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週刊国際海洋情報(2023年1月31日号)

1.EU:虚偽の環境上の製品表示をした企業に対して罰則

欧州委員会は、消費者が製品を購入するにあたって、正確な情報に戻づいて商品の選択ができるように、製品の販売にあたって、根拠のない環境上の製品表示をした企業に対して、罰則を科することを、EU加盟国に対して義務付ける新たな規則案を数週間以内に提案する。green/eco/environmentally friendlyなどという環境に良いという表示の約40%が根拠のないものであり、環境上の優位性を商品に表示する企業は、その優位性を環境への影響を評価する標準的な方法で証明する必要があり、EU加盟国はこうした環境上の製品表示の合理性を独立認証機関によって認証する制度を創設し、虚偽表示を行った事業者に対しては、「効果的・虚偽の程度に応じ・抑止力のある」罰則を課すことによって、規制の実効性を担保することが求められる。違反の内容と深刻性、虚偽表示によって不正に得た利得・環境への損害といった点にかんがみ罰則の内容が決められる。

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Euractiv (1/23)


2.WTO事務局長:全世界共通の炭素課税制度の創設の必要性を訴える

1月19日、ダボス会議における世界貿易機関(WTO)事務局長の発言要旨は以下のとおり。①現状では、世界で最低でも70種類上の異なる炭素課税制度がばらばらに存在するが、世界的に共通の炭素課税制度を導入することによって、サプライチェーンの合理化と異なる炭素課税制度間の競争を回避し、産業界にとっても炭素課税に伴う負担の予見可能性を向上させる。②共通の制度の創設を目指して、WTOは世界銀行・OECD・IMFと協力して、既存の炭素課税制度の合理化作業を進めている。③また多くの国では、環境汚染の少ない最終製品に高い関税をかけ、相対的により環境を汚染する原料や中間財に低い関税をかけることによって、結果として、CO₂を多く排出する製品に対する隠れた補助金となり、その額は年間5500億ドルから8000億ドルに達しているので、こうした関税政策を是正すれば、世界のCO₂排出量を3.6%削減し、世界の収入を0.65%増やすことができる。

原文

The Hill (1/23)


3.航空会社:SAFの利用拡大について合意するも資金分担については未定

1月16日の週にダブリンで開催されたAirline Economics会議で、航空関係者は、既存の航空燃料と比較して最大で80%のCO₂排出削減が見込まれる持続可能な航空燃料(SAF)の使用拡大が、航空業界が世界的なCO₂排出目標を達成するための唯一の方法であることに合意したが、既存の航空燃料と比較して、3倍から5倍のコストがかかるSAFの利用に伴う経済的な負担を、政府・航空会社・燃料供給事業者のだれが負うかについては合意できなかった。現在航空業界が使用している航空燃料に占めるSAFの割合は1%にも満たないが、2035年までに20%に引き上げる目標を現在立てており、航空燃料のSAFへの意向には、今後30年間で、1.5兆ドル(約195兆円)の投資が必要と見込まれている。会議に参加した多くの航空会社は、多くのCO₂を排出する中国やインドの航空会社が参加しない合意は意味がないと指摘している。

原文

(1/24) Reuters


4.海外からの輸入水素の価格が2030年までにEU域内生産の水素より安価に

豪のエネルギー研究機関であるAurora Energy社は、輸入水素の価格競争力に関する報告書を1月24日に発表したところその概要は以下のとおり。①RePowerEU政策によれば、2030年までにEU域内における水素の需要量は2000万トンに達するが、その半分は海外から輸入される再生可能エネルギーを原料とするグリーン水素(GH)となる見込み。②現時点における北部欧州諸国におけるGH1kgあたりの生産コストは6ユーロから8ユーロだが、独では、2030年までに同3.9ユーロから5ユーロまでコスト削減ができる見込み。③一方、豪・チリ・スペインでは、同3.1ユーロ、モロッコで3.2ユーロ、UAEで3.6ユーロのGHが生産できる見込み。④輸送コストも考慮すると、パイプラインによる輸送が最も割安で、昨年12月に発表されたように、スペイン・モロッコから仏・独へのパイプラインの建設が有力である。⑤パイプラインではなく、GHを海上輸送すると、パイプラインに比べてコストは2割増しとなるが、アンモニアを水素キャリアとして用いた場合、チリや豪から欧州に海上輸送しても2030年までには価格競争力があるコストとなる。

原文

Reuters (1/25)


5.マースクとMSCが2025年1月に2Mアライアンスを終了することに合意

マースクとMSCは、2015年に船腹の供給過剰を解消し、コンテナの主要航路における競争力があり、コスト効率の良い運航を実現するために2Mアライアンスを結成したが、パンデミックによる運航の混乱に対し、MSCは船腹量を増やす一方で、マースクは船体の規模を維持するなど経営戦略の違いが明確となり、2月25日、両社は、2025年1月をもってアライアンスを終了すると発表した。マースクは、アライアンス解消後も、コストの上昇なしに、現在のサービス水準を維持できるとしている。MSCはReutersスイスに本社を置くが、イタリアのAponte一族が所有し、2021年には船腹量でマースクを抜いて、世界第1位のコンテナ会社となった。両社はともに、コンテナ海運の約17%のシェアを持っている。

原文

Reuters (1/29)


6.英国:Demand Flexibility Serviceの実施で100万ポンド以上が支払われる。

電力需要が増えた時に、電力供給が追い付かず、停電になる事態を避けるために、指定されたピーク時間帯に、電力使用を抑制することに協力する電力利用者に対して、一定の料金を払い戻すDemand Flexibility Serviceは、英国の送電事業者であるNational GridがOctopusなどの電力小売事業者の協力を得て、スマートメーターを利用する40万を超える顧客が参加して、1月23日と24日の16:30から18:00にかけて実施された。両日は、気温が低下したうえに、風が弱かったので、ピーク時間帯の電力需要が供給を超える可能性があり、普段休止している石炭火力発電所もスタンバイの状況に入った。このキャンペーンに参加した利用者は、該当時間帯に平均で6割通常より電力使用量を削減し、2.5ポンド(約400円)から最高で15ポンド(約2400円)の協力金を得て、節約電力量が大きかった24日には協力金支払い総額が100万ポンド(約1.6億円)を超えた。

原文

The Guardian (1/29)


7.EU:2027年までにリチウムイオンバッテリーの中国への依存から脱却

環境NGOの「交通と環境」は標記報告書を発表したところ、その概要は以下のとおり。①欧州は現在、電気自動車と蓄電施設に必要なリチウムイオンバッテリーの供給を中国に多く依存しているが、2027年までには、中国への依存を脱し、EU域内で必要なバッテリーを供給できる見込み。②中国は希少金属を含む電池の電極についても独占的な地位を占めているが、これについても。ポーランド・スウェーデン・独で生産体制が整うため、2027年までに、欧州域内の需要の2/3を域内で自給できるようになる見込み。③リチウムの精製についても中国依存から、EU希少金属法に基づき、2030年までに欧州の需要量の50%以上を域内で生産できる見込み。④EUにおいては、2035年に内燃機関車が禁止されることを踏まえて、EU域内で必要とされるリチウムイオンバッテリーは、現在すでに域内で半数以上が供給されているが、米国がインフレ削減法によって、エネルギー転換関連産業への手厚い保護と囲い込みを行っているので、EUも米国並みに手厚い支援をしないと、現在欧州で投資計画を持っている企業が、米国に流出する危険性がある。

原文

Transport & Environment (1/30)


8.EU:生物多様性の保全のために海洋保護区における底引き網漁を禁止へ

欧州委員会は3月末までに、「持続可能で災害に強い漁業のために海洋生態系を保護・回復するためのEU行動計画」を提案する予定だが、主たる政策の一つとして、海洋生態系に破壊的な影響を及ぼす底引き網漁を2030年までに海洋保護区において禁止する見込み。(水深800mを超える海域における底引き網漁は、既に2016年に原則として禁止されている。)底引き網漁の禁止は、「2030年までの生物多様性戦略」の中で記述され、2021年に合意される予定であったが、漁業者からの強い反対で、合意が何回も延期されてきた。EUは2030年までの生物多様性戦略の中で、2030年までに全海域の30%を海洋保護区に指定することを目指しているが、現在、わずか12%しか海洋保護区に指定されておらず、厳格に管理されているのは1%未満に過ぎない。

原文

Euractiv (1/30)


9.ICS:「海運産業旗国年間成績表」を発表

国際海運会議所(ICS)は、1月30日、annual Shipping Industry Flag State Performance Tableを発表したところその概要は以下のとおり。①国際労働機関(ILO)による監査との関係で、下船国から船員の出身国への帰還支援・住居の提供・健康管理と必要な医療の提供など船員の労働環境について加盟国はILOに毎年報告しなくてはいけないが、2022年における加盟国からの報告率は67.6%と、対前年比25%上昇した。②PSCの実績・国際条約の批准状況・IMOの会議への出席状況などの基準に従って、旗国のperformanceが評価され、船主や運航会社が旗国を選択する際の情報を提供することを目的とする。③米国沿岸警備隊は、国際規則や米国の法令を遵守して、船舶の運航の安全性の向上を図っている海運会社・運航会社等を認証するQualship21 programを実施しているが、2022年はこれまで最高の49の旗国が認定された。④DWTベースで、世界でトップ10に入る旗国の中で、すべての指標について前向きな評価が得られなかったのは2か国だけだった。

原文

ICS (1/31)


10.Ember:2023年の欧州域内における天然ガス発電量は大幅に減少へ

1月31日、EmberがEuropean Electricity Review 2023を発表したところその概要は以下のとおり。①2022年に、欧州における発電量のシェアでは、風力と太陽光の合計が22%となり、初めて天然ガス(20%)・石炭(16%)を上回った。②2022年には、500年に1回の旱魃の影響で水力発電量が減少し、また、仏の原子力発電所の運転停止や、独の原発の廃止の影響で、電力の供給が185TWH不足したものの、不足分の5/6は、再生可能電力の増加と節電で賄えたが、残りの1/6は化石燃料による発電で補ったため、化石燃料からの脱却は足踏みした。この結果、石炭火力発電量が対前年比で7%増加したため、EU域内の発電に伴って排出されたCO₂の量は対前年比で3.9%増加した。③石炭火力発電の増加も発電量全体のシェアで見れば、前年からわずか1.5%増加しただけで、2018年の水準より低く、世界全体の石炭火力発電量を0.3%押し上げただけだった。④2023年の予測としては、水力発電と仏の原発が復活する一方で、ここ数か月は電力需要も引き続き減少することが見込まれるので、化石燃料発電、特に天然ガスによる発電量が大幅に減少すると見込まれる。

原文

Ember (1/31)


その他のニュース

1.再生可能エネルギー
 (ア)各国の支援策
  ①米国とEUの貿易紛争
   英国財務大臣:米国のインフレ削減法に対し懸念を表明 原文(1/30)
 (イ)バイオ燃料
  ①米国
   米エネルギー省:SAFなどバイオ燃料の開発に1.18億ドル支援 原文(1/29)
2.エネルギー転換
 (ア)石炭の取り扱い
  ①製鉄業の脱石炭化
   英国政府:2大製鉄所の脱炭素化のために6億ポンドを支援 原文(1/24)
  ②石炭火力と再エネ発電のコスト比較
   米国内の99%の石炭火力発電は新たな再生可能エネ発電より割高 原文(1/31)
 (イ)レアアース
  ①米国
   電気自動車のバッテリー増産のためリチウムの新規鉱山開発へ 原文(1/23)
3.気候変動緩和対策
 (ア)エネルギー節約・効率化
  ①英国:需要ピーク時に電力使用自粛した家庭に料金の一部を払戻 原文(1/25)
4.エネルギー安全保障
 (ア)対ロシア
  ①上限価格制度
   欧州委員会:露産石油製品の上限価格を提案 原文(1/31)
 (イ)需給見通し
  ①IEA
   IEA事務局長:2023年のエネルギー市場は需給ひっ迫も 原文(1/23)