAMRの病気が直接の原因で死亡し、495万人がAMRに関連して死亡している。③2050年までにAMRによって、2020年のがんによる全世界の死者数に匹敵する、年間最大1000万人が全世界で死亡する恐れがある。④製薬・農業・健康産業などの特定の産業がAMRの生産・拡大に寄与している。⑤AMRが経済に与える影響は、2030年までに世界全体のGDPを年間3.4兆ドル(約445兆円)押し下げる効果があり、世界で2400万人以上の人々を極貧の状態に追いやっている。

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UNEP (2/9)


10.英国政府:7700万ポンドのゼロエミ船舶インフラ整備補助金の入札を実施

2月6日、英国政府はZero Emission Vessels and Infrastructure (ZEVI)に関する補助金入札を開始したところその概要は以下のとおり。①英国政府は2025年までに、7700万ポンド(約122億円)の補助金を、海運脱炭素化のための技術開発に投資して、炭素を排出しないフェリー・クルーズ船・貨物船の運航開始を目指すとともに、多くの雇用の創出を生み出す。②バッテリー動力の船舶、陸上電源、水素・アンモニアを燃料とする船舶、風力を補助推進力とするフェリーなどが、具体的な補助の対象となりうる。③英国政府は、同時に、産学官で740万ポンド(約12億円)を支出して、Clean Maritime Research Hub (CMRH)を創設し、海運脱炭素化技術開発の基礎研究を支援する。④ZEVIとCMRHは、2022年3月に2.06億ポンド(約328億円)をかけて創設された、海運からのCO₂排出削減と持続可能な海運の実現を目指すUK SHORE事業の一部となる。

原文

英国政府 (2/9)


その他のニュース

1.再生可能エネルギー
 (ア)洋上風力発電
  ①港湾支援施設
   米国西岸:洋上風力入札進むも港湾の支援体制整備を急ぐ必要 原文(2/6)
2.エネルギー転換
 (ア)経済的影響
  ①経済効果
   グリーン経済への移行は経済・雇用に貢献するが国際競争が激化 原文(2/1)
  ②雇用創出
   米国:IRA施行後、既に環境関連で10万人以上の雇用を創出 原文(2/7)
 (イ)グリーン産業振興策
  ①EU
   EC:米中に対抗するため新たな共同資金の借り入れ提案はせず 原文(2/1)
 (ウ)電力需要量予測
  ①IEA
   今後3年間の急速な電力需要量の増加を再エネと原子力で対応 原文(2/8)
3.エネルギー安全保障
 (ア)エネルギー価格高騰対策
  ①EU
   ECB総裁:エネルギー価格高騰に対する財政政策の見直しを提唱 原文(2/4)
4.海洋環境
 (ア)海中騒音
  ①IMOガイドライン
   海中騒音の防止ガイドライン改正するも強制力なし 原文(2/5)
5.気候変動適応対策
 (ア)各国の戦略
  ①英国
   CCC:適応対策に関する政府のリーダーシップ強化を提言 原文(2/3)
6.航空機・航空燃料の環境問題
 (ア)技術開発
  ①英国
   航空の脱炭素化に官民で1.13億ポンドを投資 原文(2/7)
7.生物多様性
 (ア)絶滅危険性予測
  ①米国
   UNEP:AMR拡大により2050年までに年間1000万人が死亡 原文(2/8)